モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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――――――夢を見た。
懐かしくて、醜い、悪臭を放つ夢だった。
何人殺したのか分からない。
何人殺したのか覚えていない。
けれど…最後に殺したあの人の最期だけは、鮮明に覚えている。

 彼女は血に塗れた礼服のまま、大好きだった―――の下へ向かう。
物心ついた時には病床に伏せ、その命は風前の灯だった。

 帝国一と言われた美貌は病で醜悪と呼べるほどに歪み、彼女の頭を何度も撫でてくれた手は日に日に痩せ細って動かす事すら儘ならない。

 彼女の足音に気づいて、顔を向けるが―――は目が見えない。
―――のベッドに近づく彼女の手には血まみれの剣が握られている。
彼女と―――、二人と血の繋がりのある者達の命を奪った刃だ。
その刃で最後に切り伏せるのは―――の首一つ。

 それで彼女という人間は完成する筈だ。
胸に抱いた野望を、人間という種族を存続させる為のスタートラインに立てる。

「――――――ぁ、あぁ、あああぁぁぁ!」

 しかし剣を持つ彼女の顔は溢れんばかりの悲しみを滲ませていた。
―――は大事な人だ。―――が居なければ自分はこの世にいないのだから。
殺すのなんて間違っている。もっと別の方法がある筈だ。

 だから―――お願いだ…貴女が一言、彼女に言ってくれればいい。
「死にたくない」「生きたい」…そう願えば彼女は剣を振らずに済む。
脈々と続いた血まみれの風習に終止符を打つことが出来るのだ。

「■■■■■。貴女はいずれこの国をあの人と並んで背負って立つ者になるのです。…きっと貴女なら大丈夫よ、貴女はとっても強いのだから。ほら、涙を拭いて…それで…」

 彼女はそれ以上―――に喋らせまいと剣を握る手に力を込める。
こんな度し難い事が、許されていいのか。神は、何もしてくれないのか。

「…そう、それでいいのよ…貴女はこれから先、多くの苦難を乗り越えて、多くの敵に克つ…そんな貴女がこんな所で立ち止まってはいけないわ」

「――――――――ああああああああぁぁぁぁ!!!」

 獣地味た叫び声を上げながら、彼女は―――に向かって剣を振り上げる。
誰でもいい、今この瞬間に誰かが止めてくれたなら、彼女は変われるだろう。
花を愛で、年頃の町娘のように、純粋で穏やかな時を過ごしていける筈だ。

「…貴女は、とっても強くて優しい…自慢の…」

「ッ!」

 グチャリ。
鋼の刃が―――の脳天を砕いて辺りに血飛沫が舞う。
彼女は再び剣を引き抜いて、―――の心臓目掛けて剣を突き立てる。
とっくに事切れているだろうに、それが分かっていても手を止める事は無かった。

 この時から、否…こうなると知った時から彼女は壊れていた。
女だてらに勇ましく敵を討ち滅ぼす救国の英雄などと大層なものではない。
未来の為にと剣を振るいながら、血の繋がりすらも断ち切るロクデナシだ。



飢えたドラキュリーナに狩人の血を

 

 「血が飲みたい」―――――――――アレーティアの発した言葉に俺は軽く目を見開いた。

大迷宮で出会ってから今の今まで特にそれらしい素振りも見せなかったから気に留めていなかったが、彼女は正真正銘の吸血鬼だった。

血を吸わなくても人間と同じ食事で生きられるとはいえ、渇きは感じていたのだろう。

 

「ずっと、言おうか迷ってた…」

 

 その迷いが何を意味するのか、敢えて口に出さなくても察しは付いている。

いきなり血を吸って良いかと聞かれて「はい、どうぞ」と安易に答えられる奴はいない。

この世界で吸血鬼を知る者は殆どいないかった。

彼女の言葉を聞いて、どんな反応をするか想像に難くない。

 

「嫌だったら…断って。…もう…二度と、言わないから」

 

 軽薄に「あぁ、分かった」とは答えられない。

アレーティアがこれ程まで思いつめた表情をしているのだから、俺も慎重に考えて答えを口に出す必要があった。

…とはいえ、内心血を吸われるくらいは構わないと思っているんだが…

流石に致死量吸われてころっと死ぬなんて事態は避けたい。それはしっかり確認しよう。

 

「幾つか質問してもいいか?」

 

「………?」

 

