真剣で可能性の獣に恋しなさい!(凍結中)   作:つばめ勘九郎

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第八話 金獅子−バンシィ・ノルン−

 

「何が、起きてるんだ...これ...」

 

 爆心地に一目散で駆けつけたアルが目にしたのは、先程までアル達がいた村の広間が酷く荒れ果て、いくつもの家屋が炎の中で燃え盛り、爆発に巻き込まれたであろう村人が死屍累々と横たわる光景だった。

 

 ほんの数分のうちに変わってしまった村。

 

 あれほど紛争終結を喜んでいた顔馴染みの村人達の変わり果てた姿にアルの心は今にも壊れそうなほどの()()を感じた。

 

「くッ......他のみんなはどこだ...」

 

 痛みに耐えながら、アルはこの場にいない者達の気を探った。

 

 すると村の端に複数の気を感じ取った。その中には今にも消え入りそうな弱々しい気が幾つもあった。

 

 アルは反射的に奥義のデストロイ・モードを発動させ一秒でも早くその場に辿り着く為駆け出した。

 

 その場に辿り着くのに五秒もかからないだろう。だが、その五秒が永遠にも感じるほど間伸びしたように感じる中、また一つ、一つと命の灯火が消え散るのを感じ取り、アルは心臓を締め付けるような痛みに襲われた。

 

 痛みに耐えながら駆けるアルは、やっと目的の場所をその目で捉えた。

 

 そこには()()()()()()()()を構えた複数の兵士と、それに囲まれている村人達がいた。

 

 その村人達の中には生まれたての赤子や一緒に遊んだ顔馴染みの子供達、村長と一緒に子供達を庇うように体を丸めた大人達がいた。怯えた様子の子供達に必死で兵士に何かを懇願する傷だらけの村長。そしてそんなものなど歯牙にも掛けないという様子の兵士達は呆気なく引き金を引いた。

 

(ッ!!間に合わない!!)

 

 ここからでは、どうあっても一秒はかかる。

 

 その一秒後には彼らは蜂の巣にされ、息絶える。それを想像するだけでアルの心は今にも引き裂かれそうな気持ちになった。

 

(絶対になんとかする!!)

 

 そんな、願いにも似たアルの悲痛な叫び声、たった一秒という時間の中、アルは確かに感じた。

 

 気がつくと先程も感じた間伸びするような時の流れの中にアルは居た。

 

 その時の流れが遅い中で、アルの体が自身の願いに応えるように全身に力を巡らせていく。

 

 その力はアルの全身から溢れる気を黄金の光のように放ち、そこからこぼれた落ちた欠片なような光をアルは置き去りにした。

 

 光を放つアル。

 

 その瞬間、世界中の強者達に激震が走った。

 

 俗に言う壁を越えた強さを手にしている者達は確かに感じ取ったのだ。

 

 世界にまた一人、壁を越えその先の壁すら超えた存在が誕生したことを。

 

 そしてその存在が今もまだ、更なる可能性を秘めた眠れる獣であることを。

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 年端も行かないその少年は大粒の涙をその目に浮かべながらも、銃を構えている大人達を睨みつけていた。

 

 少年を庇うようにその大人達に背を向ける形で抱きしめる少年の両親。

 

 何故こんなことになったのかなんて少年にはわかるはずもなく、気がつけば多くの村人達が倒れ、残ったのはここにいる者達だけだった。

 

 だが、銃を突きつけられ抵抗しないと言った村の大人達を彼らは何の躊躇いもなく撃ち殺した。

 

 わけがわからなかった。

 

 さっきまで楽しくお喋りをしていたはずの村人が一人、また一人とまるで糸が切れた人形のように崩れ去る。

 

「頼む!!せめて子供達だけでも見逃してくれー!」

 

 村長が必死の形相で銃を構える大人達にせがむがそれを何が可笑しいのか嬉々として暴行を加えている兵士達。村長は身体中を痛めつけられ顔も青く腫れ上がっており、そこいた村人全員が顔を晒したくなる思いだった。

 

