モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 野村健太郎はどこにでもいる普通の男子高校生……だった、ほんの少し前までは。
少し前まで悪しき魔人族と戦う為に神エヒトが異世界から召喚してきた神の使徒の一人。
今はヘルシャー帝国の捕虜として、ゲブルト村に連れてこられた。
彼は今、信じられない光景を目にして唖然としている。

「とりあえず誰でもいい。やる気のある奴が居たら手ぇ挙げてくれ~」

 オルクス大迷宮で散々彼や他のクラスメイト達が苦戦して倒した虫のモンスター・カンタロス。
それをたった5,6発の蹴りで倒したハジメが、石の台座に載せて解体を手伝えと言い出した。
何の意味があってそんな事をするのかと思い、健太郎は困惑する。
他のクラスメイト達もそれは同じようで、代表で優花が彼におずおずと話しかけた。

「……ね、ねえ南雲?それを解剖するのはどうして?」

「ん?あぁ、そういや説明を省いちまったな悪い悪い。―――これからお前達は村で生活するんだろ?肉とか魚とか食いたきゃ自分達で捌くのは当然だし、村の人達の手伝いでいずれはそういう事をやらなきゃいけない。―――ってな訳で、早いうちに慣れて貰う為にこいつを選んだ。あくまでこいつは序の口、この先ケルビとかアプトノスを捌くことだってあるかもしれないだろ?」

「…け、ケルビって…あの鹿みたいな生き物よね…?」

「あぁ。……やってみるか園部?」

 健太郎達には聞き覚えのない名前だが、要はこれから鹿みたいな生き物を解体したりするのに慣れて貰う為に、まずは簡単な虫から始めようという事らしい。
ハジメに尋ねられた優花は青褪めた表情で首を横に振る。
彼女に続く形で女子全員が首をブンブンと振っていた。

「うーん…虫だからやっぱり女子は抵抗あるかぁ…男子はどうだぁ?」

 当然健太郎もノーと言いたかった。
だが全員がノーと言っていたら、今後の生活で困るのは目に見えている。
誰か一人でも捌き方をマスターして貰って、徐々に浸透させていけばいいだろう。
そんな風に考えた愛子がすくっと立ち上がり、引き攣った表情のまま口を開く。

「…せ、先生が…やります!南雲くん、ご指導のほどよろしくお願いしますっ…!」

「ん、分かりました。後もう一人くらい…先生の助手になろうって奴は?」

 これが虫の解体でなければ愛子の護衛隊をやっていた生徒達が声を上げただろう。
しかし相川達はすっかり見なかったモンスターの姿に怯んでしまっていた。
健太郎はふと、視界の端に映る綾子の後ろ姿を見て年頃の男子らしい考えが浮かぶ。

(……後で教えるって名目で綾子と二人きりで話せる機会とかあるんじゃね!?)

 彼らにとってモンスターは恐ろしい存在だった。
だがそれは、あくまで生きている状態での話だ…目の前の虫は確実に死んでいる。
直接触りたくないとか、臭いが気になるとか些細なことを気にしてはいられない。
この瞬間だけはモンスターに対する恐怖心より彼の下心が勝ったと言えよう。

「―――お、俺がやるぜ!」

「お前は……野村か。分かった、前に来い」

「おうっ!」

 男子達の「お前正気か!?」という視線と、女子の「野村くん頑張って!」という視線を受けながら、健太郎は間をすり抜けてカンタロスが横たわる石の台座の前までやってきた。
傍らにいる愛子が心配そうに横目で顔色を窺うが、彼はキュッと口を結んで覚悟を決める。

「じゃ、解体始めるぞ~」

 緊張する二人とは真逆に、当たり前のことを淡々と説明するだけのハジメ。
これが実は彼によるちょっとしたクラスメイトへの仕返しだと分かっている彼の同期や後輩、先輩ハンター達は苦笑して事の成り行きを見守るのだった。



特別任務「ハルツィナ樹海ツアー」④

 

 女子達が拒絶することは予想していた。

だから男子の誰か…理想は永山、妥協で坂上…に覚えて欲しかったんだが、先生が自分からやると言い、後に続いて何故か自信満々といった様子の野村が手を挙げた。

視界の端に映るリーナ達に、周辺の警戒を目で合図しながら説明を始める。

 

「まず注意すべきはこいつの肢。近くで目を凝らさなきゃ分からない、小さな棘が無数に生えてるのが分かるか?こいつらは角と羽で攻撃する以外にも、捕まえた獲物を離さないようにする為に、肢の棘を食い込ませるんだ。これに触れないよう、肢を根本から引き千切って貰う」

 

「…えっと…道具とかは…?」

 

