モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 畑山愛子という女性は、ごく普通の家庭に生まれ、平凡な人生を送ってきた。
平凡という二文字で一纏めにはしているが、当然その日々には辛い事や苦しい事もあった。
乗り越えて人間的に成長する事もあれば、後悔して今も引き摺っている失敗もある。

 数えられるくらいの友人は歳を重ねる毎に疎遠になっていき、兄妹も同然に育っていった幼馴染とも教師になる為に故郷を出ていったっきりまともに顔も合わせていない。
百を超える生徒達と顔を合わせ、それぞれに合わせた話をしながら教師間の良好な関係も保つ。
大人になれば、否応なしに時間の流れを早く感じるものだ。

 幼い頃の趣味は両親祖父母と一緒に農作物を収穫したり、野山で男の子たちに混じってわんぱくに遊ぶ事だったが、それも成長に合わせて記憶から薄れていき…忙しい日々に追われる内に趣味と呼べるものすら無くなっていた事に気づいたのはつい最近の事だった。

 読んでいる本は小説から小難しい学術書や教育者向けの教本に代わり、料理は自炊をする気力がなくなって次第にコンビニ弁当で済ます事が多くなっている。
外に出るのは生活必需品を買うついでに女としての身だしなみを整える時くらい。
休日なんてものは教師にとって無いのが当たり前というもの。

 教師になった志望動機など本人はとうに忘れた。
研修生だった頃はそれなりに夢や理想があったのかもしれないが、教職に就くという事が現代日本に於いて如何に厳しい道であるか身を以て知った時には本心と建前が反転していた。

 生徒第一に考え、事なかれ主義に尽くし、保護者達から煙たがられないよう上手く立ち回る。
まさに現代日本の教育機関が是としている理想の教師像ではないか。
学校で起きている虐め?生徒の自殺?不登校問題?
そういったものは教師という個人の後ろに控える大規模な組織が情報操作で有耶無耶にすれば世間から暫くバッシングを受けてもすぐに鎮火する問題だから見て見ぬフリで通せばいい。

 愛子がまだ若いから、経験不足というのも理由の一つだが、そういった教育者の()()()()をよしとしなかったからクラスの担任になれなかったのだろう。
責任感が強く、真面目で人当たりの良い彼女が教育者として高い評価は貰えない。
()()()()()()ほど問題を起こす火種になりかねないからだ。
中途半端に生徒と向き合うだとか、子供達の為だからとお節介を焼いた結果が不平等を生徒達に感じさせ、不満を募らせ、学校内の秩序を乱す事になる。

 彼女の上に立つ管理者達…学校で云うところの教頭や校長は口に出せばセクシュアルハラスメントとして自分達が批判されるだろうから言わなかったが、体が小柄な愛子のような教師は、今時の発育の良い子供たちから過小評価される傾向にあると思っていた。

 教師は威厳…とまではいかないが、生徒に模範的な大人として見られる必要があった。
それは頭の良さや体の大きさといった単純な要素でしか表現出来ないものだ。
だから半ば泣き寝入りのような結果になったとしても、いじられキャラで通すしかない。
そうすればいざという時に教師としての責任を追及されても多少の温情が与えられるからだ。

…結局のところ、愛子は理想とする教師の姿とありふれた教師の実態の境界線に立っていた。
それが裏目に出て現状を取り巻く環境が追い打ちをかけるように彼女を苦しめている。

―――故郷へ帰ったとしても、自分に待つ未来が如何なる地獄にも匹敵しうる辛い現実である事も、愛子はなんとなく察しているのだろう。

……いっそ死んだのが生徒ではなく()()()()()()()()()()()()……

 そんな心の独り言に、彼女は気づいていないフリをしている。
だが悲しきかな。人に嘘をついたり、人を騙したりすることのできない人間が、自分自身の本心を欺くことなど到底無理である。



「「………………」」

 青空に浮かぶ太陽が煌々と大地を照らし、ゲブルト村は活気に包まれている。
そんな村の中で彼女達…優花と愛子だけが暗い面持ちで寝泊まりしている家に向かっていた。
愛子は自分が思い詰めていた事で生徒達を安心させるどころか、まったくの逆で心配されてしまった事で不甲斐ない自分に苦しんでいる。

