モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 月明りも届かない夜の樹海を、森人の青年が駆け抜けていた。
彼の体には無数の焼け焦げた痕や切り傷があり、至る所から出血している。
適切な処置を施さなければ出血多量で死ぬかもしれない。

 それでも彼は走るのを止めない―――否、止められない。
後ろから聞こえてくる遠吠えにも似た咆哮と、金属を擦り合わせる音。
どうして、どうしてあんな化け物がフェアベルゲンに現れたのか…

 あんな奴らを止められる戦士など森人にはいない。
如何に先祖返りの族長といえど、強さの底はヒトの枠を出ないと知れている。

「誰か…助けて…誰か…!」

 直後、青年は何かに躓いて斜面を転がり落ちる。
もはやこれまでかと痛みから逃れる為に彼の意識は闇に沈んでいく。
最後に体が冷たい水に打ち付けられる音と肌寒さを感じた。



夜明けの村にて

 

 無我の境地で続けた錬成の自主練は思ったよりも捗った。

皿や椀の形をイメージ通りにするまで二、三時間。そこから更に集中力を高める為にナイフやフォークといった細かな物を錬成を繰り返し、空が明るくなり始めた頃には安定してそれらの物も錬成出来るようになった。

 

 ステータスプレートを確認すると錬成の派生技能”精密錬成””複製錬成”が追加されていた。

これまでは鑑定・分離・融合・圧縮しか出来なかった為、新たな技能の獲得は何気に嬉しい。

特に”複製錬成”に関しては日用品のストックを作るのに最適だ。今回は食器類だけに抑えていたが、いずれは故郷の機械などを模して工作などしてみるのもいいだろう。

 

「ん、ん゛~っ!!―――ったはぁ~腰いって」

 

 ずっと座りっぱなしで錬成をしていたから、腰の骨がぎちぎちと悲鳴を上げていた。

立ち上がり両肩をグルグル回し、上半身を左右に振るとゴキゴキと小気味いい音が鳴る。

 

「――――――さてと」

 

 錬成で作った失敗作(ゴミ)の山を机の脇にある空の木箱へと集めて蓋をする。

もう残しておく必要もないので失敗作たちは次の錬成の自主練で使うために取っておく。

ふとステータスプレートに視線を落とすと、気になる技能があった。

 

「……生成魔法……か」

 

 オルクス大迷宮の創造主、解放者オスカー・オルクスから受け取った神代魔法。

使用者の魔力を付与して鉱石類に異なる性質を与える魔法らしいが…

自分の魔力量がどの程度なのか不明なうえに、用途も思いつかない。

かといって無用の長物と切って捨てるには惜しい技能である。

 

「…まぁ…追々調べてみりゃ分かるか…」

 

 俺一人の頭で考えるには知識不足だと重々承知している。故に神代魔法の事をよく知る人物を探すか、それらしい技能についての専門家に話を聞いて貰って使い道を探すのが妥当な判断だ。

ステータスプレートの表面に付着した唾液を拭きとると、映し出されていた情報は消える。

…毎度のことだが、どう見てもこの大きさと形からスマホにしか見えないんだよなぁ…これ。

 

 等とぼんやり思っている間に体を解す準備運動も終わり、俺は窓の外に目を向けた。

湿地帯の雨雲がこっちに流れてくる事は無かったようだ…群青の空を見て満足気に息を吐く。

背中に手を回すと、オーダーレイピアのひんやりと冷たい刀身が指先に触れる。

 

「……久しぶりに村の周りでもぶらついて、適当な場所で昨日の続きやるか」

 

 ショウグンギザミとの戦いで無意識に行った動きを再現すること。

実際にモンスターと戦った方が思い出して身に付くのも早い気はするが、時間が掛かるだろう。

音を立てないようにそっと部屋を出る。…流石に二人はまだ寝てるみたいだ。

突然いなくなっていたら驚かれるだろうと思い、下の机に書置きだけ残して俺は外に出た。

 

 空気はひんやりとして肌に心地よい風が吹き抜ける。

遠くに見える建物に灯りがつく様子はまだない。

道に等間隔で置かれた松明も少し前に燃え尽きたのか、近くを通ると木炭独特の香りがした。

 

 歩くこと五分。村の囲いを抜けて、流れの緩やかな浅い川の近くに探していたものを見つけた。

それは以前、俺がライセン荒野から引っ張ってきた大岩だ。

 