「村長をいじめるなー!」

 

 他の子供が涙ながらに声を大にして叫ぶがそれでもやめてくれない。

 

「お願い、ゴフッ...しま、す....子供達、グハッ...だ、けでもぉ...!」

 

「お前うぜぇな。はあ、もういいよ。さっさと死ね」

 

「ッ!」

 

 銃口が村長に向けられた。

 

 それを合図とばかりに他の奴らも照準を村人達に合わせた。同様に少年にもそれは向けられた。

 

 よく考えればほんの一ヶ月前もこんな思いをしていた。

 

 日々激しくなる争いの中、自分達が必死で生きていくために泥に塗れながら食い物を漁っては見知らぬ大人達に痛めつけられる毎日。

 

 自分達に救いの手なんて誰一人差し出さない。何故生まれてきてしまったのか呪いたくなる異常な日常で、明日もまた絶望が待っていると思っていた。

 

 そんなある日、彼は現れた。

 

 それは絶望の中、唐突に現れた唯一の希望だった。

 

 彼は有無を言わさぬ力で争いを止め、生きるための知識と技術を与えてくれた皆の光だった。

 

 そんな彼は言っていた。

 

『どんな絶望の中にも希望は生まれる』

 

 彼こそがまさにそれだと少年は思った。

 

 優しくて、強くて、かっこよくて。

 

 彼を中心に村に元気と勇気、そして笑顔を与えてくれた。

 

 そんな彼が言った言葉を少年は信じたい。

 

 彼がこの村の人々に見せてきた“諦めない姿”は何度もこの村を変えた。環境も、暮らしも、心も。その日々こそ絶望から見出した(かす)かな希望を掴み取り、明日に繋いでゆく人間の営み。

 

 その日々で培った心の強さは少年の瞳に力を宿らせた。

 

 真っ直ぐ自分に向けられた銃口を少年は力強く睨みつける。

 

(兄ちゃん、おれも諦めないよっ!)

 

 しかし少年の決意など無駄だと言うようにあっさりと奴らはその引き金を引いた。複数に重なり鳴り響く発砲音。一秒もかからない内に、ここに居る最後の村人達は肉塊へと成り果てらだろうと誰もが予想した。

 

 だが、そんな未来は訪れなかった。

 

 不思議そうに閉じていた目を開けて確認しようとする村人達の中、少年は歓喜の声を上げた。

 

「兄ちゃん!」

 

 少年の目に映っているのは光だった。金色の輝きを迸られせる黒い肌と赤い瞳をした精悍な青年。何故か髪の色が金色に変わっていたがそんな変化は些細なこと。

 

 村人達も次々と彼の名を呼び涙を流す。名前を呼ばれた青年の表情は険しく、とても悲しそうでもあったがすぐに気持ちを切り替えたようでその鋭く力強い眼力で奴らを射抜いた。

 

 一層輝きを増す金色の光は背後で見守る村人達を優しく包み込む。

 

 少年の目は輝いていた。

 

 まるでヒーローに憧れる子供のように。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 同時刻頃、ドイツのリューベックにあるフリードリヒ邸の敷地内でリザとテルマの二人は臨戦体制をとっていた。

 

「本当に侵入者が入ったのかよ?」

 

「分からんが感知システムは反応している。それも地下工房の奥の扉の、だ」

 

 鋼鉄の鎧を着込んだテルマが怒りを抑えながら言葉を発する。だが、リザは不思議そうに訝しんでいた。

 

 何故二人がこんな話をしているかと言うと、ほんの数分前にテルマが所持する地下工房の監視システムの端末がけたたましいアラームを鳴り響かせた。

 

 それは地下工房に侵入者もしくは異常を知らせるもので、それを聞いた二人はすぐに戦闘準備を済ませ邸宅の敷地内にある地下工房の入り口の前にやってきた。

 

 現在、クリスはすでに日本の川神学園に留学しており、それを追うようにマルギッテも学園に編入。フィーネ、ジーク、コジマは国外で別の任務に当たっており、邸宅の所有者であるフランクも今はいない。