 優花は並んで横を歩き、時折何かを口に出そうとして暗い表情の愛子を見て黙るを繰り返した。
愛子を慕う一方で、ハジメの事も大切に思っているからこそ複雑な気持ちになってしまう。
理想は両者が和解する事だが、それがどれだけ難しい事かも優花は十分理解している。
だからもし自分が余計なことを言って事態を悪い方向に動かしてしまったらどうしようと、不安で堪らず愛子に対して何も言えなかった。

 思考と感傷にばかり意識を向けていたせいで、愛子はガッと足元の石に躓いてしまう。
「あっ!?」と声を上げた時、反射的に優花も彼女の手を離してしまった。
彼女が前のめりに倒れようとした瞬間―――ザッ!と前の方から地面を蹴る音がして―――

「おっと…大丈夫かいアンタ?前方不注意だぜ」

「…ッ…あ、ありがとう御座います…!?」

 ハッと我に返った愛子の体を支えたのは赤い髪のポニーテールの青年…アゥータだった。
愛子の体を片手で軽々支えられる彼の逞しい腕の感触に彼女は思わずドキリとする。
耳元に光るピアスを揺らしながら、彼女を立たせてからアゥータは口を開く。

「よっ、昨夜以来だな作農師の先生さん。朝から何処かへお出かけかい?」

「…え?…ぁっ…その…」

「あ、アゥータさん。私達は―――」

 もしかして村から逃げ出そうとしたのかと暗に疑われていると思った愛子は青褪めた。
隣にいた優花もそれを察して慌てて弁明しようとするが、さっきの事を言えず口ごもる。
この村で一番偉い村長アボクの孫である彼に悪い印象を持たれるのは不味い。
村八分というものの恐ろしさを出身地が田舎である愛子はよく知っていた。
だがアゥータはニヤついた表情のまま、口元に手を当てて笑い出す。

「ぷふっ、くくくっ!心配すんなって、そんなに身構えなくても…ハジメのマイハウスからあんた等が出て来て、暗い顔で歩いてる一部始終を見てた。何があったか容易に想像がつくよ」

「…アゥータさんは、ハジメ君から事情を聞いているんですか?」

「あぁ。園部の嬢ちゃんが姐さんと村に来た時、ハジメが話してたのを横で聞いてたからな」

 それを聞いて愛子の表情はまた暗くなる。
優花が死にかけた時、自分が何も出来なかった事を思い出したからだ。
横で当の本人が心配そうに見守っているのにも気づかず、思いつめる愛子。
アゥータはそんな彼女の姿を見て僅かに口角を下げて黙っていたが…

「――――――まぁ、この件に関しちゃ俺は首を突っ込まねえよ。てかそんな事したのが姐さんにバレたら間違いなく殺される…。強いて言うなら、俺はこの村の味方だ。()()()()()()()()()()

「……えっ?あっ―――」

「ちょ、アゥータさん!?何処に―――」

 突然愛子の手を取って歩き出したアゥータ。
慌てて優花はそれについていくが、向かう先は家とまったくの別方向。
彼の視線は昼夜絶えず煙突から煙を出し続ける村で一番賑やかな建物に向けられていた。

「ついでに言うと俺は、女の悩みを放っておけない主義でね…」

「な、なにを言って…?」

「まぁいいから任せなって。作農師の先生」
 
 彼の不敵な笑みに対し、愛子は困惑しながらただ首を縦に振る事しか出来なかった。



特別任務「ハルツィナ樹海ツアー」①

 

「ハジメ。今日の予定は決まってる?」

 

「ん?いや…特に決まってはいないが…」

 

 トレイシーさんとの話し合いが終わって、シアが戻ってくるまでの間。

アレーティアと食べ終わった食器と使った調理器具を洗っていた。

洗剤なんて便利なものはこの世界にないから、水とタワシっぽいものを使って丹念に汚れを落としてから風通しの良い場所に洗ったものを置いて乾かす。

そんな中で彼女から聞かれた事に対し、少し間を置いて答える。

 

