真剣で可能性の獣に恋しなさい!(凍結中)   作:つばめ勘九郎

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第七話 邂逅する者達

 

 翌日の早朝。

 

 翔一の時と同様にリリィとルルがアルの見送りをするため朝早く起きていた。

 

 そしてアルは出発の準備を済ませ家の外で二人と対面していた。

 

「世話になったな」

 

「いつでも帰ってきてくださいね」

 

「まってる!」

 

「ああ、待っててくれ」

 

「ちなみに、私は待ちませんけど」

 

「フッ.....そうだったな。気長に待ってるよ」

 

「はい。必ず追いついてみせます」

 

 荷物はほとんどない。この身一つで記憶と理想を追いかける果ての見えない旅路。それでも、アルの心持ちは意外と澄んだものだった。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「「いってらっしゃい!」」

 

 アルは二人に背を向け森の奥に進んでいき、あっという間にアルの背中は見えなくなった。

 

「いっちゃったね」

 

「ええ...」

 

 追いかけると決めたリリィにとってこの別れは一時のもの。

 

 悲しくも切なくもない。むしろメラメラと恋の炎が燃えたぎっていた。

 

(必ずあなたの側まで辿り着いてみせます!)

 

 彼女もまた日本でいうところの“武士娘”なのだろう。

 

「さてと、また二人に戻っちゃったから今日から忙しくなるわよ。手伝ってくれる?」

 

「うん!」

 

 ルルが元気いっぱいに返事をし、リリィはルルの手を引いて家の中に戻ろうとした時だった。

 

「すいませーーん」

 

 ふと、遠くの方から声が聞こえリリィはその方向に振り向いた。

 

「あ、やっぱりいましたよ人!」

 

 女性の声だった。木々に隠れ見えないがもう一人誰かいることがわかった。その女性の声が側にいるであろう誰かに向けられていた。

 

 するとその女性はその相手と何かを喋り、こちらに近づいてきた。

 

 リリィからして彼女の第一印象は二つ。

 

 メイドと桃色だった。

 

「第一村人はっけーーん!」

 

「あ、あの...?」

 

 リリィが彼女に声をかけた時にはすでにルルはリリィの後ろに退避していた。

 

「あ、すいません突然押しかけちゃって!自己紹介がまだでしたね。私、九鬼家従者部隊所属のシェイラ・コロンボちゃんって言います!」

 

「あの九鬼ですが!?」

 

「はい、その九鬼です。ちなみにむこうにいるのが同じ職場のドミンゲスちゃんって言うちょっと強面の人なんですけど、あんまり気にしないでください」

 

「は、はい...」

 

 九鬼といえば世界中で有名な名前。その実態がどういうものかリリィにはよくわからないし、彼女達が一体何をしにここへ来たのか皆目検討がつかなかった。

 

「実は私達、ある人物を探してるんです」

 

 リリィもまた数奇な運命に導かれる側の人間だった。

 

 そして思いのほか、彼と再会する日がそう遠くないことを彼女が知るのはほんの少し先の未来の話。

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 リリィ達と別れて、はや一ヶ月強。

 

 アルは現在、紛争地域で貧しい子供達のために日々奮闘していた。

 

 奮闘と言っても戦いをしているわけじゃなく、一緒に農作物を作ったり、戦うためでなく身を守るための術を子供から大人に教えたり、井戸を掘ったり、盗賊を追い払ったりと長かったようで短い、あっという間の一ヶ月を過ごしたのだった。

 

 最初は自身の記憶を取り戻すために旅をしようと決めていたが、たまたま立ち寄った街でこの場所の現状を知り、居ても立っても居られず行動した結果、現在は紛争は止まっている。

 

 その理由は単純でアルがこの村にいるからだ。

 

 この村にきて早々に争いに介入したアルはこの村に暴威を振り撒く存在全てを蹴散らした。交戦を止めるよう最初に警告はしたが突然現れたたった一人の男の言葉など聞く耳を持つものなどまずいない。結果、アルは蜂の巣なんて生ぬるいぐらいの銃弾を浴びせられたが勿論無傷。命の奪い合いである以上アルは向かってく相手に容赦なく攻撃を行い、死屍累々の山を築いた。

 

 そんなこともあったが、今は至って平穏。

 

 今日はやることがないためアルは村長が貸してくれた寝泊まり用の部屋のベッドで横になり考え込んでいた。

 

