モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 ハジメ達がクラスメイトを連れてハルツィナ樹海へと出発した直後。
アレーティアは村人たち一人一人に挨拶をして回っていた。ハジメの知り合いという事もあるが、元々他所からの来訪者を拒んだりしない人柄の良い者の多いゲブルト村で彼女が馴染むのはあっという間だった。
そして当然、背丈が頭一つ大きいということで村の子供達に慕われる。

「キューケツキのお姉ちゃん髪きれー!」
「ん、ありがとう。貴方の髪も綺麗…親に感謝」

「アレーティアお姉ちゃんはハジメお兄ちゃんの友達なの~?」
「そう。ハジメは命の恩人で、大切な人」

「そうなんだー!じゃあハジメお兄ちゃんの恋人になったりするの~?」
「えー!ずるーい!アタシがお兄ちゃんのお嫁さんになるんだもーん!」
「ねえねえお姉ちゃん、村の外ってどんなだったか教えて教えてー!」

(……予想以上に気に入られた)

 見た目が美しいということもあって、子供達からは頼れるお姉さんとして見られている。
アレーティア自身、そういう風に見られる事があまりなかったからちょっと喜んでいた。
子供達を連れて歩きながら、まだ挨拶していない人達がいるであろう方へ向かおうとして―――

―――にゃっ、にゃおぉ~ん。
―――ぶるにゃあーん。
―――ぎゃ、ぎゃぎゃっ!

「ふふ、うふふふっ…良い子良い子ね~…あぁ~此処は天国ねぇ…」

(………昨日は村に居なかった、顔立ちが少しハジメと似てる………?)

 村の中に植えられた大きな木、そこは獣人族が住まいとしている。
木の根元、芝の上に座り込んだ雫がアイルー、テトルー、ガジャブーの子供と戯れていた。
大人になった獣人達は村の様々な施設で働いているのだが、子供達は住処でお留守番が基本だ。

 偶々村の中を散策していた雫は偶然彼らと出会い、懐かれて今に至る。
通り掛かりの村人から既にモンスターの一種だと説明は受けている雫だが、目の前の愛くるしい毛玉がモンスターかそうじゃないか等どうでもいい。
今は他の事を忘れて、その手で小さな毛玉に癒されたい一心だった。

「うふっ、ふふふふっ。よーしよしよし――――――ぁっ」

 アレーティアと子供達がぽかんとした表情で見ている事に気づいた雫の顔が固まる。
撫でていた手が止まったことで彼女の膝の上に座っていたアイルーの子供はサッと下りた。
雫は名残惜しそうに手を伸ばすが、視線だけはアレーティアの方に向けられていた。

「――――――え、ええっと…その…初めまして?」
「ん…初めまして。………今のは見なかった事にした方がいい?」

「………………そうね、そうして頂戴」
「分かった。―――それで出会って早々に貴女に尋ねたい事がある」

「??何かしら」
「貴方はハジメと知り合い?」

「ッ!……ええ、そうね……知り合い……ではあるわ」
「…そう。ハジメが言ってた神の使徒?」

 ハジメの名前が出たことで雫は目を見開き、暫く思案した後ゆっくりと立ち上がる。
服の裾に付いた土汚れを払い落とし、アレーティアと向き合って話し合う。
彼女の周りにいた子供達はまたハジメの知り合いが現れた事ではしゃいでいた。

「ええ、その一人が私。…八重樫雫よ」
「私はアレーティア。…これで私が知り合った神の使徒は、ハジメを除いて貴女が二人目」

「二人目…ってことは、他の誰かともう知り合ったのかしら?」
「ん…園部優花と、ハジメの家で今朝食卓を囲んだ」

「そう………えっ?いま、なんて言ったの―――南雲君の家で―――園部さんが?え?うそ?」
「本当のこと。私とシアって兎人族の女の子と園部優花の三人は、ハジメの家で朝食を食べた」
「………なんか彼…物凄く女の子との距離が縮まってるみたいね。良い事…なのかしら?」

 以前であれば雫の親友である香織が「どういうことかな?」と般若の形相を浮かべ、慌てた雫が彼女を落ち着かせようと必死になって苦労する展開もあったかもしれないが…今の香織はハジメに全くそういう感情を抱いて無さそうだった。
アレーティアにじっと赤い瞳で見つめられて、雫は少し顔を赤くしてドキッとする。

「…な、何かしら…?」
「…貴女はハジメをどう思ってる…?」

 その質問を聞いた雫は、アレーティアが見つめてきた理由が瞬時に分かった。
異性のしての付き合いかまでは分からないが、目の前の少女はハジメとかなり仲が良い。
そんな彼女が雫達…神の使徒に抱く印象がどういうものなのか?
彼から聞いているのなら、恐らく相当良くない印象なのだろうという事だけは分かる。
…主に雫の幼馴染であり、この場にいない勇者の彼とか檜山達(檜山と中野は死んでいて、残りは近藤と斎藤の2人だけ)が原因だが…

