森育ちのお嬢様にネットは難しい   作:ワクワクを思い出すんだ!

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 処理(やること)が……!! 処理(やること)が多い……!! 

 というわけでやっと丸々デュエル回です。
 1話を大体10,000字くらいに抑える方針なので、多分前中後編の三部構成になりそうで震えてますわあ。
 あと、まだアザラシは実装前です。うきうきするのはまた今度ということで。

 ※処理ガバ、プレミはご容赦ください。
 ※一部環境では特殊タグが表示しきれない場合があります。(リンクマーカー下部分)
 タグの方は修正する技術がないため、とりあえずメルフィーズ編が一段落したら該当箇所をスクショ撮って挿絵にしますのでお待ちください。


メルフィーズ編︰にらめっこ(前編)

 

 

 さあっ、と突風が芝生を掻き分けながら走る。

 藤木遊作と鴻上結の間を通り抜け、森の木々を揺らし、木の葉同士が擦れ合う。

 ああ、こんな時でなければ彼女はのんきに「皆さんでピクニックでもしませんこと〜?」なんて言うのだろうか、なんて考えが遊作の頭によぎった。

 

 しかし今は決闘(デュエル)中。

 余計な思考は削り、集中力を研ぎ澄ませる。

 

 

「【サイバネット・コーデック】の効果発動。デッキから闇属性のサイバース族【マイクロ・コーダー】を手札に加える」

 

 

 決闘(デュエル)は始まったばかりだが、遊作は1ターン目で瞬く間にリンク3のモンスターを召喚し、場を固めていた。

 彼が使うサイバース族デッキの強みは展開力にある。形は千差万別ありながら、モンスター同士が互いにサーチ、リクルートし合う。そして、サポートする魔法カードもまた豊富に存在している。

 

 強力な反面、あらゆる効果には特殊召喚の種族制限などがつけられてしまうが、それも種族を統一することで実質ノーコストとなっている。

 

 さらに、この【サイバネット・コーデック】は、リンク2〜3の「コード・トーカー」モンスターを召喚すればするほど、属性に応じて手札が補充される。それこそ、真に完璧な手札であれば、先攻1ターン目でエクストラリンクを作ることも視野に入れられる強力なカード郡だ。

 

 こと、目の前の結相手であれば妨害のない内に展開しきることが肝要だ。この手札なら、あとリンクモンスターを3体は作ることだって可能なはず──────! 

 

 

「このまま更に……!」

 

 

 ふと、ここで相手の表情が視界に入る。

 一瞬。ほんのただの一瞬だった。

 けれど、目を細めてこちらを見る顔はこう語っているように見えた。

 

 これ以上進むのはよせ(・・・・・・・・・・)、と。

 

 

「……カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 見間違いかもしれない、が、警戒は怠らない。

 最低限の動きはできた以上、遊作は己の勘を信じ、一旦様子見に徹することにする。

 まだ先攻1ターン目。焦る必要は無い。

 

 

「どうしたのかしら?」

 

 

 葵も怪訝な様子で状況を伺う。

 本物のPlaymakerにしては動きが大人しいと思ったか。無理もない。この感覚は相対している者しかわからないのだから。

 

 

「あら、もう終わりなのですか〜?」

 

「……」

 

 

 学校でも聞くような、ゆったりとしたテンポの声。

 普段なら気にもせず、むしろ居心地が良いと感じたのかもしれない。

 しかし、この瞬間に限っては、その笑顔が恐ろしくも感じてしまった。

 

 

「であればわたくしのターンですね。ドロ〜」

 

 

 ゆったりとした動作でカードを引く。

 思考時間は最小限。結は思った動きをそのまま進める。

 

 

「手札から【魔獣の懐柔】を発動いたします。フィールド上にモンスターがいない時、デッキからレベル2以下の獣族モンスター3体を効果を無効にして特殊召喚いたしますわ〜」

 

 

【魔轟神獣ケルベラル】ATK/1,000 DEF/400

【メルフィー・フェニィ】ATK/100 DEF/300

【メルフィー・ポニィ】ATK/400 DEF/0

 

 

「1枚でデッキから3体のモンスターを特殊召喚するか……」

 

 

 レベル2の獣族のみ、そして発動後は獣族しか特殊召喚できなくなる制約がありながらも効果は絶大だ。

 同じく種族の統一を軸にして戦う遊作は嫌でも理解してしまう。

 

