モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 活気あるゲブルト村の道から数メートル離れれば、真っ暗な樹海がある。
教授は一人で黙々と辺りの地面を探索していた。
ふと彼の足元で何かが光り、彼はスッと屈んでそれを摘まみ上げる。

 それは人の拳くらいの大きな雷光虫だった。
甲殻によって守られた翅を開くと、放電器官が露出して青白い光を放った。
手のひらに生じる刺激に対し、教授は身じろぎ一つせず静かに雷光虫を観察する。
やがて雷光虫は何かに惹かれるように飛び立って樹海の奥へと消えていく。

 一匹、また一匹と…無数の雷光虫が暗闇の中に姿を隠す。
教授はそれが何を意味するのか理解して、やれやれといった風に首を振る。

「彼の傍にいると…退屈しないという事ですか」

 暗闇の奥深く、未だ多くの亜人が暮らす樹海で…一匹のモンスターが吠えた。



賑やかな食事と…

 

 洒落た木の螺旋階段を上がると二階は四部屋全てが寝室になっている。

俺は内心ホッと胸を撫で下ろした。もし共用の部屋とかでアレーティアが「一緒に寝る」とか言い出したら流石にヤバかった。

当の本人は特に不満そうな反応もしておらず、やや満足気に部屋の中を眺めている。

 

 四部屋の内一つは以前俺が使っていた家具とベッドがそのまま残っていた。

シアに「流石に頭装備外さないと危ないヒトみたいですよぅ」と言われ、ほんの少しだけ傷つきながらも村の中でいつまでも来ている必要はないと思って脱いだ。

 

「ふ、はぁ~…」

 

 ギルオスヘルムβを被っている間は熱気が籠っていた。

外した瞬間、開けっ放しの窓から運ばれる冷たい夜風が顔を気持ちよく撫でる。

よく見たらこの部屋だけアイテムボックスが設置されていた。

オーダーレイピアは身に着けたまま、ハイメタアームβも外していつもより少しラフな格好に。

 

「………」

 

 夕食はシアとアレーティアの二人で作ってくれることになっている。

呼ばれるまではまだ時間があった。俺はそっと部屋の扉を閉めてベッドに体を投げ出す。

 

「だっはぁぁぁ~…つっかれたぁ…」

 

 防具を二つ外すだけで、今だけは警戒を解いていいのだと体が認識する。

張り詰めていた神経と凝り固まった筋肉を、柔らかなベッドが包み込んでくれた。

思わず枕に顔を埋めてスーッと匂いを嗅いで…

 

(………あっ、やべ)

 

 鼻腔を擽る仄かに甘い香りは女性特有の匂いだ。

もし俺が出て行ってから寝具がそのままだったなら、このベッドは優花が使っていた。

つまり俺は同級生の女子が眠っていた枕に顔を埋めて匂いを嗅いでいる変態という事に…

 

「………うん、気のせいだな」

 

 とはいえ…罪悪感交じりに元々此処は俺のベッドだったという言い訳を頭の中でフル回転させて、俺は匂いを嗅いでなかった…未遂だったということにする。

誰かに見られていた訳ではないし、匂い嗅いで興奮したとかそんな事はない。

 

…匂いで思い出した…ノイントは何故あんな癖が付いたんだろう?

一種のアロマテラピーとも考えたが、アラン医師は精油などを使ってなかった。

しかも反応したのは精油などではなく俺の体臭…

俺は精油とか整髪料なんかは付けていないし―――この世界では男がそういったものを使う文化はあまり根付いていないようだ。あっても貴族の香水とか―――俺自身、体から変な臭いがしているとかは考えにくい…というかそうであってくれ頼むから。

 

(女の子に体臭云々言われたら…多分、一週間は凹むな…俺)

 

 結局、ノイントの匂いフェチに関してはその答えを本人のみぞ知る…か。

そんな事を考えていると、ご飯の準備が終わったのだろう…シアが呼んでいる。

 

「ハジメさーん。ご飯できましたよー!」

 

「分かった、今いく!」

 