 

 リザは賭け事に給料を全部突っ込んだため今はフランクの家でお世話になっており、たまたまテルマと居合わせたタイミングで事が起きた。

 

「とりあえず中に入ろうぜテル」

 

「警戒を怠るなよリザ」

 

「誰に言ってる」

 

 重たい鉄の扉をスライドさせ、地下工房に続く階段を降りていく二人。

 

 その途中で侵入が潜り込んだ形跡などを探してみるが全く見当たらない。

 

 そして第二の扉も開け放ち、あっという間に地下工房に到着した。

 

「電気をつけるぞ」

 

「ああ」

 

 スイッチを弾く音がすると工房内に明かりがつく。そしてそれを見つけた。

 

「おいおいおい、なんだよあれ!」

 

 リザが驚愕の声を上げた。

 

 その原因は地下工房第三の扉、保管庫を守る鉄壁の扉がボコボコになっていたのだ。それも保管庫の中から。

 

「あの分厚い鋼鉄の扉をここまで歪ませるかッ!おのれ!」

 

「待て待て、ちょっとおかしくないか?」

 

「何がだ!」

 

「冷静になれってテル。そんなんじゃ足元すくわれるぞ?」

 

「...すまんリザ、頭に血が昇って少しリザに当たってしまった。すまない」

 

「気にするなって」

 

「それでリザ、おかしいってあの扉の歪みのことか?」

 

「ああ。だってあれ、明らかに中からこじ開けようとした跡じゃん。保管庫はまず別ルートでの侵入なんて不可能だ。私だって無理だっつうのに、そんなことできる奴なんて透明人間ぐらいだぜ?」

 

「だが仮に侵入者が透明人間、ないしはそれに近い能力を持っているならわざわざ扉をこじ開けようとしない」

 

「そういうこと。もしスパイがいたとしても、こーんな馬鹿みたいにボコボコ扉を叩いて脱出しようとする奴なんて普通いないだろ?」

 

 リザは後ろのボコボコにされた扉を指差してそう言った。

 

「確かにそうだな。では一体...」

 

「それはわからない。けどひとつだけ確かなのは.....異常だって事だ。一応聞くけど、こん中にロボットとかいないよな?」

 

「あいにく私にそういう物を作る趣味はない」

 

「それは良かったぜ。もしテルの鎧みたいなのが居て暴走なんてしてたら、たまったもんじゃないからな」

 

「それは暗に私のことも手に負えない奴だと言いたいのか?」

 

「まっさか〜」

 

 テルマの鎧の頭部にあるモノアイがじとーっとリザを見たような気がしたリザは笑い声混じりにそんなことないと手のひらを振って返す。まあ怒ったら手がつけられないけど、と内心補足をしたリザだった。

 

「さぁ〜て、開けますかー」

 

「ふむ、何が起こるかわからない。さしずめパンドラの箱と言った感じだな」

 

「怖いこと言うなよ。開けた瞬間爆発とかシャレにならない絶望とかやめてくれよ?」

 

「.......開けるぞ」

 

「なんだよ今の間!?自分だけ鎧着てるからって余裕かよぉ!」

 

 テルマがキーカードを扉の横の端末に差し込むと、ピッと電子音を出し扉が開いていくが途中で詰まった。ボコボコに歪んでいるせいで開きが悪くなっていた。なのでテルマは力づくで扉をこじ開けるた。

 

 そこにあったものに二人は驚愕した。

 

「なッ!?」

 

「た、盾が浮いてる?!」

 

 保管庫に置かれていたアル専用の新武装である大楯がひとりで宙を浮いていたのだ。

 

 それも元々備え付けられていた変形機構を駆動させ収まっていたフレームを展開し元の大きさよりひと回り大きくなり、内部から漏れ出ているであろう金色の光が大楯のフレームや繋ぎ目から迸っていた。

 

 その大楯は宙に浮きながら、まるで二人を見守るように佇んでいた。

 

(なんだ?...まるで...)

