生きてきた世界は違えど、所詮は人間というべきか。信条や主義主張が違うだけで気に入らない他者を貶めようとする腐り切った性根は異世界でも健在らしい。
エヒト神に遣わされた”神の使徒”…なんてご大層な名前の割に、俺達と同じ穴の狢か。
だから皇女様に話を持ち掛けられた時、俺は初めて彼女の命令に逆らおうとした。
冗談じゃない。やっと平穏が訪れた俺達の村に、これ以上異物を連れ込まないでくれ。
爺ちゃんは優し過ぎるんだ…子供だからってなんでもかんでもホイホイ村に受け入れたら、いつか村人達の暮らしに綻びが生じるって分かってるだろうに。
ルゥムがハジメを連れて来た時も、内心ハジメがさっさと村から出ていってほしいと思った。
…結果的に村が豊かになって、村の皆がより一層楽しそうに過ごせるようになったから、今となっては手放したくない人材だ…とは本人に言うつもりはないが。
あいつにも帰りたい故郷がある。此処に縛るのはあまりにも残酷だろう。
あの人が死んで、姐さんが生きてた事を知れて、ようやく何もかも落ち着いて来たのに…
…だが一度恐怖を心に抱えてしまったら最後、ハンターとしていつか致命的なミスを犯す。
だから俺は恐怖を忘れられるよう、浴びるほど酒を飲み、娼婦を抱いて、狩りに励む。
煙草を吹かすのもその一環だが…これはあの人の事を忘れないように、俺が真似しているだけだ。
神の使徒達のリーダー役…というか皇女さんが一番お目当てで連れて来た作農師の女。
ハジメは先生と呼んでいたが、歳も俺より下で小柄な彼女の姿に威厳とかは感じられなかった。
俺の中で先生って呼ぶ人のイメージがおっかないモンスターになってるからかねえ…
…まぁ、何にせよ…賽は投げられた。神の使徒様御一行は村に着き、不運にも居合わせたハジメは一度自分が捨てようとした過去と向き合わなきゃいけなくなっちまった訳だ。
あいつの先輩であり、将来村を背負って立つ者であり、臆病者の俺に出来ること。
それは、あいつ等の間にある蟠りを早めに解消してやることだ。
ハジメ、神の使徒、作農師、皇女様…誰の為でもない。
村の発展と俺の心の安寧を取り戻す為に、精々利用させて貰うぞ…と。
あとは―――――――――俺の時みたいに、死んでから後悔してるんじゃ遅いからな。
ハルツィナ樹海へと通じる道に、前見た時はなかった立派な木の門が建てられていた。
その入り口に集まっていた
武器も持たず、門に寄り掛かって煙草をふかしているアゥータさんへと詰め寄る。
「お、来たかハジメ」
アゥータさんが俺の名を呼んだ瞬間、先生と使徒達の視線が一斉に俺へと向けられた。
今の俺はギルオスヘルムβのお陰で顔が見えない状態になっている。
大迷宮の時とは使っている武器も違うし、流石に言われなきゃわからなかったみたいだ。
傍らで見守っていたリーナ達も、俺が装備を着て来た時は苦笑していたが…
うーん…俺的にはこの見た目でも十分カッコいいと思うんだがな…やっぱ見た目不審者か。
―――ってそんな事はどうでもよくて―――!
