森育ちのお嬢様にネットは難しい   作:ワクワクを思い出すんだ!

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 いつも感想、評価、いいねをありがとうございます。
 マスターデュエルの真竜フェスもそろそろ終わりですね。報酬忘れには気をつけましょう。

 時系列的にはアニメ13〜20話くらいです。



ハノイの騎士編︰名前?

 入学してから二ヶ月経つ頃。

 そろそろ制服の上着が億劫になる初夏の只中。待ちに待った放課後のチャイムを今か今かと待ち続けている。

 

 遊作は授業の合間になると校内を巡り続けていた。

 ハノイの騎士によってウイルスを仕込まれたブルーエンジェル──────財前葵のその後について、そして電脳ウイルスを仕込まれたときの事を確認しておきたかったからだ。

 

 純粋に心配な気持ちはあったが、打算混じりの行動のため気は進まない。結局のところ、彼女のクラスに聞き込みにいっても「しばらく休んでいる」としか言われず、進展はないが。

 

 

「財前? そういえばあいつ最近来てないよな」

 

 

 自称情報通(島直樹)も頼ってみたが、同じようなことを口にする。皆も意外とあまり関心がないのか、と遊作はこれ以上は徒労になると思った頃、いつものように二人の会話を聞きつけた結が近づいてきた。

 

 

「葵ちゃんなら体調を崩されたようでして、少し入院なさっておりましたのよ〜」

 

「は? マジかよ!? んだよ、言ってくれたら見舞いに行ったのによ──────あ、でも女子はそこら辺嫌がるのか?」

 

「さあ〜?」

 

「いやお前も女子だろ。そこで首傾げるな」

 

 

 こてん、と傾けた首が元に戻る。

 そして結は自慢気にこう語った。ドヤ顔である。

 

 

「お医者様のお知り合いがいらっしゃいまして〜、わたくし生まれてこの方、病気などには縁がありませんので〜」

 

「なるほどな〜。いや鴻上の場合はアレか? ナントカは風邪引かないってヤツか?」

 

「ナントカ……?」

 

 

 再び、こてん、と首が傾く。

 自覚のない相手にこれ以上話しても不毛だと思ったのか、島はやれやれと肩をすくめた。

 

 一方、遊作の方は会話を聞きながら意外そうに目を見開いていた。

 冷静沈着……というよりも他人に関心が薄い彼にしては珍しい反応かもしれない。

 

 

「お前、そんな気が遣えたんだな」

 

「意外みたいに言ってんじゃねぇぞ藤木ィ!」

 

 

 無論、島に対してである。

 一応、遊作の中で評価が少し上がったのだったが、そんなことは島は知らず不服を申し立てるばかりだ。

 これが島が憧れている遊作(Playmaker)からの言葉であるなんて思わないだろう。

 

 

「つーか、なんで鴻上は知ってんの?」

 

「うふふ、実はお手紙をやりとりしてまして〜」

 

「手紙て」

 

 

 機械に触れられない娘がメールやチャットなぞできるはずもなし。

 こと通信のやり取りにおいて、紙という媒体が使われなくなり久しいこの時代、古き良きを突き進むのがこの少女である。

 

 まあ確かに伝書鳩とか似合いそうだなー、と男性陣二人が漠然と考えていると、そんな娘からこんな提案をされた。

 

 

「そうですわ〜、これからお見舞いに参りませんこと〜?」

 

「お前俺の話聞いてた?」

 

 

 ここまでのやり取りはなんだったのか。

 島が呆れ返って机に突っ伏すことになったのを見届けた遊作は心の中で合掌してあげることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたわ〜」

 

「島の話を聞いていたのか?」

 

 

 さすがに遊作もツッコんだ。

 集合住宅の入口、遊作は結に連れられて来ていた。途中までは島も一緒ではあったが、お土産を買ったあたりで離脱されてしまった。

 

 今までの仕返しとばかりにウインクする島の顔が目に浮かぶ。少し上がった評価は、敢え無く修正されることになった。

 

 

「いえ、わたくしだけですと色々と困ることが多くなりそうでして〜」

 

 

