真剣で可能性の獣に恋しなさい!(凍結中)   作:つばめ勘九郎

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第十七話 篠突く雨の暗示

 

 とあるBARのカウンターの椅子に腰掛ける二人の男女。

 

 その一人の男の背中は酷く丸まっていた。

 

「はぁ〜〜、失敗したぁぁ〜〜」

 

「そう落ち込まずに、誰にだって失敗はあります」

 

「だがなぁ、あれはないって...」

 

 バンシィと李はいつもの九鬼本部ビルの近くにあるBARにてお酒を嗜んでいた。だがバンシィは仮面を脱ぎ、素顔の状態で自分がしてしまったことに対して項垂れていた。その有様を見れば彼がどれだけ落ち込んでいるのかよくわかる。そんな彼を励まそうと隣に座っている李が彼の大きな背中をさすっていた。

 

 バンシィが落ち込んでいる理由。それは川神学園への入学早々問題を起こしたことにある。

 

 2-F組所属のドイツからの留学生クリスティアーネ・フリードリヒの心を傷つけ彼女に涙を流させてしまい、バンシィはその己の失態を恥じていた。泣かせてしまったことも問題ではあるが、何より主人である紋白に従者の不始末として頭を下げさせてしまったことが何より問題だった。

 

 紋白はそのことを気に留める様子もなく、むしろバンシィを労ってくれたぐらいだ。それがますます彼の自責の念を強くさせ、紋白はクリスに謝罪しに行くと言い出した。このことに対してヒュームからキツイ一撃を貰ったが甘んじて受け入れたバンシィだった。

 

 その後、泣き止んだクリスは紋白とバンシィの謝罪を受け入れた。しかしバンシィを見たクリスの目は酷く怯え、同時に深い悲しみを宿していてアル・シュバルツの戦死を未だに受け入れきれていない様子だった。おそらく当分は彼女の顔を曇らせてしまうだろう。

 

 そんなことがあってバンシィ・ノルンは申し訳なさで胸を焦がしていた。

 

 彼女がドイツ軍と深い関わりを持っていることは知っていた。もちろん以前の自分とも。それをわかっていながら言葉を濁すことなくただ淡々と事実を突きつけた自分の愚かさが悔やまれるバンシィは珍しく愚痴をこぼしていた。その受け皿は偶然非番だった李が請け負ってくれたことで今の二人に至る。

 

「とりあえず明日も学園なんですから気持ちを切り替えてください」

 

「ああ...すまんな李、情けないところを見せてしまった」

 

「気にしないでください。たまにはこういうのもアリですから」

 

 涼しげな顔をして言う李だが表には見えない気遣いをバンシィに尽くしていた。背中をさりげなくさすってくれたり、これ以上バンシィが落ち込まないように気持ちの切り替えを薦めたり、仕舞いには今回の飲み代を奢ってくれたりと李の優しさがバンシィには感じ取れた。

 

「よし、落ち込むのは終いだ。まずは明日もう一度クリスに会って話してみるか」

 

「そうですね。それと今度はあなたが奢ってくださいね」

 

「ああ、勿論だ。その時は李の愚痴でも聞けると俺的には嬉しいな」

 

「九鬼の仕事は激務ですから多分いっぱいでますよ?」

 

「それは楽しみだ。後輩としてとことん付き合うさ」

 

「フフ、ならその時は遠慮なく」

 

 こうして話すだけでもバンシィは李に救われている。ならもし李が落ち込んだ時、彼女を支えて少しでも気がまぎれるように努めてみようとバンシィは思った。

 

 

  

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 時を遡りバンシィと燕の決闘が始まる直前。

 

 校舎内にいる生徒達が二人の決闘に騒ぎ立てていた頃、2-Sに所属しているマルギッテ・エーベルバッハもクラスメイトと共にその二人の決闘が始まる瞬間を目撃していた。

 

(バンシィ・ノルン...あなたが本当にアルなのかこの目で見極める)

 

 マルギッテの目がいつも以上に険しくなり、バンシィの一挙手一投足を注視していた。

 

 彼女の勘は“あれはアル本人”だと訴えてかけている。しかし見たところ左側の腕脚が義手と義足になっており、それを完全に使いこなしていた。それを執事服越しで見抜いたマルギッテは自身の勘を信じるべきか否か判断しかねていた。

 

 だが、それは一瞬で決まった。

 

 バンシィ・ノルンと松永燕の攻防を見て、彼女は自身の勘が正しかったと確信した。

 

