オフの日だからこそ、主人公の側にいたいわけで。
恋に段階があるならば、これは始まっていないのか、それとも安定期にはいっているのか。
あたしは目が覚める。
今日はオフなので幼馴染ヒロイン役をやめて、幼馴染ヒロインのオフとして過ごす。
ハーレム型ラブコメならほぼ皆勤賞。学園系なら主人公が転校生でもない限り登場する。
要するにあたしには需要があって忙しい。仕事があるのはいいことだと自分を慰める。例えそれがフラれ役でも・・・一生懸命頑張る。
幼馴染ヒロインはメインヒロインに次いで激戦枠で、あたしは負けヒロイン担当がしっかり板についてしまった。幼馴染ヒロインルートの話には、あたしは声がかからない。
それと、ポリシーとしてメインヒロインが死んだ後に、主人公の恋人に収まる役割も受けないことにしている。負け犬役は演じても、みじめな負け犬にはなりたくない。
※ ※ ※
外は天気が良かった。5月の陽気で新緑が眩しい。
隣に家には主人公役を担当するあいつが住んでいる。仕事の日には窓を開けて、主人公の部屋の窓を開けて起こすことから一日が始まる。古き良き様式美であたしは気に入っている。
ただ、今日はオフだ。主人公を起こす必要もないし、特別な物語は始まらない。
あたしは自慢の金色の髪を後ろで一つに結わいて黒いゴムバンドで留める。仕事の時はツインテールにするが、オフの日はあまり凝った髪型にはしたくない。
クローゼットの中から明るい黄色のワンピースを選び、白い大きな帽子をかぶる。
特に予定はないので公園を散歩でもして過ごそうと思う。
休日ぐらい彼氏がいたらデートでもする年頃なのだが、あいにく彼氏はいない。とはいえ仕事では映画、美術館、観覧車、山に海。ときどき海外。なんなら海底、地下洞窟、異世界といろんなところで主人公とデートをしている。
だから、休日にどこかに行きたいとは思わない。のんびりしたい。
時刻は午前の10時。ずいぶんとゆっくりと寝た。
白いスニーカーを履き家の外にでて、隣の家のチャイムを押した。返事がない。
主人公もだいぶ疲れているのだろう。アクションが多い話の時は休日ぐらい家でゴロゴロしていたいのはわかる。
あたしは必須アイテムの合鍵を使ってドアを開け、玄関で靴を脱ぎ、階段を上がって二階の部屋にいく。
窓から入ると休日でも物語が始まってしまうので、玄関から入るのが大事。
「ほら、そろそろ起きなさいよ」
主人公がむにゃむにゃいいながら抱き枕を抱いている。縦縞の水色パジャマは仕事着と同じものだ。オシャレをするという感覚がないのか、オフの日も仕事衣装を流用している。下半身が膨らんでいる気がするがオフなので別に照れたりしない。ただの生理現象だしいちいちリアクションなんて取らない。
抱き枕を奪って、主人公をもう一度起こす。
「ブランチつくってあげるから、着替えて降りてらっしゃいよ」
主人公がブツブツいいながら上半身を起こした。
起きたのを確認したら、部屋からでキッチンに向かう。
あたしは料理ができない。練習してみたが包丁を持つと手を怪我する。どうもそういう属性だか呪いがかかっているらしい。その代わり絵が上手い。
皿にシリアルと牛乳を入れる。それとバナナをむいて手でちぎる。コーヒーはインスタントで十分だ。
これくらいなら怪我をしない。
主人公があくびをしながら降りてきた。特に会話もしないで2人でボリボリとシリアルを口にいれる。
コーヒーで流し込んで、食べ終わるのに5分とかからない。
「あんた、今日休みよね?」
「ああ。お前がそういうならそうなんだろう」
だいたいあたし達はセットで物語を作るので、あたしの休日は主人公の休日でもある。
「今日、天気がいいわよ」
「んあ?」
まだ寝ぼけているらしい。主人公は窓から外をみて「そうだな」と言った。
「公園でも散歩しようかしら?」
一応、あたしから誘う。デートではない。運動不足になるかもしれないので、主人公の健康管理をしているのだ。主人公の管理は幼馴染ヒロインの役目と決まっている。
「いいぞ。別に」
気だるそうな返事。せっかく誘っているのだからもう少し嬉しそうにしてもらいたいと思うが、口には出さない。