「――――――南雲君には悪い事をしたわ。ううん、彼だけじゃない…色んな人に…私はたくさん迷惑をかけた。きっとこれから先も、迷惑をかけ続けると思う」

「………そう」

 天之河や檜山達の悪行を未然に防ぐ、或いは悪行をした後できちんと罰する事が出来なかった。
本来それは愛子のすべき事なのかもしれないが、作農師として各地を転々としていた彼女には到底出来ることじゃない。…となれば、その役目は必然的に雫へと回ってくる。
それが出来なかったが故にハジメはいなくなり、幸利は敵対する道を選んだのだから。

「謝ったから許して貰える…なんて軽く考えるつもりはない。寧ろ私は()()()()()()()()()()()…そうでも思わなきゃ私自身、いまこうして生きる事すら儘ならないもの…」

「………」

 静かに語る雫の表情を目にしたアレーティアは、少しだけ神の使徒の評価を改めた。
ハジメが言ったように、きっと使徒には悪い人も良い人もいる…だけど雫はそのどちらでもない。
彼女の瞳が心の奥に抱えた闇を物語っていた。
それは決して今知り合ったばかりのアレーティアが触れていいものではないと分かる。

「――――――ごめんなさい。質問の答えになっていなかったわね。……私が南雲君をどう思っているのかって……以前はただ心の強い人って印象を受けたけど……そうじゃなかった。彼も年相応の男の子なんだなって…さっきの話を聞いて、改めてそう思った」
「……分かった。答えてくれて、ありがとう」

「…さて、と…私、もうそろそろ村を出なきゃいけないの。アレーティアさん、また会う事があったら次は帝都かしらね。南雲君にもそう伝えて貰える?」
「……ん、伝えておく」

「ありがとう。私のことは次に会えたら名前で呼び捨てにして貰って構わないから」

 そう言って村の中心へと向かって小走りで去っていく雫にアレーティアと子供達は見送る。
アレーティアは走っていく彼女の後姿がほんの少しだけ何かに対する覚悟を決めたように見えた。




特別任務「ハルツィナ樹海ツアー」➂

 

 ゲブルト村を出て三十分くらいが経った頃、ようやくベースキャンプが見えてきた。

俺が見るのは初めてだが、テントや支給品/納品BOXの配置はライセン大峡谷のそれと似ている。

他のハンター達が使っている形跡はなく、アッシュが焚き木に火をつけた。

 

「此処が出発地点だけど、休憩は必要かな?」

 

 リーナがクラスメイト達の顔を見渡すが、疲労しているのは畑山先生と宮崎達だけか。

腐ってもオルクス大迷宮に挑んでた面々は歩きでの移動にかなり慣れ親しんている。

優花は先生達ほどじゃないが…流石にちょっと休憩させた方がいいか…?

 

「この辺りの植物とかでも説明できるものはある。俺は周辺の見回りをしておく」

「あっ、ハジメさん!それなら私も同行しますね」

 

「うん、それじゃ五分後に。それまで先生さん達は休憩ね~」

 

「はっ、はいぃ……」

 

「…ハジメ、この辺りだと薬草とかカラの実くらいしか拾えないぞ?」

「それで良いんだよアッシュ。そいつら、知識に関しては王国民並だからな」

 

 俺とアッシュの会話を聞いて一部の生徒はムッとするが、事実なので言い返せない。

今この場にはいないがメルドさんや…薬草とかサシミウオとかその辺で拾って食えば傷を治せる物の説明くらいは講義とかで出来なかったのか…と嘆く。

若干棘のある言い方だが、アッシュ達はそれで伝わったみたいで納得している。

 

「…成程、分かった。それじゃ説明はリーナ、頼めるか?」

「りょーかい。ハジメ、シアちゃん。気をつけてね~」

 

 若干数名の視線を背後に感じながら、道なき草原の中へとシアを伴って歩き出す。

歩いてすぐに向こうの会話の声は聞こえなくなり、鳥や虫の鳴き声と風に揺れる草木の音だけが辺り一帯を占めている。ようやく詰まっていた気持ちを吐き出せるようで、フゥと息をついた。

 

「ハジメさん、無理とかしていません…よね?」

 

「…大丈夫だ。昨日シアに話を聞いてもらったし、今朝の一件でも大分吐き出せたんだしな…無理なんてしてないさ」

 

「…分かりました。もし辛くなったら、いつでも頼って下さいね?」

 