 バンシィ・ノルンの動きが完全にアルと重なった。以前アルが軍の新人を鍛える際に見せた訓練方法。相手の限界値ギリギリまで追い込みつつ能力向上を図り、実戦に近い経験を積ませるながら訓練を受ける相手の可能性を示す教育方法。

 

 それはアル・シュバルツが軍で重宝され後輩達に慕われる理由であり才能の一つでもあった。

 

 現にバンシィと相対する燕は以前百代との転入初日に見せた決闘の時より強くなり、強くなっていく自身に高揚しているように見えた。それはまさしくアルが新人を鍛えた際にマルギッテが見た、伸び代ある新人達と同じ兆候であった。たったそれだけの要因で、彼こそがアル・シュバルツだと断定するにはあまりに浅慮だと他人なら思うだろう。しかし今まで何度もアルを見てきたマルギッテにとってはそれだけで確信を得るには充分で、何より胸の奥から湧いてくる熱がそう言ってくるのだ。

 

 そうして感じているうちにバンシィと燕の決闘が終わった。

 

 引き分けという形で幕を閉じ二人を見ていたマルギッテは、不意にちくりと胸を刺す痛みを覚えた。

 

 決闘が終わったあとのバンシィを見る燕の目はさっきまでと違って彼に好意を抱きつつあるもののように見えた。

 

 それがマルギッテにはたまらなく不愉快だった。

 

 彼の隣に立つのは自分であるはずなのに今それを成しているのは松永燕で、胸に感じた痛みは次第に怒りへと変わり、その矛先はバンシィに向かっていた。何故自分の元に帰ってこないのか、何故そんなに親しくしているのか、何故そんな姿になって川神学園(ここ)にやってきたのか、何故九鬼の従者なのだと苛つく理由はいくらでも湧いてくきた。

 

 居ても立っても居られないマルギッテは教室を飛び出した。

 

 背後から自分を呼ぶ担任やクラスメイトの声が聞こえてきたがそんなものは無視。一目散で彼の元に向かった。

 

 向かってどうする?

 

 この怒りをどうやってぶつける?

 

 そもそも彼は正体を隠している。

 

 ならその仮面を剥ぎ取って仕舞えばいい。

 

 どうやって?

 

(決まっている...力づくでだ!)

 

 階段を降りる速度と比例するようにマルギッテの脳内ではどうこの気持ちをぶつけるかを思考していた。

 

 そして下駄箱に到着したマルギッテはタイミングよくバンシィ・ノルンとその場でかち合った。

 

 自然と彼女の目が険しくなる。

 

 そして言葉よりも先に手が出てしまうマルギッテだが、案の定バンシィはそれを受け止めて見せた。

 

「......バンシィ・ノルン。貴様に決闘を申し込む」

 

 その後の記憶はあまり定かではない。

 

 ただ気づいた時には自分はバンシィ・ノルンに組み伏せられ、敬愛するクリスお嬢様が涙を流していた。

 

 その後マルギッテはクリスを保健室に連れて行き、クリスに説明を求められアルが現在どういうことになっているかをゆっくりと彼女に聞かせた。その時のクリスの酷く悲痛な面持ちはマルギッテの脳裏に焼き付き、バンシィがアルである可能性に関しては話せなかった。

 

 そして今マルギッテはその日の夜、クリスが暮らす島津寮の一室で、まるでようやく泣き止んだ幼子(おさなご)のように目を腫らし自分に寄り添いながら眠る彼女の顔を眺めていた。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか?

 

 バンシィ・ノルンが悪いのか?

 

(...違いますね...これは、私の浅はかな行動が招いた結果。申し訳ありません、お嬢様...)

 

 もしかしたら彼女に涙を流させることなく彼と話せたかもしれない。

 

 怒りに任せた結果、クリスに深い痛みを与え彼との穏便な対話の機会を潰したかもしれないとマルギッテは今一度自身の行動を恥じた。

 

(どんな時でも冷静でいなければ...軍人として、情けないことです...)

 

「...ん〜マルさん.,.アル、にいさん......なかよくしないと...だめなんだぞ....」

 

 まるでマルギッテの心の声が聞こえていたかのようなタイミングでクリスが寝言を呟いた。

 

 だがその寝言はいつもの愛くるしいものとは違い、どこか切実で心にくるものだった。寝言を呟くクリスが身を捩り、温もりを求めるようにマルギッテへとさらに寄り添う。

 

「ええ、お嬢様の言う通りです....おやすみなさい、お嬢様」

 

 そう言うとクリスは安心したような表情を浮かべより深い眠りについた。

 

 それを見届けマルギッテも目をつむった。

 

(お嬢様様のためにも私が頑張らなくては......アル)

