真剣で可能性の獣に恋しなさい!(凍結中)   作:つばめ勘九郎

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第十八話 美少女剣士、現る

 

 昨晩の夜から降り出した梅雨時の雨は昨日までの暖気を冷やし切り、翌日の朝にはすっかり冷え込んでいた。

 

 ちょうど衣替えを始めようとしていた川神学園の学生達は見た限りでは皆冬服のまま傘を差し登校しており、その様子を同じく傘を差して歩いでいるバンシィは見ていた。

 

 紋白から一緒に車に乗って登校しようと誘われたがバンシィはそれを断った。どうしても彼女の様子を見ておきたかったから。

 

 ふと目の前を歩く冬服の集団を見つけた。

 

 風間ファミリーだ。

 

(彼女は...)

 

 バンシィが気にしている相手を風間ファミリーの中から見つけようと気を探る。それをあっさりと見つけたバンシィは少し大きな声でその相手に届くように声をかけた。

 

『クリス』

 

「ッ!!」

 

 後方から声をかけられたクリスの傘が揺れ、彼女が声をかけてきたバンシィの方に振り向いた。そしてクリスと同様に周りのメンバーもこちらに振り向いた。

 

「バンシィ...」

 

「テメェ、クリスに何のようだ!」

 

「やめなよガクト...九鬼の従者さんがクリスに何の用ですか?」

 

「モロも落ち着け。あいつはクリスに声をかけただけだろ」

 

 クリスは声をかけてきた相手の顔を見るなり顔を暗くした。そんな様子のクリスを見てガクトがバンシィに詰め寄ろうとするが師岡が止めようとする。だが止めようとした師岡も穏やかそうに見えてバンシィに対する質問には棘を感じた。そんな二人を冷静に宥める大和もまたバンシィを見る目は友好的ではなかった。

 

『すまない、お前達の登校の邪魔をするつもりはないのだが、どうしてももう一度彼女に謝っておきたくてな。本当にすまなかった』

 

 バンシィはクリスを含め風間ファミリーの面々に対して頭を下げた。そんなバンシィの潔さを見て風間ファミリーの面々は何も言わなかった。

 

「...顔を上げてくれ。昨日のことは私も突然泣いてしまい申し訳なかった...あの後マルさんから聞いた。アル兄さんは...まだ帰ってきてないって。それと軍でどういう扱いを受けて、どういう対応をされたかも」

 

「クリスさん...」

 

 クリスの鞄を握る手に力が入る。そんなクリスを見て由紀恵は自然と彼女の名を呼んでしまう。

 

「だが私は信じている!アル兄さんは強いんだ!私が尊敬する人の中でもダントツにだ!だから、きっと帰ってくるって私は信じてる」

 

 誇らしそうに胸を張って堂々と宣言したクリス。その顔付きは昨日の絶望に染まったものとは違い、真っ直ぐで凛とした清々しい強さを感じさせるものだった。

 

 突然突きつけられた事実を彼女は受け入れた上で押し寄せる不安を跳ね返すほどの勇ましさを見せる彼女はとても眩しく、梅雨の寒気など吹き飛びそうだとバンシィは思った。

 

『本当に強くなったな...』

 

「え?今なんて」

 

『いや何でもない。君の真っ直ぐな姿勢に感服した、会って早々に申し訳なかったがこれからよろしく頼む』

 

「私も情けないところを見せてしまった。学年ではそっちが先輩だが入ったのは私が先だからな、遠慮なく何でも聞いてくれ!」

 

『そうだな。なら遠慮なく聞かせてもらおう、先輩』

 

「ああ!」

 

 バンシィとクリスはお互いに手を差し出し握手した。そんな二人を見ていた風間ファミリーの彼らも改めてクリスの魅力に気づかされ感心しつつ、クラスの潔さを習ってこれ以上バンシィにきつく当たることはしないことを決めた。

 

 クリスと握手したバンシィは自身から不意に溢れた言葉を思い返していた。

 

(本当に強くなったな、か...以前の俺と彼女はきっと良い関係だったのだろうな...少しだけ、記憶を失ったことが悔やまれるな)

 

 事前にクリスが軍と関係ある人物だと聞かさらていたバンシィが彼女にきつく当たったのは先入観もあったのだろう。今思えばそれがどれだけ愚かなことだったのかとバンシィは再度己の失態を悔いた。