自分の心の中に突っ込みを入れ、ギルオスヘルムβのマスク越しに話しかける。
「………どういうつもりで―――」
「
言葉を遮られ、先に質問を投げかけられた為、黙って下を向き思考を回す。
アゥータさんの立場…村の次期村長であり、俺にとって先輩にあたるこのヒトの考え…
利害や損得の勘定で考えるなら、俺と使徒達の不和が村に悪影響を及ぼしかねないからというのがまず一つ目。二つ目にここで先生に恩を売っておけば、村に馴染みやすくなるから…と思われる。
この時点で俺に文句を言う資格はなく…数秒が経過した後、深い溜息と共に答える。
ちなみに俺とアゥータさんが話してる間、男子共の目はリーナとシアに向けられていた。
八重樫や白崎ほど美形ではないが、それでも同期ハンター達の中では一番女性らしさがある。
シアは言うまでもなく美少女であり、ウサ耳も相まって注目度は高い。
止めろお前ら、気持ちは分かるが俺の同期と後輩をそんな目で見るんじゃねえ。
そんなんだから女子達から白い目で見られるんだよ。ほら、辻達がジト目になってる。
「…はあ~分かりました。分かりましたよ。やりゃいいんでしょ、やりゃあ!」
「よし!それでこそ自慢の後輩だ。後で一杯奢ってやるから、機嫌直せって」
「あ、あのぅ…」
恐る恐るといった様子でアゥータさんの後ろから遠藤が声をかける。
クラスの連中は「うわっ!?遠藤いたのか!」「居たよ!」とお決まりのギャグをやっているが、俺もアゥータさんも近づいて来るコイツの存在には気づいていた。
足音を消してないし、気配だって普通にしているんだから…気づかない方がおかしいだろ。
※ このハンター達は特殊な訓練を受けています。原作の常識で考えてはいけません。
「それで俺達はこれから…何をするんですか?」
「んお、そうだったな。お前らにはまだ説明してなかったか……てな訳で、先生」
アゥータさんは遠藤とクラスメイト達から、端っこに立っている先生に声をかける。
優花が驚いた様子で気づくも、心ここにあらずといった様子の先生は数秒遅れで反応した。
「――――――えっ!?」
「なーに自分も参加する側で突っ立ってんだ。アンタはこいつ等の保護者なんだろ?さっき教えた通りのことをこいつ等に伝えりゃいいんだよ。ほれ、号令号令」
「そ、そうですね。では――――――皆さん、今日からこの村で生活することになった訳ですが、私達はこの村…いいえ、この世界についてまだ多くを知りません。この村の近く…門の向こうに見える樹海には、モンスターが多く生息しているそうです」
モンスターという言葉を聞いて、クラスメイト達の間に動揺が広がる。
そりゃそうだよな……俺達みたいな頑丈さを持たず、武器や防具もほぼ対人を想定した作りの装備で飛竜種やら古龍が居る階層に飛ばされるって下手すりゃトラウマものだしな。
先生は全員の顔を見て、意を決したように今まで触れなかった話題について口を開いた。
「…私が至らなかったばかりに…二人の生徒が亡くなってしまいました。……もう二度と、彼らのような犠牲を払わない為にも……!皆さんには、出来る限りこの世界で生き残れる術を学んで欲しいんです…お願いしますっ!」
「先生…」「畑山先生っ」「………っ!」
「………」
先生とクラスメイト達のやり取りを聞いて、俺が口を挿むようなことは何もない。
この人にはこの人だけが負わなきゃいけない責任があって、こいつ等はそれに応える義務がある。
俺やリーナ達はその手伝いをする為に呼ばれただけだ。
…と、不意にリーナが指で俺の肩をトントンと叩いて話しかけてきた。
「ハジメ君。今の話聞いてると君の知り合いが死んでるみたいなんだけど…」
「知り合いというか、俺が神の使徒を抜けるに至った原因その1とその2だな。他の奴らも酷い目にあったらしいけど……まぁ、今の俺には関係ない事だ。あくまで俺はクエスト受けに来ただけの通りすがりのハンター……だからな」