 

 そう心の内で呟き次に表現すべき言葉を探していたリザと呆然とその大楯を見上げるテルマだったが、大楯が動いた。

 

 備え付けられていたジェットバーニアを稼働させ、一直線で保管庫から飛び出し外に出て行こうとした。

 

「待て!待ってくれ!!私を置いていかないでくれーッ!!」

 

 テルマが叫ぶ。それはあの時彼に言いたかった言葉、今も彼を一人で行かせたことを後悔している気持ちを悲痛なほど伝えてくるものだった。

 

 だがその叫びは届かない。

 

 あっという間に大楯は地下工房を抜け出していった。

 

 力無く膝から崩れ落ちるテルマの鎧から、テルマ本人が鎧を脱ぎ捨て飛び出てきたがその表情はとても辛そうで今にも泣き出しそうなほどだった。

 

「テル、あれを追えないのか...?」

 

「無理よ、あの盾にGPS機能はないわ。それに、今から追ってもあのスピードじゃとても追いつかない」

 

「だよな...あれ、どこに行ったと思う?」

 

「知らないわよ!そんなの...!」

 

「そうじゃないって。あれってさ、アルの気が込められてるんだろ?」

 

「...ええ、そうよ」

 

「俺思ったんだよ。あの盾になんつーか意思?みたいものがあるんじゃないかって」

 

「意思...?」

 

「そう。つまりさ、あれに気を込めたアルと飛んでったアルの盾。それってもしかして何かしらの意思で繋がってるんじゃないのか?」

 

「ッ!?...それって、つまり...!」

 

「ああ!アルが生きてる可能性があるってことだよ。まあ、直感みたいなものだけど」

 

 テルマは思い出した。以前、あの盾を作っていた時アルが言っていた言葉。

 

『どんな絶望の中にも必ず希望は生まれる』

 

 テルマにとっての絶望とは彼が二度と帰ってこないこと。だが、今さっきその絶望の中からふっと湧いて出た希望。

 

(もしその先に彼が帰ってくる未来があるなら...!)

 

 テルマはパシンッと自分の頬を叩き喝を入れた。

 

「リザ、やって欲しい事があるの!」

 

「おうとも、引き受けた」

 

「まだ何も言ってないわよ?」

 

「いんや言ってるぜテルの顔が。探すんだろ、あいつを」

 

「ええ。軍上層部は彼を探す事は禁止したけど、盾を探すことは禁止にしてないわ」

 

「いいね!そういう屁理屈、嫌いじゃないぜ!」

 

 光は見えた。あとはそれを辿るだけ。

 

 二人の瞳に力強い光が宿った。

 

 それは奇しくも、どんな時でも諦めない彼のような強い眼差しと似たものだった。

 

 

 

  ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 間一髪のところで銃撃を防ぎ、村人達を守ったアルだったが現状あまり良くなかった。

 

 以前から感じていたデストロイ・モードの可能性を引き出したのは良かったが、急激なパワーアップと爆発的に膨れ上がった気を受け止めきれず義手と義足が悲鳴を上げていた。

 

 いつ壊れてもおかしくない。その上敵の銃撃は未だに止む事なく、アルは今もその全てを金色の光の壁で防いでいた。

 

(このままではジリ貧た...)

 

 せめて村人達を安全なところに避難させるか、一瞬でもこの銃撃から村人達を守ってくれる存在がなければこの状況を打開するのは難しいと感じていた。

 

 その時だった。

 

 アルは何かが迫っていることを感じ取り、それを目視で捉えるため上空を見上げた。すると、降ってきたのは黒い大楯だった。それも今のアルと同じ金色の光を迸らせ、光の壁で銃弾を防ぎながらアルの前に着陸した。

 

(この盾は...!?)