「今回は…そうだな、特別に俺が使ってる剥ぎ取り用ナイフを貸す。こいつは飛竜の鱗も剥ぎ取れるくらいに切れ味が鋭いから、使う時は十分注意しろよ。うっかり落として足の指とかちょん切れたら流石に応急薬とか使っても治せないからな」

 

 それを聞いた野村の顔が青褪める。

お前らは王国から貰ってた武器でこいつ等くらい斬れなかったのか?…斬れなかったんだろうな。

何気にカンタロスの殻は加工次第で鉱石防具にも引けを取らない性能を発揮する。

恐らくこいつ等がカンタロスを倒す時は、火属性の魔法でも使ったのだろう。

 

 確かに甲虫種だけに絞ればそれは有効な手段だが、素材が得られない時点で論外だ。

あと大迷宮内でそんなに火を使ったら酸素とかヤバいだろ常識的に考えて。

ハルツィナ樹海とこの村の草原で同じような事をされて火事にでもなったら困る。

剥ぎ取り用ナイフを鞘ごと外しながら二人の前に置いて、そんな事を考えるのだった。

 

「…うぉ…すっげえ重い。こんな小さい刃物なのに…」

 

「…それじゃあ野村くん。先生が肢を引っ張るので、付け根に切れ込みを入れて下さい」

 

「っ!…はいっ」

 

 そんな大手術でメスを入れるかのような精密な作業とかじゃないんだけどなぁ…

ただ肢の棘に刺さらないよう気をつけて、肢の根元に切れ込みを入れて後は力任せに引き千切る。

野村は目を見開き、剥ぎ取り用ナイフでカンタロスの肢の根本を切っていく。

先生はそれを見て、棘が生えていない所を掴んでゆっくりと引っ張る。

その際に俺は本体が動かないように両手で抑えておく。

 

「―――っ、取れました!」

 

「よ、よかったぁ…上手くいったぁ」

 

 いや…いやいやお二人さん、喜んでるところ悪いが…まだ肢は五本残ってますぜ。

他のクラスメイト達も俺と同じ意見なのか、二人の喜ぶ様子に微妙な表情を浮かべる。

…見てる側は暢気でいいなぁ?やっぱり無理やりにでもやらせるか。

―――と俺が考えていた事を防具越しに仕草から読み取ったのか、また不安そうに優花が見つめてきた。…そんなに心配しなくても強制はしねえっての。

 

 それから二本目、三本目までを野村が剥ぎ取り用ナイフで根元を切り、先生が引き千切る。

そこで一旦俺から声をかけて二人の役割を交替させた。

意外にも非力と思っていた先生は、野村よりも手際よく切り込みを入れていった。

女子達から感心する声が漏れ、何故か野村は悔しそうにしている。

 

……あー、そういう事ね……何で自分から手を挙げたか謎が解けたわ。

気持ちは分からなくもない。こういう時、男子は女子にカッコいいところ見せたいって思うよな。

理由はどうあれ、真剣に学んではいるようだったし…よしとするか。

 

「…南雲くん、肢の解体が終わりました」

 

「ご苦労様です。取った肢はそこの袋に入れておいてください」

 

 本当は肢の中にある肉を穿り出して、殻だけの状態にして欲しかったんだが…

流石に時間が掛かるだろうし、肉の感触は胴体でしっかり覚えられるから良しとしよう。

肢を失い、達磨状態になったカンタロスから緑色の体液がダラダラと零れている。

それを見た女子達は気持ち悪そうに口元を抑え、男子達も顔を顰めていた。

ちょっとだけ呆れて溜息を吐きながら、注意喚起を込めて静かに顔を上げ口を開く。

 

「……この先は()()()()()じゃ済まねえからな?」

 

(カンタロスの解体程度でヒィヒィ言ってたんじゃ、アプトノスはどれくらいかかるのやら…)

 

 カンタロスの解体に於いて、もっとも難しく入手難易度も高い素材。

それが”カンタロスの頭”だ。鋭利な翅の付け根から前足の付け根辺りまで。

加工には特殊な素材が必要とされているが、用途は多く欲しがるハンターも少なくない。

当然それを知っている商人達が高値で買い取る事もある訳で…

 

「次は二人が引き千切る側で、俺が切ります。先生、ナイフを」

 

 先生から剥ぎ取り用ナイフを受け取って、仰向けにしていたカンタロスをうつ伏せに。

二人と違ってハイメタアームβを着けたままの俺は手を傷つける心配がない。

多少強引にやって棘が刺さったところで問題にはならない。

これが麻痺針を持つランゴスタなら、また話は変わってくるかもしれないが…

 

