「というわけで、こいつの実力は見させてもらった。従者達への紹介はまた後日にする。執事の仕事に関しては〜...ま、なんとかなるだろ」
実に適当な締め方をする帝を尻目にバンシィは目の前にいる他の者達に目を向けた。
九鬼揚羽との試合後、帝に手招きされバンシィは彼の横に立ち帝の言葉を聞いていた。ちなみに先程の試合で全闘気を使い切った揚羽は未だにバンシィの腕の中にいた。帝曰く、どうせ立てないならそのままでいいだろ、とのことだ。母や兄弟、従者達に示しがつかないと彼女は言っていたが帝は無視、ならもうそのままで良いかとバンシィも流されるまま揚羽を抱きかかえていた。彼女の顔は見えない。というより見たら殴られそうなので見ない。きっと、さっきみたいに顔を赤く染めているに違いないから。
「これからよろしくな、バンシィ・ノルン」
「はい、帝様」
「おう...そんじゃ、解散」
と、あっさりと締めの言葉は終わり全員に解散と言い渡した帝。ぞろぞろと全員が屋上を後にする。そんな中で口々に先程の試合を見た感想を話し合っている声が聞こえて来るが、一番盛り上がっているのが帝であったのはバンシィの耳にもよく届いたからだった。
「我らも戻るぞ。しっかりと我の部屋まで送ってくれ...できれば誰にも見つからないようにな」
「わかりま...」
「揚羽様ァァ〜〜〜!!!」
揚羽がバンシィに命令?というよりもお願いをしてきたのでそれに返事をしようとしたバンシィだったが、唐突に彼女の名を叫ぶ声が近づいてきた。
そして執事服を着た若い男が屋上に乗り込んできた。その男が現れるや否や、揚羽はバンシィの腕の中から降り立ちいつも通りの様子で堂々とその男を迎えた。
(なんだ、立てれるじゃないですか...)
「揚羽様!ご無事ですか!?」
「相変わらずそそっかしい奴だな小十郎は。我なら見ての通りピンピンしておる。お前に心配される覚えはない」
「それは何よりです!」
このやたらと元気一杯な男は九鬼揚羽の専属執事であり、名を“武田小十郎”。
彼とは初対面のバンシィだが、一目見て彼の心根が実に清々しいことを感じ取り今後とも仲良くしたい相手の一人として覚えた。そう、まるで出来の悪い弟を想う兄のように。
「ちょうどいい、後々紹介されるだろうが先に済ませておこう。この男が紋が連れてきた元軍人のバンシィ・ノルンだ。仲良くしてやれ」
「はい!私の名前は武田小十郎。よろしく、バンシィ君」
「バンシィ・ノルン。バンシィで構わない、よろしく頼みます先輩」
「先輩はよしてくれ。私もまだまだ未熟な身、小十郎で構わない」
「わかったよ、小十郎」
バンシィと小十郎は堅い握手を交わした。
「ところで小十郎。お前、我が頼んでいた資料の制作はどうなった?」
「は!こちらに」
すると小十郎は懐に忍ばせていた紙の束を取り出し、揚羽に渡した。
「うむ。お前にしては仕事が早いではないか。関心したぞ、後程褒美の金平糖をやろう」
「あ、ありがとうございます!...ところで揚羽様、私からも一つ聞いてもいいでしょうか?」
「うむ、なんだ?申してみよ」
「先程帝様から揚羽様が立っていられないほど消耗しているからきっと彼に抱えられて降りてくるぞ?面白いものが見れるぞ?と聞いていたのですが大丈夫なんですか?」
「貴様は我の恥態が見たくてここに駆けつけたのか!我の意地を察しろ、馬鹿者がぁーー!!」
「ぐはぁっ!申し訳ありません!!揚羽様ァァーーー!!」
小十郎は揚羽のアッパーカットで天高く打ち上げられた。
帝様はなんてこと言うんだ、と内心バンシィは呆れていた。せっかく揚羽が小十郎の前で情けない姿を見せないようにと意地を張っていたのに。
「思いのほか大丈夫そうですね。さっきまであんなに消耗していたのに」
「小十郎と父上に対する怒りで勝手に力が湧いてきただけだ。我もこれで失礼する」
揚羽は溜息混じりでそんなことを口にした。普通はそれでも立ってられないと思うのだが、とバンシィは心の中で思うだけにとどめた。そしてタイミングよく降ってきた小十郎を揚羽が引きずりながら屋上を後にした。
取り残されたバンシィも少しだけ夜風に当たってから屋上を後にし、こうして屋上での一件は幕を閉じた。
ーーーーーーーーーー
自分の部屋に戻ったバンシィだったが、部屋に訪ねてきたあずみと李の三人で出かけることになった。あずみ曰く、お前とは積もる話もあるから酒でも飲みながら話そうや、と言うことらしい。あとステイシーを迎えにいくという口実も含めて。