 

「お願いします──────わたくしの未来回路」

 

 

 結は静かに手を掲げる。

 遊作とは対照的に、上空ではなく地面に光り輝くゲートが現れた。

 

 

「召喚条件は獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター2体。わたくしは【メルフィー・フェニィ】さんと【メルフィー・ポニィ】さんをリンクマーカーにセット。リンク2、【鉄獣戦線 徒花の(メルフィー・)フェリジット】さんをリンク召喚〜」

 

 

鉄獣戦線(トライブリゲード) 徒花(あだばな)のフェリジット

地属性 リンク2 ATK/1,600

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◀︎

◀︎
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◀︎
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【獣族/リンク/効果】

獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。手札からレベル4以下の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスターしかリンク素材にできない。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローし、その後手札を1枚選んでデッキの一番下に戻す。

 

 召喚されたのは己の身長と同じほどの大型ライフルを持った女性型のモンスター。

 この森の雰囲気には似合わない、殺伐とした世界の存在だった。

 

 獣族を駆使する彼女にとっては珍しく、二足の人型のモンスター。これは葵も初めて見たのか、目を丸くする姿が遊作の目に入る。

 実際、フェリジットも「なんでここにいるんだろう」と言った戸惑いの表情が伺えた。

 

 

「フェリジットさんの効果を発動します〜。1ターンに1度、手札からレベル4以下の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚できますわ。わたくしは【レスキューキャット】さんを特殊召喚いたします」

 

 

 己の役割を理解したフェリジットは自身の身長ほど大きなライフルの柄で地面を叩く。

 音に釣られるように、ヘルメットを被った猫が手札から飛び出してきた。

 

 

「【レスキューキャット】さんの効果。フィールドのこのカードを墓地へ送ることで、デッキからレベル3以下の獣族モンスター2体を効果を無効にして特殊召喚します」

 

 

【森の聖獣ヴァレリフォーン】ATK/400 DEF/900

【森の聖獣カラントーサ】ATK/200 DEF/1,400

 

 

『ゲッ!』

 

 

 何やら機械音が聞こえたが、遊作は意識を反らしている暇はない。

 デュエル部でも何度か見たモンスターたちのため、遊作も効果は把握している……が、生憎効果は無効になっている。今は直接的な影響はない。

 

 

「効果は無効になっているからカラントーサの効果は使えない」

 

「承知の上ですわ〜。

 ────── わたくしは今特殊召喚しましたレベル2モンスターのお二人でオーバーレイ!」

 

 

 結は己の細腕を前に伸ばして交差させると、デュエルディスクから閃光が迸る。上空に掲げると四本に別れ、やがてそれは「X」を象った扉へと姿を変えた。

 これこそ、彼女が得意とする召喚法──────エクシーズ召喚であった。

 

 

「エクシーズ召喚。ランク2、【森のメルフィーズ】さん!」

 

 

森のメルフィーズ

地属性 ランク2 ATK/500 DEF/2,000

【獣族/エクシーズ/効果】

レベル2モンスター×2

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

デッキから「メルフィー」カード1枚を手札に加える。

(2):このカード以外の自分フィールドの表側表示の「メルフィー」モンスターが自分の手札に戻った場合、

相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターはフィールドに表側表示で存在する限り、攻撃できず、効果は無効化される。

 

 

 とうとう出てきた彼女の象徴たるテーマの存在。

 うさぎとねこと犬、パンダなど森のおともだちが勢揃いし、辺りには蛍のように光球が2つ宙を浮かぶ。

 

 そのうち、ひとつの光球が結の手元まで近づいてくる。

 彼女が手を伸ばした途端に光が霧散し、1枚のカードが手中に現れていた。

 

 

「メルフィーズさんの効果。オーバーレイユニットをひとつ取り除くことで、デッキから【メルフィー】と記されたカードを1枚手札に加えます。わたくしは【メルフィー・ワラビィ】さんを手札に加えますわ」

 

 

 仲間を呼んだが、これは次のターンの布石。

 当然、まだ展開は終わることはない。

 

 

「お願いします。わたくしの未来回路! 