「昨日は色々と邪魔されてちゃんとクエストが出来なかったからな…シアの実力を改めてこの目で見てみたい気もするが…」

 

「…それなら私は村の中を見て回りたいから、今日は別行動」

 

「…いいのか?村の人達に挨拶するなら俺も一緒に―――」

 

「子供じゃないから、そういう気遣いは不要。ハジメは自分のやりたい事を優先して」

 

 アレーティアに言われて心の中で確かに…と納得する自分がいた。

大迷宮からずっと一緒に居たから常に離れず行動するべきと思っていたが、彼女が村の中を出歩くのに一々俺が付いていく必要はないだろう。既にトレイシーさんとの面識があるし、俺の連れだって言えば大抵の人は納得してくれる。

 

 それに…自分でも言っていた通り、昨日のイレギュラーもあってシアのハンターとしての腕前を、きちんと見れていなかったのが気にかかっていた。

欲を言うなら昨日からずっと抱えている悩みを解決するヒントも狩りの中で得られる筈だ。

世界存亡の一大事を、とりあえず頭の片隅に置きながら普通のハンターとして、本来あるべき姿とこの村で過ごしてきた普通の日常に戻ろう。

 

「分かった。それなら俺は夕方まで集会所の方にいってる」

 

「ん、昼食は各自で…夕食は私が作る」

 

「決まりだな。それじゃ洗い物も済んだし…いってくる」

 

「いってらっしゃい、ハジメ」

 

…なんというか…こう…実家で家族と話してる感覚でフランクに今日の予定とか話し合ったが…

本来こういうのって付き合ってもいない男女が一つ屋根の下で交わす会話の内容なのか!?

か、勘違いしてる訳じゃないぞ?俺みたいな凡庸さが取り柄の男が、アレーティアみたいな美少女とそんな関係になるとか…あったらそりゃ嬉しいけど、普通に考えてあり得ないだろ。

 

「………恋人の会話みたい………って思った?」

 

「んなっ!?あ…いや、俺はそんな事―――!」

 

「…フフッ冗談。ハジメ、顔真っ赤にして可愛い」

 

「~~~っ」

 

 こんにゃろう!!人が初心だと分かってて弄りやがったなぁ!!?

いつか絶対に立場逆転してみせるからな…と思ったけど、内心無理だなと思っている。

恐らくこれから先も俺は余裕のある年長者には敵わないのだろう。

 

 

「あっ…ハジメさん!お話、終わったんですね?」

「おう。今日これから集会所に行くつもりだが…シアはどうする?」

 

「私もリーナさんとアッシュさんにお会いしたいので、一緒に行きます」

「そうか、あの二人も居たか…良かったら4人でクエストに行かないか?」

 

「えっ…いいんですか!?」

「昨日は結果的にクエスト達成は出来たものの、イレギュラーも多くてシアの動きをよく見れなかったからな。先輩として、今度こそじっくり観察しておきたいんだが…」

 

「あぅ…じっくりと…ですか」

 

 そう言うとシアは顔を赤らめて、臍の辺りで指を組んでモジモジしだす。

…正直、両腕に挟まれた立派な双丘が強調されるからそのポーズは止めて欲しいんだが…

確実にそれを俺が指摘したら今のような反応じゃ済まないだろう。

最悪シアの方から距離を置かれて俺が社会的・精神的な意味で死ぬことになる。

 

「樹海ならイャンクック辺りの狩猟クエストくらいあるだろうしな。背中のこいつの使い心地も、練習だけじゃなく実戦で試しておきたいってのもあるんだ」

 

「…はいっ、分かりました!それじゃあ、ご一緒させて頂きますね」

 

「此方こそ、宜しく頼む」

 

 シアの隣に並んで、二人で集会所の方へと歩き出す。

ふと彼女はアレーティアの姿が無い事に気づき、キョトンとした顔で首を傾げた。

 

「……?ハジメさん、アレーティアさんは一緒に来ないんですか?」

 

「あぁ。アレーティアは村を見て回りたいから、今日は別行動するってさ」

 

「そう…ですか。分かりました」

 