「この村もだいぶ良くなってきているが、今俺がここを出るのは得策じゃないか...」

 

 もし今アルがこの村を去れば紛争は再びこの村を火の海に変えてしまうだろう。

 

 そうなっては意味がない。紛争の大元を断つのが一番なのだろうが、正直それが何で、何処の誰なのか全くわかっていない。

 

 アルは己の無力さに唇を噛んだ。

 

 その時、とてつもなく大きな気が突然村の中心に現れた。

 

 思わず飛び起きるアルは急いでその場に向かった。

 

 すると、先程感じた大きな気の発信源となる村の中央に人集りができており、その中心に誰かがいた。

 

「村長、一体どうした?」

 

 アルはその人集りから離れたところからそれを見守っている頭の毛が侘しい男に声をかけた。

 

「おお、アルさん!大変です!空から執事さんが!」

 

 .......ん?

 

 色々ツッコミたいことがありすぎてアルの思考が一度リセットをかけようとするが、それはキャンセル。思考続行.....ヒット。

 

「すまんな村長、そんなに疲れていたとは知らなかった...」

 

「いえ、違います!幻覚とか白昼夢とかそういう類のことではなく....というか、アルさんから見ても私ってやっぱり疲れてるように見えますか?」

 

「ああ、特に頭頂部とか今にも枯れ果てそうだ。もう少し自分の体を労ってやったらどうだ...?」

 

「そうですね、ここ最近色々ありましたから...海藻って効くんですかね?」

 

「いや、あれはガセだ。もういいだろう。大人しく馬の毛のカツラを被って楽になろうぜ、な?」

 

「嫌だ!私はこの髪の毛達の可能性を信じてるんです!」

 

「現実を見ろ、アンジェロ!お前の髪の毛はもう、助からない....」

 

「そんな...!うっ(がっくし)」

 

「いつまで漫才をしている貴様等」

 

 思わず現実逃避したくてアンジェロ村長と戯れてしまったアル。どうにも村長と話すと毎度話が脱線してしまう癖がついてしまったらしく、外野から注意されてようやく現実に帰ってこれたのだった。

 

 そして今も横で泣き崩れる村長は無視して、先程の声の主に目線を向ける。

 

 そこに立っていたのは金髪の老執事だった。

 

 背丈はアルより低いが老執事の体の内から湧き出る気は相当なもので、下手をすればアルとて一瞬にしてKOされかねない凄みを感じる。

 

 その老執事がアルに向かって歩みを進めてきた。

 

「貴様がアル・シャバルツだな。フン、どうやら貴様はマシな赤子のようだな」

 

「...失礼ですが、()()()はどなたでしょうか?」

 

「ほお。やはり気づいていたか」

 

 アルの質問に関心の意を示した金髪の老執事。そして視線を老執事から逸らし背後に目を向ける。

 

「流石の一言ですね」

 

「フッハハ!やはり()()()は伊達ではないということだな!」

 

 先程まで気配を隠していた存在が姿を現した。そこにいたのは白髪の老執事と小さな銀髪の女の子だった。

 

「貴方を試すような真似をして申し訳ありません。(わたくし)は九鬼家従者部隊所属のクラウディオ・ネエロと申します。そちらの彼が同じく九鬼家従者部隊所属のヒューム・ヘルシング。そしてこの方が私達の主人」

 

「九鬼紋白である!」

 

 なんともインパクトの強い三人だなとアルは思った。

 

 九鬼といえば世界に名を轟かせる有名企業。その従者と主人様とはなかなかの珍客がやってきたなと、アルは内心驚いていた。

 

 しかもこの白髪の老執事、クラウディオと名乗った彼もかなりの実力者であることに違いなく、ヒュームと呼ばれた金髪の老執事と雰囲気が全然違うが戦うとなれば苦戦は免れないだろう。

 

「俺はアル・シュバルツ。一応こちらも名乗ってはみたが、その必要はなさそうだな」

 

「ええ、我々は貴方のことを存じています。というのもここへ来た目的が貴方なので当然のことですが」

 

「...よくここがわかったな」

 

「簡単なことです。我々には独自の情報網がありますので、それを使えば造作もないこと」

 

「貴様程度、捕捉できない俺達ではない」

 

 その言葉だけで九鬼という組織がどれだけ優れているのかが伺える。

 

「それで、今回はどういったご用件で?」

 