 わたくしは更にフェリジットさんとメルフィーズの皆さんでリンクマーカーにセット! リンク2、メルフィー・【クロシープ】さんをリンク召喚!」

 

 

クロシープ

地属性 リンク2 ATK/700

◀︎
◀︎

◀︎
▶︎

◀︎
◀︎

【獣族/リンク/効果】

カード名が異なるモンスター2体

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このカードのリンク先のモンスターの種類によって以下の効果を適用する。

●儀式:自分はデッキから2枚ドローし、その後手札を2枚選んで捨てる。

●融合:自分の墓地からレベル4以下のモンスター1体を選んで特殊召喚する。

●S:自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力は700アップする。

●X:相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力は700ダウンする。

 

 

 

「リンクマーカーを増やしに来たか……」

 

「それだけではございません。フェリジットさんの効果が発動。墓地に送られた時、デッキから1枚ドローした後、手札を1枚選んでデッキの一番下に戻しますわ〜」

 

 

 エクストラデッキのモンスターは、専用のゾーンか、それともリンクモンスターのリンク先にしか召喚できない。

 このルールで縛られている以上、融合やシンクロ、エクシーズ主体のデッキは同時並行してリンクモンスターも増やさねばならなくなる。

 結もそれは例外ではない……が、制約を制約のまま終わらせないのも決闘者としての腕が試されるわけだ。

 

 

「わたくしはまだ通常召喚を行っていませんので、さらに【レスキューラビット】さんを召喚します。効果により、自身を除外することでデッキからレベル4以下の同名の通常モンスターを2体特殊召喚します。いらっしゃい、【メルフィー・ラビィ】さ〜ん!」

 

 

【メルフィー・ラビィ】ATK/0 DEF/2,100

【メルフィー・ラビィ】ATK/0 DEF/2,100

 

 

『でたな諸悪の根源め』

 

 

 ピンク色のうさぎが二羽、フィールドに現れるとアーゼウスが悪態をつく。

 機械ゆえ平坦な声で感情が読み取れないものの、色々と人間臭い彼(?)のことだから本当に嫌いなのだろう。

 

 

「どういうことですか?」

 

『何、あれが主を連れて行こうと発案したからだ。守備力だけが一丁前の通常モンスター風情が……』

 

「傍から見たら貴方の方が悪者だけどね……」

 

 

 葵の指摘を聞かなかったことにしたアーゼウスは眼を光らせて小動物を威嚇する。対するラビィも、後ろ足を勢い良く地面に叩きつけていた。

 悲しいかな。同じく主の身を案じる者同士のはずなのに、この二人の間の溝は考えるよりも深いらしい。

 

 

「わたくしは【メルフィー・ラビィ】さんお二人でオーバーレイネットワークを構築! ランク2、【わくわくメルフィーズ】さんをエクシーズ召喚!」

 

 

わくわくメルフィーズ

地属性 ランク2 ATK/2,000 DEF/500

【獣族/エクシーズ/効果】

獣族レベル2モンスター2以上

このカード名の(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このターン、自分の「メルフィー」モンスターは直接攻撃できる。

(2):相手ターンに、自分フィールドの獣族Xモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを持ち主のEXデッキに戻す。

その後、そのモンスターが持っていたX素材の数まで、

自分の墓地からレベル2以下の獣族モンスターを選んで特殊召喚できる。

 

 

 再びメルフィーのおともだちが集まる。

 ラビィを始めたお馴染みの面々だったが、先ほどよりも数が多く、各々が好物の果物を手にしている。まるで遠足に来たかのような、わいわいと賑やかな様子につい毒気が抜かれてしまう。

 

 

「でたわね……結のエースが」

 

『エースは本機(わたし)だぞ?』

 

「やっぱりお前張り合うのな……」

 

「あ、島くん。生き返ったんだ」

 

 

 色々と現実を叩きつけられていた島だが、なんとか持ち直して葵は少しホッとしていた。

 スペクター(ゲス)アーゼウス(ロボ)に囲まれたままでの観戦は、さすがに彼女もくたびれてしまうから。

 

 盤面を見渡すと、互いにエースが出揃った状態だ。

 決闘は始まったばかりなのにもかかわらず、結のエンジンはフルスロットルで進んでいる。

 

 

「これでアイツの展開も一通り終わった……」

 

「速攻魔法、【メルフィーとおいかけっこ】を発動しますわ。墓地から【メルフィー・ポニィ】さんを特殊召喚いたします〜」

 

