ハジメ達が村を飛び出して少し後のこと。
彼がとんでもない見た目の防具を着て湿地帯へ飛び出していった事が村中に広まった。
もはや保護者と言っても差し支えないアイテム夫婦は彼を心配し、事情を知っているヘファイが呆れ、年老いた村長アボクは若者の活発な動きに感心してウンウンと頷いている。
そんな中、武器の手入れを終えたアゥータがアボクの下を訪れていた。
「爺ちゃん。ハジメには例の話をしたのか?」
「…いや、まだ言っていない」
ゲブルト村が発展する一方で、解決しなければならない問題も増えていた。
規模が大きくなった事で余所からの出入りが増えた分、治安の悪化が懸念されている。
王国での暮らしが厳しくなると踏んで帝国内にこっそり忍び込む者が増えているのだ。
特に多いのがハンターの活躍で仕事を失った元冒険者。
彼らの多くは無法者であり、亜人を奴隷扱いする者が多い。
帝国軍を駐留させているとはいえ、村の巡回等に人手を回す余裕はなかった。
樹海の一件で数は抑えられたが、村の若い労働力は兵役義務が課せられてしまい、今ゲブルト村では広大な畑を管理する人手が圧倒的に足りていなかった。
兎人族や獣人族も手伝ってくれてはいるが、彼らに農耕の知識は殆どない。
教えながらでは作業が捗らず、かといって無理に仕事をやらせる事は論外である。
それを解決する為にアゥータは帝都グラディーウスへ赴いたのだが…
「想定済みだ」の一言で返されてしまい、詳細はつい先日手紙で届けられたのだ。
だがその内容を読んだ瞬間、彼とアボクは頭を抱えた。
「そう…か。出来るだけ早く済ませちまった方がいいかもしれないな。あの皇女様の事だ…予定を早めて今夜中にでも村に御一行様を引き連れて来ちまいそうな予感がするよ」
「そうなれば…彼にとっては些か居心地の悪い場所になってしまう…か」
「…ま、今の俺はあいつの先輩だ。…出来る限りの努力はしてみるさ」
「…頼む」
憂いを帯びた瞳で湿地帯の空を見つめるアボク。
村の住人達にも周知徹底を図ろうと、アゥータは村長宅を出ていった。
―――ギイイィシィィィッ!
(距離を詰めて、右の鎌で袈裟斬り…!)
怒り状態へと移行したショウグンギザミが先に攻撃を仕掛ける。
展開された鎌の先端を俺は目で捉える。
十分に距離を取る為のステップを踏むと同時に、空気を裂く音。
背中にじっとりと嫌な汗が滲んだ。
アレはまともに食らいたくないな…致命傷まではいかないが、確実に体力の半分は持っていかれる。
何とかしてコイツとの勝負にケリをつけたいところだが…
(――――――隙は……ある訳、ないかっ!)
モンスターが怒る姿は傍から見て、冷静さを欠いているように見えるが実際は違う。
この感覚は対峙するハンターにしか分からない。
忙しなく動き回る奴の目は、俺の一挙手一投足に向けられている。
息遣い、重心の傾き具合、視線…戦いに於ける観察力は向こうが上だった。
俺は思考を巡らせようとして、再びショウグンギザミの追撃が繰り出される。
今度は左の鎌で地面ごと俺を掬い上げるような逆方向からの袈裟斬り。
もう一度バックステップで躱そうとして―――
「ッ!?」
視界の端で動く右の鎌の存在に遅れて気づいた。
俺が後ろへ跳ぶことを分かっていて、右の鎌で横払いを仕掛けてきた。
(完全には避けられないか…っ)
片足が地面に着いた瞬間、咄嗟に仰向けの姿勢を取ろうと動いた。
結果。鎌の先端が脇腹を軽く裂いて俺の体は泥の地面に二回転半打ち付けられる。
「くっ…やってくれるな…!」
大した怪我ではないが、脇腹に手を当てるとベットリ赤い血が付いていた。
中の臓物を引っ張り出されずに済んだのは右の鎌に気づけたからだ。
敢えて俺の方から距離を取って向こうが疲れるのを待つつもりだったが…
逃げ隠れ、回復する余裕がないのを考えたらこれは間違いだったな。
(逆にこっちから攻める!懐にさえ入れば…!)