 

 するとバンシィの後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「よおおお!野郎ども元気してたかあ!」

 

『なッ!?』

 

 雨の中元気にこちらに向かって走ってくる少年にバンシィは見覚えがあった。

 

 その少年は以前再会を誓ったバンシィにとって恩人である風間翔一。彼は仲間達とは違う見知らぬ姿の男に気づき近寄ってきた。

 

「おお!なんだよその仮面、かっけえな!執事服ってことは九鬼の従者か...ん?あんたどこかで会ったか?」

 

(相変わらずいい勘をしているな。これも翔一の持つ豪運に由来するのかもしれないが、今は...)

 

『...気のせいではないか?』

 

 ここでバレては元も子もないとバンシィはとぼけて見せる。

 

「んん?なーんか引っかかるな〜...あんた名前は?」

 

『バンシィ・ノルンだ。会ったことがあるというなら名前ぐらいは覚えているだろう、この名前に聞き覚えは?』

 

「いんや無いな。でもな〜、んん〜...ま、考えても仕方ないな!思い出しはまたその時だ!俺は風間翔一、この愉快な仲間達のリーダーをしてる、よろしくな!」

 

『ああ、昨日川神学園に入ったばかりだからよろしか頼む』

 

 翔一は数秒を頭を捻りながら唸っていたが、気持ちを切り替え自分の名を名乗った。それに対してバンシィも内心ヒヤリとしたがそんな仕草は一切見せず初対面の相手として対応した。

 

(翔一には恩がある。いずれちゃんとした形で再会を祝わせてもらうとしよう)

 

 翔一はバンシィに名乗った後、仲間達の輪の中に飛び込み今回の旅の出来事を語り聞かせていた。そんな翔一の背中を見ながらバンシィは彼に対して申し訳なく思いつつも、いずれ来るであろう本当の再会のために彼にどう説明するべきか考えていた。

 

 そんなことをバンシィが考えているとは知らず翔一は雨の日でも変わらずハイテンションで仲間達と戯れていた。その一方で風間ファミリーのメンバーである黛由紀恵はバンシィにチラリと視線を向けた。

 

 彼女もまた強者。バンシィ・ノルンという男の実力が気になるらしく、今も波瀾万丈の冒険の内容を語り聞かせる翔一をは尻目に再度バンシィを見た。

 

「ん?どうしたまゆっち?」

 

「いえなんでもありません。行きましょうクリスさん」

 

「そうだな、バンシィもまた後でな!」

 

『ああ』

 

 そう言ってクリス達はバンシィを置いて先に進んで行った。

 

 彼女達の背中を見守るバンシィはその仮面の下に柔和な笑みを浮かべ、あの輪の中に自分は入ることはないと自覚した。それを哀しいとは思わない。ただ失った記憶の中で自分は彼等のような日々を送れたていたのだろうかと疑問に思い、その有無すら問えない今の自分に少しだけ寂しさを覚えた。

 

 それでも、とバンシィは振り返った。

 

 その振り返った先には三人仲良く登校する義経、弁慶、与一の源氏組が歩いて来ていた。

 

 振り返ったバンシィに気がついた義経がこちらを手を振っている。

 

(俺にはやるべきことがある。例え記憶の半分近くを失ったとしても彼等や彼女達を守ることは俺の願いでもあるんだ。この願いだけは今も昔も変わらないさ)

 

 義経達と合流したバンシィ。

 

 義経が一緒に学校に行かないか?と提案してきたのでそれを快く受け入れ四人は傘を差しながら一緒に川神学園へと向かった。

 

 与一とは川神学園に入る前に一度挨拶をした程度の会話しかしていなかったが割と話せた。どうやら彼もこの仮面がお気に入りらしく、バンシィがこの仮面には小型のバルカン砲がついていると説明すると与一は大興奮。やはりロマンがわかる奴は良いとバンシィはご満悦だった。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 バンシィがクラスに到着して早々、担任のゲイツ先生がクラスメイト全員を体育館に集めた。

 

 一体何事かと思うバンシィ。するとバンシィの横にひょっこり顔を出してきたのは百代だった。

 

「よお、クリスとは仲直りしたみたいだな」

 

『川神百代...ああ、おかげさまでな』

 

「あ!モモちゃんにバンシィさんおはよう!やっぱりクリスちゃんと仲直りしたんだ!」

 

