とある邸宅、もといフリードリヒ邸にある作戦室にて二人の男女が壁にもたれながら床に座り込んでおり、女性の方は男の胸に頭を預けながら静かにその温もりを感じていた。
「こうしているととても落ち着きます」
「それは良かった、マルにそう言ってもらえるのは彼氏冥利に尽きると言うものだな」
「か、彼氏...!」
「あれだけ激しくキスをしておいてそこは照れるのか」
「し、仕方ないではありませんか!嬉しさと恥ずかしさで胸がいっぱいなのです...本当にあなたの言う通り、事実になりましたね」
「実感湧かないか?」
「いえ、こうしてあなたと触れ合っているとちゃんと実感できます」
最初は色々すっ飛ばしてしまい戸惑いも不安もあったが今ではそれが遠い過去のように思えてしまうほど二人は幸せだった。
「ところで先程中将からいただいて封筒、あれは指令書ですか?」
「ああ、
いつものやつ。それは彼アル・シュバルツ特尉に課せられた使命そのもので、マルギッテ・エーベルバッハが率いる猟犬部隊とは独立したドイツ軍上層部直轄の極秘任務遂行部隊のものだ。
普段は猟犬部隊に所属し軍事を全うしているが、この指令が来れば一度彼は猟犬から敵を殲滅する
そして部隊といっても所詮は名ばかりで実際は彼一人が任務遂行に尽力する。
これまで幾度となくその指令を全うしてきた彼だが時には多くの人命を見殺しにする選択を迫られたこともあったし、汚れた後始末なども任されたこともあった。
軍人として綺麗事だけでは解決しないとわかっているマルギッテだが彼を思えば途端に憤り歯痒いなる。
「私の隊の一員に一体何をさせるつもりなんでしょうか、なんだか無性に怒りを覚えます」
「とは言っても今回の指令以後はしばらくないと思うがな」
「その根拠は?」
「中将の言葉あれは嘘だな、全部が全部嘘ではないだろうがおそらく中将の計らいで軍上層部に掛け合って適当な理由で俺を一度本国から遠ざけたかったんだろうな...俺がこれ以上使い潰されないように」
いくら武神が未知数の脅威だからといってマルギッテに加えてアルも同行させるなど過剰戦力だ。マルギッテだって軍人として腕は確かでとても冷静だ、作戦を無視した行動をするとは思えない。
「アルは中将の部下の一人ですからね、中将とて他の者に自分の部下を使い走られるのは常々いい気分ではなかったはずです」
「マルといい中将といい俺は良き上司に恵まれたものだ」
「当然だと知りなさい」
「本当にいい女だよ、マルは」
アルはそう言いながらマルギッテの綺麗な赤毛をそっと撫でながら抱き寄せた。
「ちょっアル、くすぐったいです」
マルギッテはくすぐったげに体を震わせながらも何処か嬉し気だった。
するとマルギッテの髪を撫でていたアルの手がマルギッテの耳に触れてると、「ひゃっ!」と可愛らしい声が飛び出た。
その声が恥ずかしかったのか急速に顔を赤くするマルギッテに愛おしさを感じたアルは耳から頬に手を滑らせそのまま流れるように彼女の唇に触れた。
艶のある柔らかなその唇がとても艶かしくアルの心の中の何かが反応する。
するとマルギッテは彼の行動を察したのか期待するように瞳を閉じ、アルは再びマルギッテの唇に自身の唇を重ねた。
今度は柔らかく触れるキス。
一度唇を離し瞳を開けたマルギッテと目が合うと二人してくすりと笑いもう一度唇を重ねるーーーー
コンコンッ
ーーーー前に部屋の扉をノックする音が響いた。
思わず飛び起きる二人。
別にキスをしていただけなのだが、どこか乱れた服の箇所はないか、髪は整っているかと忙しなく確認するマルギッテに思わず笑みが溢れたアル。
「マルー、いるー?」
聞こえてきたのはリザの声だった。
どうやらマルギッテを探していたらしい。
「リザですか、今開けます」
そう言ってマルギッテは鍵を解除し扉を開いた。
「ここにいたのかよ。て、アルも一緒か」
「何の用ですか、リザ?」
「いや別に大した用事ってほどでも無いんだけど...マル」
「なんですか?」
「髪と軍服が乱れてるけど」
「え...!?」
リザの言葉に慌てて頭とさすり服を整えようと確認してみるマルギッテ。
「やっぱりなんかあったんだー」
「しまッ...!謀りましたねリザ!」
「引っかかる方が悪いんだってば...で、どこまでやったんだよ?」
「教えるわけないでしょう!」
「そか、じゃあアルに聞こうかな」
リザはするりとマルギッテを避けて室内に入りアルの元にやってくると、スンスンとアルの匂いを嗅ぎはじめた。
「あれ?臭くない......なーんだヤってないのか」
「俺に聞くってそういうことかよ」
リザの鼻はとても鋭く、逆に鋭すぎて悪臭には耐えられないのだがこういう時は便利なもんだなと嗅がれている身でありながら感心してしまうアルだった。
「もういいでしょう!私もアルも困っていると知りなさい!
