真剣で可能性の獣に恋しなさい!(凍結中)   作:つばめ勘九郎

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第四話 出会いと運命

 

 どれくらい眠っていただろうか。

 

 未だぼやける視界に映る古びた木製の天井を眺めながら、青年はそんなことを思った。

 

 記憶が曖昧で自分が何故ベッドに横になっているのかすらわかっていなかったが、体を起こそうとすると全身にありえないくらいの痛みが走った。

 

 情けない呻き声をあげたことに青年は痛みで顔を引き攣らせる。よく見ると服は全て脱がされ体中に包帯が巻かれていたこと気づく青年。ようやく自分の体について理解し何故こんなことになっているのかわからず思考の海に潜ろうとした。

 

 が、その前に視界の端に人影が映った。

 

 横たわったまま首を捻りそれを確認すると、扉の代わりに垂れ幕のようなものが入口に吊るされており、それを少しだけずらして小さな子供が半身でこちらを覗いていた。

 

(五歳くらいの女の子、かな...)

 

 目が合う二人。

 

 すると小さな少女は我に返ったかのようにハッとなると垂れ幕の向こう側に逃げていった。

 

「いきてた!おねえちゃん!しんでなかったよ!」

 

 垂れ幕の向こう側で大きな声が聞こえる。おそらく先程の小さな女の子だろう。

 

 程なくして垂れ幕が大きく揺れた。

 

「よかった、目を覚ましたんですね」

 

 青年の元にやってきたのは何処となく先程の小さな女の子を彷彿とさせる褐色の少女だった。

 

「君は一体...」

 

「私はリリィ、医者の娘です」

 

「...なるほど、てことは君の親御さんがこれを?」

 

「いえ、うろ覚えではありましたが手当ては私が...すみません、ろくに包帯も巻けず」

 

「いや、感謝している。どういう経緯かはわからないが助けてくれたのだ、文句の一つもない。ありがとう」

 

 青年は身体をゆっくり起こしベッドに腰掛けたままだが深々と頭を下げた。

 

 痛みはあるがもう慣れた。

 

 命の恩人に対して、礼の一つぐらいはしておきたいという青年なりの誠意を表したかったのだろう。

 

「そんな!私はただ当然のことをしただけです、お礼なんて要りませんよ!それに安静にしてないとダメです!」

 

「大丈夫だ、もう慣れた」

 

「慣れたって...とにかくアナタは動いちゃダメです!絶対安静です!」

 

 リリィは青年の肩を掴み乱暴に青年を寝かせた。

 

「いツッ!」

 

「あ!すいません...」

 

 流石に慣れたといっても体を少し動かす程度での慣れでしかなく、外部からの刺激には思わず苦悶の声が漏れる青年。それを聞いてリリィは申し訳なさそうに項垂れた。

 

「すみません、性格上どうしても雑になってしまい...」

 

「気にしていない。絶対安静というのだから医者の言うことは聞くべきだな。それに、これぐらいの痛みの方が患者にお灸を据えるにはちょうどいい付け薬になるだろうさ」

 

「ふふ...なら、ちょうどよかったみたいですね」

 

「ああ」

 

 先程の暗い顔が晴れていい笑顔を見せるリリィ。

 

 するとまた垂れ幕が揺れたことに気づいた青年。そこには先程と同じように半身になってこちらを伺っているさっきの幼女がいた。

 

 青年がリリィの後方に目線を送っていることに気づいたリリィは振り返って幼女を見つけた。そして手招きをするとそれに誘われて幼女はリリィの背後に隠れるようにしがみついた。

 

「この子はルル、治療の手伝いや看病を一緒にしてくれてたんです」

 

「そうだったのか...ありがとうルル。助かったよ」

 

「...どういたしまして」

 

 しっかり受け答えができるいい子のようだと青年は関心した。

 

 ポケットに飴玉でも入っていたならご褒美にあげたいぐらいだと思う青年だったが、生憎ポケットどころかズボンすら履いていない現状思ったところで無意味なのだった。

 

「...おにいちゃんはなんていうの?」

 

「?」

 

「あ、お名前!まだ聞いていませんでした!」

 

「そういえば名乗っていなかったな、俺は.......」

 

 そこで言葉が詰まった。

 

 それと同時に青年は少し動揺し、右手で額を押さえた。

 

「どうかされましたか?」

 

「名前を....思い出せない」

 

「え...?」

 

「おにいちゃんキオクソウシツなの?」

 

 いくら思考を巡らせても脳裏に浮かぶものは全て霞がかかったようで上手く思い出せない。

 

 何か、とても大切なことを忘れているということだけは感覚的にわかるが、それ以上の答えは見つからない。

 