ちなみにあずみは先程までのキャピキャピした口調ではない。以前のようにさばさばした感じで話しているのだが、やはり先程バンシィがあずみの年齢に対して色々思ったことは覚えていたらしく部屋を訪ねてきて早々に「よお、覚えてるよなコラ?あァン?」とドスの効いた声と顔でバンシィに詰め寄り一発叩かれた。それでチャラにするということなのでバンシィは甘んじて受けた。
そんなこともあって、バンシィは二人がよく通っているバーにやってきた。
店内に入ってすぐ目についたのはステイシーがカウンターで眠りこけている姿だった。
「あ〜あ、やっぱり寝てやがった」
「まったく。ステイシー起きてください。バンシィが来ましたよ?」
「あぁん?バンシィ...?ッ!!アル、てめぇ!」
「バンシィだ」
「うるせぇ!お前なんてアルで十分だ!ここ座れ!ここ!」
ステイシーが指刺したのは隣の席だった。バンシィはステイシーに促されるままその席に座った。それを見てあずみと李も二人の隣の席に腰掛けた。
「な、なんだよ...ちけぇな...」
「いや、お前がここに座れって言ったんだろ?」
「うるせぇ!てめぇなんざ一杯でノックアウトにしてやるぜ!マスター!この店で一番強い酒二つ持ってこい!」
「おいおい、とんだ絡み酒だなこりゃあ。とりあえずあたいは黒糖焼酎ロックで。あとナッツとプロシュート、それからオリーブマリネも頼む」
「私はキールロワイヤルを」
「かしこまりました。お客様もよろしいのですか?」
「心」と書かれた眼帯をした隻眼のバーテンダーがバンシィに尋ねてきた。
「ええ、最初の一杯くらいはこいつに付き合います」
「かしこまりました」
バーテンダーは早速注文されたお酒と肴の準備に取り掛かった。
「にしても、まさかお前まで九鬼に来ちまうとはな〜」
あずみが感慨深そうにバンシィに向けてそう言った。
「あずみとバンシィはどんな出会いだったのです?」
「あたいとこいつが敵同士だった時にぶつかったのが最初かな?そのあと色々あってあたいのいた部隊に転がり込んだり、また敵になったりの繰り返しよ」
「基本的に敵同士だったな。まあ共闘することもあったが」
「それほど深い関係というわけではないんですね」
「まあ、ある意味因縁浅からぬ間柄って感じだな。深い関係って言うならやっぱりステイシーだろ」
「ギクッ」
突然話を振られたステイシーが肩を震わせた。そのタイミングでバーテンダーが酒と肴をカウンターに置いたので、バンシィは目の前に置かれたアルコール臭がすごい酒をひと口飲んだ。
「あずみはバンシィとステイシーの間に何があったのか知っているのですか?」
「ああ、あれだろ?こいつとステイシーが
「寝た?添い寝ですか?」
「いや男女の意味でた」
「ぎゃああぁぁッ!!」
呆気なくあずみに暴露されて悶え苦しむステイシーは感情に任せて頭を掻きむしっていた。それ以上掻いたら血が出そうな勢いだ。
あずみの言葉を聞いて李は「あ〜」とどこか納得したような声を漏らした。バンシィはとりあえず口を挟まないことにした。
「なんだよステイシー、その様子だと李に喋ってなかったな?」
「言えるわけないだろ!この私がこ、こんな奴とファックしたなんて!」
「ステイシー、言葉が下品ですよ?」
「ウルセェ!傷心してたとはいえ、あんな...あんな...ッ〜〜!!」
当時の記憶が蘇ったのかステイシーは恥ずかしそうに耳まで真っ赤にしてその顔を両手で隠した。顔の赤みは酒で酔ったものとは違うと彼女自身自覚があったのだろう。
「あのステイシーがここまで取り乱すなんて...ですが納得です。その手の話になるとステイシーは妙に話を逸らそうとしてましたし。ですが、傷心とステイシーが言ってますが一夜限りのことなんですか?」
李がとうとうバンシィに話を振ってきた。まじまじとバンシィを見つめてくる李の目がちょっと怖いと思ったバンシィは、観念して話し出した。
「...一夜限りだ。別に恋人同士だったというわけではない。李も知ってると思うがステイシーには
「ええ、知ってます。それが?」
「あの時のステイシーは半分鬱状態でな。元に戻そうとしたら、やけになったこいつが俺を襲ってきて勢いで俺も手を出したって感じだ。そのあと散々ステイシーに追い回されて、戦場でバッタリ顔を合わす度に脅迫してくるしでそれはもう大変だった」
「つまり合意の元でしたんですね?」
「当たり前だろ。俺に女を強姦する趣味はない」
「なら良かったです。ですが合意の元なら何をステイシーはそんなに悶えてるんですか?」
「恥ずかしいんだろ?ったく、乙女だなぁ〜オイ」
「だぁーー!!もう!」