 

 盾の内側にある持ち手を握り持ち上げると、その重量と硬度、さらにはこの盾で何ができるのかが手に取るようにわかった。

 

 それと同時にまた頭にノイズが走り、誰かの声が頭の中で響く。凛としていながら可愛らしい女性の声。何を言っているのか聞き分けられないがアルは自然と口角が上がった。

 

 そして理解した。この盾がある以上もう大丈夫だと。

 

 アルは盾を地面に立て、敵めがけて全力で駆けた。

 

「こいつッ!!」

 

 兵士の一人がアルに銃弾を浴びせようとするが、それを回避し兵士に肉薄。そして右拳を力一杯打ち込み兵士の顔面にクリーンヒット。顔面を抉りながら完全に骨を砕きそのまま地面にバウンドさせる。背後の兵士にも顔面に後ろ蹴りを浴びせ、勢いで飛んでいかないように蹴った足の爪先部分で相手の頸を抑え込みながら思いっきり地面に叩きつけた。

 

 痛みであがるはずの声も出させないほどの圧倒的速度と力と技術。もはや残った兵士達に対抗する術などなく、せめて一矢報いようと村人達の方に引き金を引いた。

 

 だがそれをあの黒い大楯が阻む。

 

 ひとりでに動いたかと思えば、それは宙に浮き佇んでいた。

 

 さらに村人達めがけてロケットランチャーを撃ち込むが爆炎すら弾く盾が展開する鉄壁の光の壁。

 

 アルはそれを確認し、さらに兵士達を蹂躙し一瞬にしてその場を鎮圧してみせた。

 

 終わってみれば呆気なく感じるアルだったが、その実アルが繰り広げた戦いは圧倒的なもので村人達の目にはただ金色の光が残像を残し高速で敵を悉く壊していったようにし見えなかった。そして高速の戦闘の最中、アルが超人的な身体技能を駆使していたことを知るのは、それを獰猛な笑みで遠くから眺めていた不良執事と紳士的な最優の執事の二人だけだった。

 

 事が終わったことを確認し大喜びの村人達は泣きながらアルに感謝の言葉を口々にする。

 

 だがアルの心は晴れない。あまりにも多くの村人が死んでいった。それを思うと悔しさと申し訳なさで表情を暗くしてしまう。

 

「アルさん、気にしないでください...」

 

「...村長」

 

 ボロボロの村長が村の大人に介抱されながらアルの元にやってきた。

 

「たしかに大勢の仲間達が亡くなりました。でもそれをあなたが悔やむ必要はありません。私たちは何度もあなたに救われてきました。感謝こそすれど、あなたを恨むものなんてこの村には一人も居ません。それは亡くなった仲間達も同じです...だからどうか、自分を責めないでください」

 

「...村長、ありがとう」

 

「何を言いますか、お礼をするのはこちらの方です。本当にありがとうございます」

 

 村長が頭を下げたと同時に他の村人達全員が大人から子供までもが頭を下げた。

 

 その様子に困惑するアルは、頭を上げるようみんなに催促した。

 

「...とりあえず、みんなを弔おう」

 

「そうですね...生き残ったことを喜ぶのはその後でも遅くはありません」

 

 その後、生き残った者たちで亡くなった村の人達を村の広場の一箇所にまとめ丁重に火葬し弔った。

 

 遺体は骨まで焼かれ、遺灰となって風で空に巻き上げられる。  

 

 すでに日は落ち空は満点の星空を描いていた。その星空の下で村人達は華やかに宴会を開き死者の魂があの世で寂しくないようにという願いが込められた立派な催しなのだそうだ。

 

 村人達は火葬場の火を囲い、その周りで騒ぎ立て、亡くなった者達への手向として笑顔で明日のことを話し合って送り出す。

 

「落ち着いたようであるな」

 

「...紋白か」

 

 村長と一緒にアルが呑んでいると声かけられ、振り向くと紋白とヒューム、クラウディオの三人が立っていた。

 

 戦闘が集結してすぐヒュームとクラウディオは九鬼の人員を集め、遺体回収から戦闘不能の敵兵士達を拘束してくれた。彼らがいなければ未だに事は済んでなかったかもしれない。

 

「お前も酒を飲んでいたのか?」

 

「ああ。亡くなった彼らを送り出すのにしみったれた顔はできないからな」

 