「まだ続くのかよ!?」

 

「わたくしはレベル2のポニィさんに、レベル2の【魔轟神獣(メルフィー・)ケルベラル】さんをチューニング!」

 

「エクシーズ召喚に続いてシンクロ召喚まで……」

 

「藤木くんと違って、出し惜しみはなし、ですわ〜」

 

 

 言い方に角があるものの、遊作は反応せず流す。

 ここで動じるのは己の勘を信じていない者だ。そういう輩の末路はハノイの騎士の下っ端で散々見てきた以上、動じることは断じてない。

 遊作は毅然と相手に向かい合うことに集中する。

 

 

「シンクロ召喚! レベル4、魔轟神獣(メルフィー・)ユニコール】さんですわ〜」

 

 

魔轟神獣ユニコール

光属性 レベル4 ATK/2,300 DEF/1,000

【獣族/シンクロ/効果】

「魔轟神」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがフィールド上に表側表示で存在し、お互いの手札が同じ枚数である限り、相手が発動した魔法・罠・効果モンスターの効果は無効化され破壊される。

 

 

 今度は、白い一角獣が嘶きながら駆けてきた。

 遊作は動じないものの、周りからすれば着々と厄介な盤面が出来上がってしまっているように見えるものだ。

 

 

「ここはお嬢様のテリトリーです。精霊たちも全力でお嬢様に応えることできるのでしょうが……まさかここまで回るとは」

 

 

 スペクターも、引きがいい時に希に見る盤面に冷や汗をかいていた。

 【わくわくメルフィーズ】は、相手ターンにデッキに戻り、墓地から獣族を召喚する効果を持つ。これにより、何度でもカラントーサなど特殊な獣族を使い回しすることができる。

 【魔轟神獣ユニコール】は、手札が互いに同じ限り、どのようなカード効果でも問答無用に無効にして破壊する。

 

 強力な制圧効果を持つモンスターが2体並んだわけだ。スペクターの知る一流の決闘者でも崩すのはとてつもなく骨が折れることだろう。

 

 

「けど、攻撃力は【デコード・トーカー】の方がまだ上。メルフィーズの直接攻撃さえ凌げば……」

 

「ここでメルフィー・【クロシープ】さんの効果を発動しますわ〜。リンク先にシンクロ・エクシーズモンスター双方がいるので、藤木くんのモンスター全ての攻撃力は700ダウン、わたくしのモンスター全ての攻撃力は700アップいたします〜」

 

 

 弱点とも言える打点の低さもカバーされた。

 考えうる最悪に近い状況に陥った遊作は攻撃に備え、腰を落として身構える。

 

 

「その効果にチェーンして速攻魔法発動! 【セキュリティ・ブロック】! 

【デコード・トーカー】を対象として発動! このターン、そのモンスターは戦闘では破壊されず、お互いが受ける全ての戦闘ダメージは0になる!」

 

 

 そのカードはかつてブルーエンジェルとの決闘で使用したカード。タイミングとしては結と手札が同じになる前の今しかなかった。

 

 

「ふむ、では続いてメルフィー・【クロシープ】さんの効果が適用されますわ〜」

 

 

【クロシープ】ATK/700→1,400

【魔轟神獣ユニコール】ATK/2,300→3,000

【わくわくメルフィーズ】ATK/2,000→2,700

 

【デコード・トーカー】ATK/2,300→1,600

 

 

「よかった……これでライフが削りきられる心配はなくなったのね」

 

「むぅ、これではバトルしても無駄ですわね。カードを1枚伏せてエンドフェイズに入ります。手札の【メルフィー・ワラビィ】さんは効果で特殊召喚いたします。これでわたくしはターンエンドです」

 

「なんとか【デコード・トーカー】も守った上でターンを凌いだなァ。しゃあ、ここから反撃だ!」

 

「……いえ、本当に怖いのはここからです」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 この時点で遊作がドローしたことで手札は3枚。

 結はカンガルーのような風貌の【メルフィー・ワラビィ】を召喚し、1枚のみとなっている。

 前ターンは様子見に徹した遊作であったが、あまり悠長なことはしていられなくなってしまった。

 

 

「自分フィールド上にサイバース族がいる時、手札の【バックアップ・セクレタリー】は特殊召喚できる!」

 

