夜になり体もだいぶ回復したアルと、帰ってきた風間にリリィとルルの四人はテーブルを囲み夕食を食べていた。
「しっかし、まさか俺がアルさんの手がかりを探してる間に名前だけでも思い出してたなんてなぁ〜」
「ああ、それもこれもルルのおかげだ」
「ルルえらい?」
「ええ!えらいわ!」
小さな体を大きく見せようと胸を張るルルの頭をリリィが撫でた。
自分のことを少しだけだが思い出すことができたアルは三人に改めて名乗った。いきなりなことでびっくりしていたが三人ともアルが記憶を取り戻したと知り喜んでくれた。もちろんどういった経緯で思い出せたのかもちゃんと話した。
「それでアルさんはこれからどうするんですか?」
聞かれたアルは口をリスみたいに大きく膨らませながらもぐもぐさせていた。
よっぽどお腹が空いていたのか山盛りの焼き飯を口いっぱいに頬張っていたアルは、手のひらで「少し待って」とジェスチャーをして二、三秒後に飲み下した。
「ちゃんと噛めよ...」
あまりのスピードに目を見張りツッコんでしまう風間。
「とりあえずは手足をなんとかするところからだな」
「と言うと?」
「義手と義足を作りたい。売ってるものでも代用は効くかもしれないが、そんなお金はないからな。何か廃材でもあれば助かる」
それを聞いた風間が立ち上がった。
「だったら俺が持ってきてやるよ!たまたま見つけた鉄屑とか廃材を大量に持って帰ってきたからな!いやぁ〜リリィの稼ぎの足しになればと思ってたけど、まさかこんなところで役に立つとはな!」
「そんな物一体どこで見つけてきたんだ?」
「あ、えっと〜....」
アルが出どころを聞くと途端に言い詰まった風間。
不思議そうに風間を見ていたアルは風間の視線の先を追ってようやく気づいた。
視線の先はリリィだった。おそらく風間がそれを見つけた場所というのがリリィ達が元々住んでいた村にあった物なのだろう。
「気にしなくていいですよショウイチ。アルさん、気にしないで存分に使ってください」
「そうか。なら使わせてもらうよ」
そう言ってアルは再びテーブルに広げられた食事をガツガツ食い始めた。
美味しそうにリリィが作った食事を全力で食べるアルを見て、彼女は嬉しくて笑顔になった。
「そんなに慌てなくてもおかわりはまだありますから」
「にしてもよく食うなー!軽く三人分は食ってるぞ?」
それを聞いてアルは慌てて口に含んだものを飲み下した。
「すまない、無遠慮に食べてしまった」
「え?ああ、気にしなくて大丈夫ですよ。うちの食卓に並ぶものは全てうちで取れたものばかりですし、裕福というわけじゃありませんけど貧しいってほどじゃありませんから」
「ん?じゃあなんでここに住んでんだ?」
「ここの方が元々住んでた村に街より近いですし、食べていく分には困りませんから。それに街の空気はあまり好きじゃないんです」
「確かに、あそこの空気ってなんか荒れてるよな〜。俺もあんまり好きじゃねぇな」
「そんなに酷いのか?」
「ああ。大量のガスに土煙、それに住んでる人間もあんまりいい奴じゃない感じだな」
確かにリリィ達の父親としてはそんなところに娘二人を住まわせたくないだろうな、とアルは思った。リリィとしても妹のルルがそこに住むことは良くは思わないはずだ。彼女達の父親は大丈夫なのだろうかとアルは気になった。
するとリリィがパンッと手のひらを打ち鳴らした。
「そんなことよりさっさと夕飯を済ませちゃいましょう!ほら、ルルもこぼしてるわよ」
リリィはそう言いながらルルの頬についた米粒をとってあげると、テーブル拭きで溢れたスープを拭き取っていた。
そんな姉妹のやりとりにアルと風間は和んでいた。
明日から忙しくなる。まずは体をしっかり休ませて明日に備えようとアルは皿に盛られた料理に食いつき、風間も負けじと腹一杯になるまで食べ、そんな二人を見て笑い合うリリィとルル。
食事を終えアルは早めに就寝、風間も床で寝落ちし、ルルはアルの隣でいつのまにかすやすやと寝息を立てていた。
ルルが珍しく他人に懐いてるのを見てリリィは少し驚きつつも嬉しい気持ちになり、その隣で静かに寝息を立てるアルの顔をじっと眺めた。
(本当に不思議な人...)