「その…これは俺の故郷にあった吸血鬼の伝承云々、創作物から来るただの疑問なんだが…例えばの話、アレーティアに血を吸われたとして俺が他の生き物に変化したりという事はないか?」

 

 我ながら馬鹿な質問だとは思うが、どうしてもこれだけは聞いておきたかった。

彼女は驚いて少し目を見開いたが「そんな話は聞いた事がない」と答える。

ふむ…どうやら血を吸う事で起こる副作用的なものはないと考えていいようだ。

 

「血をどれくらい吸うか、それは教えてもらえるか?」

 

「…ゴブレット一杯分あれば満足…」

 

 酒杯…500ml…いや300mlもあれば足りると考えるべきか…後は頻度だな。

 

「暫く…ってのは具体的にどの程度なんだ?」

 

「ヒトそれぞれ。…毎日欲しいと思う吸血鬼もいるし、月に一度しか吸わない吸血鬼もいる…私は後者…我慢すれば何百年吸わなくても平気だったから」

 

 これ以上質問することはなく、俺はもう一度下を向いて顎に手を当て考え込む。

この先どれくらいアレーティアと一緒に居るか分からない以上、吸血行為を一度きりにしてしまうのはなんだか可哀想な気がした。

俺自身オルクス大迷宮で彼女(と教授)に救われた恩義を感じているし、何よりも吸血鬼に血を吸われるという貴重な機会を前に好奇心が芽生えている。

 

(…それに加えて…な…)

 

…と心の中で呟いて、アレーティアの顔色をチラと窺う。

彼女の不安そうな赤い瞳が静かに俺の答えを待ち続けていた。

 

(300年以上も血を吸ってない…。…常人なら耐えきれず発狂しちまいそうだな…) 

 

 彼女の言葉を信じるなら、吸血行為に理性を崩壊させるほどの衝動はない。

だが毎日でも血を欲しがる吸血鬼も居たという事実を聞いたうえで、彼女の中に吸血への渇望が確かに存在していることを強く感じられる。

同時に不安なのだろう。恐れられて突き放されるのが怖いのだと顔に出ていた。

 

「――――――アレーティア」

 

「………ッ」

 

「俺の血で、本当にいいのか?」

 

 血を吸わせること自体にもう躊躇いは無くなっていた。

最後に確認したかったのは、俺自身の心に生じた不安の解消である。

彼女は高貴な身分の吸血鬼だ。そんな彼女に対して血を捧げるのが、俺のような平凡で取柄のない男であっていいのか…吸って後悔しないかという問いかけだった。

 

「…いい。ハジメの血が…吸いたい」

 

「………フゥ、分かった。それなら俺は構わないぞ」

 

「っ!!いいの?本当に?」

 

 さっきまでの不安だった表情が吹っ飛んで、一気にパァッと花が咲いたような笑顔になる。

普段は口数も少なくルゥムさんとよく似て表情の変化が乏しいアレーティアにそんな表情をされて思わず胸が高鳴ったのを誤魔化す様に咳払いを一つして返事に余計な一言を付け加える。

 

「あぁ。もしかしたら不味いかもしれないが…それでもいいなら、な」

 

「…不味いなんてこと、ない…匂いで…分かる」

 

「匂い…体臭ってことか?」

 

「違う。吸血鬼にしか分からない…血の匂い」

 

 彼女達にしかない特殊な嗅覚という奴だろうか?

しかし…ここでも匂いか…こっち来てから水に濡らした布で身体を拭く事はあっても風呂に浸かってないから不安なんだよなぁ…ましてや今日は湿地帯で泥と血にまみれた後だし…

 

 

「…時間も惜しいから、手早く済ませる」

 

「おう、分かった。俺はどうすればいい?」

 

「…まず、服脱いで…上だけでいい」

 

 アレーティアに言われた通り、俺はフロギィSメイルと中に着ていたインナーを脱いだ。

幸い食後で身体も温まっていたし、今日の夜はそこまで冷えなかったから抵抗感は無かった。

…彼女の前で(上半身だけとはいえ)裸になるのは少し恥ずかしいと思ったが…

 

(疚しいことは何もない…これは只の恩返し…そう、彼女達にとって当たり前で、その手伝いをしているだけに過ぎない…!よって俺の行為は一切法律的にアウトじゃない…筈!)