「この瞬間、【メルフィー・ワラビィ】さんの効果発動。そしてチェーンし、【わくわくメルフィーズ】さんの効果を発動します」

 

 

 CHAIN2:【わくわくメルフィーズ】

 

 

「このカードを手札に戻すことで、オーバーレイユニットの数だけ墓地からレベル2以下の獣族モンスターを特殊召喚します。

【わくわくメルフィーズ】さんのオーバーレイユニットは2つ……よって、わたくしは【メルフィー・ポニィ】さんと【森の聖獣(メルフィー・)カラントーサ】さんを召喚いたします」

 

 

 CHAIN1:【メルフィー・ワラビィ】

 

 

「そして、ワラビィさんを手札に戻し、デッキから自身以外の【メルフィー】モンスターを2体特殊召喚します」

 

 

【メルフィー・パピィ】ATK/300 DEF/100

 

【メルフィー・キャシィ】ATK/200 DEF/200

 

 

「ここで墓地から特殊召喚された【森の聖獣(メルフィー・)カラントーサ】さんの効果が発動。相手フィールドのカードを1枚対象にとって破壊します。

 わたくしは【デコード・トーカー】を対象に破壊します」

 

「くっ」

 

「ああっ、せっかく守った【デコード・トーカー】が……」

 

「しかも手札が同じにされてしまいました。これでユニコールの永続効果が起動してしまいます」

 

 

 スペクターの言うとおり、遊作の手札と結の手札は同じ2枚となっていた。途端に、ユニコールの赤眼がキラリと光り始める。

 手札が同じであれば、デッキからでも墓地からでも、そしてスペルスピードが最も早いカウンター罠でも問答無用に無効にするのがこのモンスター。

 

 手札を減らすために召喚を行えば、それを引き金にメルフィーの効果が発動し、手札に戻りながら妨害やサーチを行える。

 相手の動きを見ながら手札の調整が可能かつ、同時並行して別の妨害を放つことができる。

 

 ……遊作は考える。

 この状況を打破するためには、手札調整に意識を割しながらも、一刻も早くユニコールを無力化することが最優先だ。

 

 

「現れろ──────未来を導くサーキット!」

 

 

 情報アドバンテージの差というものは大きい。

 デュエル部で一度見たおかげで、彼の中では突破方法が導き出されていた。

 

 

「召喚条件は効果モンスター2体以上! 俺はフィールドの【バックアップ・セクレタリー】、そして手札の【マイクロ・コーダー】と【コード・ラジエーター】をリンクマーカーにセット!」

 

「手札からリンク召喚の素材を!?」

 

「おい、これ無効にならないのか!?」

 

「【マイクロ・コーダー】と【コード・ラジエーター】は「コード・トーカー」モンスターをリンク召喚する場合、手札からリンク素材にすることができる。

 これは、チェーンブロックを作らない効果(・・・・・・・・・・・・・・・)──────ユニコールでも無効化することはできない!」

 

 

 条件さえ揃えば魔法、罠、モンスター効果も無効にするユニコールも、無効にするのは“発動(・・)”である。

 【沼地の魔神王】など素材代替効果は“発動”という概念がない(・・・・・)。強力な制圧効果にも必ず穴というものが存在するのだ。

 

 

「リンク3、【トランスコード・トーカー】をリンク召喚!」

 

 

 

トランスコード・トーカー

地属性 リンク3 ATK/2,300

◀︎
◀︎

◀︎
▶︎

◀︎
◀︎

【サイバース族/リンク/効果】

効果モンスター2体以上

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが相互リンク状態の場合、このカード及びこのカードの相互リンク先のモンスターの攻撃力は500アップし、相手の効果の対象にならない

(2):「トランスコード・トーカー」以外の自分の墓地のリンク3以下のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分はサイバース族モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

 

 

 重量のある鎧を纏う橙色の戦士が降り立つ。

 数ある「コード・トーカー」モンスターでも蘇生と耐性を与えるこのモンスターこそ、この状況の突破口になり得る。

 

 

「【サイバネット・コーデック】の効果を発動! さらに墓地の【マイクロ・コーダー】と【コード・ラジエーター】の効果を続けて発動!」

 

 