そう言うとマルギッテは背後から思いっきりリザの頭をはたいた。
「あたっ!もー別に減るもんじゃないしいいじゃん」
「精神的に擦り減っていると知りなさい!まったく」
なんて二人のやり取りを見ていて何処となく微笑ましく感じたアルはマルギッテから(+αリザとのやり取り)元気をもらいやることをこなすべく喝を入れ直した。
「それじゃあ俺は行くよマル...帰ったら続きをしような」
「!!...」
マルギッテとすれ違う間際、リザに聞こえない小声で彼女の耳元だそっと囁いて部屋を出ていった。
その言葉に思わず身を震わせ部屋を出て行く彼の背中をじっと眺めるマルギッテだった。
(やっとくっついたかー.....でも、ちょっと羨ましいかもな)
リザが内心呟いた言葉は一体誰に向けてのものなのかは、この場にいた他の二人には知り得ないものだった。
ーーーーーーーーー
フリードリヒ邸を出たアルが向かったのはすぐ近くにある小さな建物だった。
むしろ建物というより人が三、四人入れるか程度の大きさの石造りの小屋でその扉はとても重厚な鉄のスライド式の扉だった。
アルはその扉を苦も無く開け放ち、その先にある下り階段を降りて行く。
長い下り階段をようやく降り切ったところに先程よりも二、三倍大きい鉄のスライド式扉がまた現れた。
それを片側だけ開きアルが通れる程度の道をこじ開けた。
「遅かったわねアル、注文の品はもう出来てるわよ」
「さすがだなテル」
その鉄の扉の先に広がっていたのは機械仕掛けの広々とした部屋だった。
電子制御系の機器や部品の組み立てや溶接をこなす作業場と鉄のミュラーの名を冠するあの鋼鉄鎧が数体壁側に鎮座していた。
「にしても...いつ見ても綺麗に整理された工場だな、テルの性格が如実に表れてる」
「なによ、何か文句があるの?」
「いや無い、むしろリザに見習ってほしいぐらいだ」
「それについては同感だわ...ふふ」
今アルと話している銀髪の女性こそあの鋼鉄鎧の中身その人なのだ。
アルとは四十センチ近く身長差があるが機械いじりが得意で事あるごとに世話になっているほど腕は確かな猟犬部隊の一人だ。
「早速仕上がりを見せてもらおうか」
「わかったわ、こっちにきて」
テルマはそう言うと工場の奥にあるもう一つの鉄の扉を開くため暗証カードキーを扉の横にある電子制御端末に差し込んだ。
するとピピッと電子音を鳴らし今度は鉄の扉がこれまたスライドで開いて行く。
そしてその扉を抜けた先に見えたものは黒と赤であしらった重厚感ある大楯とフルカスタマイズされたビームマグナムライフルだった。
大楯だけでもかなりの重量がありそうだが裏側にマウントされた四門の小型バルカン砲それを隠せるほどの大きさの楯はテルマの体がすっぽり隠れるほどで、ビームマグナムライフルのアンダーバレルにはリボルビングランチャーが装着されているうえに左右対称に可変するビームスマートガンが搭載されておりビームマグナム砲をセンサーでアシストしより高度な長距離射撃に加え射撃対象までのビーム弾道を直線型から不規則な弾道とさせる。
そして何よりこの射撃装備全てが弾薬を使用しないという優れもの。
弾薬の代わりに使用者の気をエネルギー源とし使用者の気が尽きるまで無尽蔵に砲撃できるという破格の性能なのだ。
「凄いな、これほどの武装を作り上げるとは。やはりテルは天才だな」
「何言ってるのよ、それもこれもひとえにあなたが考案した製鉄方法があってのものよ」
これらの武装の、気をエネルギー変換して発射するという高度な技術を支えるのはその下地とも言える製鉄方法が特殊ゆえに成せる技なのだ。
テルマ自身が可能とする最高硬度にまで高める製鉄方法ではエネルギー変換の時点で自壊してしまう。なら気との親和性を高めることでそれを完璧に防ぐことが可能では無いかとアルは気づき、鋼鉄を溶解させる段階で炉にアルが気をひたすら流し込んだ。
その結果、既存の武装を遥かに凌駕する至上最高の硬度を誇る物が生まれた。
「それにしてもこんな欠陥品が使い手が変わればとんでもない兵器になるなんてね」