 

「椅子に座ったまま…力抜いて、少し俯いた感じで…」

 

 こういう時、故郷の自室にあるゲーミングチェアのような肘掛けが恋しくなる。

硬い木の背もたれに肩甲骨を当て、(うなじ)を露出させると後ろでヒュッ息を呑む声。

首筋は人体の中で一番血を吸いやすい。それは現実でも創作物でも変わらないようだ。

 

「…ハジメ。…目を瞑って…」

 

「…分かった」

 

 五感の中で常に意識が集中している視覚を閉じれば、他の感覚器官全てに意識の残りがいく。

膝の上に置いた両腕の内、右手に柔らかな人の手の感触を感じた。アレーティアの両手だ。

 

「…ふぅ…すぅ…」

 

 右の耳から伝わる彼女の吐息が首筋に当たると、自然と肌が粟立つ。

興奮は…してないと言えば嘘になるが、流石に変態すぎるので自重している。

 

「…ふ、ぁ…」

 

 ぬちゃと微かに湿った音が聞こえたのは、恐らくアレーティアが口を開いたからだろう。

右手を掴む彼女の両手にほんの少しだけ力が込められて、自分とは違うひんやりとした肌の温度に心地よさを感じながらも、鼻呼吸だけで精神を落ち着かせる。

それもあまり音が大きくならないよう長めに吸い、ゆっくりと時間をかけて戻す。

 

「―――――――――ッ」

 

 コリッ、ズブリと生温かい感触を首筋に感じた直後。

鋭い犬歯が皮膚を突き破って、思わず息を止めてしまった。

数秒間、体を硬直させてから彼女の反応を待つ。

 

「…ん、く…ふー…ふー…」

 

(…鼻息が、くすぐったい…)

 

 完全に首筋へ口をつけた事で、彼女は鼻で呼吸するしかないのだろう。

肩から鎖骨にかけて皮膚を撫でるそれに身悶えしないよう奥歯を噛む。

意識的なものか、或いは無意識なのか…右腕を掴む彼女の手から更に力が込められた。

 

「…ぢゅるぅ!…んぅ、チュ…んく、んく…」

 

 口の中に溜まった唾液に混じる俺の血を吸い上げる彼女の声は、官能的という他なかった。

こくこくと喉を鳴らして飲む彼女の気配は、目を閉じていても分かるくらい満足気だった。

このまま静かに吸血が終わるのを待とうかとリラックスしかけた次の瞬間―――

 

「…ん、れるぅ…じゅる、ぐちゅっ…ふぅ……んん!」

 

「…ッ!」

 

 アレーティアの牙で穴の開いた周りを、生温かい柔らかな何かが這っている。

それが彼女の舌だと分かるや否や我慢出来ず息を呑み、口の中に溜まった唾を飲み込んだ。

下腹部の血流が激しくなるのを精神力だけで止め、意識を別のことに集中させようとする。

しかし血を吸われた反動なのか、頭に血が回っていないからか、全然集中できない。

 

「くちゅ、くちゅ…チュルッ、っちゅっ…ぷぁ―――ハァハァ」

 

 ほんの数秒だが彼女は鼻で呼吸することを忘れていたのだろう。

首筋から口を離して息を荒くして…程なくして血が溢れそうになった首筋へ噛みついてきた。

二度目は牙を立てず、淫らな吸水音を立てて俺から血を貪る。

 

 これはただの吸血行為、性的な行為とは一切関係なく、彼女達にとって当たり前のこと。

…そう割り切ったつもりだが、内に眠る性欲(本能)は体を正直にさせようと働きかけて来る。

 

 そのつもりはなくとも、彼女との淫靡な行為を妄想に描こうとして思わず喉を鳴らした。

すると俺が痛がったと思ったのか、彼女は吸血を止めて話しかけてくる。

 

「…っハジメ、痛かった!?」

 

「………いや、平気だ。…まだ飲むか?」

 

「…ん、ごめん…もうちょっと…欲しい」

 

「…分かった。済んだら、教えてくれ」

 

 俺の言葉に対してアレーティアからの返事はない。

代わりに彼女は再び俺の項へと口をつけてまた血を吸い始める。

一心不乱に、時折鼻息で首筋を擽り、舌で舐めてを繰り返した。

彼女に気づかれないよう、薄汚い欲望を振り払うことはモンスターと戦うよりも大変だった。

 

 

 アレーティアから「もう終わった」と告げた時、どっと疲れに襲われたのは言うまでもない。

血を吸われた事で貧血気味になっているのかもしれないが…それ以上に欲望と理性の衝突が…

 

「ハジメ…ありがとう…ご馳走様」

 