「そうだな......今回の件、九鬼の責任だ。紛争を終結させておきながらその後の後処理がおそろかだった。民を守るものとして情けない限りだ。本当にすまなかった!」

 

 紋白が頭を下げる。それに追随してヒュームとクラウディアも頭を下げた。

 

 それを見て村長がわなわなとしているが、アルが口を開いた。

 

「顔を上げてくれ...あんた達九鬼の責任じゃない。それにそんな事、俺も村長も、この村のみんな望んじゃいない」

 

「しかし!紛争の主犯を取り押さえていながらその部下達の暴走を止める事ができなかった!」

 

「人の心はそう簡単に御せられものじゃない。怒りも、哀しみも、喜びも、恨みも後悔も、全て自分の中で生み落とされるものだ。それを縛り付けて制御しようと言うなら...それは人として死んだも同然だ」

 

「......でも」

 

「お前の言いたい事はわかる。あの時こうしていれば、もしあの時そうしていれば、と何度も思った。今だってそうさ、後悔ばかりだよ」

 

 そう語るアルの表情は穏やかで哀しそうにも見える。そんなアルを見守る村長も思う事があるのかアルと同じような顔をしていた。

 

「けどな、人はそうやって強くなる。後悔した分だけ人の心は強くなるんだ。例え辛くても苦しくても、生きてるうちは明日がある。それを乗り越え、心に刻みつけ、明日に活かすために前を向き、二度と同じ結果を招かないようにする。死んでいった者達の無念や痛みも背負ってな。じゃないと死んでいった者達がいつまで経っても報われない...」

 

 紋白はアルの言葉を真摯に受け止め、長い沈黙の後次の質問を問うた。

 

「...お前は、奴らを許せるか?」  

 

 紋白のいう奴らとは当然あの兵士達だろう。

 

「許せないな。だからこそ全力で戦った。その結果相手の命を奪ったとしても後悔はない。まあ、奴らに奪われる覚悟があったかどうかは知らないがな。それに、大切なものを奪われてそれを何事もなかったかのように綺麗に忘れ去ることなど、俺は絶対にしない.....といっても今の俺は記憶喪失だから大して説得力はないか」

 

 流石に話が長い上に重いのはどうかと考えたらしく、アルはほんのり冗談を混ぜたがあんまり効果はなかった。

 

 ヒュームとクラウディオも今は静かに俺と紋白の会話を聞いているが、一体何を考えているのだろうか?と酒を呑みながら考えていると、紋白がまた口を開いた。

 

「...我は...どうしたらいいと思う?」

 

「ん?それは“今どうすればいいか?”ということか?」

 

「そう、だな.....う、うむ、そういう意味だ」

 

 どうやら彼女にもまだ何か思うところがあるのだろう。

 

 それはきっと彼女にしかわからない心の内に秘めた何かなのだろう。

 

「なら、亡くなった者達を送り出してやってくれ。彼らのように、な」

 

 アルの視線の先には今も楽しく騒ぐ村人達がいた。アルの視線を追って紋白もそれを目にした。火を囲み、踊りあって、酒を煽り、笑い合いながら明日の展望を話し合う。それが紋白には強く生きようとする人の輝きのように見えた。

 

「そうであるな。お前の言う通り、しみったれた顔は不似合いであるな!」

 

 出会った時の紋白に少しだが戻った気がする。

 

 それを見てアルは顔を少しだけ綻ばせ、紋白の頭を撫でた。

 

「フニャッ!」

 

「お前は少し頑張りすぎみたいだから、働きだしたら世話が焼けそうだな」

 

 ワシャワシャと紋白の頭を撫で回すアル。その頭を撫でる手はとても大きくて温かいためか、紋白は最初こそ驚いたが今は素直に受け入れていた。

 

「む?ちょっと待て。今働き出したら、といったか?」

 

「ああ、言ったぞ。流石に本契約となると話は変わるがあくまで仮契約、アルバイトってことなら雇われることに問題はない」

 

「いいのか?」

 