「欠陥品か...何故か俺が馬鹿にされた気分になるのはなんでだろうな」
「あ、ごめんなさい!別にアルのことを悪く言ったわけじゃないの」
「いや、それはわかってるんだが...俺が気を注いだからかな?妙に親近感というか、身を分けた分身のような気がするんだよなぁ」
「ふふ、まるで子を想う父親みたいね」
「それなら母親はテルってことになるな」
「はぁ...!?」
アルのとんでも発言に驚くテルマだがその頬は若干赤く見える上にまんざらでもない様子だった。
「嫌よ!こんな欠陥兵器が私の子供なんて!......それに...(どうせ子供を作るならちゃんとした子が欲しいわ)」
「...それに?」
「な、なんでもないわよ!」
その先の言葉を口にしなかったテルマに気になって聞き返してみたが返ってきたのは何故か強めの口調での返答だった。
何故、これほど優れた兵器が欠陥品などと言われているか。
理由は至極単純使えないからだ。
一つの武装があまりの超重量でとてもじゃないが単騎で使用できる物では無い。その上燃費も悪く一回の射撃でかなりの気を持っていかれ常人なら一回の使用でぶっ倒れるほどだった。
これらを使えるのは世界中広しと言えどアル・シュヴァルツただ一人だけだろう。
自由自在に取り扱える膂力と常人数百人分以上の気の総量を合わせ持つ者のみが扱える代物、まさに使用者を選ぶ暴れ馬そのものである。
「それとこれね、発注しておいた大弓」
「もう届いてたのか」
テルマから手渡されたのは真竹で作られた大きな弓で、弓の端から端まで黒い布でぐるぐる巻きにされている。
この布も気を用いた製法で染められている。
「うん、やっぱり弓の方がしっくりくるな」
「...何よ、私が作ったこの子達が不服なの?」
「別にそういう意味で言ったわけじゃないさ、本当に感謝してる」
「どうだか...」
テルマが少し拗ねてしまい、プイッと顔を背けてしまう。
そんなテルマが可愛らしくて思わず彼女の頭の上に掌を乗せ撫でてしまう。
「本当に感謝してる。これだけのものを用意してくれたんだ、テルに感謝しないわけがないだろう?」
「...もっと」
「ん?」
「......もっと撫でなさいよ」
「まったく、テルは甘えん坊だなぁ」
まるで兄が世話のかかる妹を可愛がるように彼女の頭を優しく撫でるアル。
そんな優しい手つきと温かさにテルマの顔が綻ぶ。
「今回の極秘任務はどうするの?」
「この弓を持っていくよ。いつ帰れるかわからないからな。それにせっかくの新武装なんだどうせ使うならテルが見てるところで最初は使いたいしな」
「そうね、ならその時を楽しみにしてるわ」
「ああ、是非そうしてくれ...じゃあな」
アルはそう言い残しテルマの地下工場を後にした。
テルマはその背中を名残惜しそうに眺めていた。
それから数日後、軍上層部はアルとの定期連絡が途絶え、アル・シュヴァルツことコードネーム
そしてあっという間に二ヶ月が経ちクリスの川神学園への初登校日が過ぎたのだった。
ーーーーーーーーー
某国、某所。
テルマと別れ極秘任務専用チャーター機にて束の間の空の旅を満喫(睡眠)したアルは目的地に到着していた。
今回の任務は紛争地域で密売された他国の兵器の破壊とそこに潜む密売組織の壊滅、およびテロリストの殲滅だった。
しかも、どういうわけかアルがこの地域に足を踏み入れたことは既にテロリスト達にバレてるときた。
こんなことならテルマを一緒に連れてきて新武装お披露目会と洒落込むべきだったかと若干後悔の念が漏れ出す。
だが無いものは仕方ない。
手持ちの武装を駆使してとっとと任務を遂行して帰還するか、と諦めにも似た決意をし大弓を片手に駆け出した。
目指すはこの地域一帯を見渡せる高台。
そして到着したのは少し小高い丘で、アルは弓を構え矢を番えた。
番えた矢に渾身の気を纏わせ目的の密売兵器に向けて矢を放った。
その矢はまるでレーザービームの如く一直線に目標物を穿ちその反動で周囲に着弾の余波が吹き荒れ、撃ち抜かれ兵器が爆散する。