 困ること、と口にする結の視線を辿る。

 目の前は何の変哲もない自動ドアとインターホン。一般家庭によくあるセキュリティシステムであるが──────

 

 

「なるほどな」

 

 

 合点がいった遊作は代わりにインターホンを操作した。結もさすがに何も考えていないわけではなかったようだ。

 

 インターホンに触れれば詰み。

 自動ドアに触れれば詰み。

 メールやチャット、通話ができない以上、葵の方から迎えに来てくれることもできない。

 この建物に入るには、結にとってハードルが高すぎるわけだ。

 

 もし彼女が遊作たちを頼らないストロングスタイルで行けば、建物の中は大パニックになることだろう。ストロング鴻上ならぬ、デストロイヤー鴻上の誕生だ。

 

 

『これもう介護だよネ』

 

「黙れ」

 

 

 小声でデュエルディスクからの(Ai)を制止させる。

 

 ただ、ふと疑問が過る。

 男子が教えてもいない女子の家に押しかける事態を、葵はどう思うだろうか。

 

 

「それなら葵ちゃんからしっかり許可をいただいておりますのでご安心を〜」

 

 

 見透かされたように結から答えられる。

 今日思いついたかのように言っていた割には意外と用意周到ではあった。

 

 すると、結は腰を折る。

 ひとつひとつの仕草が丁寧かつなめらかで、つい見惚れてしまうようなお辞儀だった。

 

 

「葵ちゃんが倒れたところを見つけていただいたようで〜、わたくしからもお礼申し上げますわ〜」

 

「……成り行きだっただけだがな」

 

「それでもですわ〜。わたくしのお友達を助けていただいたことは事実ですの〜」

 

 

 つい、遊作は目を逸らしてしまう。

 事件の真相を探る一環として葵の兄について調べる。

 そんな打算ありきで近づいた手前、素直には受け取れない。巻き込まれたのも、ある意味遊作のせいでもある。しかし、変に拒否してもおかしいと思い、気持ちだけ受け取ることにする。

 

 こうして難なく葵が住む部屋まで辿り着く。

 インターホンなどは遊作が代理し、エレベーターも使わず階段で登ってきた。

 念の為、扉のノブも遊作が開けてあげる。

 電子錠などであれば閉じ込められることになりそうだからだ。抜かりはない。

 

 こうして何の犠牲もなく辿り着いた部屋の中では、葵が何かと相対していた。

 

 

『ガイシュツキンシ! ガイシュツキンシデス!』

 

 

 お手伝いロボである。

 葵が通ろうとすると反復横跳びで進路を塞いでいる。

 

 

『オニイサマカラ、ガイシュツヲシナイヨウニ、メイレイサレテオリマス!』

 

『へぇー、あのオニイサマ、あんなのことしてまで外出させないようにしてんのかー。だから学校も行けなかったのねー』

 

 

 Aiの言うとおりバグなどではなく、兄からプログラミングされた行動を実施しているだけだ。

 葵は困った顔のままその場を去ろうとする。

 

 

「葵ちゃ〜ん」

 

『ガイシュツ! ガイシュツキン……ガ、ガガガガガガガガガガガガガガガガ』

 

『あ、壊れた』

 

 それも今バグったわけだが。

 葵のもとへ小走りで近づく過程で、結に触れてしまったお手伝いロボットは錐揉み回転しながら壁に衝突していき、そのまま沈黙した。

 

 

「ご無沙汰ですわ〜」

 

「結……に、藤木くん」

 

「元気そうだな」

 

「ごめん、まだお礼いってなかったよね。倒れていたところ見つけてくれたみたいで」

 

「気にするな」

 

 

 結と再会のハグをしている間に視線を向けられると些か居心地が悪い。

 誤魔化すように、手に持っていた紙袋を葵に渡す。

 

 

「あ、これ島からだ」

 

「島くん? こういうのできたんだ」

 

「意外だよな」

 

 

 人のいないところで失礼なー、と怒る島を想像したためか、くすりと葵は笑う。

 

 

「もう体調の方は大丈夫ですの〜?」

 

「うん。お兄様……兄が大事を取って休ませてくれているだけだから。もう少ししたら学校には行けると思う」

 

「まあ、それは何よりですわ〜」

 