「いいも悪いも、そっちから勧誘しにきたんだろ?それにこの村が今後どうなるのかも知りたいし、記憶だって取り戻したい。なら、お金も稼げて情報も多少融通してくれそうなポジションの方がいいに決まってるだろ?これからよろしく頼みますね、紋様」

 

「〜〜ッ、うむ!よろしく頼むぞアル!!」

 

 よっぽど嬉しかったのか紋白の顔がパァーッと笑顔で華やいだ。その笑顔は万人の心を掴むほどのいい笑顔だった。

 

「フハハ!聞いていたか二人共!優秀な人材を仮契約とは言え確保したぞ!」

 

「おめでとうございます紋様」

 

「紋様なら当然の結果です。赤子よ、仮契約とはいえ働くとなれば厳しく指導してやるから覚悟しておけ」

 

「なら、ありがたく学ばせてもらおうか.....あんた、あの時わざと俺を挑発してこういう結果になるよう仕向けていたな?」

 

「フン、さあな」

 

 ヒュームはシラを切ったが真実なのだろう。

 

 出会って早々に戦おうとしていたが、おそらくヒュームはアルの実力を紋白の前で再確認させたかったのだろう。そして少しでも紋白を喜ばせようとあんな賭けにでた。まあ、本人は負ける気なんてさらさら無かっただろうし、若干好奇心が混じっていたようにも見えたがこの老執事がただ己の欲求を満たすためだけに主人の意に背くようなことはない、と改めて事を振り返り確信した。

 

(ほんと、とんだ食わせ者だよあんた)

 

「ところで一つお聞きしたいのですが?」

 

 クラウディオがアルに尋ねてきた。

 

「なんですか?」

 

「何故、ドイツ軍に戻ろうとは思わないのですか?お会いした時、貴方がドイツ軍の者だと知ったはずです」

 

「....俺は、軍人が嫌いなんだよ」

 

「そうだったのか?」

 

「ああ、むしろなんで俺が軍人としてドイツで働いていたのか知りたいぐらいだ」

 

 アル自身、自分がドイツ軍人だったことはここ最近で一番の驚きだった。

 

 何せ、アルは軍人にいい思い出がない。おそらく傭兵時代後に何かあったのだろうが今のアルの気持ち的にいい感情は湧かない。

 

「なるほど。実は私達九鬼の本社は日本の川神にあるのですが、そこにはドイツ軍人とそれに関係のある人物がいるのです。貴方の記憶を取り戻すキッカケになるとは思いますが、すでに貴方は戦死扱いの身。どうされますか?」

 

「そうだな.....」

 

 記憶は取り戻したい。だが、顔を合わせて早々に軍に戻れなんて言われるのは真っ平御免だ。出来れば正体を隠したままで、その相手がどういう人物か探りつつ記憶を取り戻したい。だが、そんな都合のいい方法など

 

「ありますよ?」

 

「心が読めるのか、あんた」

 

「いいえ、貴方の顔を見れば大体想像がつきます。簡単なことですよ」

 

 それを簡単なことだと済ませないでほしいと思ったアル。やっぱりこの人物も油断ならない相手だと再認識した。

 

「それでクラはどうするつもりなのだ?」

 

「はい。アル殿はあまりその者達に顔を見られたくないご様子ですので、顔を隠し、正体を偽ってしまえばいいのです。好都合なことに今のアル殿の髪色は以前と異なります。染めたようにも見えないので充分通用するかと」

 

 今のアルの髪色は黒髪に金髪のメッシュが入ったような色合いになっていた。兵士達との戦闘中、デストロイ・モードを使用していたため髪全体が金色だったが、戦闘後デストロイ・モードを解くとこうなっていたのだ。きっと何かしらの影響が自分の体にあったのだろうと楽観視するアル。

 

「フハハ、なるほど。仮面を被り名前を偽って川神で過ごすということだな?」

 

「それで大丈夫なのか?」

 

「はい。問題ありません」

 

「九鬼にかかればそんなもの些末なことだ。赤子は心配せずとも良い」

 

「では仮面を後程用意するとしまして、まずは名前を決めなくては」

 

「なら、雇い主である紋様につけて頂こうかな」

 