矢の数もそれほど多くはない。
無駄矢を使わずまずはあらかたの兵器破壊に尽力する。
そして次にテロリスト達の殲滅だ。元々アルがいることはバレていたのだからあえて目立つところで狙撃していたのに、なかなか追手が来ないことに疑問を感じていたがようやく現れた。
今回の任務では捕虜がどうこうなど考える必要はない。故にアルは何一つ手加減することなく現れたテロリスト達を容易に屠っていった。
「まったく...キリがないな」
あまりの敵の多さに辟易とした今の現状を表す言葉が漏れる。
そして逃げ出そうとする者を見つけては矢で頭を射貫く。
向かってくる弾丸を躱しながら矢で射貫いては近づいてきた敵の斬殺、殴殺、撲殺と何度これを繰り返したかわからない。
いつの間にか夜は明け朝日が登っていた。
休憩する暇もなく戦いに明け暮れたアルは敵の返り血を幾度となく浴び続け全身を赤黒く染め、砂煙と固まった血液で髪はぐしゃぐしゃに固まってしまっていた。
テロリスト達からすればたった一人にここまで味方の兵がやられたことは驚異そのもので、今のアルを見れた者は間違いなく彼を“悪魔”と呼ぶだろう。
崩壊した家屋に身を潜めていた彼は、ふと視線の端に見えたガラス片を見つけそれが目に留まった。
ガラス片に映る自分の姿はとてもじゃないが仲間である猟犬部隊の彼女達に見せられたものじゃないなと思った。
そして思い出したのはマルギッテと付き合うことが決まった時、彼女が口にした本音の言葉。
(不釣り合い、か......本当に不釣り合いなのは俺の方かも知れないな...)
あまりの疲労度合にそんなことを思い至ってしまうアル。
あの気高くも美しく凛とした佇まいで戦場を颯爽と駆けるマルギッテ・エーベルバッハと泥と血に塗れた今の自分を照らし合わせ複雑な感情が湧いてくる。
マルギッテだけじゃない。リザ、フィーネ、コジマ、ジークルーン、テルマ。
彼女達はまさに戦場に咲き誇る花そのものだ。
猟犬に紛れ込む一匹の獣、それが自分。
こんな自分に嫌気がさす。
だが自分は軍人。軍人たる者任務は全うしなくてはならない。それが軍人としての自分の矜持であり、彼女に唯一誇れるプライドなのだ。
(それにこんな情けない姿をアイツらに見せられるわけがない...!)
再度自分の体に喝を入れ直し力強い一歩を踏み込んだ。
既に気は尽きかけており長時間の戦闘で立っているのもやっとの満身創痍。
(それでも...)
それでも、やらなくちゃならない。
信じて待ってくれている奴らがいるのだ。
あと少しでこの地獄から抜け出せるのだから。
この任務が成功すれば戻れるのだーーーー
(ーーーーあの場所に)
そこからのアルは修羅の如き形相で迫り来る敵、逃げ惑う敵を誰一人逃すことなく確実に殲滅し切ったのだった。
密売された兵器も一つ残さず破壊し尽くした。
あとは帰還するだけ、というその油断が命取りだっただろう。
青空を駆ける無数の戦闘機がこの地域上空を走り抜けるた時、まるでこの地域を浄化するかの如く降り注いだ無数の雨。
その雨は無差別に大地を焼き払い爆炎と共にここ数日の記憶すら塗り潰そうとアルに迫った。
皮肉なことだ。
この戦場を地獄に変えたのは間違いなくアル自身。まさしくそれは悪魔の所業なのだろう。故に浄化の炎にてその悪鬼を焼き祓わんとしているのだ。
アルの姿は数秒もしないうちに爆炎に飲み込まれた。
空から降り注ぐ千の矢は確実に悪魔を祓わんと数度繰り返して大地を焼いていったのだった。
駆け抜けるように書いてしまったので面白みがないかも知れません。読んでくださった方がいらっしゃいましたら是非感想など頂けたら幸いです。
オリジナル展開に作中にはなかった超兵器(クッキーとか、あれも超兵器シリーズですかね)を出すとなんかもう色々出してもいいんじゃね?って歯止めが利かなくなりそうなのでなるべく抑えるよう心掛けます。アイア◯マ◯ぐらい出てきそうですが...
不定期投稿なので次回はいつになるのか、それは神のみぞ知るというやつです
それでは、おやすみない。(あー、明日月曜日かぁ〜)