「...どうやら本当に記憶喪失みたいだな」

 

「そんな...」

 

「何か俺の持ち物とかは無かったか?」

 

「いえ、ここに運び込まれた時は何も。身につけていた物なんてボロボロの服ぐらいで...」

 

「そうか...」 

 

「もしかしたら一時的な記憶障害かも知れませんし、焦らず体を休めながら思い出していきましょう」

 

「...そうだな」

 

 思い出せないものは仕方ないととりあえずは割り切ってみせる青年。

 

 目を覚ましてから僅かな間で何度割り切ったことか。

 

 内心、そう自嘲する青年はもう一度自分の体を見た。

 

 包帯でぐるぐる巻きにされた体。痛みでわかる限り裂傷に切り傷、打撲、骨折等の箇所が複数。そして左腕、左足の喪失。

 

 無くなった物に悔いることもできない現状、ただその事実を受け止めることしか青年にはできなかった。

 

 自分が記憶喪失だと理解して後、青年を残して二人は家から出ていった。

 

 リリィから話を聞くところによるとここは彼女達の家らしく、数日前元々住んでいた村がテロリスト達に占拠され村を追いやられた結果ここに住み着くようになったとか。

 

 小さな木製の小屋で出入り口に扉はなく、電気もここから一番近い街で手に入れた発電機から送られているらしく廃材や壊れた機械を修理しては再利用しているとか。

 

 父親は街で医者をしながら廃品修理を行い生計を立て娘二人を男一人で育てているらしく、母親はすでにこの世にはいないらしい。

 

 そんな父親を少しでも楽にさせたいとリリィ達は色々なことをしてお金を稼いでいるらしい。

 

(本当に強い子達だは)

 

 そんなことを思いながら青年は天井を見上げていた。

 

 すると入り口からルルが入ってきた

 

「ショウイチかえってきた」

 

「ショウイチ?」

 

 誰のことだろう、と青年は思ったがそれはすぐに現れた。

 

「お!目ェ覚めたか!いやー生きててほんと良かったな!」

 

 入ってきたのは赤いバンダナを付けた十代の少年だった。

 

「迷惑をかけたみたいだな、すまない」

 

「気にするなよ。旅は道連れ世は情けってな!旅の途中であんたを見つけてここに運び込んだ身としては生きててくれてほんと良かったぜ」

 

 どうやら彼が自分をここまで運んできてくれたらしく、命の恩人がまた一人増えた。恩返しをしたい気持ちは山々だがこんな姿では逆に迷惑になるなと青年は申し訳なさと悔しさが胸につかえた。

 

「...君も命の恩人だ。この恩は必ず返す」

 

「別に気にしなくていいっての。てか、あんた日本語上手いな!違和感なく喋ってたから驚くまでに時間かかっちまったぜ!」

 

 そう言えばそうだな、と青年も驚いていた。彼が日本語を話していたから自然とそれに合わせていた。彼と青年のやりとりをそばで見ていたルルなんて何言ってるのかさっぱりって顔だ。そういえばリリィとルルとも普通に喋れたな、と思い出す青年。自分は一体何者なのかと少し頭を捻る。

 

「...よくわからないが、自然と日本語で話していた。その気になれば三、四ヵ国以上の言語は話せそうだな...」

 

「へぇ〜マルチリンガルってやつか。仕事で世界中を飛び回ってたとかそんな感じか?くぅ〜そう考えると羨ましいぜ!」

 

「いや、それがよくわからないんだ」

 

「わからないってどうゆうことだよ?」

 

「実はな...(カクカクシカジカ)」

 

「記憶喪失!?マジかよ!」

 

「現状それらしい手がかりが無いからな、記憶を取り戻せるかも危うい」

 

「なるほどな。てことはあんたを見つけた場所に何かあるのかもしれないな」

 

「君が俺を見つけた場所はどこだったんだ?」

 

「リリィ達が元々住んでたっていう村さ。そこであんたが倒れてた」

 

「そうなのか!?」

 

「ああ、ただ今はその面影もないぜ。ありゃー酷いな。まるで戦争でもあったんじゃないかってぐらい跡形もなく吹き飛んでたぜ。多分あんたはそれに巻き込まれた感じだろう」

 

「そうか...その事はリリィは知ってるのか?」

 

「ああ、知ってるぜ。実際に自分の目で確認しに行ってたしな。あそこで何があったかわからねぇけど故郷がなくなったのに今も外で働いてるよ」

 

「その上俺の看病もしてくれていたのだな...本当に強い子だ」

 

「だな...よし!俺はもう一回あそこに行ってくるわ!記憶を取り戻す手がかりがあるかもしれないしな」

 

