ポケットモンスター 拳 〜超強い俺の嫁とめちゃくちゃに弱い俺の話〜 作:おしゃべりデブ
サボりの天才ことこのおれサボは、ここ数日、あることに悩まされている。
ダッダッダッダッダ!
木でできた廊下を勢いよく走る忙しない音が聞こえてきた。
はぁぁぁあ、またか。
大きなため息を吐きながら、今こちらに猛進してきている悩みの元凶の来訪に備えてタオルを腰に巻く。
だんだんと近づいてくる足音に並々ならぬ苛立ちを覚えながらも、最低限のプライドを守るべく身体を隠すように蓋を閉めた。
ガラガラガラガラッダァン!!!
勢いよく扉が開け放たれる音が密閉された部屋の中に激しく響いた。
「見つけましたよサボ!今日こそあなたのその強さの秘訣を解明してみせます!!私と決闘.....って、きゃあ!!!」
「....だぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁぁあああ!!!!!風呂にまで入ってくんなやこの単細胞ロボット女ッ!!!風呂入っとるんやから全裸に決まっとるやろがこんボケェッ!!!てか何回やらすねんこのくだりッ!!!」
......ここ最近、おれはこの頭のネジがぶっ飛んだイカれ女に四六時中付きまとわれている。
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「しっっっっっっっつこいねんあいつマジでッ!!!!」
「あははははは!大変だねぇサボくん!」
「ケベリさぁん!笑い事やないねんって!!こっちの身にもなってくれよ!!」
「え〜?そうかなぁ?楽しそうだと思うんだけどなぁ。」
「あんた目ぇ腐っとんのか!?どこをどう見て楽しそうに見えるねん!!飯食い終わったら決闘!ゲームしてても決闘!風呂入ってても決闘!昨日に関しては寝る前にも決闘言い始めよって!ただのロボットやなくて戦闘マシーンちゃうんかアイツッ!!!アイツのせいで、ここ数日間ろくにいたずらも出来てへんッ!!!!」
「....あ〜なるほど〜!だから最近、父さん機嫌いいのかぁ〜!」
「...あんた、どっちの味方やねん。」
「う〜ん、今は父さんかなぁ?」
「っ!裏切られた!!」
「あははごめんね〜。」
今日も今日とてあの超次元ノンデリカシーロボット女の猛攻からやっとの思いで逃げ切り、玄関の掃除をしていたケベリさんに愚痴を吐く。
ここ数日間に及ぶ攻防の末、おれの精神はとんでもなく疲弊している。
アイツがイカれた戦闘マシーンになったのは、決闘でおれがアイツをボコボコにしたその翌日の事だった。
『...あなたのその強さの秘訣が知りたいです!ぜひ、もう一度私と手合わせしてください!』
妙な気配を感じて思わず飛び起きた早朝。
視界いっぱいにアイツの顔しか映らないほどの超至近距離で、アイツに開口一番に言われた言葉だ。
寝ぼけた頭で、こいつ意外と唇ぷっくりしとるなぁ。とか、前も思ったけどまつ毛なっが。とか、鼻筋もしっかりしとるし将来どえらいべっぴんになるんやろなぁ。とか、まぁ表情ほぼ一種類しかないし、ただ見た目の良いマネキンになるだけやな。などと色々と考えているうちに、どうやらアイツはおれの返答をYESと受け取ったようで、
『....では、いきます。...はぁぁあ!せいや!!』
と、いきなり攻撃を仕掛けてきた。
....勿論、決着はおれの勝ちだ。
寝起きということもあって、不意の一発は喰らってしまったがなんとか持ちこたえて、そのまま庭に蹴り飛ばしてやった。