 

 心の中で思い浮かべる愛した男の顔。

 

 きっと必ず彼は帰ってくる。

 

 そう信じる乙女の心はそう想うだけでまた奮い立つことができる。だが人生で初めて抱いた恋心から生まれる勇気は、波濤のように押し寄せる不安で今にも崩れ落ちそうだった。

 

 軍人であっても彼女は一人の女性であり人間。

 

 はたして彼女が目を閉じたのは眠気からなのか、それとも頬を流れそうになる雫を押し止めるためかは彼女以外誰もわからない。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 所変わって中国、深山幽谷。

 

 そこに恐ろしい一族がいた。

 

「当主、客人が来ている」

 

「ほお、儂等曹一族の住処を嗅ぎつけ、しかも乗り込んでくるとは、ごほっ」

 

 女性の言葉に興味を示したのは当主と呼ばれる老いた男だった。しかしその男の声は威厳ある風格とは異なり弱々しく、実際病に侵されていた。

 

「Mと名乗る()だ。それも相当な手練れと見た。腰に刀を差しているが敵意はない」

 

「刀...日本の侍か?」

 

「だろうな。格好も日本伝統衣装の着物だった」

 

「なかなか派手な女侍だな。して何用だと?」

 

 当主の問いに女は手に持っていた手紙を渡した。その手紙にはこう書かれていた。

 

 『君達が探している人材が日本の川神にいる。一人は川神学園の男子高校生である直江大和、もう一人は九鬼で仮契約にて働いている可能性の獣バンシィ・ノルン。特にバンシィ・ノルンは君達にとって得難い才を持っているのは間違いないだろう。二人の詳しい詳細については手紙を渡しに来た彼女に聞いて欲しい。ーー〈Mより〉』

 

「M?もうひとりMという者がいるのか?...まあ良い。手紙の差出人といい客人といい名乗る気は無いようだな。だがなかなかに興味の湧く話だ。史文恭、その客人連れて来い」

 

「了解だ」

 

 史文恭と呼ばれる女の異彩を放つ瞳がより一層危ない気配を漂わせた。

 

 一方、手紙を届けにきた自身をMと語る女はこちらに向かってくる先程の女武人の気配を感じとり、その気配で首尾よく事が運んだことを察しニヤリと口を歪めた。

 

「ようやく会えそうだよ、アルくん...」

 

 女は腰に携えた二本の刀に手を当て、親しみを込めてその名を呼んだ。

 

 そして、そんな事が起こっている曹一族と長きに渡り対立する組織があった。

 

 それこそ英雄達が集う傭兵組織、梁山泊。

 

 宗の時代よりその組織の名は歴史上から姿を消したとされているが、実際には現代まで存続し続けており今も世界最高峰の傭兵として活動している。

 

 そんな傭兵組織もまたMと名乗る者より手紙が届いており、それを確かめるべく川神という舞台の壇場に上がろうと選抜が行われていた。

 

「はあああぁーー!!」

 

「これなら、どうだッ!」

 

「いくら武松さんと言えど!」

 

「四人同時攻撃ならぁー!!」

 

 彼女達四人の一斉攻撃が燃えるように赤い髪の女性に牙を剥く。

 

「ぬるい」

 

 だがそれら全ての攻撃を彼女は自身の体から発した炎の嵐で巻き取り掬い上げた。そしてその炎の嵐は苛烈な猛火として彼女達四人の体をその熱量で焼き払う。

 

「「きゃあああーー!」」

 

「「うわああ〜」」」

 

 そのなものを受けてしまえば彼女もたまらず悲鳴を上げる。結果その場に最後まで立っていたのは今もまだその熱で自身の体から陽炎を揺らめかせる武松と呼ばれた女だった。

 

「これでお前達が川神の地を踏むには力不足だとわかったろう」

 

「おっ、終わったかー?ブショー」

 

「九紋龍...」

 

 武松に声をかけてきたのは棒を肩に携え、左右の髪をリング状に纏めた女性だった。九紋龍、又の名を史進。彼女の後方には死屍累々の山が築かれており、武松と同様にさっきまで戦闘が行われていた事がありありとわかる。結果は言うまでもなく史進の勝利で幕は閉じていた。

 

 天傷星と武松の名を先代より受け継いだのが人体発火現象を起こした彼女で、渾名は行者。一方、棒を携えた彼女もまた先代より天微星九紋龍史進の受け継いでいる。

 

 そんな歴史的に重みのある名を名乗る彼女だが、実に飄々とした体様の史進が武松の元に歩み寄ってきた。

 

