ポケットモンスター 拳 〜超強い俺の嫁とめちゃくちゃに弱い俺の話〜 作:おしゃべりデブ
これからしばらく大事な話になるので、お話が一段落するまでは3日間おきに新しいお話を投稿する『連続投稿月間』に入ります。
以上、よろしくお願いします。
「...で、結局こうなんのか。」
おれの鮮やかかつスマートな誘い文句はあっけなくスルーされてからしばらく。
場所は変わり、おれは今、数日前にサイトウをボコボコにした道場の庭先に連れてこられていた。
おれに大恥をかかせたケベリさんはいつの間にか姿を消し、クソジジイも今日はジムで挑戦者の相手だそうで、今この場所にはおれとサイトウ、そして居眠りを始めたバディ以外誰もいない。
てか、あの人マジでどこ行ったんや。おれがサイトウを遊びに誘ったあたりから姿が一向に見えんのやけど?あの人忍者なんか?
「ふぁぁ....で?ルールは前と一緒でええんか?」
あくびをしながら大きく伸びをして、ちらりとサイトウに目を向けると、サイトウは拳を構えながらも表情を変えずこくりと頷く。
相っ変わらず顔の種類一種類しかないんやなぁ。おもんな。
「はい。私は...どうしてもあなたの強さの秘訣が知りたい。修練にも参加せず、己の肉体を鍛えようともしない。性根も曲がり、性格も酷く、素行も口も悪い。」
サイトウは淡々と話しながらも、話が進むにつれ鉄仮面のような無表情を少し引き攣らせながら怒り心頭と言った具合に語気が強くなっていく。
それにしても...山ほど出てくるやんけおれの悪口。
「おうおうえらい言いようやのぉ。そんなにおれのこと嫌いか?」
「はい!大嫌いです!」
即答かい。ま、別にええけど。
「けっ!で、その大嫌いなおれの強さの秘訣が知りたいんか。ほーん。それは見あげた根性で。」
嫌いなら関わらんかったらええのにわざわざ話しかけにくるんやしなんか理由があるんやろうな。正直どうでも良いけど。
そんなことを思っているとサイトウは自分の表情が崩れていることに気づいたようでパンパンっと頬を叩き、首を振っていつもの無表情に戻った後、聞いてもいないのにゆっくりと話し出した。
「ええ。......口に出せば出すほどあなたに対しての不快な気持ちが湧いてきますが、あなたが私よりも遥かに強いことは紛れもない事実。......悔しいし、そんな力を持っていても正しく使おうとしないあなたが憎たらしい。ですが、そんなあなたの強さを知ることも、私の目指す『最強』への道。...背に腹はかえられません。あなたの強さ、存分に勉強させていただきます。」
そう口に出したサイトウは、構えた自分の拳にちらりと目を向けてグッと固く握りしめた。
「『最強』.....ねぇ。...強くなってその先何があんねん。」
サイトウの言葉を聞いて、思わず口からそんな言葉が溢れてしまった。
「......今、なんと?」
おれのその呟きを聞き逃さなかったサイトウは、ギロリと鋭い視線でおれを睨みつける。
あーあ。めんどくさ。ほんま、おもんないわこいつ。
「...はぁ。別にぃ、なんも無いわ。で?やるんやろ?はよ、かかってこいや。遊んだるわ。」
まぁ?毎度毎度、一発で終わらせるのも味気ないし?今回はちょっと遊んでみよかな。
「では、尋常に。すぅ...ハァア!」
サイトウは大きく息を吸い込み、呼吸を整えると迷いなく右拳を振り抜く。
先日おれの仕掛けたねこだましを警戒し、おれが動くよりも先に攻撃を仕掛ける見え見えの先手。
相変わらず面白みのないマニュアル通り。
「やから、わかりやすいねんって!よっ!」
完全に読み切った拳を後ろに軽く飛んで躱す。
だいたい次の動きも読めるな。重心も移動しとるし、ずばり、『後ろに引いたおれに合わせてリーチのある蹴りで対応しようとする。』これやろ。
「このっ!」
「ほらほらー、どうした?その程度なんか?」
予想は的中し、サイトウは右脚の蹴りを繰り出した。
おお!そこそこおもろいやんけこの遊び!こいつ本人よりもよっぽどおもろいわ。
右にゆらりと身を流して、サイトウの蹴りを難なく躱す。
「くっ!なぜ、当たらないっ!」
「なんやもうおしまいか?ほれ!こことか殴ってみたらどうや?」
トントンと指先で自分の左ほっぺを突きながら挑発する。
サイトウは悔しそうにキッとこっちを睨みながら、蹴りを放った足を戻し、おれが挑発したほっぺへと左拳を突き出した。
こいつ、マジで真っ直ぐにしか攻撃してこうへんな。サイホーンかよ。
例の如く、サイトウの左拳を予測していたおれは、当たる寸前に右に回転してひらりと躱した。
「おいおい。当たってへんぞ?もう一回やってみ?ほれ、ここ!」
もう一度自分のほっぺをトントンと突き、挑発してみる。
「組み手中にベラベラと....。ハァア!!」
サイトウは左拳を引いて、距離を詰める。
.....目線が完全に右の方を見とるな。なんちゅーバレバレなフェイントや。ここまで下手くそな奴初めてみたわ。
お!良いこと考えた!