 野村が下側の小さな角を、先生が上の大きな角を掴んで目線で合図を送ってきた。

俺は頷き、刃物の先端を翅の付け根に刺し込んでから甲殻の曲線に沿って押し進める。

胴体から溢れて来る緑色の体液がアームの表面に付く。

それを見てまたクラスメイト達は「んひぃ」と嫌そうにするが、俺はまったく気にしない。

 

「………よし、引いてくれ」

 

「はっ、はい!」

「分かった…!」

 

 二人は呼吸を合わせてぐっ!と力強く引っ張り…ブチブチと肉の千切れる嫌な音がする。

俺が切り込みを入れたのは甲殻と翅を繋ぐ表面部位だけ虫の臓物や血管はそのままだった。

今度こそ限界だった女子数人が立ち上がり、草むらの方へ走っていった。

カンタロスの頭を持っている野村と先生もさっきより顔色が悪そうだ。

 

「……ご苦労さん。その頭も袋の中に入れておいてくれ」

 

「…ぅっ…お、おう」

「わかり…ました」

 

 誰しも通る道…ってのは故郷じゃ無いよな。こっちの世界限定か。

そんな事を思っていると、草むらの方にいっていた女子達が何やら騒がしい。

目を凝らすと、草むらの奥で見慣れた小柄な草食獣がこちらをジッと見ている。

 

―――キュルルッ、キュゥッ。

 

「……あれは”ケルビ”か。都合よく次の獲物が、向こうからやってきたな」

 

「―――都合よく?……っ!な、南雲くん。それはまさか―――」

 

 先生が何か言いかけていたのを無視して、近くにいるリーナに目で合図した。

ガシャンという音に女子達が振り向き、リーナは弓を展開して矢を番えている。

”フロギィリボルバーⅢ”…見た目と使い勝手の両方で評価は高いと聞く。

握りの部分にあるリボルバー拳銃のシリンダーも相まって、現実的にはあれがボウガンと呼ばれる武器に一番近い形してるんだよなぁ…細かいこと気にしてたら負けか。

 

「ごめんね。そこ退いて貰っていいかな?」

 

「……えっ。まさかあの鹿を――――――!?」

 

 谷口が気づいたようでリーナを止めようとするが、既に弦は引かれて溜めが終わっていた。

バシュッ!という音で()()()()がケルビ目掛けて飛んでいく。

”連射Lv3”…合計3本の矢がケルビの胴体を貫いて、鮮血が辺りの草を赤く染める。

流石リーナ、俺らの世代内で最高適性値の弓使いは伊達じゃない。

 

「ふぅ~。流石にあれ外したら訓練所で再講習待ったなしかな」

 

「お見事。…アッシュ、死体の回収を頼めるか?」

 

「おう、ちょっと待ってろ」

 

「私、引き続き周囲を警戒してますね!」

 

「頼む」

 

 二人にそれぞれ指示を伝えていると、クラスメイト達の表情がまた暗く沈んでいる。

…カンタロスを持ってきた時は既に死んでいたから何も言わなかった。

目の前でケルビ―――もっとも身近にいる動物に近い姿のモンスター―――をあっさり射殺したんだから流石にショックを受けてるよな。

ちょっと配慮が足りなかったかなとか思った矢先、谷口が小さな声で呟いた。

 

「………かわいそう」

 

 リーナが弓を畳みながら申し訳なさそうに笑って視線を逸らす。横で聞いていたシアは何か言おうとして口を開きかけたが、それより先に俺が動いた。

…流石に今のは聞き捨てならない。同期(リーナ)に対する言葉だけじゃなく、今までこの世界で散々な目に遭っていながら、平和ボケしたお花畑脳からまだ解放されきっていないこいつ等の甘さに対して、湧き出る苛立ちを隠せなかった。

固まっている女子達の前に歩いていき、谷口を真正面に見据えて棘のある言葉を放つ。

 

「見た目の気持ち悪い虫は殺されても何も言わない癖に、可愛らしい鹿は殺されて可哀想?――――――聖教教会とよく似た独善的な差別意識が随分と染みついてるんだな」

 

「………ッ!」

 

 悲痛に表情を歪め、か細く息を吸う声と共に谷口は下を向いて黙り込む。

女子達はそれを見て俺に言い過ぎだとでも言おうとしたのだろうが、身長差とギルオスヘルムβの見た目の威圧感で「あ?」と一言呟いて黙らせた。

 

「…ハ、ハジメくん。私は気にしてないから、その辺で…」

 

「勘違いするなリーナ、俺はお前の為に怒ってるんじゃない。こいつ等はこれまで大迷宮で何人も犬死にさせておきながら、おめおめと生き永らえて…少しは辛い現実を前に、能天気な考え方も心構えも変われるんじゃないかと期待したが…期待外れだ」

 

「おいっ、それは言い過ぎだろうがよ南雲!」

 

「お前達が王宮で召使に身の回りの世話をされて何一つ不自由ない生活を送ってる間、俺は血反吐を吐く思いで努力を重ね、この世界の価値観も生活も身に着けたんだ。言い過ぎて何が悪い?――――――これでもまだ言い足りないくらいだ!!!