 これまではこれを持ち上げたまま姿勢を維持して足腰を鍛えたり、紐を巻きつけて牽引する等のトレーニングをしていたのだが…錬成で試したい事があって予定を変える。

 

「―――"錬成"」

 

 大岩に手を当てて詠唱を省略し、脳裏に大きなバーベルを思い描く。

”精密錬成”を使うまでもなく、100㎏の重さはあるバーベルもどきに形を変えた。

細かいところは分からないが、原子構造まで変わっているなら重さも変化している筈。

 

「…おっ」

 

 思った通り、片手で持ち上げようとした時に感じた重みは大岩の時と大差ない。

持ちやすい形になった分、楽になるかと思ったが寧ろ片手では上げるのが限界だった。

一度地面へと下ろしてから姿勢を整えて、両手で掴んで持ち上げる。

 

 腕に来る重みは大剣やハンマーの比じゃない。油断して落とせば下にある俺の足は防具を履いているとはいえ無事じゃ済まないだろう。

胸の高さまで持ち上げて、両脇を締めない適度な感覚を維持しつつゆっくり水平の位置まで下ろしてから、スッと息を吸い込んで胸の高さまで持ち上げ……それを繰り返す。

 

「フッ―――フッ―――フッ―――」

 

 回数は100を目安に、腕の筋肉が痺れを感じる直前までこまめに休息を挟んで行う。

次はバーベルを水平に持ったまま上下には振らず屈伸運動(スクワット)を始める。

この時点で少し汗はかいていたが、夜明け前の冷たさも相まって丁度いい感じだった。

 

 

「――――――ふぅ、こんなもんか」

 

 最後に腕立てと走り込みをして、()()()()は終わった。

汗を拭い、背中で使われるのを今か今かと待ち望むオーダーレイピアを掴む。

訓練はこれ(武器)を使い初めてからが本番だ。

意気揚々と両手に持ったオーダーレイピアの振り心地を試して後ろを振り返ると―――

 

「「あっ」」

 

「………」

 

 いつの間にか此方を見ていたクラスメイトの2人…坂上と谷口と目が合う。

どうやら訓練に集中し過ぎてこいつ等が近くに居た事に気づかなかったらしい。

不甲斐なし…これがモンスターなら気づかない筈ない等と言い訳をするつもりはない。

存在の大小に関わらず、周囲の警戒を怠る時点で狩人としては三流も良い所だ。

 

「………」

「お、おはよう南雲っち!」

 

「……ん、あぁ……おはようさん」

 

 何も言わずに視線を逸らす坂上に対し、ぎこちない笑顔で挨拶をしてくる谷口。

クラスメイトの中だとこの二人…特に坂上は苦手な部類だ。天之河や檜山に比べれば積極的に関わらないだけマシってだけで、優花や幸利とは雲泥の差だ。

 

 谷口は…根は悪い奴じゃないと頭で理解していても、天之河と仲がいいという要素だけで身体が拒絶反応を起こしてしまう。…あと俺は心根が陰キャ寄りだから対極に位置するガチ陽キャの谷口に絡まれると精神的に疲れる。

 

 出来れば挨拶もしたくなかったが、無視をするのも気分が悪い。

だからそっけなく返してからは気にする様子もなく訓練に戻った。

 

「き、昨日はビックリしたね~!まさか南雲っちがこの村にいるなんて…」

 

「…そうか…」

 

「私達ね!皇女のトレイシーさんって人に言われてこの村で農作業をするんだって!」

 

「…そうか…」

 

「いやー鈴は農業未経験だから、畑山先生に色々教えてもらわなきゃだー!あっはっは…はは…」

 

「………そうか」

 

 ん゛え゛ぇ゛訓練に集中出来ないぃ…と心の中でぼやきたいが、これもまた訓練と割り切ろう。

人に声をかけられた程度で動きを疎かにして意識を乱すのなら、それはいずれ狩りの最中に起こる予想外のアクシデントに落ち着いて対処出来るかの有無に関わってくるだろう。

アゥータさんなら、飄々とした態度で動じることなくそれを平然とこなせるのだ。

目指すべきはその領域だ。この程度の事で一々精神的に動揺してどうする…!