 

 お兄様、と聞いて遊作が思い浮かんだのはLINK VRAINSで見た長身の男。

 初めは認識の違いで敵対していたが、最終的には和解できた。リボルバーとの一件でセキュリティ部長としての席を外されることになるだろう、と草薙は言っていたが、今はどうしているのだろう。

 

 

「で、どんなご病気だったんですの? 入院されたとお聞きして心配で……」

 

「あー……えっと」

 

 

 そんなことを考えていれば、葵は答えづらそうにしていた。

 無理もない。『テロリストに電脳ウイルスを仕込まれて寝ていました』なんて言えるわけがない。

 

 

「……入院したからと言って重い病気とは限らない。実際、今は体調が良さそうだしな」

 

「っ、そ、そうなの! ちょっとした過労で、私も大丈夫って言ったんだけど、兄が念には念をって聞かなくて……」

 

「まあ、素敵なお兄さまですわね〜。わたくしたちも負けていられませんわ〜」

 

 

 ホッ、と葵は肩を落とす。

 

 まるで事情を知っているかのように思われないためにも、続けて遊作は話を逸らすために話題を投げた。

 

 

「鴻上も兄妹がいるのか?」

 

「ええ、父と三人で暮らしていますわ〜。お兄さまはとってもでゅえるがお強いですの〜」

 

「結にそこまで言わせるって、相当なんだね」

 

 

 財前葵(ブルーエンジェル)が口にすると些か重たいように聞こえるが、遊作(Playmaker)も同感であった。

 二人とも彼女とデュエルしたからこそ、彼女から“強い”と言わせる兄は一体どのような男なのだろう。

 少し意識が向いてしまうのは、決闘者としての性なのかもしれない。

 

 

「ですが、少し前にどなたか相手に負けてしまったようでして、とても悔しそうにされていましたの〜。なので、今日はこの後お兄さまと一緒にデッキ調整いたしますの〜」

 

「そうだったんだ。ごめんね、そんな時に来てもらって」

 

「そんなことありませんわ〜」

 

 

 あ、そうですわ〜、と結が両手の掌を合わせる。

 

 

「せっかくですし、少しお茶でもしながらでゅえるでも──────」

 

「いや、待て鴻上」

 

 

 待ったをかけたのは遊作だった。

 そして彼らが入ってきた入口のところを指差す。

 

 

「コイツをどうにかしないとな」

 

「ア、アーーーー、アオイ、サマ、ガイシュツ、アオイ、キンシ、キンシキンシ、ピーーーー」

 

「あ」

 

「あら〜」

 

 

 忘れられていた犠牲者(お手伝いロボット)であった。

 

 その後、遊作が部屋を出たのはお手伝いロボットの修理が終わり、程なく経った後だった。

 付き添いとはいえ、さすがに女子の部屋に女子二人の空間に長居するのは居心地が悪いし、目的だった“財前葵の無事”について確認できたのだ。

 

 結の見送りは、しばらくすれば財前晃が戻ってくるため、心配ないとのこと。閑職に追いやられた、という草薙の言葉は本当のようだ。

 

 とにかく、あとは友達水入らずの時間を楽しんでもらうとしよう。お言葉に甘え、遊作は帰路に就くことにする。

 

 ふと、遊作は空を見上げながら思った。

 前のように部活に出て、同級生の見舞いに行って。

 

 ──────これが、普通の高校生活なのかもしれないな。

 

 

 

『なんか楽しそうだな遊作ー』

 

「うるさい」

 

 

 帰り道、Aiからそんな言葉を投げかけられる。

 いつも通り口にした素っ気ない返事も、少しだけ弾んでいたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、お手伝いロボットを直す技術は遊作にはない。彼はハッカーの知識とスキルがあっても、本来機械いじりは専門外だ。

 

 

「おい、何とかしろ」

 

『いつも草薙に言われているヤツが俺に行くとは思ってなかったぜ……』

 

 

 初めてAiを連れてきて良かったと思った遊作だった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 ネットの世界は広大だ。

 当然、普段生活をしている者には目にも止まらない“裏”の世界も存在する。無法者が闊歩する世界でも、なお見つからない深淵に“ハノイの騎士”の世界は存在する。

 