「危険ではないのか?」

 

「かもな。けど困ってる奴がいるのに見過ごすわけにはいかねぇだろ?」

 

 至極単純な理由。だがこれほど明快な答えが眩しいと思ったのは初めてな気がした。思わず青年は呆けてしまうがすぐに笑みが溢れた。

 

「フ、なんというか君はすごい奴だな」

 

「だろ?俺ヒーローだから」

 

 なるほど、確かに彼は救世主(ヒーロー)だと青年は納得していた。それに彼には眩しく思えるほどの何か、可能性を感じずにはいられなかった。彼に任せれば問題ない、とそう思わせる力が彼にはあると青年は思った。

 

「そういえば(ヒーロー)の名前を聞いていなかった」

 

「風間翔一だ!んじゃ、行ってくるぜ!」

 

 そう言って彼は風のように出て行った。

 

「ショウイチどこいったの?」

 

 すると、ずっと二人の会話を黙って眺めていたルルがようやく口を開いた。

 

「人助けに行ったのさ」

 

「おにいちゃんのため?」

 

 話の内容はわからなかっただろうルルだが、話の雰囲気からして誰のために風間が動いたのかは理解していたのだろう。

 

「ああ、俺のためだとさ。とんだお人好しのヒーローだな」

 

「ショウイチ、ひーろーなの!?」

 

「少なくとも俺にとってはヒーローさ」

 

「おにいちゃんは、ひーろーじゃないの?」

 

「俺か?そうだな〜、いつかヒーローにはなってみたいかな」

 

 といってもまずは体の回復が先決。その後記憶を取り戻す方法の模索とこの手足をどうにかして不便がないようにすることも重要だな、とやるべきことを頭の中で認識させていく。

 

 するとルルが部屋の隅に置かれた箱を漁り何かを持って青年のところまで戻ってきてそれを青年に手渡した。

 

「“貴婦人と一角獣”...?」

 

 それは幼い子が読みには難しそうな表紙をした()()だった。こんな絵本があるのか、と青年は今どきの幼子のレベルの高さに戦慄した。

 

「パパがくれたの。でもよめない、おねえちゃんもよめない、ショウイチもよめない」

 

 そんな絵本があっていいのか?とこの絵本の作成者が何を考えてこんなものを作ったのか理解できない気持ちになる。

 

 とりあえず中を開いてみると「あ〜、これは確かに読めない」と理解した。

 

 何せ、フランス語で文字を綴っているのだから。

 

 だがそう理解した青年はフランス語もわかるのか、と自分に驚愕した。一体自分は何者だったのか。

 

「よめる?」

 

 青年の思考をぶった斬るようにそう聞いてきたルル。

 

「これが読みたいのか?正直面白そうではないと思うぞ?」

 

「これがいい」

 

 首をぶんぶん横に振ったルル。よっぽどこれが読みたいのかかなり頑なだった。

 

 青年は少し体を起こしルルを手招きしてベッドの上に座らせた、自分も体を起こした。正直横になってるだけというのも飽きていた。

 

 はじめは青年に対して距離があったルルもだいぶ慣れたのか青年の真横に腰を下ろして絵本を広げて今か今かと待ちわびており、期待の眼差しを向けながら開いたページをパンッパンッと叩いていた。

 

「そんなにせかさなくてもちゃんと読むさ」

 

 それから二人はその“貴婦人と一角獣”を読んだ。

 

 正直、幼い子供が読むにはあまりにも難しい内容だった。大人びた言い回しに子供が理解するには難しい言葉がふんだんに使い回されており、絵本というより一つの芸術品資料集というべきものだった。

 

 これを作ったやつは対象年齢を間違えてるな、と思う青年。

 

 ほんの数ページを青年が理解できる範囲で読み解き、それをルルに解説していった。それだけで二十分近く過ぎていた。

 

 そして最後のページがやってきた。

 

「これはなんてよむの?」

 

「うん?どれだ?」

 

 そう言ってルルが指を指したのは描かれた絵の中、貴婦人が佇む後ろに構えられたテントの頭部あたりに書かれた文字だった。そこには...