 さらに、素材としたモンスターたちは、リンク召喚した後こそ真価を発揮する。

【マイクロ・コーダー】は素材にされることで、デッキから【サイバネット】と名のついた魔法・罠カードを手札に加えるサーチ効果がある。

 そして、【コード・ラジエーター】は──────

 

 

「このカードがリンク素材にされた場合、相手フィールドのモンスター1体の攻撃力を0にし、効果を無効化する(・・・・・・・・)! 俺が選ぶのは【魔轟神獣ユニコール】!」

 

「お嬢様の手札は2枚。彼の手札は0枚。これではユニコールの効果は使えません。制圧を掻い潜ると同時に手札まで調整をするとは……」

 

 

 遊作が注目したのは“手札から”素材にするという点だ。

 いくらエースを召喚しても、【メルフィー】たちの効果で手札の帳尻を合わせられ、制圧を再起動させられては元の木阿弥。

 しかし、元より【メルフィー】の効果は手札とフィールドのモンスターを増やしてアドバンテージを稼ぐもの。増やすことはできても、逆に減らすためには別のカードを使わなければならない。故に、結の手札の数を下回る立ち回りをすれば比較的安全に立ち回れるのだ。

 

 ……残る懸念は、前ターンに結が伏せたカードであるが。

 

 

「っ、相手ターンにフィールド上にモンスターが召喚された時、【メルフィー・パピィ】さん、【メルフィー・キャシィ】さん、【メルフィー・ポニィ】さんの順に効果を発動します〜」

 

 

 CHAIN6:【メルフィー・ポニィ】

 

 

「ポニィさんが手札に戻ることで、自分の墓地からこのカード以外のレベル2以下の獣族モンスター1体を選んで手札に加える事ができます。わたくしは墓地から【森の聖獣ヴァレリフォーン】さんを手札に加えますわ〜」

 

 

 CHAIN5:【メルフィー・キャシィ】

 

 

「キャシィさんを手札に戻し、デッキから獣族モンスター1体、【ホップ・イヤー飛行隊】さんを手札に加えます〜」

 

 

 手札を増やす事にシフトした以上、あの伏せカードはハンデスするような効果はないものだったのだろう。これで第一関門は突破したも同然だ。

 

 

 CHAIN4:【メルフィー・パピィ】

 

 

「そして、パピィさんを手札に戻して、デッキからレベル2以下の獣族モンスターを特殊召喚します。わたくしはふたりめの【森の聖獣(メルフィー・)カラントーサ】さんを特殊召喚しますわ」

 

 

 CHAIN3:【コード・ラジエーター】

 

 

「【コード・ラジエーター】の効果が適用され、お前のユニコールは効果が無効になり、攻撃力は0となる!」

 

 

【魔轟神獣ユニコール】ATK/3,000→0

 

 

「よし! これで心置きなく効果も魔法も使える!」

 

 

 CHAIN2:【マイクロ・コーダー】

 CHAIN1:【サイバネット・コーデック】

 

 

「【マイクロ・コーダー】の効果によって、デッキから【サイバネット・オプティマイズ】を手札に、

 そして、【サイバネット・コーデック】の効果によって、【コード・ジェネレーター】を手札に加える」

 

「逆順処理が終わった後、【森の聖獣(メルフィー・)カラントーサ】さんの効果が発動。わたくしはフィールド上の【サイバネット・コーデック】を選択して破壊いたしますわ〜」

 

「くっ」

 

 

 展開の要がとうとう破壊されてしまった。

 だが、充分に役目を果たしてくれた。これで遊作のデッキは止まらない。

 

 結もそれを察してか、次なる妨害の手札を切った。

 

 

「カラントーサさんの効果にチェーンして、先ほど手札に加えた【ホップ・イヤー飛行隊】の効果も発動いたしますわ〜

 自分フィールドのカラントーサさん対象として発動します。このカードを手札から特殊召喚して、そのモンスターとこのカードのみを素材としてシンクロ召喚できますの〜」

 

「相手ターンにシンクロ召喚!?」

 

「レベル2の【森の聖獣(メルフィー・)カラントーサ】さんにレベル2の【ホップ・イヤー飛行隊】さんをチューニング〜! シンクロ召喚! レベル4【虹光の宣告者(メルフィー・デクレアラー)】さん!」

 

 

虹光の宣告者(アーク・デクレアラー)】ATK/600 DEF/1,000

 

 

 虹色の羽と共に、小さな天使が舞い降りる。

 