 

「………あぅ」

 

 どうやら俺が同じ言葉しか返さなかった事で谷口の方も言葉に詰まってしまったようだ。

ちょっと申し訳ないと思いつつ、訓練中なんだから察してくれよと心で呟いた。

すると…これまで黙っていた坂上が初めて口を開く。

 

「…南雲、お前はどこでそんな力を手に入れたんだ?」

 

「…あぁ?」

 

 何を言い出すかと思えばそれかよ…まぁ、こいつらしいっちゃこいつらしいのか…?

てっきりこいつ等を見捨てたことで天之河みたくギャアギャア騒ぐのかと思ったぜ。

ワンチャン…これはあくまで希望的観測に過ぎないが…天之河とセットにならなきゃ割とまともな部類なのかこいつは?―――っと、そろそろ質問に答えなきゃいかんな。

 

「…基礎的な体力と筋力はッ、訓練所で、死ぬほど努力して…っ!帝都にある訓練所でな…ッ―――それ以上の特別な事は何もしちゃいねーよ」

 

 右脚から踏み込んでステップの要領で逆袈裟に右回りで二回転。

着地後に左右の剣を交差して一歩半進んで斬る。間髪入れずに攻撃を躱す想定で横に転がる。

動きながらも息をつくついでに俺が答えると、坂上は急に下を向いた。

 

「……なら、どうして」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?って質問なら答えるまでもない。訓練の方向性と質が違うんだ、根本的な部分からな。王国でやってたのは対人…魔人族との戦闘を意識した集団での白兵戦と魔法戦だ。そんなのはモンスター相手に何の役にも立たない」

 

「……ッ!!」

 

 役に立たないと言われて坂上は怒りを露わに顔を上げたが…すぐに悔しそうな顔で俯いた。

もう無い片腕と、オルクス大迷宮でクラスメイトが二人も死んだ事実が全てを物語っている。

余計だとは思ったが…この際、俺も言いたい事をハッキリ言っておくかと言葉を付け加えた。

 

「それにな―――お前らが俺にしてきた事は勿論、八重樫があれだけ怒鳴ってキレちらかしたのにまだ分からねえ訳じゃねえよな?」

 

「それは…ッ!確かに、檜山達はやり過ぎたところもあったかもしれねえけどよ…!」

 

「あいつ等だけじゃねーぞ?お前とお前の親友も、ことある毎に俺の事を散々下に見てボロクソ言っただろうが」

 

「なっ!?あれは光輝がお前を―――」

 

「俺を…なんだ?思いやるにしちゃあ言葉が随分と上から目線だったろうが。お前らに何を言われたか、俺は一言一句忘れてねえぞ」

 

 こいつをまともな部類かと思った数分前の俺をぶん殴りたい。

集中しているつもりだったが、無意識に体は怒りで熱を籠らせていた。

手を止めて振り返り、目を細めて睨みつけながら坂上に向けて言い放つ。

 

「この村でお前らが何をしようが俺にどうこう言う資格はない。…だからお前らも俺がこれからする事に一々口を挟まず、気に入らないからって突っかからないでくれ。同じクラスの人間であることを除いて俺とお前達は―――他人なんだからな」

 

 坂上は何も言えなくなったのか、怒り半分悔しさ半分といった表情でまた下を向く。

横にいる谷口はギスギスした空気を変えようと何か言おうとしてアワアワしている。

…これ以上は訓練をしても身にならないな…正直、俺も井戸の水で頭を冷やしたい。

 

「もう家に戻る。…じゃあな」

 

 そのつもりはなかったが、地面に放り投げたバーベルもどきが真っ二つに砕けた。

物に八つ当たりするとは…やっちまったなぁ、反省…等と心で呟いて二人を横切って村に戻る。

 

 

「――――――な、南雲くん!?」

 

(…今度はこいつかよ…まぁ、いいかもう…)

 

 マイハウスが見えてきたところで前の方から走ってきた八重樫に声をかけられる。

一々こいつ等に反応しないよう慣れなきゃいけないってのに…はぁ、前途多難だな…

 

「…なんだ?」

 

「あ、えっと…坂上くんと鈴を見なかった?」

 

「あいつ等なら向こうにいる。さっき会った」

 

「そ、そう……坂上くんが何か失礼なことを言わなかった?」

 

「………さあな」

 