 

「“私のたった一つの望み”...」

 

「どうゆうことなの、それ?」

 

「う〜ん...要するに愛情、かな?」

 

 このページに書かれた文章では理解力という解釈になっているが、ようは第六感。人の心を感じ取れる力と言いたいのだろう。正直青年自身その解釈で合ってるのかわからないが愛情という表現なら子供でも広く解釈できるからちょうどいいかな?と思った。

 

「そっか。ならこのらいおんさんもあいされてるんだね」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「だって、このらいおんさん、このひとにみてもらえてないもん。ずっとそばでいるだけでかわいそうなんだもん。でもかっこいい!」

 

 言われてみれば確かにそうかもしないと青年は思った。他にも獣はたくさんいるがその中で大きく描かれている獅子と一角獣の二体でいえば獅子は旗やテントの幕を支え続けている。貴婦人に見向きもされていないようにも見える。

 

 一角獣と対をなす獣。それがこの獅子だ。

 

 どことなく気高さというか力強さを感じられる。

 

 もしかすると、この先の未来できっと人々が真に理解しあえる可能性を信じ、願い、一つの希望とそれを支える力の象徴としてこの獅子は描かれているのかもしれない。

 

「おにいちゃん、ないてるの?」

 

 ルルにそう言われてはじめて気づいて。自身の頬に伝う一条の雫に。

 

 何故だか自然の涙を流していた青年。

 

 記憶を失っている以上、もしこの本に関わりがあったとしても感傷に浸ることなんてないはずだ。けど逆に記憶以上に何か特別な感情をこの本に抱いていたならこの涙の説明にはなるかもしれないと青年は考えた。

 

 涙を拭う青年に対してルルは青年の頭を優しく撫でた。

 

 よしよし、と口にしながら撫でるルルを目にして自分自身が情けなくなると同時にこの子の優しさと温かさに青年は心が救われた気がした。そして頭の上に乗る手のひらのぬくもりを感じつつ涙を拭った。

 

「ありがとうルル、情けないところを見せてしまったな」

 

「いいよ!おねえちゃん、いってたもん。こまってるひとをたすけるのはあたりまえだって」

 

「そうか、本当に君達姉妹は強いな。さて、ルルはどうだったこの絵本?」

 

「う〜ん...むずかしかった」

 

 まあ当然だろうな。子供が読むにしてはあまりにも難解すぎる。

 

「でもまたよみたい!つぎもよんでくれる?」

 

「ああ、いいぞ!」

 

 期待の眼差しを向けていたルルの顔が一瞬で満面の笑みで華やかさせた。嬉しそうにはしゃぐルルを見て青年は優しい笑みを浮かべた。

 

「ルル〜、ちょっと手伝って〜〜!」

 

 すると外からリリィがルルを呼ぶ声が聞こえてきた。ルルはそれを聞いて大きく返事を返して外へ出て行った。部屋に残された青年はルルが置いて行った絵本を手にとった。

 

 こんな難解な絵本を作った人物は一体誰なのかちゃんと名前を確認しようと思った青年は絵本の背表紙に目を向け、小さく刻まれたそれを見つけた。

 

「えーと...“マリア・ノルン”......」

 

 その名を口にしたとき青年は頭に強烈な痛みを感じ呻き声をあげた。身体中から嫌な汗を流し必死でその痛みに耐える。

 

(ッ!!...なん、だ....これはッ!!)

 

 痛みで悶える中、失った記憶が呼び起こされていく。

 

(教会...マリア....運命....ノルン....ッッ!!)

 

 まるで走馬灯のように一瞬の内に思い起こされる記憶の中で見たのは一人の美しい修道女だった。彼女が幼き日の青年に語る言葉、読んでくれた絵本、そして彼女と出会った日につけてくれた名前。

 

「俺は...」

 

 数秒痛みに身悶えていたがそれがすっかり治まると青年はベッドの上で横になり天井を見上げていた。かなり激しく身悶えていたのか包帯がところどころほつれかけていた。

 

「.....アル・シュバルツ....それが俺の名前」

 

 今はもうこの世にはいない彼女がつけてくれた大切な名前。思い出せたのはアルが教会で育ち、大きくなってから戦場をかけていた頃までだ。自分が何故戦場に立っていたのか、そして何故彼女が死んだのかも思い出し、アルが戦場でなんと呼ばれていたのかも思い出した。

 

 死の運命を告げる者(バンシィ・ノルン)又の名を“黒獅子”とそう呼ばれていたことを。

 

 傭兵として働きながら彼女を死に追いやった存在を突き止めるべくアルは戦場を駆けていた。いつかその者に死を告げるために。

 

 アルはその瞳をぎらつかせ今後どう行動するか決心したのだった。

 

 




 いかがでしたか?この回までに出てきたオリキャラはリリィ、ルル、マリア・ノルンの三名ですが展開次第ではこの三人を深掘りしていかないといけないのと思うとまだまだ先は長そうだなと安心?しています。
 そして風間翔一を出てきました。彼のことなんで、きっと学校を休んで海外に冒険しにきたんでしょうね。今後風間とアルがどう関わっていくのか、そこら辺もなるべく楽しく描けるように努力したいと思います。

  では、
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