 

「皆、揃ったな」

 

 

 白衣を着た初老の男性が振り向く。

 彼の下にはハノイの特徴とも言う純白の装いをした三人が彼の前で跪いていた。

 

 他のハノイと異なるのは、仮面の面積が片目のみになっている点。それこそが、彼らが一般の手下と一線を画す証であった。

 

 “三騎士”と呼ばれる幹部構成員。

 顔を上げてくれ、と初老の男性──────鴻上聖が口にすると、三人は立ち上がる。

 

 聖にとってはSOLテクノロジーで研究を続けていた頃からの同志であり、ハノイの騎士を立ち上げてからは最も信頼する手下となってくれ、そして死の淵にあった彼をこの世界で復活させてくれた恩人たちでもあった。

 

 

「……リボルバー様は?」

 

 

 唯一の女性、表向きは医者のバイラはここにはいないリーダーの行方を探す。そもそも、彼らをここに呼んだのは聖ではなくリボルバーだった。

 

 意志を持つAi、イグニス。

 聖たちが作り上げた最大の過ち。いずれ人類に仇なす存在をこの世から抹殺すること。それがハノイの騎士の目的だ。

 

 つい先日、その達成の直前まで辿り着いたにもかかわらず失敗した──────立ちふさがったPlaymakerによって。

 これに関しては誰にも責められない。実行したのがハノイの最大戦力であるリボルバーであったのだから。ただ単に、Playmakerがハノイの騎士の予想を上回っただけのことだ。

 

 次は失敗しない。

 そのために計画を別の方向にシフトする必要がある。それが三騎士が呼ばれた理由だった。

 

 

「息子なら、ここだ」

 

 

 聖はひとつのモニターを表示させた。

 海へと沈んでく陽が、その存在を世界へ示すように眩い輝きを放つ。逆光に照られる二つ黒い人影は互いに向き合うように並び、対峙している。

 

 

「余程、Playmakerとの敗戦が堪えたようだな」

 

 

 了見と結。

 彼らはデッキ調整に熱中しすぎて時間を忘れていた。

 聖は己の子供たちに向けて笑みを浮かべる。他の三騎士もまた同様だ。あれこそが、ここにいる皆が守りたかったものなのだから。

 

 

『【リボルブート・セクター】の効果発動。相手フィールドのモンスターとの差分、墓地から【ヴァレット】モンスターを特殊召喚する。

 よって、私は2体墓地から特殊召喚!』

 

『であればわたくしは【メルフィー・パピィ】さんと【メルフィー・キャシィ】さんの効果で手札に戻します〜。

 キャシィさんの効果で【レスキュー・ラビット】を手札に、パピィさんの効果で【森の聖獣カラントーサ】さんを特殊召喚いたしますわ〜。

 あと、カラントーサさんの効果で【ヴァレット・トレーサー】さんを破壊してくださいます〜』

 

『【ヴァレット・トレーサー】の効果発動。自身を破壊し、デッキから新たに【ヴァレット】モンスターを特殊召喚する。来い、【ヴァレット・シンクロン】! 

 私は、更に手札から特殊召喚したレベル7の【アブソルーター・ドラゴン】に、レベル1の【ヴァレット・シンクロン】をチューニング!』

 

S(サベージ)・ドラゴンまで……!」

 

 

 その割にはちょっと殺伐すぎる気はするが。

 

 

「相変わらず何というか、遊びがないな」

 

「うーむ、こちらから見ている分はいいですが、相手にはなりたくないですねぇ……」

 

 

 バイラやファウストはともかく、変わり者のDr.ゲノムでさえ引き攣った笑みのまま動いていない。

 

 当の本人たちはいつも通りキャッキャウフフしているつもりなのだから始末に負えない。財前兄妹が見たら何というのだろうか。

 

 

「何を言うのです」

 

 

 そんな一同を否定するように現れるのはスペクターである。

 

 

「血の分けた兄妹だからこそ、全力でぶつかり合い、全力で傷つけ合い、全力で称えあう。手加減など無粋の極み。この瞬間こそ、お二人の兄妹“愛”が表れているのです!」

 

 