「ふぅん、そっか……じゃあ私達がなんか気を遣ったりとかは――――――」
「全然しなくていい。訓練時代の時みたく、普通にやろうぜ」
「…りょーかいっ!」
こういう所で気を利かせてくれるからリーナって仲間受けがいいんだよなぁ…
………まぁ、そんなリーナでも相容れない奴らはいるが………特にあいつは俺でも無理だしな。
あいつは檜山達みたいな嫌いじゃないんだが…どうにも言葉遣いとか性格がな…
そうこうしている内に向こうの話が終わり、先生は俺達の方へと一歩進み出た。
クエスト
「それではこれから私達4人が皆さんの護衛を務めます。私はリーナ、後ろの大きな剣を持っているのがアッシュ、ハンマーを持っているのがシア、二振りの剣を持っているのがハジメ。これから向かう樹海の入り口は比較的温厚なモンスターが多いとはいえ、時間帯や季節によって凶暴なモンスターも出てきますから、何があっても私達の目が届く範囲にいるようにお願いします」
「今回、護衛依頼を出した使徒の保護者で、畑山愛子と言います。今日は宜しくお願いします」
「あぁ、任された」
「よっ…宜しくお願いしますぅ…!」
アッシュとシアが挨拶を返したので、必然的に先生とクラスメイト達の視線が俺に集まる。
ギルオスヘルムβのお陰でマスク越しの安心感があり、比較的気にすることなく返せた。
「……よろしく」
………返せた……筈だ。
先生の曖昧な表情とクラスメイト達の反応が微妙なので、ちょっと自信がなくなる。
しかし、いつまでも此処で突っ立っている訳にもいかないとリーナが歩き出す。
「それじゃあ先ずは門を出て少し歩いたところにある私達ハンターが使うベースキャンプへ向かいます。先頭は私が、左右の警戒はアッシュとシアが、殿をハジメが務めます」
殿か……連中の一番近くを歩くことになるから、正直乗り気ではないが……
持っている武器的にもリーナが先頭は理にかなっているし、動きの遅い武器持ちの二人が殿は難しい…とするのであれば、必然的にこの4人の中で動きが素早い俺が適任ってことか。
クラスメイト達の隊列はアゥータさんと先生を先頭に坂上と谷口、白崎の三人。
続いて中団グループ左右に永山と野村、間に辻と吉野、後ろに遠藤の五人。
最後方に園部がいて、相川、仁村、玉井の三人が菅原と宮崎を囲むようにいる…か。
歩き出した隊列が全体的に見える位置で歩き出すと、園部が小さな声で話しかけてきた。
「南雲……ごめん。こんな事になっちゃって……」
「謝るな園部。このクエストの発案者はアゥータさんだ。お前も先生もあの人を頼ったに過ぎない。…急な話で驚きはしたが、確認もせずに依頼を受けた俺にも落ち度がある。…それにこの世界で生きていく術を学ぶってのは間違っちゃいない。寧ろ遅すぎるくらいだがな」
「…私も出来るがあるなら、やらせて貰うわ…」
「護衛に関しちゃ俺一人なら不安かもしれないが、リーナ達がいるなら問題ない。ここに来るまでにあいつ等の活躍を聞いた。シアも樹海で暮らしてた兎人族だ、場慣れと経験則であいつに勝てるとしたら…先生と並んで歩いてるアゥータさんくらいだ」
「…あの人、ハジメの先輩でリンネさんの後輩…だよね。やっぱり凄い人なの?」
「数百、数千いるハンター達の中でも”例外”と呼ばれるハンター達の一人だよ」
「……例外……ミッドガルさんとマリアンナさんと同じ?」
二人の名前が優花の口から出たことに少し驚いたが、二人は帝都までの護衛をやってたな。
あの人達が居れば荒野に常駐してるようなモンスターくらい瞬く間に片付けられるだろう。
バルファルクみたいなヤバいのが突発的に襲ってきても、多分あの二人なら倒せると思えた。
「あぁ。実はオルクス大迷宮に向かった時に、一緒に来てくれてたのがあの二人と…昨日入れ替わりで村から出て行っちまったルゥムさんって人なんだ」