「よ、燕」

 

『おはよう燕、やはり見てたか』

 

「ありゃま、バレてましたか」

 

 二人の後ろから現れた燕が百代とバンシィに挨拶すると彼女も何故か今朝のクリスとの事を知っていた。当然だろう、何せ彼女は学校の屋上から見ていたのだから。見ていたと言ってもハッキリ見えていたわけではなく、バンシィの行動を何となく予測し実際に遠目からでも橋で何やら話している雰囲気のバンシィとクリスを気で感じとった結果そういう結論に彼女は至ったのだ。もっともバンシィはそんな彼女の探るような視線をクリスと話している最中に感じ取り、雨天という視界の悪い中でもハッキリと目視していた。さすがは元ドイツ軍狙撃担当といったところ。

 

「てか燕、お前バンシィと距離感近くないか?」

 

「んん?そうかな?」

 

 百代が燕に指摘した通り、燕とバンシィの立ち位置が妙に近く感じる。別にバンシィが燕に近づいたわけではなく、燕がバンシィに寄ってきているのだがその距離感が百代には昨日会ったばかりの関係で済ませるには物足りない雰囲気であった。

 

「一応聞くけどお前たち昨日会ったのが初めてなんだよな?」

 

『ああ、そのはずだが』

 

「そだね」

 

「...まさか燕、こいつに惚れたのか?」

 

「一目惚れだね♪」

 

「なっ!?」

 

 百代が思わず驚きの声を漏らした。動揺させた本人はそんな百代を見て僅かにニヤリと口角を上げ、それをバンシィは呆れつつもしっかり確認していた。

 

「昨日はそりゃあもう激しくされて燕ちゃんクタクタだったよ〜。そのせいで燕ちゃんは大人の魅力に惹かれちったのさ!」

 

『コラ』

 

「アイタッ!」

 

 バンシィが燕の脳天にストンと落とすようなチョップをし、燕が声を漏らす。

 

『根も葉もないことを口にするな、年頃の女の子がはしたないだろ。一応言っておくが激しかったのは昨日の決闘のことだ。その後燕とはどうこうなっていない』

 

「私別に()()()()()()()()とは言ってないよん?」

 

『タチが悪い言い回しをするな。誤解を招いてどうする...まったく大人をからかうもんじゃない、わかったな?』

 

「大人の魅力に気づいたのは本当だよ?」

 

『大人の魅力、ねぇ...とりあえず燕は自分の列に戻れ、百代もいつまで生娘みたいに呆けている』

 

「だ、誰が生娘だ!」

 

「モモちゃんも彼と戦えばわかると思うよ?」

 

『おい』

 

「おっと、ほいじゃ!」

 

 再度バンシィに急かされ燕はいそいそと自分の列に戻っていく。そんな彼女を見届けてバンシィは百代に向き直った。よっぽどバンシィと戦った燕が羨ましいのか悔しそうに百代は燕を見つめていた。するとバンシィの視線に気づき百代がじっとりとバンシィを見つめ返してきた。その視線はバンシィと戦いたいという気配より何か別のことを思い返して恥ずかしそうにしている風に見える。

 

「...なんだよ」

 

『いや、普段からそういう風にしていればもう少し可愛いのになと思っただけだ』

 

「お、おお....お前でも人を褒めることがあるんだな。てかいつもは可愛くないのかよ!」

 

『一応美少女だということは認めている。しかし会ってまだ一日の間でお前は私にどんな印象を持っていたんだ...』

 

「ま、私が美少女なのは周知の事実だがな!」

 

 百代は豊満な胸を張ってそう言い切った。その姿を見てバンシィは百代がさっきまでの動揺を無かったことにしたいようにも見えた。生娘って言われたのがそんなに恥ずかしかったのか?無粋にもそんなことを考えていたバンシィに拳が飛んできたので普通にそれを受け止めた。普通と言ってもかなりの威力が込められている。

 

「今余計なこと考えただろ...?」

 

『気のせいだ。ほら、学園長が壇上にきたぞ、お前も自分の持ち場に戻れ』

 

「...まあ今回は見逃してやるよ」

 

 そうぼやきながら百代はバンシィの元から去った。それを見届けあたりを見渡すと、すでに全校生徒がこの体育館に集まっており彼らも何故ここに来たのか不思議そうにしていた。