「しっかし派手に燃やされたなお前達。四人とも生きてっか〜?」

 

「うぅ...なんとか、人選に文句を言ってすみませんでした」

 

「まあ気持ちはわかんよ。...とりあえず怪我は安道全に診てもらえ」

 

 安道全とは梁山泊における医術に長けた異能持ちのことを言う。いわゆる医者だ。

 

「そうさせて...もらいます...」

 

 武松に焼かれた四人はお互いを支え合いながらなんとか立ち上がりその場を後にした。

 

 今行われているのは選抜ではなかった。既に人選は決まっており、それに異を唱えた他の者達が大勢いた事もあって武松、史進を含むその他選抜組が実力をもって返り討ちにしていたのだ。

 

「お!リンの方も終わったみたいだな」

 

 リンとは天雄星、豹子頭の林冲のことであり愛称でリンと呼ばれている。足元にまで達しそうな程に長い黒髪を持ち、落ち着いた雰囲気を出す美しい彼女もまた選抜に選ばれた梁山泊の傭兵だ。

 

「青面獣はとっくに終えて、手当たり次第下着を狩っているぞ?」

 

 青面獣、又の名を楊志。天暗星を受け継いだ彼女はミステリアスな雰囲気で感情の起伏が薄い事も相まって、より妖艶な美しさを醸し出しているが無類のパンツ好きとしてその名を梁山泊内で轟かせていた。しかも女性限定でパンツを盗むわ奪うわの悪行三昧。本人曰く、「美少女のパンツは一万年と二千年前から愛されている。そんな価値ある物が奪われるのは当然」とのことだ。きっと彼女は前世からそんなことを繰り返していたに違いないと梁山泊内全女性が思った。

 

「あー、それは無視していい。これでやっと川神に行けるな!わっちとしてはどんな強い奴がいるのか楽しみだぜ!」

 

「任務のことは忘れてないだろうな?」

 

「もちろんだって。難易度“天”以上、最高難易度を超えるランクの任務なんだ。忘れてる方がどうかしてるって」

 

「.,公孫勝あたりは忘れてそうだな」

 

「あっ!まさるの奴、来てねぇじゃねえか!」

 

「呼んでくるか?」

 

「そうしてくれ...」

 

 武松の提案を史進は実にめんどくさそうに頷き答えた。

 

 公孫勝、又の名を天間星の入雲龍。小さな体をしたその少女もまた才能は本物だがズボラな上に引き篭もり体質であり、アニメやゲーム、漫画などをこやなく愛する自称ニートだ。

 

 そんな彼女と仲の良い武松は今もまた公孫勝の世話焼きに努めていた。

 

 とりあえずこれで川神の地に足を踏み入れる選抜メンバーは揃った。(若干集まりが悪いが...)彼女達五名もまた川神という舞台に上がる強者であり、その中心にはバンシィ・ノルンことアル・シュバルツがいる。それは今後彼を中心に事が大きく起こることを差しているのだろう。

 

 Mと名乗る二人の目的とは一体。着々と川神に集まってくる世界の猛者達はその地で何を見るのか。

 

 そんな世界の至る所で影の者達が暗躍する中、川神では今年一番の大雨が降った。

 

 不安を煽るような梅雨時の雨がバンシィの耳に届く。

 

 最後の一杯を口に含むバンシィには、その雨音が誰かの泣き声のようにも聞こえたのだった。

 

 

 




 いかがだったでしょうか?最近投稿ペースが落ちていることに焦っている私ですが、いざ書こうと思うと頭の中に浮かぶフレーズや光景をどう文字として綴ればいいのか分からず四苦八苦していた結果こうなりました。世の作家さんがどれだけ本や文字に触れているのか想像するだけで感嘆の声が漏れそうです。

 一応補足としてマルギッテの心情についてですが、彼女もまた人であり女性。どんなに気高く武力と知性に富んだ彼女でも悩み苦しむことはあります。それが初恋なら尚更ですね。今後彼女達の甘酸っぱい青春を描けたら私としては幸いです。

 あとこの作品はガンダムUC RE:0096のネタを多分に含みますが、タグでもあるようにFateネタもあります。その証拠に今後Fate ground orderで有名なあの......いえ、これ以上は言えませんね。Mと名乗る女性が一体誰なのかも、楽しんでもらえる一つの要因として伏せておきましょう...今はね。

 さて次回はまたまた川神学園に転入生来訪です。これだけ転入生が来るのは珍しいと言うより異常ですよね。その異常が今後どうなっていくのかもお楽しみください。今回も意見、感想、評価、誤字脱字がありましたらご報告ください。では
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