 返事をしながらアイテムボックスの蓋を閉め、部屋の灯りになっていた蝋燭の火を消す。

漂ってくる良い香りと彼女とのやり取りが、故郷での日々をぼんやりと思い出させる。

部屋で作業に熱中する俺と父さんを母さんが呼びに来る構図。

食卓ではお互いの仕事の進み具合や明日の予定なんかを話し合っていたか…

 

(二人とも…ちゃんと飯食ってるかな…)

 

 俺が行方不明になって落ち込んではいるだろう。

食事や睡眠を取らないような事態にだけはなっていない欲しいと願うばかりだった。

 

 

「おぉ…」

 

 食卓に並ぶ様々な料理を見て思わず驚きの声が出てしまった。

主食の麺麭はトースターも無いのにどうやったのか、表面に軽く焦げ目が付いていい香りがする。

皿に盛られた薄切り肉と軽く炙って香草を添えられた腸詰、サラダは色々な野菜が入っている。

スープは色と香りはミネストローネ風だが、日本人の俺から見ると豚汁に見えなくもない。

熟成された乾酪がスライスされて共用の皿に載せられていた。

 

「この短時間でこれだけ準備したのか…たった二人で?」

 

「ん、これくらい調理器具が揃ってたら簡単」

 

「スープはただ野菜とか肉の余りを刻んで煮込んだだけですしねー」

 

 こんなに食料とかマイハウスに置いてなかったと記憶しているんだが…

そんな事を考えていると、俺の表情を見て察したシアが自宅から持ってきたのだと説明する。

シアの自宅…兎人族が集団で生活を送っている家の奴を持ってきたのか?

 

「悪いな、今度何かでお返しを―――」

 

「い、いえそんな…!私達はハジメさんに返しても返し切れない恩がありますから…」

 

 彼女曰く兎人族の全員が俺の名前を聞くだけで感謝の言葉を口にするとか…

いや、流石に全員はねーよ!と思ったが彼女の表情は本気だった。

向かいに座ったアレーティアもシアの言葉にうんうんと頷いている。

 

「村の人達がハジメを見る表情だけで分かる。凄い人気者」

 

「そうなんですよアレーティアさん!」

 

「とりあえず飯食おうぜ。冷めちまう前に」

 

 これ以上話していると、二人が口を揃えて俺を褒め殺しにしかねない。

それを避けるべく目の前の食事へ誘導すると、二人もそっちに意識が向いた。

早速両手を合わせていただきます…と思ってふと気になる事を口にする。

 

「二人は食べる前に何か特別な事をやったりするのか?」

 

「…特別な事?」

 

「俺の故郷じゃ必ず食べる前に両手を合わせていただきますって言うんだが…」

 

「あぁ~…私達のご先祖様は…種族内の信仰とかにもよりますけど、食事の前に必ず感謝の祈りは捧げてたみたいです。…今の子はそういうの無しに、各々好き勝手に食べてますね」

 

「ん、私の国は家族で食事をする時だけ。一番偉い人が酒杯を口にしてから食べる」

 

 こっちに来てから時々気にかけてはいたが、やっぱり国や種族で風習があるんだな。

特に深い意味はないが、こういう機会があったらそれぞれのやり方を試してみないかと提案する。

 

「ん、面白そう…ハジメの故郷のやり方、最初に教えて」

 

「お願いします」

 

「よし。まずはこうして…手を合わせてだな…」

 

 合掌して指の先を顎と口の間くらいの高さに合わせ、言葉と共に礼をして―――

 

「いただきます」

 

「「いただきます」」

 

 人によっては箸を指と指の間に挟んだりもするが、この世界に箸という食器は存在しない。

けどいつか、そう遠くない日に錬成で箸を自作して見たいとは思った。

故郷で見た職人のそれには遠く及ばないかもしれないが…

 

(必要なのは箸に適した木材と、漆か樹脂だな…幸いどっちも近くで集められそうだ…)

 

 等と頭の片隅で考えながら、ナイフとフォークを手に久しぶりの豪華な食事を堪能する。

腸詰は切れ込みを入れると中から油がじゅわっと染み出て食欲をそそる。

口に入れると中の皮がパリっと香ばしく、肉は程よく柔らかい。

 