 

「ユニコールを突破してもまだ動くのね……」

 

「ええ、お嬢様の強みはこの妨害戦術の豊富さにあります。相手ターンでもお構いなしに動いては破壊と無効の効果を押し付ける。この状況を掻い潜って突破するのは至難の技でしょう」

 

 

 前述のとおり、遊作が得意とするのはサイバース族特有の爆発的な展開力。

 対する結が得意とするのは、相手のターンでも二重、三重の破壊と無効を尽く押し付ける妨害力。

 一進一退の攻防が続く、互いに油断のできない戦いの空気は周囲にも緊張を及ぼしていた。

 

 

 

「ちょっと私の台詞取らないでくれる? 思考読まれているみたいで鳥肌立つんだけど」

 

「は?」

 

「は?」

 

「怖っ……なんでギャラリーの方が殺伐としてるんだよ」

 

『全くだ。まともなのは我々だけのようだな』

 

「お前もカラントーサ出てきたからって消えようとすんな」

 

 

 補足。別の意味でも緊張していた。

 一番動じていたはずの島が最も冷静になっているあたり、この場が如何に混沌としているのか察することができるに違いない。

 

 

メルフィー・【クロシープ】さんのリンク先にモンスターが召喚された時に効果を発動。再びわたくしのフィールド上のモンスターの攻撃力がアップします」

 

 

【クロシープ】ATK/1,400→2,100

【魔轟神獣ユニコール】ATK/0→700

【森の聖獣カラントーサ】ATK/700→1,400

虹光の宣告者(アーク・デクレアラー)】ATK/600→1,300

 

 

「【トランスコード・トーカー】の効果! このカード以外の自分の墓地のリンク3以下のサイバース族リンクモンスター1体を、このカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する!」

 

「では、ここで【虹光の宣告者(メルフィー・デクレアラー)】さんの効果を発動します。このカードをリリースすることでモンスター効果の発動を無効にして破壊いたしますわ〜」

 

 

 再び飛んでくる妨害の一手。

 最後まで展開させた後では手遅れになると判断したためか、結は躊躇いなく妨害の手を切る。

 無論、遊作もユニコールを突破した後の布石は用意していた。

 

 

「罠発動! 【サイバネット・コンフリクト】! 

 自分フィールドに「コード・トーカー」モンスターが存在し、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし除外する!」

 

「藤木も負けてねぇ!」

 

「【トランスコード・トーカー】の効果は適用される。墓地から甦れ、【スプラッシュ・メイジ】! 

 さらに【スプラッシュ・メイジ】の効果で、墓地から【バックアップ・セクレタリー】を特殊召喚!」

 

 

 今までの鬱憤を晴らすかのように、遊作のフィールドから次々とモンスターが召喚される。これで4回目の特殊召喚になる。

 

 

「現れよ、未来を導くサーキット! 

 召喚条件はサイバース族モンスター2体以上。俺はリンク2の【スプラッシュ・メイジ】と【バックアップ・セクレタリー】をリンクマーカーにセット! 

 

 リンク召喚! リンク3、【エクスコード・トーカー】!」

 

 

エクスコード・トーカー

風属性 リンク3 ATK/2,300

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◀︎

◀︎
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◀︎
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【サイバース族/リンク/効果】

効果モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがリンク召喚に成功した時、EXモンスターゾーンのモンスターの数だけ、使用していないメインモンスターゾーンを指定して発動できる。指定したゾーンはこのモンスターが表側表示で存在する間は使用できない。

(2):このカードのリンク先のモンスターは、攻撃力が500アップし、効果では破壊されない。

 

 

 そして、5体目(・・・)に現れたのは両腕に取り付けられた剣を構える緑色の戦士。大量展開を得意とするデッキに対する抑止となり得る存在だ。

 

 

「【エクスコード・トーカー】の効果! リンク召喚成功時、EXモンスターゾーンのモンスターの数だけ、使用していないメインモンスターゾーンを選択して封鎖する! 