面白いくらいの読み通り、サイトウは左拳を引いたまま右拳を前に突き出した。
おれはそのまま突き出された右拳を左の手のひらで握った。
「...な!?」
「はいキャッチ〜!」
「っ!?また!私を馬鹿にして.....っ!?.....あなた....その....。」
サイトウは自分の右拳をキャッチしたおれの左の手のひらを物珍しそうな表情でまじまじと眺め出す。
....なんや?なんか気になることでもあったんか?
とりあえず、いつまでも掴んでいるままでは気恥しいので手を離す。
おれが手を離した後も、サイトウは解放された自分の拳を見つめて首を傾げた。
「.....もうええか?」
サイトウが自分の拳を見つめ始めて、結構な時間がたったので声をかけてみる。
「っ!?い、いえ!まだです!....セイヤァ!」
サイトウはおれの呼びかけにハッとなり、我を取り戻したかと思えばいきなり右の蹴りを仕掛けてきた。
忙しないやっちゃやなぁ。
おれは少し、反応が遅れたが右に重心を移動させするりと躱した。
サイトウは躱したおれのことをキッと睨みながら振り上げた足を下ろして次の体勢をとる。
んで、次はそうやな....ん?右手チラッて見たな今。ってことは『右に重心が傾いたから右袖を掴んで投げ技。』これちゃう?
せやな〜。ほなこうしようか。
「!そこっ!」
サイトウがおれの右袖を掴もうと右手を伸ばす。
おれはサイトウが伸ばしてくるであろう右手に合わせて、同様に右手を差し出し、サイトウの手を握った。
「はい、握手。なんつってな!」
おれのその行動にサイトウは呆気にとられたうちに、みるみると怒りで顔を真っ赤に染める。
「んな!?......馬鹿にして......っ!?.....?」
サイトウが顔を真っ赤に染めたかと思うと、突然ハッとしたように繋がれた手のひらをまじまじと眺める。
.....なんやねんこいつ。はよ手ぇ離せや。
「...あの、握手仕掛けといてなんやけど、手ぇ離してもろてええか?」
「....っあ。...すいません。....その、あなた.....その.....手....。」
?なんやこいつ、人の手触ってからあたふたしよってからに。
サイトウは神妙な面持ちで少し考えてから、手を離す。
手を離した後も、何かを考えるように顎に手を当て考え込む。
......長いな。
「....あの、もうええか?」
おれが声をかけると、サイトウはハッと気付いたように顔を上げる。
「あっ、はい。その、あなたの強さの秘訣は大体わかりました。....視野の広さ、思考の余裕、それらを最大限に活かすことのできる圧倒的なほどの身体能力と反射神経。.....どれも、私に足りないものです。」
サイトウは俯きながらそう言うと、無表情のままチラチラとおれの方に視線を送る。
「ですから...その...あの.....。」
.....なんやこいつめんどくさいな。
「....あの、どんな....。いえ....。」
視線を下に移してモジモジしながら言葉を探すように何かを言おうとするサイトウ。
はっはーん?なるほど?『どんな鍛錬をしているのか知りたいけど、初め誘われたのにキッパリ断った手前どう聞いたら良いのかわからない。』ってとこか?....ほんま、めんどくさいなこいつ。
我ながら勘が良過ぎて困るな。いや、別に困ることないけど。てか、こいつが分かりやすすぎるだけやな。
「どんな鍛錬をしてるのか知りたい。ってはっきり言えばええやんけめんどくさいな。」
「っ!?.....別にそんなこと考えていませんが。」
「あーもう、めんどいめんどい。嘘つくの下手なくせに、アホなことせんでええ。」
「くっ!あなたと話していると、無性に腹が立ちます。」
「へいへい。とりあえず、なんでもええからついてこい。行くぞバディ!起きろ!運動せなぶくぶく太ってまうぞ。」
「わふん!?....くぬぬぅ。」
いまだにぶつぶつと文句を言いながらも後ろをついてくるサイトウを尻目に、仰向けになって鼻ちょうちんを作っていたバディを叩き起こした。
....こうみたらバディ、マジで太ったな。そろそろ本領出してダイエットするか。
「そんじゃあ、今日は西の裏山行くか。行くぞ、ロボ女。」
「わう!」
「良い機会です。あなたの強さの秘訣、勉強させていただきます。あと、そのロボ女というのはやめてください!」
「まともな感情出せるようになってからやったら考え立ってもええわ。サイボーグ女。」
「その呼び方もやめてください。私には、サイトウという名前があります。それと、リュックを取りに戻りたいので少し待ってください。」
「知るかばーか。」
そうして、いつもの二人にサイトウという新しいメンバーを加えた三人は西の裏山に向かった。