彼がこの家に運ばれてきた時リリィは正直助からないと思っていた。何せ物凄い出血量に片腕片足を失っていたのだ。それでも少しでも可能性があるなら、とできる限りのことをした結果、彼は生きながらえた。言葉を交わした時も妙な安心感と引き寄せられるものがあった。傷だらけなのにその背中が逞しく見えた。
それをルルは見抜いたのだろう。運ばれてきた時もずっと彼にくっついていた。
もし、もし叶うなら彼にここで一緒に暮らしてほしいな。
なんてことを思ってしまったリリィはそんな考えを振り払うように真っ赤になった顔を横に振り、自分もそろそろ就寝しようと部屋の明かりを消したのだった。
ーーーーーーーーー
早朝に目が覚めたアルはふいに外から物音が聞こえた。
物音というより何かを振り空気を裂く音というべきだろうか。ブンッと連続で聞こえてくる。結構な力で振り払っているのが音だけでよくわかる。
アルが周りを見渡すとそこに一人欠けていることに気づき、おそらく外にいるであろうその人物に朝の挨拶をしに行こうかと考え体を動かすと脇腹の方で少し抵抗感を覚えた。
そこを見ると自分に抱きついて眠っているルルがいた。
アルはルルを起こさないように体を起こし片足をベッドから下ろした。さて、どう挨拶しに行こうかと考えていた時ベッドの横に置かれた木製の松葉杖を見つけた。アルはそれを器用に使い外に歩みを進めた。
入口の垂幕をくぐり抜けた先に見つけたのはやはりリリィだった。
そして庭一面に広がる田畑と砂利の広場がありその周りを木々が囲んでいた。はじめてリリィ達の家から出たアルだったがまさかこれほどまで庭が広かったとは思わなかったらしく、アルは少し面食らっていた。
そんな広い庭の中、砂利場でリリィはひたすら木剣を振っていた。
上段に構えた木剣を振り下ろしまた上段に構えて振り下ろすことをひたすら繰り返すリリィであるが見事なものだとアルは感心していた。
独学っぽいがそれを何百何千と繰り返してきたのだとわかるほど彼女の動きは洗練されていた。
「おはよう、リリィ」
声をかけられてようやくアルに気がついたリリィは慌てて素振りをやめてこちらに向き直った。
「お、おはようございます!アルさん」
「いつもこの時間に鍛錬をしているのか?」
「ええ。今この家を守れるのは私だけですし、村から追い出された時私にもっと力があれば...」
リリィの表情はとても悔しそうにしていた。
「そうか...なら、俺が稽古をつけてやろう」
「え?アルさんが、ですか?」
「なんだ?俺では役不足か?」
「い、いえ!!アルさんが戦場で戦っていたことは昨日聞きましたし実力は疑ってませんけど、今のアルさん相手では...」
「稽古にならないってことか。なら、こうしよう」
アルは適当に木の棒を手に取り、松葉杖を捨て片足立ちのまま構えた。
「今の俺から一本、もし取れたら俺が全回してから稽古をつける。だが俺が勝ったら今日から稽古をつける。どうだ?」
「結局勝っても負けても稽古は確定なんですね」
「当たり前だ。リリィでは俺に勝てないからな」
アルの挑発にリリィはムッとした。アルの狙い通りリリィをやる気にさせることができたらしい。
もちろんリリィだって強い。先程の素振りからしてもある程度の強さは伺えたし、それだけの自信を慢心ではなく、自覚して持っていることはわかる。
だがそこまでだ。独学故に既存する型や構え、打ち込み方法などがどれほど優れているかを知らない。知っていれば対処できることも知らなければ脅威となる。彼女にはそこを知り、取り入れてこれから先も研鑽していって欲しいとアルは思ったのだ。
「さらに怪我しても知りませんよ?」
「それだけの実力があるならな」
彼女が握る木剣にさらに力が込められた。
ダンッと力強い踏み込みでリリィが距離を詰める。
(意外と早いな)
速さは申し分ない。アルは距離を詰めてきたリリィを冷静に観察しながら彼女が打ち込んでくるであろう木剣の軌道を読む。
速さを活かし、まずは刺突で攻めるリリィ。だがそれを難なく構えた木剣で捌くアル。だが彼女はそこで終わらない。捌かれてすぐに木剣を引き的確に各急所を狙って連続で打ち込んでくる。さらにステップを踏みような足捌きで縦横無尽に移動し死角を狙ってくる。
(センスもいい。キレもある。だが...)