「…そっか。会ってみたかったかったなぁ」
「クラスの奴らだと…大迷宮に潜ってた奴らは面識があるかもな。…もしかしたら、何かの拍子でまた村に来ることもあるだろうし――――――」
そんな事を長々話していたら、自然と園部の親しい友人である宮崎達の視線が向けられていた。
優花も思わず「あっ」って顔をしてるが、向こうは向こうでなんか話しかけ辛そうにしている。
…あいつ等とは話したこと一度も無かったんだっけか…まぁ、ここは一つ…。
「―――っと、あんま話に集中し過ぎて職務怠慢になっちまうな。話はまた後でな、園部」
「え、あ…うん…」
……なんでちょっと寂しそうな顔するんだ?俺よりも友達を大切にしてやれよ。
等と口には出さないで思っていると、優花はゆっくりと宮崎達の方へ戻っていった。
距離が空いてしまったことに…間違いはない筈なのに…ちょっとだけ寂しいと思った。
う~ん…短期間で優花と話す事が増えたからか…?参ったな、どうにも…
大人数の徒歩での移動なので、普段から既にベースキャンプに着いているところだが、まだ樹海と村の中間地点にある草原の道を歩いている。
見渡す限り脅威となるモンスターの姿や気配もなく、前の方の会話が聞こえてきた。
「ねえ優花っち。ウルに戻ってきてから思ってたんだけど……南雲っちと仲良くなった?」
「…えっ!?えぇ、まぁ…そうね。助けて貰って…色々と世話になっちゃったし…」
「…へえ~色々とお世話されちゃったんだ~…ふぅ~ん」
優花さんや…その答え方じゃ頭お花畑な女子はそっちの意味で捉えかねないぞ。
と俺から口出すことはなく、淡々と仕事をこなしながら会話だけ耳で拾った。
顔を赤くした優花がムッとした表情で宮崎に言い返す。
「そういう変な捉え方はしないで頂戴。南雲は本当に命の恩人なんだから、今だってこうして私達の為に嫌々でも手を貸してくれてるのにそういう変な勘繰りをするのは南雲に対して失礼よ」
「ちょ!そんな怒らないでよぉ…やけに親し気だったからつい…ねえ?」
「いやアタシに振らないで欲しいんだけど。…まぁ、奈々の言う事も分かる気はするけどね。南雲君が優花の命の恩人だとして、それでどうしたらあんな親し気に話せるわけ?」
話題を振られて戸惑いながらの答えた菅原の言わんとしていることも分かる。
俺とクラスメイト達は絶賛仲違いしている(永山達、八重樫達とは和解?したが)
そんな俺と優花が仲良さそうに話していたら、普通何かあったと考えるのが自然だ。
優花はやや狼狽えながらも、平静を装って淡々と事実だけを述べていく。
「…いま愛ちゃんと話してる男の人がリンネさんと知り合いだったから、そこらへんの繋がりでよ…ウルに来るまでの護衛もして貰ったし…」
「ええ~それだけの理由で?」
「なんか余計に気になる言い方だよ優花っち~」
(確かにその言い方だと、ちょっと苦しい気がするぞ園部)
心の中でツッコミを入れつつ、何処かのタイミングで助けるべきか迷っていた。
すると今度は園部パーティーの男子…相川達がこっちをジロジロ見ている。
俺が無言で顔を向けると、向こうはギョッと驚いて前に向き直る。
…おい、ちょっとその反応は失礼過ぎるぞ…ていうか若干傷ついたぞコラ。
いくら見た目がおっかないからって目が合った瞬間に顔を逸らすとか一番心に刺さるんだが?
しかし俺から話しかけるのも気が引けるしなぁ…やれやれ前途多難だ。
この鬱憤、如何にして晴らしたものかと青空の下で考える事にした。
大したことではありませんが、R18版を密かに投稿しました。
言うまでもなく表現力に乏しいので読み物としては些か本編よりクオリティが下がっていると思いますので、ご了承ください。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。