「ほお。赤子にしてはいい提案だ、褒めてやるぞ」

 

「いらない」

 

「今のうちに口の利き方を教え込む必要がありそうだな...」

 

 アルの軽口にヒュームが眉間に皺を寄せ険しい表情になりながら指に力を込め始めた。アルはそれをサラッと無視して紋白の言葉を待つ。

 

「むむ!我か〜」

 

 紋白はまさか自分が名付けをするとは思っていなかったらしく、頭を精一杯捻り考えてくれている。

 

 数秒後、紋白はハッ!となり、自信満々にフハハッと高笑いをした。どうやらいい名前が閃いたらしい。

 

 そしてアルに一歩近づいた。

 

「決めたぞ!今日からお前はバンシィ!“バンシィ・ノルン”だ!」

 

 “バンシィ・ノルン”それは戦場を駆けていた傭兵時代の通り名だ。

 

「実はな、この名前を聞いた時からずーっと思っていたのだ。かっこいい名前だ!と」

 

「そんな理由で?つけてもらって悪いけど、この名前戦場ではかなり有名だぞ?」

 

「フハハッ!もちろんそれはわかっている!だが戦場の通り名は案外誰かと被ったらする物だ。それにアル・シュバルツはすでに戦死したことを公で発表されている。なら新しく誰かが名乗っても良かろう。故にそう名付けた!それともう一つ、我からお前に送りたい名がある」

 

「送りたい名?」

 

「うむ!遠くからであったがお前のあの金色の光を見た。稲妻の光とも違う力強い希望の光だ。だからこう名付けたい。“金獅子”バンシィ・ノルンと。どうだ?」

 

「とてもいい名前だと思います!」

 

「金獅子、実にいい響きですな紋様。...赤子、その名に恥じぬ働きをしてみせろ」

 

「ああ、わかっている...謹んでその名を賜ります...改めて、よろしく頼む紋白」

 

 アルもとい、バンシィは紋白の前で(かしず)き、最後に軽くウインクをして見せた。

 

「うむ!よろしく頼む!」

 

 紋白もバンシィに習って可愛らしくウインクをして返した。

 

 そんなお茶目な事をしながら二人は笑みを浮かべ、今日という日を最後まで笑顔で過ごした。

 

 “金獅子”バンシィ・ノルン

 

 それが彼の第二の名前である。

 

 バンシィとは元々嘆きの妖精にちなんで付けられた名だ。死が近い者にそれを叫び声で伝える。戦場で死の運命を告げる悪魔の如く奮戦し、放った弓矢が金切り声のように戦場に轟いていたからこそ彼の二つ名はそう名付けられた。だが、嘆きの妖精にはこんな話もある。簡単に言えば勇敢な者に奇跡を授ける、と。

 

 つまり奇跡をもたらす可能性を秘めた存在でもあるのだ。

 

 明日を望み最後まで足掻く勇敢な者達に希望をもたらした今日の彼のように。

 

 そして、そんな姿を紋白が見たからこそ彼は今日この日より、死の運命を告げる獣の名から、希望の象徴とも言える()()()()()となったのだった。

 

 




 申し訳ありません。いつもよりかなり長くなってしまいました。話を切るよりここで出し切った方がいいかなと思いまして、いざ書いてみたらこんなことになってしまいました。申し訳ないと少しは思ってます。
 もう紋様がヒュームやクラウディオをなんて呼んでいたかなんて覚えていなかったので、呼び方があちこちに飛び回ってしまいました。とりあえず次回からはクラウディオはクラ、ヒュームはヒュームで統一していこうと思います。でもクラウじい呼びとかはけっこう気に入ってるんで多分どっかで使います。
誰がこれいってたっけ?ベン・ケーちゃんあたりかな?
 とりあえず今回はここまでです。いかがでしたか?よければ評価と意見、感想、後日、脱字の報告など気軽にして下さると嬉しいです。それではまた次回お会いしましょう。明日は憂鬱な月曜日、皆さん頑張りましょう。私も頑張ります。では、
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