 言わなかったと嘘をついても良かったが、それはそれでなんか癪に障るので誤魔化した。

しかし八重樫は察しがいいからすぐに頭を抱えて「あぁ~もうなんでまた」とその場で蹲る。

…俺が言えた義理じゃないが…こいつもこいつで面倒臭い性格してんな。

 

「別にお前が気にする必要はないだろ」

 

「…それは、そうかもしれないけど…」

 

「あいつにも言ったが、俺達はお互いに不干渉でいる方がいい。過去の不仲なんてこの村の人達には関係ない事で余計な気を遣わせたくない。…お前も、無駄に面倒を増やすのは嫌だろ?」

 

「…そうね…。あぁ、でも…南雲くんは知らないかもだけど、私は皇女様のお付きになったから、基本的にこの村に居ることはないの。皆の面倒は先生に任せたわ」

 

「トレイシーさんの!?」

 

「ええ、そうよ」

 

 あっけらかんと言うが…まさか八重樫が俺と同じトレイシーさんの関係者になるとは…

それでか…クラスの連中のごたごたでもう気を揉む必要もないから若干表情が明るいのは。

 

「…あの人から俺のことは聞いたか?」

 

「ある程度は…ね。…安心して、誰にも言うつもりはないし…それに―――」

 

 聞けば八重樫達もトレイシーさんからこの世界の真実を知ったらしい。

ついでに昨日は姿が見えなかった天之河がどうしたのかとこっそり聞いたが、あいつは重傷負って動けないからハイリヒ王国の治癒院に中村や近藤たちと一緒に残っているとか。

フッ――――――やったぜ、一先ずは不安の種が解消された。

等と思っていると八重樫がクスクスと笑っている。

 

「…ふふっ光輝がいなくて、ちょっと安心した?」

 

「まぁな。…つうかお前は平気なのか、アレでもお前の幼馴染なんだろ?」

 

 こんな風に思われて、普通なら怒ると思うんだが…

しかし八重樫は「別に?」と笑顔のままあっさりと答えた。

 

「光輝が南雲くんにそう思われるのは過去の言動からして当然だし、近藤くん達だって自分勝手に動いてああなったんだから自業自得よ。そこまで私が思ってあげる義理はないわ」

 

「…なんかお前、色々吹っ切れてんな…今迄で一番いい笑顔浮かべてんぞ」

 

「そう?――――――あっ、そうだ!南雲くん、実は伝えておきたい事が―――」

 

「し、雫ちゃーん!待ってー!」

 

 言いかけた八重樫の後ろから聞き慣れた(あんまり聞きたくなかった)声が聞こえてくる。

黒い髪をゆらゆら揺らしながら寝間着姿のまま走ってきたのは白崎だった。

天之河や近藤たちを警戒してコイツの存在を忘れていた…!

 

「あっ、昨日村長さん達と一緒にいた―――」

 

「…香織。このヒトが前に話した人よ」

 

「えっ、このヒトが!?」

 

「………」

 

…え、なんだこれ白崎の反応がいつもと違っておかしいぞ…

頭でも打った…ってそういや大迷宮でなんかそれっぽい怪我負ってたっけ。

………おい俺の第六感、その圧倒的既視感の六文字をチラつかせるな。

八重樫と話していた白崎は俺の方へ向き直って深々と頭を下げる。

 

「えっと…初めまして。私、白崎香織です。雫ちゃんが貴方とは面識があるって聞いているんですが…ごめんなさい、私記憶が無くて…覚えていないんです」

 

(うわあああああああやっぱりそのパターンかぁああああああ!!)

 

 テンプレじゃねえかあ!とこれを書いて苦笑いしている天上の神に向かって吠える。

シア、ノイントに続いて白崎までも記憶喪失とかどうなってんだ!!?

複雑な感情持ってて一番接し辛い奴がこうなったら余計手に負えんわあぁぁぁっ!

 

「…ごめんなさい南雲くん伝えておきたい事っていうのは、この事よ…」

 

「………そうか」

 

 仰ぎ見た空に橙色の光が差し込もうとしていた。

朝が来る。きっと今日は色々と苦労するんだろうな…精神的に。

…もうしてるだろとか無粋なツッコミは心の中だけに留めておいた。

 




 脳筋、陽キャと陰キャは分かり合えない(至言)
余談ですが活動報告の方に以前と同じような二次創作の作りかけプロットを投稿しました。
ぶっちゃけこれ書いて一日終わった感あります。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
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