今なお悶えているステイシーをあずみがからかっていた。するとステイシーはやけになって注文していたアルコール度数の高い酒を一気に飲み干した。
「こんなウジウジしてる私なんざ私じゃねぇ!ロックじゃねぇ!おい、アル!」
「だからバンシィだって」
「どっちでもいいっつーの!今夜はとことん飲むぞ!そして酔い潰れて記憶を置いてけ!」
「無茶言うなよ...」
「無茶じゃねぇ!マスター、これあともうニ杯!あとピッチャーでビール二つ!」
「大丈夫かよステイシー?いくら明日休みだからって飲み過ぎだぞ?」
「そうですよ?せっかくの休みを二日酔いで棒に振ることになるかもしれませんし」
「そんなこと気にして飲んでられるか!おい、アル!まさか飲めないとは言わないだろうなぁアァン?」
「はぁ...マスター、頼む」
「かしこまりました」
本当にいいのか判断しかねていたマスターにバンシィは溜息を吐きながらお願いした。
こうなったらとことんステイシーに付き合おうと腹を括ったらしい。
「それと李!お前もアルと面識あったよなァ!なんか恥ずかしい思い出とかないのか!」
「恥ずかしい思い出限定かよ...」
「私は特に恥ずかしい事なんてありませんでしたよ?まあ私もステイシーと同じなんですが」
「ブーッ!」
「はぇ?」
「おいおい、まじかよ...」
油断していたバンシィは飲んでいた酒を盛大に吹き出した。ステイシーは頭が回っていないらしくどういう意味かわかっていない様子だが、あずみは李の言葉の意味を察し戦慄の眼差しをバンシィに向けていた。
「私も彼と寝ましたよ、男女の意味で。もちろん合意の元でですが」
「ファーーック!?李もこいつと寝たのかよ!」
「てめぇ、とんだすけこまし野郎だなぁおい。私の部下を二人も抱いてたとはいいご身分じゃねぇか。しかも抱いた女が揃って美人とか、強くなりたくば食らえ!ってか?」
完全にからかう気満々のあずみ。美味い酒に美味しいつまみ、そこに面白い話が転がり込んで来れば乗るのは当然といった様子であずみがどんどん詰め寄ってくる。
「まさか私の親友にまで手出してたとはなぁ。李、詳しく聞かせろ!」
「かまいませんよね?」
「...もう好きにしろ」
バンシィは額に手を押し当て僅かに天を仰いだ。もうなるようになれ、と諦めにも似た表情を浮かべた。
隣に座っている李がそれはもう水を得た魚のようにイキイキと語っていた。
そりゃあ年頃の男なんだから性欲はあるしそれなりに興味もあった。恋人はいなかったし別にやましいことはない。バンシィの経験相手は全員合意の上でそういうことを致したに過ぎない。
だが、いざ自分の情事を赤裸々に語られるのは心にくるものがあった。
(というか異様にあずみの食いつきがいいな?)
どこかで聞いたことがある。
“経験がないものほどそういうものに飢えている”と。
もしこれが正しければあずみはそういう経験がないのだろうか、とバンシィはチラリとあずみを見た。
「なるほどな〜、どおりで女慣れしてるわけだ。かぁ〜憎い奴だわ」
「李、お前そんなことまで...おいアルてめぇ!李にもっと感謝しろよコラ!」
案外そうでもないかも、とバンシィは思った。
別にあずみの経験値に毛程の興味はないが、食いつきがいいのはステイシーも同じだった。
最初はステイシーを慰める会みたいなものだと思って来たが状況は一変、どうせ慰めるなら俺を慰めてくれとバンシィは心の中で嘆いたのだった。
するとバーのマスターがバンシィの前にコップを一つ置いた。
「ホットヨーグルト酒です。リラックス効果のあるホットヨーグルトと日本酒を混ぜたもので今のお客様には必要だと思いまして」
マスターの心遣いに思わず涙が出そうになったバンシィ。
リラックス効果があると言うだけあって、ひと口飲んで心が安らぐ思いだった。
隣で騒ぎ立てる女性陣を尻目に今度から一人で来ようと思い至ったバンシィは、マスターの心遣いに応えるために出された酒を全部飲み干したのだった。
「お客様も大変そうですね」
「...ハハ」
まだまだ冷える川神の夜はこうして更けていった。
いかがだったでしょう?
十三話はバンシィ・ノルンはすけこまし!でした。金髪美人に色白美女との大人の関係があったなんて川神学園の男子生徒に知られたら異端審問ものですね。まあ私の中ではバンシィはそれなりにイケメンで高身長、さらに筋骨隆々のナイスガイなんでモテて当然だと思ってます。
次回ついにバンシィの仮面が完成!一週間なんてあっという間ということです。今回も意見、感想、評価、誤字脱字がありましたら是非報告よろしくお願いします。また次回お会いしましょう、では!