 俺は、【トランスコード・トーカー】と【クロシープ】のリンク先をそれぞれ選択する!」

 

「…………」

 

「さらにエクスコードはリンク先のモンスターの攻撃力を500アップさせ、効果で破壊されなくする。

 そして、【トランスコード・トーカー】のリンク先に召喚したことで、相互リンクが発生。双方とも相手の効果の対象にならず、攻撃力を500アップする」

 

 

【トランスコード・トーカー】ATK/2,300→3,300

【エクスコード・トーカー】ATK/2,300→2,800

 

 

「これで藤木くんのモンスターはカラントーサでも破壊できなくなったわ!」

 

「永続魔法、【サイバネット・オプティマイズ】を発動。こちらの「コード・トーカー」モンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスターの効果を発動できなくなる」

 

「罠対策も万全だな! まあ、さすがにワンショットってわけにもいかねぇけど、これで大分リードできるぜ! よし行け藤木ー! できるだけ優しく攻撃してやれよー!」

 

 

 島から余裕そうな声援を送られるが、遊作の表情は晴れない。最初のターンで感じていた不吉な予感は未だ拭えないからだ。それは5体目の特殊召喚(・・・・・・・・)で、【エクスコード・トーカー】を召喚した時から一層強くなった。

 

 

「…………」

 

 

 結の表情は変わりない。にこにこと笑ってこちらの様子を伺うだけだ。悟られないように取り繕っているのか。それとも何か他に手があるのか。

 

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。

 このチャンスを逃すわけにはいかないと遊作は打って出なければならない。

 そのための通常召喚権を残した上での【トランスコード・トーカー】と【エクスコード・トーカー】だ。

 互いに耐性を付与できるこのモンスターたちなら、たとえ罠カードなどで除去されても、いずれか一体は残ってくれると踏んだ。

 

 さあ、反撃の時だ──────! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……結は考える。

 著しく打点が下がってしまった結のモンスターたちでは大きくライフを削られてしまうことは必至。

 

 それはまだいい。許容範囲内だ。

 もっと悪いのは、新たに召喚するリンクモンスターに、結のユニコールと同様に効果を無効にするモンスターで固められること。それをやられてしまっては、今後の展開に響く。【メルフィー】は妨害するのは得意でも、されるのは得意ではないのだから。

 

 召喚権が残ったままという点が引っかかるが、彼は果たしてこのまま攻撃してくるつもりだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 であれば──────タイミングとしてはここで切るしかあるまい(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バト──────」

 

「ここです。手札から原始生命態(メルフィー・)ニビル】の効果を発動します」

 

「!?」

 

 

 雲は裂け、空が割れた。

 陽の光も遮られ、大きな影が森を覆う。

 顔を上げれば、上空から山と見間違うような岩が迫ってきていた。

 

 

「このカードは相手が5体以上のモンスターの召喚・特殊召喚に成功したターンのメインフェイズに発動できます。自分と相手フィールドの表側表示モンスターを全てリリース(・・・・・・)し、このカードを手札から特殊召喚します」

 

「──────っ」

 

 

 遊作はようやく合点がいった。

 初めのターンに感じた不吉な予感はこれだったのだ、と。

 

 破壊ではなく、リリース(・・・・)

 しかも対象を取らず、表側表示モンスター全て(・・)という括られ方をしている以上、遊作が用意した耐性など意味をなさなくなる。

 

 生命が持つ根源的な恐怖が足を竦ませる。

 これこそは太古の時代、人よりも巨大な存在を絶滅に追い込んだ隕石そのもの。繁栄を許さぬそれは、この森の惨状に憤るようにフルフルと震えていた。

 

 

「うおおおおおおお!!!! 死ぬ!! 死ぬうううう!!!」

 

 

 再びパニックに陥る島。

 同じく結のフィールドのモンスターも、目が飛び出でそうになるほど驚いて慌てふためいている。

 己の主を見れば、にこやかに笑顔を返すだけ。

 視線だけで何を意味しているのか残酷なまでに事実を理解してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────もう助からないゾ♡ と。

 

 

 

「皆さん、念の為【聖天樹の大母神】を展開します! 私の後ろに下がってください!」

 

「あ、ああ!」

 

「っ」

 

『すまない。もう少し詰めてもらえないだろうか。このままだと本機(わたし)もリリースされてしまう』

 

「お前もうエースやめちまえ!」

 

 

 こうしてニビルは宙から到来する。

 この日──────森は炎に包まれた。

 





 ピキーン!(プルプル)
 


 まずは一回燃やします。

 申し訳ないですがリアルが多忙なため更新が遅れます。【7/29追記】

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