 

「ゴホン、皆何故ここに集まったか不思議そうじゃな。簡潔に理由を言えば...新しく六名の転入生が来るからその紹介じゃ」

 

 壇上に上がった鉄心がそんなことを口にした。それを聞いた生徒達が一斉に騒めき出した。クリスにクローン組と九鬼の関係者、さらに燕にバンシィと続いてまた新しく転入生の登場。こんなに転入者が続いて良いものかとバンシィは内心思った。それは今も口々に声を発する他の生徒達も同じ感想なのだろう。

 

「学長!その転入生は女子ですか?」

 

「ほほほ、やはり気になるか福本育朗。安心せい、皆めんこい女の子達じゃ」

 

 2-Fの福本育朗がこれだけは聞いておきたいという風に真っ先に学長に尋ねた。それに対して鉄心の解答はYES。それを聞いて一部を除いた男子全員が雄叫びを上げた。若干一名、女子もとい武神もその雄叫びに参加している。

 

「やはり嬉しいか、わしも嬉しいぞ。学園がより華やかになってわしの心も潤うというもんじゃ」

 

「そんなことより早く紹介してくださいよ!」

 

「まあ慌てるな、じゃがはやる気持ちもわかる。それじゃあ早速全員出てきてもらうかの」

 

 鉄心の言葉を合図に壇上の下座から五人の女性が現れた。その全員が黒を基調としたチャイナ服のような格好をしており、男子のいろめき立つ声が上がる。

 

「英雄達が集う中国梁山泊の傭兵である彼女達じゃ。皆仲良くするように」

 

「学長、一人足りないぜ?」

 

「ああ、心配せんでももうすぐ来るわい」

 

 ガクトが壇上に立つ転入生が一人足りないことを指摘すると、鉄心はすでに承知のことらしく視線を生徒達の後方の閉め切っている体育館の扉に向けた。それに釣られるように大勢の生徒が同様に扉の方に視線を向ける。

 

 すると示し合わせたかのようにその扉が大きな音を出して開き始めた。

 

「ごめんなさーい!遅れましたー!」

 

 元気でハリのある大きな声が体育館内に響いた。

 

 中性的にも聞こえるその声の主が扉を開け放ちその姿を見せた時、バンシィは絶句した。

 

(なッ!?!?なんでアイツが...!?)

 

 薄く赤みを帯びた長い白髪を後ろで纏め、肩から胸元までをガッツリと露出させ、青と赤が基調のドレスチックな振袖姿でその着丈など太ももがガッツリ見えるぐらい短く、前屈みになればその中が見えてしまいそうな程だ。例えるなら日本文化とアニメや漫画がごっちゃになった知識で和服を着たけどコスプレみたいになってる海外の観光客のようだった。

 

 だが、そんなコスプレみたいな衣服が彼女の優れた顔立ちと着慣れた感が相なって不自然さなど欠片も感じさせない。

 

 その上、腰には二振の真剣が携えられている。

 

「どうもはじめまして!新免武蔵守藤原玄野信...は分かりにくいか。宮本武蔵です。気軽に武蔵ちゃんって呼んでね」

 

 得意満々に彼女は高らかにそう名乗りを上げた。六人目の美少女登場に体育館内に歓迎の叫びが響く。そんな叫びに照れながらも手を軽く振って受け答えをする彼女は、その人物を見つけまるでヤンチャな少年のような満面の笑みを浮かべた。

 

『ハハ...』

 

 その笑顔を向けられたバンシィは疲れたように渇いた笑い声を短く漏らす。

 

 彼女の登場が今後の川神にどう影響するのか、それは彼女と旧知の仲であるバンシィことアル・シュバルツですら読めなかった。

 

 

 




 いかがだっでしょうか?前々からマジ恋にFGOキャラ出すならこの人しかいないだろう!と思っていたのでついつい出しちゃいました。今後彼女がどう物語に関わってくるのかも楽しんでいただけたら幸いです。(もう川神学園は転入生でお腹いっぱいでしょうね、ごめんね川神学園)

 展開が展開なだけあって詰め込んで情報過多なのは重々承知していますがこれからも頑張って書き続けようと思います。今回も意見、感想、評価、誤字脱字ありましたら是非とも送り付けてください。

 そういうことでまた次回お会いしましょう、では
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