 彼は美しい絵画に出会ったかのように恍惚とした表情でモニターに釘付けになっていた。

 スペクターはブルーエンジェルの一件から顔が割れてしまっている関係で、今回の作戦には不参加となっている。

 

 つまり、呼ばれていないのに突然来たわけだ。

 さらにはこうして後方で腕を組みながら解説をしている。いや、言っていることは間違っていないのだが、彼が口にすると何か気持ち悪かった。

 

 聖はそんなことを気に留めず、ただ黙って二人の子供を見ていた。止めることなぞ親であってもしてはいけない。スペクターではないが、今この瞬間こそ、彼らが正しく家族としていられているのだから。

 

 ふと、目を閉じる。

 ここまでの過去を思い返すと、彼の心境としては複雑の一言に尽きた。

 ロスト事件は、親の自分だけでなく子供たちも変えてしまった。

 息子は心に深い傷を負い、親の残した汚点を払拭すべく、全ての罪を背負う覚悟で犯罪行為に手を染めている。

 娘は道を踏み外すことはないにしても、真っ当な生活を送れなくなり、目に見えない友人たちと言葉を交わすようになった。

 

 ああ、あの事件さえ起こさなければ──────今頃自分も現実で二人と笑い合えたのだろうか。

 自分はただ、家から見えるあの光差す道を見た感動を、他の人たちにも見てもらえるような世の中にしたかっただけなのに。

 

 ……自分も長くはない。故に、この光景を目に焼き付けておこう。

 そう心に決めた聖が目を開けると、盤面は終盤へと動いていた。

 両者とも、手札もライフも残り僅か。フィールドもまた殺風景なものとなっていた。

 

 

 

 

 ──────ただ一体、宙に君臨する雷光の翼を除けば。

 

 

「うわでた」

 

 

 これにはスペクターも含め、げんなりとした声が一同揃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよろしいんですの〜?」

 

「ああ──────最高だよ、結」

 

 

 現実の了見は好戦的な笑みを浮かべていた。

 今回のデュエルはあくまで調整。

 しかし、あらかじめ彼は妹にこの状況を作ることをお願いしていた。

 

 【天霆號アーゼウス】。

 オーバレイユニットを二つ取り除くことで、相手ターンのいつどの場面でも、フィールドを一掃する効果を持つ恐るべきモンスター。しかも『破壊』ではなく『墓地へ送る』効果であり、『破壊』されることで効果が発動する【ヴァレット】モンスターは勿論、了見のエースモンスターも相性が良くない存在であった。

 さらに、アーゼウスの周りには光の粒子が4つ舞っていた。コクピットの中には縞模様の角を持った【メルフィー・マミィ】の姿が見える。

 

 了見の手札は2枚。結の手札も2枚。

 大量の【メルフィー】モンスターで【メルフィー・マミィ】を召喚した関係でエンドフェイズ時に展開できるほどのモンスターが居なくなったのは幸いだった。

 

 互いにライフは下級モンスターの攻撃で負ける寸前。

 この状況を意味することは三つ。

 

 一つ、了見は最低2回は仕切り直さないと対抗すらできない。

 二つ、仮に突破しても攻撃力3,000の最上級モンスターが待っている。

 三つ、それは──────

 

 

「これを突破しなければ、私は、ヤツには──────Playmakerには勝てないということだ!」

 

「ぷれいめーかー、ってどなたですの〜?」

 

 

 意を決したドローは風を切り、結の髪を撫でる。

 少女はこの日、兄の宿敵となる者の名を知った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 時は進み、Cafe nagiのキッチンカー内部。

 改造されて原型を失くして久しい移動式のハッキング設備と化した拠点では、遊作のデュエルディスクの解析が進められていた。

 

 SOLテクノロジーのデータベースで入手した事件の情報。サーバー内で対面した財前晃は言った。

 この中に、事件の“首謀者”の名前が記されていた、と。

 

 初めは雲を掴むかのような道のりだった。しかし、一気に真相へと近づく有力な情報が今この手の中にある。危険な賭けは見事、遊作が最も欲するものを手に入れることができた。

 

 

「これだ!」

 

 