「…ハハッ、後輩の癖にちょっと生意気だぞシア。―――と言いたいが、頼りにしてるよ」

 

「はいっ!―――えへへ」

 

 いつまでも情けない姿を見せている訳にはいかない。

草原の中を歩きながら周囲を見渡していると、不意にシアが一歩前に進み出る。

 

「――――――向こうの茂みの奥。小型の虫系モンスターが2,3匹います」

 

「ん、そうか…流石だなシア」

 

 兎人族特有の聴力で、見えない草むらの中を這う甲虫の存在にいち早く気づけた。

これが更に視界の悪い樹海内であれば飛び交う牙獣や鳥竜、果てには空を舞う飛竜にすら気づけるのだから大したものだ。

しかし甲虫程度じゃシアの実力を測るには物足りな…あっ、そうだ。

 

「シアは此処で待機しててくれ。1匹は確実に原形を残したまま持ち帰りたい」

 

「…そうですか。分かりました!周囲の警戒してますね」

 

「頼む」

 

 オーダーレイピアを抜いて、シアの指さした場所に向かうと…カンタロスが3匹いた。

見たところ上位個体でもなさそうだし…倒し方に気をつけないと全部バラバラにしちまいそうだ。

向こうの俺の存在に気づいてビョンとその場で跳ねてから小さな口元の鋏を打ち鳴らす。

 

 鬼人化するまでもない。抜刀したまま歩いて近づき、2匹は袈裟斬りにして両断する。

残り1匹が飛び掛かってくるが片方の剣で受け流し、そのまま地面へと降りた瞬間―――

 

「おらっ!」

 

 クックSグリーヴを履いた爪先で思い切り横っ面を蹴飛ばす。

ギィ!?と苦しそうな呻き声をあげるが流石に一撃じゃ倒れないか…ならもういっちょ。

 

「これで、どうだっ!おらっ!死ねオラッ!」

 

 ちょっと口が悪いのはさっきのモヤモヤを晴らしたかったから…他意はない。

5,6発目の蹴りが強過ぎたのか、カンタロスは宙を舞って仰向きにひっくり返る。

暫く肢をモゾモゾ動かして暴れていたが…やがて力尽きて痙攣を始めた。

 

(本当ならここで剥ぎ取りと言いたいところだが――――――)

 

「ハジメさん、終わりましたか~?」

 

「おう。まだ時間に余裕はあるが、ベースキャンプまで一度戻るぞ」

 

「了解ですぅ!―――って、え…それ持ち帰るんですか?」

 

「あぁ。こいつには悪いが神の使徒御一行様の為の教材になって貰う」

 

 うへぇとシアが気持ち悪そうにするが…お前も訓練所で似たようなこと教わっただろ?

俺も初見は同じような反応をしたが、露骨に嫌がると教官から訓練所の周りを延々と走るよう命令された挙句「命のありがたみを分かっていない。飯抜きだ!」って言われるからあまり顔に出さないようにしてるんだよ今は。

 

 それに…な?あいつら思ったより余裕そうだし…ここらで一発かましてやるのよ。

なぁに悪意があってやる訳じゃないさ。俺はただ親切に教えてやるだけだ。

最初からアプトノスとかの解体でも良いんだが…最初は小さい奴から…な?

 

「…ハジメさぁん。悪いこと企んでるって顔してますよぉ…」

 

「気のせいさシア気のせい。………クククッ」

 

 

「ようハジメ戻ったか。――――――お前、なに持って来てんだ」

 

「なにって…この村で暮らすなら、これくらい見慣れて貰わなきゃ困るでしょう?」

 

 草むらから出てベースキャンプ近くの岩場に寄り掛かっているアゥータさんと話す。

クラスメイト達はリーナが訓練所で教わった薬草の使い道や効能を簡単に説明している。

ぶっちゃけ俺らの時はワザとモンスターの攻撃食らってから使って効果を実感するってのが訓練での当たり前だったんだが、こいつ等にそれは無理だしな。

 

 俺が手に持っているカンタロスの死骸を見てアゥータさんが引き攣った笑みを浮かべる。

持って移動してから数分が経過しているというのに、まだ肢がピクピク痙攣していた。

 

「…へっ、よく言うぜ…わざわざそいつを選ぶことに悪意を感じるぜ?ハジメよ」

 

「やだなぁ、アゥータさん人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。善意ですよ善意」

 

 クラスメイト達に混じって畑山先生もリーナの講義?に聞き入っていた。

まぁ、あの人の背丈なら生徒に混じってても違和感ないんだよなー…本人の前では言わんが。

と、俺の接近に気づいた最後列にいた相川がカンタロスの死骸を見てギョッとする。

それにつられて他のクラスメイト達も俺の方に視線が移り、女子達は小さく悲鳴を上げた。

 