「っつ!......まだいてぇな。アイツの一撃重すぎやろ。ワンリキーパンツ履いてたら力までワンリキー並みになるんか?」
...おれも、ワンリキーパンツ履いてみよかな。そしたら、おれもあんぐらい力強なるんかな。
「サイトウちゃん、ちっちゃいのにすごい力あるよね〜!あれかな?力の伝え方が上手いのかな?」
「....別に。負けてへんし、おれやって。」
「...あははっ!そうだね〜、サボくんはこれからだもんね!身長も今はサイトウちゃんに負けてるけど、もうちょっとしたら抜かせるかもね!あははは!」
「....今日のケベリさん、おれ嫌いや。」
「あははは、ごめんごめん!!」
......別に、おれまだセイチョーキ来てないだけやし、まだ11やしこれからやし。
「わう!!」
縁側から元気に鳴き声を上げながら、昨日ブラシングされてふわっふわになったバディが体に砂がつくのもお構いなしに足元に走ってきた。
....こいつ、ようやっと今起きたんか。最近マジでよー寝るようになったなー。まぁいっぱい食べていっぱい寝るのは良いことやし、ええか!......いっぱい動かしたらそのうち痩せるやろ。
「お!バディ!ようやっと起きたか!さて、今日は何して遊ぼか!」
足元でぐるぐると走り回るバディをヨイショと抱き上げる。
.....いや、マジで重なったなコイツ。ダイエット計画は早めに決行した方が良さそうや。
「お、バディくんおはよう!「わぅふ!」あはは!元気だねぇ!今日は一緒にどこへ行くんだい?」
ケベリさんはおれが抱き上げたバディの頭をよしよしと撫でながらそう話しかける。
うーん。
「う〜ん。しょーじき、もうあんまやることないんよな〜。海で遊ぶのも、山で遊ぶのも、おれとバディだけやったらできることも少ないし、いたずら仕掛けようにもジジイは最近めちゃくちゃ警戒するようになったし、何より今はバトルサイボーグが目ぇ光らせとるから下手に動けん。見つかったらまた決闘挑まれて今度は便所までついてくるかもしれん。」
実は、これも一つの悩みの種だったりする。
島の遊びに飽きてきたのだ。
島の遊びというよりも、島でおれとバディの二人で遊ぶことに飽きてきた。
海で釣りをしようにもバディは釣りなんかできへんし、海を泳ぐこともできん。
山で走り回って探検しようにも、最近はルートも覚えてきて探検というより散歩みたいになっとるし、木登りはバディはできんし、結局やることは一つになってまう。
「マンネリ化しとるんよなぁ...やることが。」
「くぅん...。」
おれとバディが顔を見合わせて、はぁぁぁとため息を吐いているとしばらく一緒にう〜んと考えていたケベリさんがハッとしたようにパチンっ!と指を鳴らした。
「そうだ!ねぇ、サボくん!!サイトウちゃんを遊びに誘うのはどうかなぁ!!」
「わふっ!?」
「はぁ?あんたほんま何言っとんのや?なんでそんなトチ狂ったこと。てかまず、あのロボットがそう簡単に遊びに乗るわけないやろ。」
ほんまにこの人何言っとんのや?アイツはクソ真面目の堅物ロボットイカれ女やから絶対遊びになんざ参加せぇへんし、そもそもアイツと遊ぶんなんかおもろいはずないやろ。第一、おれ一回アイツのことマジ泣きさせとるし....。
「だってさ!サボくんの悩みは、サイトウちゃんにこれ以上付きまとわれたくない!ってのと、遊びがマンネリ化してつまんない!ってことでしょ?で、サイトウちゃんは、サボくんがなぜ強いのかが知りたいから付きまとってサボくんを観察してる!