 アルの質問に対し九鬼紋白と名乗った女の子が一歩前に出た。

 

「うむ!単刀直入に言おう。アル・シュバルツ、九鬼で働かないか?」

 

「...理由を聞いても?」

 

「当然説明する。アル・シュバルツよ。お前はもう死んだ扱いになっている。つまり自由だ。だが我はお前の才能、知識、能力、そして人柄を捨て置くことを惜しいと思った!故に勧誘しに来た!」

 

「ちょっと待ってくれ...俺は死んだことになっているのか?」

 

「ん?知らなかったのか?お前はドイツ軍で正式に戦死扱いになっているぞ」

 

 ドイツ軍?戦死扱い?ますます意味がわからないアル。

 

「紋様、どうやら彼にも何か事情があるご様子です」

 

「そうか。出来ればそれを知っておきたいな。アルよ、話してくれないか?」

 

 どうやら事情を知っている彼女達にアルは包み隠さず自身の現状について話聞かせた。

 

「なんと!そうだったのか!」

 

「記憶喪失ですか。厄介なことです」

 

「軟弱な赤子らしいことだ」

 

 三者三様の感想だな、とアルは思った。

 

「決めたぞ!アルよ、我はお前が記憶を取り戻すためならなんだって手伝ってやる!」

 

「初対面の相手にそこまでするか?」

 

「こう見えて我は人を見る目はある!それにこの村の者達がお前を慕っていることは見ていればわかる。そんなお前が悪人だとは到底思えぬ。だから信用した!そして力になりたいと思ったのだ!」

 

 明快で豪胆、至極単純な理由だった。

 

 アルは納得した。何故二人の老執事がこの小さな女の子を主人と仰ぐのか。

 

 少女の目は酷く真っ直ぐだ。それが当然だと、信じて疑わない光溢れるものだった。それだけでアルは少女の心根がとても大らかで人の上に立ちうるに相応しい度量を持った存在なのだと理解した。きっと、これをカリスマと呼ぶのだろう、と。

 

(眩しいな、とても...)

 

 紋白が放つカリスマに当てられていると、アルが紋白の提案に渋っていると勘違いしクラウディオは代案を立てた。

 

「では、こういうのはどうでしょう?アル・シュバルツをしばらく九鬼で客人として迎え、その間記憶を取り戻す手助けをする。それと同時に我々の職場を見学していただく、というのは?」

 

「うむ!よい提案だクラウディオ!どうだアル」

 

「その申し出はありがたいが現状俺はここを離れるわけにはいかない」

 

「フフッ、そのことでしたら問題ありません。すでに紛争の元は断っています。それにここには新たに九鬼の支部が立ちますので、治安維持および他の勢力からの武力介入など許しませんのでご安心を」

 

 クラウディオの言葉を聞いていた村民全員が歓喜の声をあげだす。

 

(参ったな...)

 

 アルの不安要素を、交渉が始まる前に取り除いていた見事な手腕。流石にこれ以上言い逃れようとするのは彼らに無礼というものか、とアルは大人しく降参した。

 

「わかった。そこまでしてくれたんだ。そちらの提案を受けよう...本当にありがとう」

 

 アルは深々と頭を下げた。

 

「うむ!これで交渉成立だな」

 

「いいえ、まだです」

 

 そこで待ったをかけたのはヒュームだった。

 

「ヒューム、他に何かあるのか?」

 

「はい。まだ、奴の実力が如何程のものか見ていません」

 

「それはそうだが...すでにヒュームはアルの実力を認めていたではないか?」

 

「それは奴が()()()()()頃の話です。ですが、今のアル・シュバルツは違います」

 

 ヒュームの鋭い眼光がアルの左腕をたしかに捉えていた。

 

 見抜かれていると分かったアルは、誰かに言われたわけでもないが服の袖で隠れていた左腕の義手を露わにした。

 

「義手...報告にもあった通りであるな」

 

「それだけではありません。貴様、左足も持っていかれたな?」

 

「...お察しの通りだ」

 

「左足もか!」

 

「.....」

 

 アルは左足の義足も紋白とクラウディオに見せた。無骨なデザインの義足を目にし、流石に驚いた様子の紋白。クラウディオは気づいていたらしい。

 

 紋白が知らないところを見ると報告されていたのは左腕のことだけのようだ。

 