「んん、こりゃいけるな!香りが良いから脂のしつこさが気にならない」

 

「ん、香草選びと焼き具合は私がやった。あまり時間をかけないのがコツ」

 

「ハジメさんハジメさん!こっちのサラダも美味しいですよ!」

 

 シアに言われて口の中の腸詰を咀嚼しながらフォークでサラダを突っつく。

刺しただけで今の腸詰と似たパリっという音がして新鮮な野菜だと分かった。

かけられたドレッシングは甘酸っぱくて野菜の青臭さを程よく緩和している。

 

「む…美味い!このサラダはシアが?」

 

「はい!ニッカさんの畑で今朝取れたものを使ってます!ドレッシングは自作です!」

 

「ハジメ、これ」

 

「お、サンキュ…あむっ」

 

 アレーティアから差し出された麺麭を手に取ると、まだほんのり表面が温かい。

硬めの麺麭は手で一口サイズに千切ってから口に入れる。

肉、野菜と来て主食の麺麭がそれらを包み込んで言葉に出来ない満足感が生まれた。

 

 今度は二人に言われるより前にミネストローネ風の汁物を一口啜った。

濃厚…だけど味にしつこさを感じない。細かく刻んだ野菜は柔らかくなっている。

チラと横目で見ると、シアが麺麭を千切って汁物に浸している。

…成程、そういう食べ方もアリなのか…

 

「ハジメ、ハジメ」

 

「ん…おぉこれは…!?」

 

 アレーティアが再び差し出した麺麭は一口サイズにカットされていた。

しかし注目すべきはそれだけではない。スライスされた乾酪が溶けて上に乗っている。

 

「一体どうやって…」

 

「…フフン」

 

 誇らしげに笑みを浮かべたアレーティアが人差し指をピンと立てて、その先から火を出す。

成程、超弱めの火で乾酪を溶かして麺麭に乗っけたのか…しかしこれは…

口に入れると、故郷でよく食べていた休日の朝を思い出させる味がした。

 

「美味い。口の中が幸せだ…」

 

「あっずるいですハジメさん!アレーティアさん、私にも―――」

 

「ん、準備するから待って」

 

…こんな風に誰かと楽しく食事を取るのは、ホルアドに来る前の野宿以来だったか…

あの時はあの時で、俺自身色々抱えててまともに飯の味も楽しむ余裕がなかったけど。

願わくばこの穏やかな食事が毎日あって欲しい。

 

 

 食事の時間はあっという間に終わった。

少し膨らんだ腹を擦って、俺は椅子に凭れ掛かって満足気に息をついていた。

 

(途中から二人にめっちゃ食べるのを勧められたんだよな…)

 

 その様子ときたら、田舎の婆ちゃんを彷彿とさせる。

…故郷で元気にしてるかなぁ…風邪とか引いてなきゃいいけど…

シアはこっちで寝る為に態々服とか諸々家から持って来るらしい。

それなら向こうでと思ったが、縋るような目をされて言えなかった。

 

「ハジメ。洗い物…終わった」

 

「お、悪いな…それくらいは俺も手伝おうと思ったんだが…」

 

「いい。此処で寝泊まりさせて貰う…お礼の代わり」

 

「礼なんて気にしなくていいさ。此処は俺も借りてるようなものだしな」

 

 食後のお茶くらいは自分で淹れようと席を立つ。

すると突然、アレーティアにフロギィSメイルの裾を掴まれて俺は足を止めた。

 

「ん、どうしたアレーティア…?」

 

「………」

 

 心なしか顔が赤い…熱でもあるんじゃないか?

等と漫画にありそうな台詞を心の中で呟きつつ、彼女の言葉を待つ。

下腹部の前で両手を合わせてモジモジしていたアレーティアが、ようやく口を開く。

 

「…ハジメ…お願いが…あるの」

 

「お願い?」

 

「…ハジメの…」

 

「俺の?」

 

「………ハジメの血が、飲みたい」

 

………マジかよ。

 




…さーてR指定で書くべきか通常で書くべきか迷うなぁこの展開…

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
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