「あ、おかえりハジメくん。―――ってそれカンタロスの死骸じゃない」

 

「あぁ、話の邪魔して悪いとは思うがリーナ。こいつ等もいずれ肉の解体とか学ぶ必要があるし、先ずはこいつで慣らしておこうと思ってな。新鮮な内に済ませちまってもいいか?」

 

「成程そういう………でもカンタロスを使う必要……あるかなぁ?」

「…いや考えるまでもなくねーよ。普通にアプトノスとか―――」

 

「そりゃ尤もだが、アッシュよ。こいつら殆どアプトノスを見たこともねえって奴らばっかりなんだ。あんなデカい奴、俺らでも解体に手間がかかるってのに、こいつ等じゃ時間をかけ過ぎて他のモンスター達を呼び集めちまうよ」

 

「………そういう事なら確かに、カンタロスでいい………のかぁ?」

 

「そうそう、いいんだよ。もしかしたら食う機会だってあるかもしれねーし」

 

「「いやそれは絶対にない(ねえ)よ」」

「ハジメさん、流石にこれは私もお二人と同意見ですぅ…」

 

 ですよねー。自分でもそう思ったわ。

聞いた話だが世の珍味に飢えた美食家の中には虫料理を好む者もいるという。

そして連中、何をトチ狂ったのか虫のモンスターを食べたいと言い出したのだ。

しかも食った奴の中には美味だと答える奴もいたとか…味覚の正気を疑うぜ。

 

「……と、言う訳で。こいつの生態を軽くだが説明するぞ~」

 

 俺の言葉に返事を返すクラスメイトは一人もいなかった。

全員、優花も含めてまだピクピク肢を痙攣させるカンタロスに目がいっている。

 

「こいつは甲虫種の小型モンスター・カンタロス。主に湿地帯や森林…草木が生えてて湿気と暗い場所のある土地ならどこでも住みつける巨大昆虫の一種だ。襲われた時は肢の棘と二本の角に注意すること。バッタみたいに飛び跳ねる点に気を付けろ。数匹程度なら脅威とは呼べないが、数を増やすと五十以上の群れになることも珍しくない。戦う時は斬撃じゃなく打撃で仕留めることをお勧めする。こいつらの甲殻は加工次第で飛竜種の鱗並の硬さに匹敵するが、物理的な衝撃には弱い。――――――何か質問はあるか?」

 

「…そ、それじゃ一つ聞いてもいい…かな?」

 

 珍しく手を上げて発言したのは坂上の横に座っていた谷口だった。

俺が頷くと谷口は俺の武器とカンタロスを見比べながら質問を口にする。

 

「南雲君はどうやってそれを倒した…のかな?武器に体液とか付いて無さそうだし…」

 

 谷口の質問にクラスメイト達から「確かに…」「魔法?」といった疑問の声が上がる。

成程ね…こいつ等はカンタロス一匹にも数の暴力で、魔法とかバンバンぶつけてたのか…

まぁ、ハンターみたいな膂力もキック力も無いんだし間違ってはいない…のか?

嘘をつく必要もなく、俺は淡々と事実を口にする。

 

「蹴った」

 

「………へ?」

 

「5,6発蹴り入れて倒した。剣で一撃でも食らわせたら原形残せないからな」

 

「5,6発だぁ?俺の時は3発で倒せたぞ」

「アッシュ。あれはドリンクスキルで蹴りのダメージが上がってたからだよ」

「へえ~そんなドリンクスキルあるんですねぇ。今度調べてみますぅ」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 あまりに常軌を逸した回答と、他3人のハンター達の会話にクラスメイト達が絶句する。

質問した谷口も頬を引き攣らせて「そ、そっかぁ…蹴って…鈴達が苦労してた魔物を蹴りだけで南雲君は…」と後半はなんか落ち込んだように俯いて座り込んでしまった。

さて…見渡しても他に質問したそうな奴もいないし、本題に入るか。

 

「よし、説明は終わりだ。…早速だがお前らの中の誰か一人にコイツを解体して貰う」

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 そんなに驚くようなことかねえ…?

まぁ…こんなのはまだ序の口。こっから吐かないよう精々気張れや。

 




 ハジメ君との実力差というよりも、まずは慣れて欲しい生き物の解体。
最近の学校では魚とか蛙の解剖をやらないらしいですね(作者はぼんやりとですがフナの解剖だけやったのを覚えています)
最終的には一人でアプトノスを解体(狩らないにしても)くらいは出来るようになって貰わなきゃ困りますねえ。悪意ある誘導?なんのことやら(すっとぼけ)

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