「はああッ!!」
気合の入ったリリィの上段斬りがアルに迫る。
だが、アルはいとも容易くそれを防ぎ最後はリリィが持つ木剣を彼女の手から絡め取り首筋に木剣を添えた。
荒く呼吸をするリリィに対してアルの呼吸は乱れておらず、まるで風で煽られる柳のように自然体だった。
「はぁ、はぁ、.....参りました」
息を整えて降伏宣言したリリィ。
「これで決まりだな」
アルはそう言うと彼女の首筋から木剣を引いた。
「強すぎですよアルさん。結局一本どころか一歩も動かすことすらできませんでした」
リリィの言う通りアルは一歩たりとも後ずさりもせず、立ち位置を変えることなくリリィに勝った。
「なんで一歩も動かなかったかわかるか?」
「...私が未熟だから、ですか?」
「広い意味で言えばそうだな。じゃあ何が足りなかったと思う?」
アルの質問にリリィは考え込むが答えは出てこなかった。
「答えは力だ。リリィの打ち込みは軽い」
「それは...男と女では元々腕力に差がありますし」
「そういう力じゃない。俺が言いたいのは効率よく技の一つ一つに体の重さを乗せることだ。リリィの戦法はスピードを活かし変幻自在に攻撃を繰り出すやり方だ。だがスピードを意識するあまり攻撃が軽くなっている。スピードで戦うなら初撃の一撃で仕留めるぐらいでないと後々不利になるぞ?」
「な、なるほど...!」
「すべての敵を一撃で仕留められることが理想ではあるが戦いの場ではそうはいかない。そこでリリィ本来の戦法だ。速さを活かした変幻自在の攻撃、その一撃一撃が必殺に等しい威力なら、速さと威力の二つで相手を撹乱することができる」
「で、でも!そんな威力のある攻撃を私ができるでしょうか?その鍛錬方法も知りませんし」
「それを俺が教えるんだ。大丈夫、リリィには才能がある。今よりも確実に強くなる」
その言葉を聞いてリリィは一気に顔を輝かせた。自分よりも強い相手に強くなる、と太鼓判を押されたのだ。これで喜ばないはずがなかった。
「これからよろしくお願いします!」
「ああ、みっちりしごいてやるから覚悟しておけよ?」
「はいッ!!」
早朝から元気な声が庭に響いた。
まずはリリィに基礎的な打ち込み方法と体の使い方を教えるのが先決だろう。そしてその鍛錬方法。それを決めるにあたって、まずやっておかなければならないことがある。
さっそく何か稽古をつけてもらえるのかとそわそわしているリリィはアルの言葉を待っていた。
「よし、まずリリィにはやってもらわなければならないことがある」
「はい!」
実にいい返事だ。
「服を脱げ」
「はい!」
「........」
「...はい?」
つい勢いで返事しちゃったリリィだったがようやく思考が追いついたらしい。
「はいぃ〜〜!?!?」
これまた元気いっぱい?なリリィの声が庭に響いた。
思わず自分の体を守るように抱きしめるリリィ。その瞳にはうっすら涙が見える。
「誤解がないように言うが俺はリリィの筋肉のつき方を調べたくて言ったんだぞ?」
「へ....?筋肉、ですか?」
独学というだけあってリリィの動きに癖があった。それを矯正するためにも、より力強い打ち込みをするためにも彼女の筋肉のつき方を確認しどう鍛錬を積ませるかを考えるのは必須のことだ。
アルはそのことをしっかりとリリィに伝えた。
「わ、わかりました。ちょっと恥ずかしいですけどアルさんなら....」
そう言ってリリィは今着ている服に手をかけた。
「いや、脚部と腹部が見えるようになってる服があるならそれに着替えてきても構わないぞ?」
「そ、そうですよね!筋肉のつき方を見るだけですもんね!わ、私着替えてきますーー!!」
リリィは自分の勘違いに気づき語尾を叫びながら駆け出していった。
アルはリリィに恥ずかしい思いをさせてしまったなと反省した。そういえば以前も誰かに「あなたは一言足りないと自覚しなさい」と注意されたような気がしたが深く考えることはしなかった。
しばらくしてリリィは胸が隠れる程度の短い丈のタンクトップにむっちりとした太ももが大胆に見える短パンを履いてきた。たしかに脚部と腹部がよく見えるような服装が望ましいとは言ったが、これは少し目に毒だなと思った。
アルとて男だ。リリィの刺激的な服装には少々たじろいでしまう。
早々に終わらせてしまおうとアルは思い、リリィの肢体を観察する。
「足の筋肉はかなり仕上がっているな。これからも鍛え続ければまだまだ速さは上がるだろう。体幹が少し弱い、下半身とのバランスが悪いせいで思ったように力が乗らなかったのだろう。基本的な打ち込みの型を教えるから今後はそれを反復練習するように。それと...」
アルは次々とリリィの足りないところを細かく指摘し、それをどう改善するかもしっかりリリィに伝えた。
