真剣で可能性の獣に恋しなさい!(凍結中)   作:つばめ勘九郎

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第三話 信じた先に

 

 ドイツ、リューベックに構えるフリードリヒ邸の一室に猟犬部隊のメンバー数名が集まっていた。

 

 マルギッテを始めとする精鋭中の精鋭六名、リザ、フィーネ、テルマ、コジマ、ジークルーンが待つ人物を今か今かと忙しなく待っていた時、その部屋の扉を開く音が聞こえた。

 

「よく集まってくれた皆」

 

 部屋に入ってきたのは彼女達の上官フランク・フリードリヒ中将で、彼女達は彼が入ってきたと分かると立ち上がり見事な敬礼を見せた。

 

「中将今回私を集められたのは...」

 

「うむ、君の言う通り彼についてだ」

 

 マルギッテの質問の意図を察したフランク。どうやら今回集められたのは全員が欲している答えを聞けるとわかると全員の眼差しがより真剣になった。

 

「中将、率直に今アルはどうなってるんですか?」

 

 いつになく真剣なリザ、彼女にとってもアルという男は特別だったのだろう。仲間という意味も強いのかも知れないがリザの表情はただそれだけというにはあまりにも鬼気迫るものだった。そんなリザの声色と剣幕を見てフィーネが落ち着くよう言い聞かせる。

 

「構わない、君達にとって彼という存在はとても大きい。もちろん私にとってもね...さて、彼の状況を率直に述べるなら...」

 

 フランクにとっても大きく動揺するに至る要因なのだろう、どう言葉を紡ぐべきか僅かに言い淀んだが簡潔に述べた。

 

「行方不明扱いだ...今のところはな」

 

 それを聞いていてもたってもいられなかったのか椅子が大きく音を鳴らした。

 

「私たちはそういうことを聞きたいわけじゃないのです中将!」

 

「落ち着きなさいテルマ」

 

「しかし隊長!!」

 

 嗜めるマルギッテの言葉にテルマは食い気味に被せてくるが、それをマルギッテが威圧して抑えつけるとテルマはそれ以上口にしなかった。

 

「それぐらいにしておきなさい少尉、彼女の言い分もよくわかる。私とて今回の件、彼を蔑ろにする軍上層部のやり方は腹立たしいのだ」

 

 フランクのいつになく感情的な言葉と険しい表情にマルギッテやリザ、フィーネの三人は驚愕していた。

 

「現在私が知り得ている情報を全て伝えよう。四日前アル・シュバルツ特尉は現地入りしすぐさま交戦した事は連絡を受けている。しかしその後日の夕方には定期連絡は途絶え、ある速報が入った...」

 

 そう言うとフランクはリモコンを操作し室内に置いてあるモニターに映ったのは建物や道が激しく荒れ黒焦げになった現場を映したドイツテレビ局のニュースだった。

 

『ご覧くださいこの惨劇を!数日前この国の国境線沿いにある村が何者かによって爆撃を受けた跡です。幸い民間人に被害はなく死傷者もゼロということですが各国ではこの爆撃はどこかの国が引き起こした兵器実験ではないかと疑心暗鬼の声が広まっています』

 

 そしてモニターに映し出された映像をプツリと消したフランク

 

「彼がここにいた...現地にて極秘任務にあたっていた彼はおそらくこの爆撃に巻き込まれたと見ていいだろう。軍上層部は現地局員よりその報告を受け......任務完遂と判断した」

 

「なっ!!」

 

「そんなことって...!」

 

「そんな...」

 

「最低限の捜索はされたらしいがまだ見つかっていない。ニュースに映っていたのはほんの僅かな箇所に過ぎず、奥にはより凄惨な光景が広がっているそうだ」

 

 彼女達はそれぞれ悲痛な面持ちでその言葉を受け取った。だが、一人だけとても冷静で落ち着いた様子で口を開いた。

 

「中将、一つよろしいでしょうか?」

 

「なんだね、マルギッテ」

 

「先程中将はアルは消息不明扱いと言った際、今は、と口にしました。それについて説明をお願いします」

 

「......軍上層部の判断により、これより一ヶ月後までに連絡もしくは生存確認ができなかった場合、二階級特進し戦死扱いとなる」

 

「!!」

 

 フランクの言葉を聞いた瞬間動いたのはリザだった。リザは椅子から立ち上がると部屋を出て行こうと扉の方に向かって走り出していた。

 

 それを静止するマルギッテがリザの手をいつの間にか掴んでいた。

 

「どこへ行くのですリザ」

 

「決まってるだろ!アルを探しに!」

 

「コジマも行くぞ!」

 

「わ、私も行く!」

 

「お前達落ち着け」

 

「副隊長はなんでそんなに冷静でいられるんですか!」

 

「私達は軍人なのだ、当然のことだろう」

 

「それは単に薄情なだけじゃないのか」

 

「どういう意味だリザ」

 

「言葉通りの意味だよ」

 

「お前達いい加減にしなさい!中将の前だということを自覚しなさい!リザもフィーネに噛み付くな」

 