「こんなガラクタを仕込んでいる相手に温情をかける必要はありません。当初の予定通り、アル・シュバルツは九鬼で働かせるべきです...強引にでも」

 

 途端、ヒュームから闘気が溢れ出る。その矛先は当然アル。その闘気に当てられたわけではないが、アルは口を開いた。

 

「強引に、ときたか。随分とまあ...舐められたものだな」

 

 アルも闘気を解放し、それをヒュームにぶつける。その闘気を浴びてヒュームの顔がより険しくなる。

 

「...貴様如き赤子がこの俺に闘気をぶつけるか。マシな赤子と聞いて図に乗ったか?実力差がわからないようなら、所詮貴様も赤子よ」

 

「勘違いするなよ。俺はただその汚い口を閉じてやりたいだけだ...さっき、これをガラクタと言ったな?」

 

「それが何だと言う」

 

「これは恩人達のおかげで作ることができた俺の大切な手足だ。貴様のような躾の悪い不良執事に、ガラクタ呼ばわりされる筋合いはない!」

 

 おそらくリリィ達すら見たことがないであろう、アルが本気で怒っている姿。激昂するわけでもなく、腹の中から煮えたぎる怒気を静かに抑えながらそれを全身に流れる血のように力として巡らせる。

 

 まるで湯気のように立ち込め、アルの全身から溢れる闘気は触るものを火傷させそうなほどの熱を帯びていた。

 

 僅かにヒュームの口角が上がった気がした。

 

「俺の発言を訂正させたいなら、それに見合った力で示してみろ」

 

 一触即発。

 

 アルもヒュームも、やる気満々のようでどんどん闘志を燃やしていく。

 

「むぅ〜、これは...」

 

「ええ、お互い引けないご様子。ならいっそのこと戦わせてみましょう。それに彼の実力がどれ程のものか見ておくのも良いでしょうし」

 

「う〜ん...そうだな。クラウじいの言う通りだ」

 

「それに私も彼の実力はとても気になります...(とてつもない闘気ですね。まさか壁を越えていたとは)」

 

 穏やかに主人に微笑みながらも、クラウディオは内心アルの底知れない強さに軽く驚いていた。

 

「おい、場所を移すぞ」

 

「いいだろう。ここじゃあ、とても戦えない」

 

 二人は意外に冷静だった。今すぐ戦闘開始しそうな雰囲気ながらも村民や建物に被害が出ないよう考えていた。

 

 四人は場所を移し、村から出た荒野にいた。

 

 そしてアルとヒュームは数メートル距離をとって対峙していた。それを離れたところから見守る紋白とクラウディオ。

 

「俺が勝ったら九鬼で働け。お前が勝てば先程の発言訂正してやる。それでいいだろう?」

 

「ああ、かまわない」

 

「僭越ながら(わたくし)が審判を務めさせていただきます。勝敗はどちらかが負けを認めるか戦闘続行不能と判断するまでとします。もちろん殺しは無しです。お二人共、よろしいですね?」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 クラウディオの言葉に簡単な返事を返す両者。

 

「それでは、はじめ!」

 

 クラウディオの開始の合図が二人の耳に届く。

 

 アルが動き出そうとしたその時、村の方から地面が揺れるほどの大きな爆発音が聞こえてきた。

 

 咄嗟に紋白を庇うクラウディオ。

 

「一体どうしたのだ!」

 

 紋白の声がこの場に響くが、それを聴き終えるより前にアルは村の、爆発が起きた場所へと一目散に駆けていた。呼び止めようとした紋白だったがすでにアルの姿はない。

 

 アルの頭の中にはこの地で出会い親切にしてくれた村の住人達の顔が次々と浮かんでいた。

 

(無事でいてくれ...!!)

 

 より一層の力を両足に込める。そしてアルが移動して生まれた彼の残像には、金色の残滓のような光が僅かに見え隠れしていた。

 

 




 お疲れ様です。やっと今週の仕事が終わりました。短いようで長い平日がわりと体にこたえている今日この頃の投稿主です(汗)

 さて、いかがだったでしょうか?まさかのシェイラちゃん登場と、最強執事二人組に紋様の三点セットのお届けの回でした。わりとこの四人気に入ってるんですよ自分。これからも主人公と絡めていくつもりなので彼らの今後の活躍がどうなっていくのか見守っていただけると幸いです。

 意見、感想、誤字脱字がありましたら遠慮なく言ってください。

 それでは、良い土日を。
 
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