「うん?おぉ…どういたしまして。あと、お粗末様でした…ふぅ~」

 

「…終わった後でいきなりこんなことをお願いするのはどうかと思うけど…。また…ハジメの都合がいい時に―――」

 

「あぁ、お安い御用だ。…ちょっと今はこのままにさせてくれ…」

 

 背もたれに寄り掛かって両手をだらりと宙ぶらりんにしてだらしなくしていたが、少し気になって俺は首筋へと片手を当てる。

血はもう止まっており、穴の開いた場所を指で押しても痛みは感じなかった。

少ししたらいつものようにお湯を沸かして体を拭いて寝ようと思ったのだが―――

 

「は、ハ…ハジメさん!?アレーティアさんと、な何をしてたんですぅ!?」

 

 すっかり忘れていた。寝る為の荷物を纏めて持ってきたシアが入り口で棒立ちしている。

部屋に戻ってきたら男が上半身肌で椅子に座ってたらそりゃあビックリするよな。

…と思ったが、どうやらアレーティアの方も何やら気になることをしていたらしい。

丁度俺の死角になってる背後にいたから気づかなかった。

 

「…あ、シア…」

 

「何って…アレーティア、話しても大丈夫か?」

 

「ん、人に話されて困るようなことじゃないから平気」

 

 吸われてる最中を見られたら流石に俺も動揺したが、事後なので特に問題はない。

フロギィSメイルを着直して椅子に座ったまま首だけシアの方に向けて事情を話す。

 

「シア。会った時に聞いたと思うがアレーティアは吸血鬼でな、暫く血を吸ってなかったから吸いたいってお願いされたんだよ。んで吸い終わって今に至るってことだ」

 

「な、なんでハジメさんなんですかぁ!わ、私でも良かったじゃないですかぁ!」

 

「…偶々吸いたいと思ったのがハジメだった。シアが吸っていいって言うなら…」

 

 アレーティアの赤い瞳が妖艶な光を浮かべ、挑戦的な目つきでシアを見上げる。

シアは自分がさっきまでの俺の体勢で吸われている姿を想像したのか、顔を真っ赤にした。

…ウサ耳美少女と吸血鬼美少女か…アリだなとか内心妄想を膨らませて萌える。

 

「なっ、ななな…そんな急にいい言われてももも…!」

 

「…本気にしないで…」

 

 ジト目でアレーティアに見られたことでシアは我に返って恥ずかしそうに俯く。

余談だが彼女曰く俺の血は吸血鬼基準でそれなりに美味だったそうな…

俺としては普段から脂っこいものばっかり食ってるから血がドロドロになってないか心配だったが、どうやらそれなりに健康状態は整っていて悪くないそうだ。

血を吸っただけで生き物の状態の良し悪しが分かる吸血鬼の凄さを改めて知った。

 

 そんなこんなでひと悶着ありながら、改装されたマイハウスでの一夜が終わる。

それぞれの自室へと戻り、俺はベッドの上に寝転がって静かに天井を見つめていた。

自然と瞼が重くなり…このまま夢の世界へと旅立とうかという時だった。

 

「おーいハジメぇ、まだ起きてるかー?」

 

(…ん、この声は…アゥータさんか)

 

 開いている窓の外、マイハウス前の松明の近くでアゥータさんが手を振っていた。

こんな夜遅くに何の用だろうか…?まさかモンスターが村の近辺にでも現れたのか?

そうだったとしたら早めに動いた方がいいとベッドから起き上がり窓から顔を出す。

 

「起きてますよ。どうしたんですか、こんな時間に」

 

「おう、ちょいとお前さんに来て欲しい用事が出来てな。いけるか?」

 

「(用事…なんだろ)分かりました。着替えて準備します」

 

 この時、まさかあんな事になるなんて思いもしなかった。

俺がトータスに来て初めて得た安息の場所で、息苦しい思いをすることになるなんて…

 




 クソ悲しいエピソードの断片書いた後にちょいエロとかいう情緒ぶっ壊れな奴。
そして最後の二行だけで分かるハジメ君の平和なスローライフ終了のお知らせ。

 これを書いてる間にプレイしてるゲームで新キャラが出て発狂したり相変わらず競馬で負けたり仕事で挫けそうになったり色々ありましたが元気です(白目)

 R指定の方は現在資料集め(エロゲ)をプレイしつつ熟考中です。
出来ればR指定くらいはねっとりしっとり濃い目に書きたいので……

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
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