「フッ――――――!」
鬼人化からツインダガーを逆手に構えて走り出す。
ショウグンギザミが鳴き声と共に左右の鎌を大きく広げた。
自分の鎌を交差させて突っ込んでくる俺を真っ二つにするつもりか…!
「面白い!!」
走っていった時点で俺に残された回避手段はたった一つ。
鎌同士が触れる直前での鬼人化回避で奴との距離を一気に詰める。
そこからは最初の戦いと変わらない。
奴の脚を破壊して、転倒した瞬間…一気にカタをつける!
防具の内側、体の中で心臓の鼓動が加速する。
全身の血流が高熱に侵されて、視界はスローモーションと化す。
両目が捉える鎌と本体の動きにブレはなく、息遣いだけが鮮明に届く。
だからこそ、一対の鎌の接近と同時にある事が分かった。
(………この軌道、避けられないのか!?)
片方の鎌は水平よりに、もう片方は地面から掬い上げる角度をつけた逆袈裟に。
鬼人回避でも避けられない…!どっちかを避けようとすれば確実に残りが掠る!
ショウグンギザミの瞳が笑っているような気がした。
まんまと俺は嵌められたのだと、奥歯を全力で噛み締める。
「…ふ、ざける…なあああああぁぁぁぁ!!」
こんなもの当たってなるものか。
この程度の相手に一度だって敗北してなるものか。
俺はもうあの時の弱い俺じゃない。
「おああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
まだ、何かある筈だ…!
考えていたら遅すぎる、先に体を動かす事だけ考えろ!
痛みを怒りに、怒りを力に…死の恐怖何するものぞ。
駆けろ、駆けろ、避けろ、避けろ――――――跳べ!!
―――次の一歩を踏み出した時、自分の意思とは関係なく体が動いた。
逆手に持っていたツインダガーを前方に構えて腰を落として足の裏に力を溜める。
一対の鎌が拳一つ分にまで迫る瞬間、ショウグンギザミの本体へ飛び込む。
鬼人回避やローリングとも違う…双剣の切っ先を突き出してのダイブ。
地面を蹴った脚から捻り込む力が加わり、視界が360度を繰り返し回転する。
―――シャァァァッ!?
最初に感じたのは、硬い殻に鋼鉄の刃が弾かれる嫌な感触。
だけど逸れた刃の切っ先が黒々とした柔らかい球体…奴の目玉を貫いた。
ショウグンギザミの悲鳴が俺の耳元で反響する。
回転しながらの斬撃はそれでも止まらない。
目玉を貫通した勢いを殺さず、殻の中でも比較的柔らかい頭部に切り込む。
刃が回転して殻と肉を抉る様は、さながら
全身に生温かい青い血が降りかかる。
息の続く限り、俺はカッと目を見開いて雄叫びを上げた。
「ウオオオォォォォォォォッ!!!」
*
奴の悲鳴が聞こえなくなるまで、その攻撃が止んだ後も俺は一心不乱に双剣を振り続けた。
後に残っていたのは獣のような息遣いの俺と、とっくに事切れていたショウグンギザミの死体。
後から襲ってくる疲労感に耐えながら、さっきの動きを思い出す。
「…あれは…」
教本にも載っていない、陳腐な表現かもしれないが
どうして俺がそれを使えたのか、自分でも分からなかった。
(…剥ぎ取り…してる場合じゃねえな)
ゆっくりと息を整えて、顔を覆うマスクにこびりついた血と肉片を手で払い落す。
戦いの間に逸れてしまったシアとアレーティアが心配だ。
もし魔人族と戦うような事になっていたら、二人の身が危ない。
生臭い死体に背を向けて、来た道を引き返す。
(どうか無事で…無事でいてくれ…二人とも…!)
サンブレイクのダウンロードが終わりそうなので更新しに来ました()
前書きの方で例のアレらがどうなるのかお分かりですね…ハジメ君ドンマイ!
作中ちょびっと触れましたが、まだこの世界にスタイルは定着してません(またしても知ってるのが恐らく例外連中だけとかいう理不尽…後輩に優しくない先輩達だぜ!)
アンケートの方を軽く見たらほぼ推進派でびっくら仰天です。
うどんやのモンハン薄い本シリーズ読んでこなきゃ…(使命感)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。