 

 谷口を庇ったつもりで俺の前に立った坂上も、初めて聞く俺の怒号に怯んで後退る。

言いたい事を言ってもスッキリしない。逆に胃の奥でキリキリと痛みが増して、更に積もる怒りの熱で頭が痛くなってきた。

そんな時だった。これまで静かに見守っていたアゥータさんが俺の方へと歩いてきて、苦笑を浮かべて手を俺の頭に乗せ、ゆっくりと口を開く。

 

「そんなにカッカするなよハジメ。こいつ等が今通ろうとしている道は、お前が通ってきた道だろ?将来を心配してやるのは良いが、余計に仲を拗れさせるような事は言ってやるなよ」

 

「ッ!!俺は、こいつ等の心配なんてしてな―――」

 

「いや、してるよ。心配してなかったら、わざわざ依頼内容に書いてない事を、時間を割いてまで教えようなんてしない筈だ。俺の言ってることは間違ってるか?」

 

「…あくまで村の為です」

 

「…フッ、今はそういう事にしておいてやるか。…んで使徒の坊主達に嬢ちゃん達よぉ、あんまり俺は他人に厳しい事を言いたくねえし…そういうのはそこで心配そうな面して突っ立ってる先生のやる事だ。俺が言うべき事は一つだけ…弓使いの嬢ちゃんは、依頼された仕事を果たしただけだ。――――――思ってても、そういうのは露骨に態度で出さないでやってくれ」

 

 こういうのを大人の対応と言うのだろう。

俺の精神がこれくらいの立ち振る舞いを当たり前とするにはまだ幼稚すぎる。

そんな風に思いながら、そもそもこうなった事の発端は貴方だとボソッと呟いた。

 

「ク、ハハッ。確かに…俺が一番他人のこと、あれこれ言えねえ立場だったか…」

 

「………いえ、俺も少し熱くなり過ぎました。…今は仲裁に感謝しています」

 

 俺とアゥータさんが話してる間に、リーナも谷口から半泣きで謝られていた。

しかしリーナの方はまったく気にしていない様子で、寧ろさっきの態度に感謝を述べている。

 

「私達ハンターは殺すのが当たり前になっちゃうから、生き物を殺して可哀想とか、残酷だとか…あんまり感じなくなっちゃうんだ。だから、貴女達の反応が人として正しくて、当たり前なのよ。―――慣れて欲しいとは思うけど、その気持ちも忘れずにいてあげて?」

 

「うぅっ…ふぇ…本当にごめんなさいぃ…」

 

「うん。私も気遣いが足りなかったから、お相子ってことでこの話はお終い…ねっ?」

 

 あそこまで女の子に泣かれると、流石に俺も言い過ぎたと反省せざるを得ない。

独善的な差別意識とあいつ等に向けて言った言葉が、自分にも刺さっているような気がした。

 

 それからアッシュの持ってきたケルビの解体は、リーナが代理で教えることに。

俺も頭を冷やしたかったし、何よりまたクラスメイト達と距離を置きたかった。

さっきの事を気にしていた谷口が、覚悟を決めた表情で解体の手伝いに名乗りを上げる。

助手には実家が洋食屋という事もあり、生肉に抵抗があまりない優花が付いた。

―――先生は終始何も出来なかったことに対して自分を責めていたようで、離れたところで解体の作業を見守る俺にチラチラ申し訳なさげに視線を送っていた。

 




 次回の前書きは先生視点でのスタートになる……予定!
ハンター達の感覚がアレなだけで、谷口さん達のリアクションが人として普通っちゃ普通なんですが…スーパーで切り売りされてる肉を普通に食ってて、それがいざ目の前で肉が切り売りされるまでの過程を目にして、反応が可哀想だと…ねえ?(しかもカンタロス先輩の時は無反応どころか嫌悪感MAXだったことも含めれば猶更)

 リーナさんはこういう反応されても引き摺ったりはしないメンタル強めの娘です。
(アッシュの場合はやれやれで流し、シアは凹む。ハジメだったらキレてた)←このリアクションで各々の精神年齢が分かる主にシアとハジメ、リーナとアッシュのペアが近似値。

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