 大量のファイルからひとつを展開する。

 映し出されたのは一人の男の経歴と写真、そして名前であった。

 

 

「鴻上聖。ロスト事件──────もとい、ハノイプロジェクトの立案、実行。

 既に死んでいる……だと?」

 

『なんだよ死んじゃってんのか。これじゃあ事件は闇の中ってか? 残念だったな、遊作』

 

 

 死人に口なし。

 SOLテクノロジーが闇に葬ろうとした事件を知る者は誰もいない。遊作たちが復讐する相手は既にこの世を去ってしまっていたわけだ。

 被害者の身内である草薙は、やるせない気持ちではあるが、どこかホッとしている気がした。

 弟を苦しめた人間は、自分たちが手を下すこともなく報いを受けている。これでもう復讐に区切りがつけられるのではないかと。

 

 

「遊作?」

 

 

 実際の被害者はどうなのだろう、と草薙は遊作の顔を覗く。

 草薙とは異なり、彼は目を見開いていた。

 脂汗が顔を伝う。信じられないものを見たかのように、ある記述から目が離せなくなっている。

 

 それは死亡したという情報ではない。

 首謀者の苗字(・・)、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

こう(・・)がみ(・・)…………!?」

 

 

 奇しくも、最近仲が良くなった友人と全く同じであったのだから。

 

 

 

 




 リボルバー様効果処理多すぎて底知れぬ絶望の淵に沈みました。
 これからもほどほどにやっていきたいですね。


 ◆◇◆ 以下、解説にもならない雑記 ◆◇◆


・葵ちゃん家のお手伝いロボット
 葵ちゃんから煙たがられ、お兄様からは(非常時とはいえ)「どけ!」と打たれる不憫な子。下手したらアベンジ要素多めのロボッピ2号的な存在になってもおかしくないのではと思ったが、そんなことはなかった。


・ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン
 二期から登場するはずだったリボルバーのシンクロモンスター。
 召喚時に墓地のリンクモンスターを装備し、その攻撃力を得る。さらにリンクの数だけカウンターを乗せて、ターン1制限はあるにしてもカウンターの数だけ相手の魔法・罠・モンスター効果を無効にする汎用性の高い性能を持ち、他のテーマデッキにも出張することが多い。
 主人公の影響でリンク以外の召喚法を使うようになり、Playmaker相手なら妨害の手段は豊富に必要だと判断した早期採用することになった。


・メルフィー・マミィ
 正規メルフィー。毎ターン素材を追加する効果と、素材の数だけ効果が追加されるタイプのエクシーズモンスター。素材が3枚で戦闘耐性、4枚でダメージ耐性、5枚揃えば攻撃したモンスターの攻撃力分のバーンダメージを与えるユベルもどきと化す。やっぱり愛だよね!
 今回はありったけ素材を重ねてロボのパイロットになってもらった。本当の出番はまた後ほど。


天霆號(ネガロギア)アーゼウス
 世紀末メルフィー。とうとう出てきた環境破壊ロボ。
 ターン1制限無しで全体墓地送りというランク12に相応しい能力があるが、『戦闘を行ったターンであればどのエクシーズモンスターの上に重ねられる』とかいうガバガバ条件で召喚できるやべーやつ。効果耐性がないのが幸いか。
 今回はリボルバー様のご意向でアーゼウス道場を開くことになった。素材が6枚から開始し、エンドフェイズに一度効果を使ったため4枚スタート。相性は良いわけではないが、破壊手段が豊富な【ヴァレル】であれば突破は難しくないかもしれない。きっと【ヴァレルロード・ドラゴン】と殴り合い宇宙していると思われる。


・一滴か無限泡影を握っていないのが悪い。
 効果無効は大事だが、それを言ってしまったらおしまいである。


・藤木遊作
 ロブスターみたいな髪型をしている主人公。拙作では草薙側の願いも無意識に汲んでいることや、学校でいい空気を吸っていることもあり、少しだけ性格が前向きになっている。復讐が終わった二期は高校生活エンジョイする日常回があるんやろなぁ……。
 しかし現在「今明かされる衝撃の真実ゥ」の真っ最中。強く生きてほしい。

 ※足りないところはwikiを見てください。

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