「なんでマルが冷静でいられるんだよ!...アルは、お前の恋人だろ...」

 

「「え...?」」

 

「確かに彼は私にとって最愛ですが、その前に軍人なのです。時には命の危険だってありえる、それはアル自身もわかっていたことです」

 

「だけど...これじゃあ、あんまりだろ...」

 

「リザ...」

 

 リザにとってアルは彼女が認めた強い男であり密かに抱いていた特別な感情を向ける対象でもあった。だが、ただそれだけでこんなにも辛そうな顔になることはなかっただろう。親友であるマルギッテの報われない結末など看過できることではなかったのだ。故に彼女はこんなにも必死なのだ。

 

「申し訳ありません中将、見苦しいところをお見せしました」

 

「気にすることはない」

 

「全員席に戻りなさい」

 

「「「はい...」」」

 

 コジマ、ジークルーン、テルマがマルギッテの言葉に返事をし、各々元の席に着いたがリザだけはマルギッテに腕を掴まれたまま動こうとしなかった。

 

「...リザ」

 

「わかってるよ」

 

 再度促されたリザはようやく元の席に戻った。

 

「話を戻そうか。先程も言ったようにこのまま彼が戻らなければ戦死扱いとなる、そして軍上層部は君達が現地に赴くことを禁止とした。今回の件で世間はどこかの国がこの件に絡んでいると疑心暗鬼になっている。下手に手を出せば世間を刺激しかねないため出国制限も厳しくなっている。故に我々、軍は動くことができない」

 

 もはや驚くこともなかった。

 

 リザやテルマは悔しそうに歯噛みし、コジマは俯き、ジークルーンは悲しげな表情をしていた。

 

「本来君達猟犬部隊は独自の機動性と作戦コードを有しているが今回の件に関しては控えてもらおう...すまないな、これは私の不徳の致すところだ」

 

「いえ、中将のせいではありません。私がもっと早くアルに頼まれていた武装を完成させていれば...」

 

「テルマ...」

 

 もしアルに頼まれていた新武装をもっと早く完成させ、運用実験を何度かこなしていれば彼があの武装を取っていたかも知れない。

 

 そうなれば彼は変わらずここに居たかも知れない、と過ぎてしまった事への後悔が芽生えていたテルマ。

 

「悔いたところで現状が変わることはない。しかし、彼は優秀だ。故に私は信じてる。彼が必ずこの地に帰ってくることをね、彼と共に戦場を駆けた他の誰でもない君達もそれは同じだろう」

 

「はい、彼なら必ず私達の元に帰ってきます」

 

 信じる、というフランクの言葉に力強く頷いたのはマルギッテだった。

 

 その顔はとても誇らしく、信じて疑わない力強さを感じさせ、そんな彼女を見た五人も同様に気持ちを切り替え真っ直ぐにフランクを見つめた。

 

「いい顔だ。君達なら心配は無用だろう」

 

 フランクはそう言うと席から立ち上がり部屋から出ていった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 フランクは部屋を出た後自室に戻り無造作に帽子を机に置き椅子に腰掛けた。

 

 「いかんな、歳をとるとつい感情的になってしまう」

 

 溜息混じりにそんな言葉を漏らすフランク。

 

 彼の現状を上から報告された時フランクは居ても立っても居られず上官のところまで行き明確な現状報告を求めた。

 

 だが返ってきた答えは「再度報告する」とただそれだけだった。これでは埒があかないとフランクは首相に問い合わせることにした。首相とは知らない仲ではないフランクだった。しかし結局首相とも連絡がつかずせめて知り得ることのできる情報だけでもと奮起し情報をかき集めたが現状を好転させる情報は何ひとつ得られなかった。

 

 すると部屋に扉を数回ノックする音が響いた。

 

「入りなさい」

 

「失礼します父様」

 

 扉の先から現れたのはフランクの娘、クリステイアーネ・フリードリヒだった。

 

「おお、クリスか。一体どうしたのか?」

 

「父様、お疲れなのですか?」

 

「少々立て込んでいてね、疲れて見えるのはそのせいだろう.。それでクリス、私に何か用があるのではないかな?」

 

「はい、アル兄さんは今どちらに?」

 

 アルの名前を口にしたクリスにフランクは思わず息が詰まった。

 

 フランクの部下であるアルはもちろんクリスとは顔見知りだ。いや、顔見知りと済ませていいレベルではない。彼女がアルを兄さんと呼称することから伺える通りクリスにとってアルは兄のような存在なのだ。

 

 姉代わりがマルギッテならアルは兄代わり。

 

 アル自身クリスを妹のように可愛がっており、時には父親であるフランクよりも厳しく接して彼女の成長を促していた。そんなアルをクリスは本当の兄のように慕い、頼りにしていた。

 

「クリス、彼は今任務中なのだよ」

 

「そうでしたか!実はアル兄さんに稽古をつけてもらおうかと思っていたのですが、任務中なら仕方ないですね」

 

 本当に残念そうにするクリスを見てフランクは少し悲しくなった。

 