ってことはさ!サイトウちゃんが遊ばざるを得ないようにしちゃえば良いんだよ!!!」
名案思いついたり!と、ニカっと笑うケベリさん。
そんなに上手くいくもんか?てか、遊ばざるを得ないように....って。
「てか、おれとバディがアイツと遊んで何が解決すんの?」
おれがそう聞くと、ケベリさんは待ってましたと言わんばかりにこほんと軽く咳き込んだ。
「サボくんのマンネリ化って、遊び相手がバディくん1匹しか遊び友達がいないからだと思うんだ!それが、三人になってみてよ!バディくんに審判をしてもらって海と川で釣り対決もできるし、山で木登り対決もできる!それに最近、探検も飽きてきたって言ってたよね?もしかしたら、サイトウちゃんという初心者が入ることで新ルート開拓...なんてこともあるかも!」
なるほど....それはなんとも興味の惹かれるお話ですな。
でも、そううまく行くもんかねぇ。
「..ほー。なるほど、納得したわ。でもさ〜、ケベリさん。それってアイツが遊ぶことに乗ったらの話やろ?そんな簡単にアイツが遊びに参加するもんか?いいや、しないね!あの殺戮ロボットは!」
おれのその言葉にケベリさんはチッチッチと指を振り否定する。
「サボくん。...君もまだまだだね。こんな簡単なことに気づかないなんて。」
「お?なんやケベリさん。...喧嘩やったら良い値で買うぞ?」
「まぁまぁ、落ち着いて聞いてよ。....サイトウちゃんは、君の強さの秘密を知りたいんだよ?」
「おん、それがどうしたんや?」
おれがそう聞き返すと、ケベリさんはまるで貴族かなんかのようにゆっくりと前に歩き、ビシッと振り返ってこう言った。
「....こう言えば良いんだよ。....『俺の強さの秘訣が知りたきゃ付いて来い』..ってね。」
「......ケベリさん。.......あんた、天才だよ。」
考えつきもしなかった。まさか、こんなにも鮮やかに尚且つスマートにおれの悩みが解決できるなんて....っ!
「おれ....一生あんたに付いてくよ旦那ぁ!」
「よせやい、坊主。....惚れんなよ?」
「どきゅんっ!」 「わふぅ!」
心を打ち抜かれてばたりと倒れると、バディもおれの真似をしてバタンと隣に倒れる。
くっそお、やっぱこの人にゃ勝てねぇぜ。なんで、あのクソジジイからこんなデキる人が出てきたのか皆目見当もつかん。
そんな三文芝居をしていると、ザッザッザッザとこちらに向かって庭を歩いてくる足音が聞こえてくる。
「噂をすればなんとやらだよ!!サボくん頑張って!!」
「ああ!旦那ァ!バッチリ決めて見せてやらぁ!」
「修行もサボってこんなところに居ましたか......。今日こそ、あなたの強さの秘訣を教えてもらいます。いざ、決闘を。」
いつも通りの無表情で、こちらに向かって歩いて近づくサイトウ。
いつもは逃げ出すところや。やけどなぁ、今日のおれは一味違う。
「まぁ待て、鉄仮面ロボット。....お前、おれの強さの秘訣が知りたいんやろ?付いてきな。...惚れんなよ?」 「わっふ......!」
おれは、バッと背中を向けながら向けた背中を指差し、くいくいっと顎で指示を出す。
バディもくるりと振り返り、背中を向けて流し目でかっこよく吠えた。
........決まった。これは完璧に決まった。
もう逃げ回るだけのおれやないんや。
さて、バトルサイボーグの反応は.....。
「.....いえ、あなたに惚れる?ことはありえませんし、付いていくよりも拳を交えたほうが手っ取り早いです。ので、いざ、決闘を。」
..................................................。
.....................あれぇ?
学校行ってる時に、信号が青信号に変わったので鼻歌を歌いながら渡ってたらクラクションを鳴らされました。
僕の鼻歌が気に入らなかったのか、タコみたいに真っ赤な顔のおっさんが窓を開けて何か大声で怒鳴り散らかしていましたが、何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。やっぱり、昭和歌謡の鼻歌の方が良かったのでしょうかね。
そんなこんなで、今日も私は元気です。2024/01/15