まじまじと自分の体を見られて最初は恥ずかしそうにしていたリリィだったが、アルの真剣な眼差しを見て彼女も恥じらいを捨てアルの言葉を真剣に聞き入った。
「...よし。大体のトレーニングメニューは組み上がったな。あと成長具合を確かめるために俺との模擬戦を数回挟むか...ん、どうした?」
「え!...いえ、少し驚きまして。アルさんって一体何者なんですか?傭兵をしていたことは聞きましたけど、なんていうか傭兵にしては高い指導力だなと思いまして」
「言われてみればそうだな。傭兵をしていた後のことは思い出せてないから、もしかしたらその後で何かそういうことをしていたのかもな.....まあ、今考えても仕方ない。さっそくトレーニングに取り掛かろうか」
「はい!」
そうして、アルの指導の元、リリィはトレーニングに励んだ。
リリィのセンスの良さはそこでも発揮されますます彼女の速さに拍車をかけ、以前より数段力強い攻撃力を身につけていった。
その傍ら、アルは義手と義足の製作に入った。
翔一が持ち帰ってくる鉄と廃材を用いてリリィが普段廃品修理に使っている小屋を使わせてもらい製作していた。小屋を使わせてもらう替わりにリリィの修理を手伝い、リリィと翔一に手伝ってもらいながらアルは早々に骨格を組み上げ、あっという間に義手は完成させた。その際、今の記憶にはない製鉄技術でアル専用に組み上げたのだが、その手法というのが自身の気を注ぎながら鉄を鍛え上げるというもので、リリィには真似できなかった。
電子制御系はあまり得意でないアルでもこれなら義手を意のままに操ることができた。
残るは義足の製作という時に翔一は夕食時、三人に自分が明日日本に帰ることを伝えた。
「そうか。まあお前は学生だし待ってる奴らがいるならちゃんと帰ってやらないとな」
「ここも静かになっちゃいますね」
「ショウイチかえっちゃうの?」
「ああ、けどまた遊びにくるぜ。今度は俺の自慢の仲間達と一緒にな!それまでルルも元気にしてるんだぞ?」
「うん!」
「わりぃな。最後まで手伝えなくて」
「気にするな。ショウイチには散々助けられた。これくらいの方がまだ恩は返しやすい」
「お礼とか別に求めてないけどな〜俺。まあ、お礼がしたいって言うならありがたく受け取ってやるぜ!その時を期待してるぜアルさん」
「その期待に応えられるように頑張らないとな」
「じゃあ今日はお別れパーティーということでじゃんじゃん料理出しちゃいますね」
「お!楽しみだぜ!リリィの飯はうめぇからいくらでも食えるぜ!」
そうして四人は最後の夜を明るく過ごし、翌朝の早朝翔一を見送るために三人も外に出てきていた。
「それじゃあ世話になったぜ」
「道中気をつけろよ」
「また会える日を楽しみにしてます」
「ああ、ルルも元気でな」
「うん」
ルルは流石に眠たいのか寝ぼけ眼で翔一の見送りに出てきていた。
「もし寂しくなったら俺の街にこいよ。その時は風間ファミリー一同で派手に歓迎してやるぜ!」
「うん!」
「無茶言わないでください、早々行けるところじゃありませんよ?」
「たしかお前がショウイチが住んでる街は...」
「おう!日本の川神市だ。そこの“川神学園”ってところに通ってるから川神に来たらそこに行くといいぜ」
「...川神」
何か引っかかるものを感じたアル。
「まあ機会があればいつでも来いよ。歓迎するぜ!じゃあな!」
「ああ、元気で」
「また会いましょう」
「ばいばーい」
翔一は三人に見送られながら日本への帰路についた。
その道中、ふと思い出したことがあった。
「そういやーアルって名前どこかで聞いたことあったんだよなぁ〜....まあいっか!楽しみだぜ、仲間達への土産話が大量だ」
翔一は待ちきれない様子で重たいリュックを背負い駆け出した。
一方で翔一を見送った三人は翔一の背中が見えなくなってから家の中に入っていく。
「日本、か...」
アルは誰にも聞こえない声でそう呟きながら家の中に入って行った。
この時、噛み合った運命の歯車は徐々に動き始めていた。
そしてのちに風間翔一という少年との出会いが必然であったことをアルは認識したのだった。
お仕事お疲れ様です。これを最後まで読んでくださっている方はきっとマジ恋ファンであり、つまらない日常に少しでも刺激が欲しいと思ってる方なのではないかと愚考している作者です。
そんな毎日に少しでも刺激あるドキハラ展開をお見せできるよう頑張りたいと思います。
さて、今回は長くなりましたができる限り次の展開に繋げるべく強引に話を進めました。(そんな進んでいなかったらすいません)ほんわか展開とちょくちょくエロスをギリギリな感じで挟んでいけたら僥倖ですね。
一体どれだけの方に読んでいただけているのかわかりませんが、意見、感想、評価、誤字脱字があれば遠慮なく申してください。言うだけならタダです。
次回もなるべく早く投稿しますので、では!