「次はいつ戻られるのですか?」

 

「彼が今行なっている任務はとても困難を極めるものでね。具体的な帰還の目処がたっていないからしばらくは帰ってこられないだろうな」

 

「わかりました。お忙しいところ失礼しました」

 

「気にすることはない。可愛い愛娘のためだ、どんなに忙しくても例えどこに居ようと戦闘機に乗って駆けつけるさ」

 

「ふふ、本当に父様は冗談がお上手ですね。失礼します」

 

 フランクの冗談?に明るい笑みを浮かべたクリスはフランクの自室から出ていった。

 

 クリスが出て行ったことを確認したフランクは椅子から立ち上がり窓際に歩み寄り、またしても溜息が漏れた。

 

 数秒窓から外を眺めているとマルギッテが丁度外に居たらしく、それを見つけたクリスが大きな声でマルギッテを呼びながら駆け寄っていた。そんなクリスを見てフランクは先程の自分の言葉を思い返していた。

 

「...ドイツの至宝である我が娘に嘘をついてしまうとは......恨むぞ、特尉」

 

 言葉とは裏腹に声色はとても優しく、それはアルを思うクリスを憂いたが故だった。フランクは窓越しから見える二人から見切りをつけ、静かに机に置かれた帽子に手を取って深く被ると自室を後にしたのだった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 地下工房の中で厳重に保管されたアルの新武装。

 

 テルマ・ミュラーは自身の地下工房にてそれを静かに眺めていた。

 

 するとそんなテルマの元にジークルーンとコジマがやってきた。

 

「テルー、こんなところにいたの?」

 

「テルも一緒にごはん食べににいくぞ!」

 

 テルマからの返事がない。二人は顔を見合わせてもう一度呼びかけてみると我に帰ったかのように反応するテルマ。その顔色はあまりよろしくない。

 

「アルのことか?」

 

「......コジとジークは知ってた、隊長とアルが付き合ってたこと?」

 

「ううん、私は知らなかった。コジちゃんは?」

 

「知らなかった。はじめて聞いたときはびっくりした」

 

「隊長は私達に教えてくれなかったのね」

 

「コジマが思うに付き合いはじめたのはアルが任務に行く前なんじゃないかな?その前は隊長アルのこと避けてたし」

 

「た、たしかにコジちゃんの言う通りアルくんが任務に行ってから隊長いつもよりいきいきしてたもんね」

 

 それを聞いて少しだけ安心したテルマ。何故なら彼女はアルに特別な好意を抱いていた。だからといって隊長に嫉妬するわけでもない、むしろ嬉しく思っている。自分が尊敬する隊長と初めて認めた男のカップル、お似合いの二人だと心からそう思っていた。

 

 だからこそ先程まで不安があった。隊長と付き合ってるとは知らず彼に何度もアタックしていた自分の姿があまりに滑稽だったから。

 

「テルはアルのこと好きだもんな〜」

 

「なっ!え...!?」

 

 コジマの発言におもわず動揺の声が漏れるテルマ。

 

「ジークもアルのこと好きだもんな!」

 

「うん!めっちゃ好きだよ〜」

 

 こちらは随分素直な返事だった。

 

「それは...アルを男として好きってことなの?」

 

「え?...う、うん。そうなるのかな?あんまり恋愛がどういうものなのかわからないけど、でもアルくんといると心が安らぐっていうか楽しいなって思うの」

 

「コジマも!アルといると楽しい!」

 

 おそらくコジマの言うそれは恋とはまた別の感情なのだろうが、むしろそうだと信じたいテルマ。

 

「早く返ってくるといいな」

 

「そうだね...」

 

 二人は自然とテルマとアルが作り上げた大楯とビームマグナムライフルを見てそう言った。そんな彼女達につられてテルマも自然とそこに目を向けていた。

 

「...そうね」

 

 不思議とこの二つの武装を見ているとアルは今も生きていると確信が持てたテルマ達。きっと彼が帰ってきた時は大変なことになるだろうな、とテルマは苦笑した。だってこんなにも彼を思う女性がいるのだから。彼女達に迫られて困り果てる彼の姿と、それを抑えようとする隊長は想像するだけでおかしな光景だ。

 

「よし!ごはんを食べにいこう!」

 

「そうしましょうか、ジークはなにが食べたいの?」

 

「私はパスタがいいかな〜」

 

「コジマはもちろん肉な!」

 

「ちゃんと野菜も食べないとダメよコジ」

 

 なんてやりとりをしながらテルマ達三人は地下工房を後にし、工房の扉を閉めた。

 

 その奥で今もまだ主人を待ち続ける二つの武装は暗闇の中、ほんの数秒だけ黄金の発光を見せたことは誰も知らなかった。

 

 




 自分が書きたいことがちゃんと伝わっているか疑わしく、本当に難しいなっておもいます。 色々と知識不足ゆえに間違っているところもあると思いますがそこはなるべく修正しつつ独自解釈ということにしておきます。
 次回からジークルーンは“ジーク”で統一します(意外と打ち込むのめんどくさいんですよ、これ)
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