 それからシアと他愛もない話をした。

訓練所での暮らし、鬼教官ことシュヴァルツさんのしごきに初狩猟の感想。

種族も性別も違うけれど、こればっかりは出てくる答えが共通していた。

 

「「しんどかったなぁ~(ですねえ)」」

 

 二人で暫く顔を見合わせてから、クスクスと笑い合った。

…あぁ…なんというか…こういう話の出来る相手ってのは…いいもんだな。

等と話している内に集会所が見えて―――って、なんか見慣れた人が入り口付近に立ってる。

さっきまでの楽し気な雰囲気が一転して、胸中に不穏な空気が渦巻く。

 

「…あれ?あの人達はさっき皇女殿下と一緒に居た…」

 

「…先生…それに園部…」

 

 向こうもこっちに気づいて口を開きかけたが…すぐに閉ざして目を逸らした。

…仕方ないとはいえ、話の内容が内容だったしなぁ…適当にやり過ごすか。

 

「―――よう」

「あ、うん…」

 

「…どうも」

「………」

 

 優花には砕けた口調で、先生にはきちんと目上の人に対する口調でそれぞれ声をかけた。

優花の方は気まずそうな顔で返事をしてくれたが、畑山先生は頷きだけ返して目を逸らされる。

二人とはこれ以上話す事もないし、そのまま集会所の中へ入ろうとしたのだが―――

 

「あ、ハジメくんとシアちゃん!おっはよー」

 

「ん…?お、リーナ!おはようさん。アッシュもな」

 

「おう、おはようさん」

 

 中から出てきたリーナとアッシュの姿を見て、また少しだけ心穏やかに笑みを浮かべられた。

しかし装備を整えて出てこようとしたところを見ると…もう二人はクエストに出るところなのか?

 

「…もしかしてお二人は、既にクエストを受けたんですか?」

「ん?そーだよ。…あ、でもまだ二人枠が余ってるから、良かったら二人も参加する?」

 

「いいのか?丁度、俺も二人を誘ってクエストに行こうと思ってたんだ」

「そりゃ奇遇だな。…まだ出発まで余裕あるから、受付で手続きを済ませてこい」

 

「分かった。いくぞ、シア」

「はいっ!」

 

 なんという幸運…とこの時俺は思っていたが、数分後に死ぬほど後悔する事になる。

受付嬢から渡されたクエスト内容を見て、採取ツアーだと思い込んで適当に名前を書いた。

故に気づけなかった。クエストの種別が”特別任務”となっていたこと。

クエストの依頼主が”アゥータ”さんで、達成条件と失敗条件に特殊な文言が入っていたこと。

そして―――どうしてハンターでもない二人が集会所の前にいたのか?

ちょっと考えれば分かることに気づけなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

クエスト名[ハルツィナ樹海ツアー]

 

条件:指定ルートに沿って、対象の護衛と調査

(護衛対象の安全確保を最優先とする)

目的:周辺環境の調査と護衛

依頼主:アゥータ

報酬:15000ルタ

契約金:3000ルタ

 

今日は絶好の探索日和だ。そうは思わないかハンター諸君?

てな訳で村の新たな一員、神の使徒御一行を連れてのツアーだ。

樹海の奥までは進まずに、入り口付近を回ってくれりゃいいんだ

追伸:狩りも大事だが、人との付き合い方も勉強しとけよ後輩!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 




 アゥータ先輩まさかの先生の味方をする(間接的に手を貸しただけなので本人はセーフと思っていますが、リンネさんがこの場にいたらチョークスリーパーかましてます)

 前書きの方で書いた先生の軽い経歴紹介的なコーナー。人生にそこまで山も無ければ谷もなく、強いて言うなら超ブラックな仕事ランキング上位である教師になった時点で恐らく私生活が壊滅的になっているであろうという個人的な妄想(教師になったら休みなんてほぼ無いという話を聞いて目ん玉飛び出ました。そんなんでこの先も教師になろうって人が増えるとは到底思えないんですがそれは…)作者のように飲酒量が増えないだけマシなのだろうか…?

 今週は土曜日も頑張ったので来週、再来週あたりは連休貰えて更新頑張れる…かな?(外伝とまだ書きかけのR18から目を逸らし)

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
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