食器を片付け、二人で玄関から出て、ドアの鍵はあたしがかけた。
天気はとても良かった。
こんな日は彼氏がいたらと思わなくもないのだが、幼馴染ヒロインをやる以上は彼氏を作るわけにはいかない。
手をつなぎたいなと思うが、相手がいないのだからしょうがない。
「あんた、彼女できないの?」
「物語の話?」
「・・・そ、物語の話」
「まだ4話あたりだからなぁ・・・って、お前も知ってるだろ」
「まっ、そうなんだけど」
第4話。世界観や登場人物の紹介が終わって、主人公とメインヒロインがそろそろ意識し始める頃だ。
まぁ、あたしとしてはプライベートではいないらしいことがわかれば十分なわけで。
近所の公園は少し大きい。緑も多く、中央には芝生が広がっている。あたし達は木陰のベンチに座った。
「みんないるわね」
「いや・・・」
「ああ、あの子がいないのね」
赤髪ヒロインはジャージを着て運動している。
紫髪はアコースティックギターを練習中。
黒髪ロングは静かに本を読んでいた。
「メインヒロインはセリフが多いからなぁ、休日は家で練習してんじゃね?」
「連絡とかしないの?」
「公私混同は避けているんだよ。距離感が近くても変だろ」
「まっ、しょうがないわよね」
その点で幼馴染ヒロインのあたしは公私混同でも問題ない。そういうポジションなのだから。
「そうそう、あたしの戦績が設定資料集に書いてあったのよ」
「なんの戦績だよ?」
「メインヒロインに負けた回数よ」
「へぇ・・・で、いくつなんだ?」
「1勝495敗だって」
「ぶっ」
「振られに振られたものよね」
「まぁそういう役割だからしょうがないだろ・・・」
「ほんと、損な役回りよね。そんなにあたしに需要がないのかしら?」
「でも、いい数字じゃん」
「何が?」
「495」
「もうすぐ500敗ね」
「いや、たぶんずっと495なんだろう」
「なんで?」
「カプレカー数だよな?」
「はい?」
「任意の三桁数字で作れる最大値と最小値を引く操作で求められる数字だな」
「いや、言っている意味わかんないだけど」
「なんか、ゾロ目意外の三桁の数字を言ってみ?」
「320」
「誕生日か」
「あら、覚えているのね」
「一応な」
「3,2,0だと、最大値が320、最小値が23だから、引くと297になるよな」
「えっと・・・うん」
「2、9、7で作れる最大値は972、最小値は279。引くと693か」
「ええそうね」
「そうやって繰り返すと495に落ち着くんだ」
「ふーん。あんた詳しいわね」
「賢そうな役もときどきやるからなぁ・・・天才の役の時はうさんくさいけどな」
「まぁ、でも特別な数字なのね?」
「そうだな。結局戻ってくるってところがお前らしいよ」
「どういう意味?」
「ん。物語が終わり、新しい物語が始まるとお前が起こしにくるじゃん」
「そういう役割だもん」
「元に落ち着くという意味で、お前らしい数字だよ」
「そ?ピンとこないわね」
「つまんない話だったな」
「そうね」
オフの日はいつも退屈で盛り上がらない。なんでもない平凡な時間が過ぎていく。
青い空に白い雲がのんびり流れているような。そんな一日だ。ずっと繰り返してきた。
「でも、あたし1勝したのを覚えてないんだけど」
「495敗も覚えてないんだろ?」
「うん」
「なら、それでいいだろ」
「う~ん」
なんかはぐらかされている気がする。
「それはそうと、お昼ご飯食べに行きましょうよ」
「さっき朝食とっただろ?」
「お昼は担々麺がいいかしらね?」
「人の話きいてねぇな!?」
「せっかくだから、中華街ぐらいまで足を伸ばしたらいいじゃない」
「・・・そうだな」
あたしは立ち上がって、主人公の方を振り向いて微笑む。
オフの日は素直に笑顔を作れて嬉しい。主人公も少しはにかんで笑っている。
明日からまた仕事で、振られ役のサブヒロインだけど、こうやってオフがあるから頑張れる。
本当はオフの日も彼氏が欲しいけど、こいつに彼女がいないんだからしかたない。
こいつに本当の彼女ができるまで、幼馴染ヒロインとして今日も隣で微笑むの。
(了)
メインヒロインが登場しない限り、平和なのだ。