モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 ハルツィナ樹海の深部、そこには亜人が古より神聖視する大樹があった。
”ウーア・アルト”と呼ばれる大樹は異質な雰囲気を放っている。
辺り一面の草木が青々とした枝葉を広げているのに対し、ウーア・アルトは()()()()
根元から枝の先に至るまで彼は果てているのだ。

 だが、この大樹は死んでいない。
枯れ木のような見た目をしていながらも、根から養分を吸収し樹は呼吸している。
どのような理由でそうなったか定かではないが、大樹はモンスター達を寄せ付けず、年中深い霧に覆われている事から亜人族の間では特別な樹として認知されていた。

 そんなウーア・アルトから、亜人が暮らす国フェアベルゲンまで続く道に異変が起きていた。
筒状のイネ科の植物が突如地面から無数に生えて周囲の生態系に変化を及ぼしている。
地面に咲いていた花がぐったりとしな垂れて、木々の根本が所々腐り始めていた。

 筒状のイネ科の植物…それは竹である。
この世界の住人、亜人や人間はあまり竹に馴染みがない。
唯一、特殊な環境下に身を置く竜人族だけが竹と縁ある種族なのだが…これはまた別の話。

 これまでハルツィナ樹海で自然に生えることがあっても、環境を壊すほどの竹が出てくることはなかった。故に亜人達は初めての出来事に困惑していた。
当然、彼らも黙って竹が侵食していくことを見過ごすはずはなく早々に伐採を始める。 
だが竹の成長スピードは凄まじく、伐採した翌日には倍以上の長さに育つ。

 それどころか、侵食する竹は()()()()()()()()()()()()()というものまで出てくる。
地下茎が地中に広がってしまい、根元まで掘っても徒労に終わってしまう。
長老たちは原因を調査する為に大樹へと調査隊を派遣したのだが……

 何日経っても調査隊が戻ってくることはなかった。
不審に思った彼らが調査隊の進んだ道の先で見つけたのは―――
恐怖と驚愕に染まった顔で、竹に貫かれて死んでいる調査隊の者達だった。

 これが彼らが後に迎える最悪の日々の始まりだと、思い知るのは数日後の事。
樹海全体が竹害の影響を受ければ、当然それはモンスター達にも伝わる。
モンスターの侵入を比較的阻んでいた水晶の効力が失われ…フェアベルゲンの悪夢は始まった。



「お爺様。替えの水をお持ちしました」
「…ありがとうアルテナ。そこに置いてくれ」

 フェアベルゲン内、森人族の集落中心にある族長の部屋にて。
長老アルフレリック・ハイピストはやつれた表情で看病をしていた。
そんなところへ水を汲んだ桶を持って現れたのは孫娘のアルテナ。
彼女は元気のない祖父を少しでも元気づけようと、隣に座って寄り添う。

「大丈夫ですわお爺様。お母様はきっと良くなります…きっと…」

 二人が見守る先…寝台の上に族長アイリス・ハイピストは横たわっていた。
顔半分を覆う包帯で全てを見ることは出来ない。凛々しく気丈に振る舞う普段の彼女からは想像も出来ない、苦悶に満ちた吐息が半開きの口から時折「こひゅう」と漏れている。

 アルテナは祖父を心配させまいと泣きたい気持ちを抑えて気丈に振る舞う。
だが瀕死の母親を前に、涙が滲んで鼻の先がツンと熱を帯びる。

(どうしてこんな事に…何故、私達ばかりがこんな目に…)

 数日前まで普段通り政務を行っていたアイリスが大樹ウーア・アルトの異変と調査隊の死を聞くや否や、戦士を率いて集落を飛び出していった。
何かあったとしても先祖返りのアイリスなら無事に戻って来てくれるだろうと思っていた…
戦士の半数が死に、生き残った部下がボロボロの彼女を連れて戻るまでは。

 フェアベルゲンの周りには、これまでにない数の凶暴化したモンスターが跳梁跋扈している。
彼らは運悪く、その内の数体と遭遇してしまい、各個に応戦するも為す術なく撤退させられた。
その中でアイリスは毒や麻痺を持つ危険なモンスターを一人で相手にし、これを撃退したという。
部下達が駆け付けた時には立っているのがやっとの状態だった。

 アルフレリックはすぐに事態の異常さに気づいて虎人族、熊人族に伝令を送った。
だが伝令は戻らず、代わりに来たのは息絶える直前で救援を伝えにきた両種族の伝令役。
他の種族も既に壊滅状態で、樹海に耐えず漂う霧やモンスター除けの水晶がモンスターに対し効果を発揮しなくなっている事を、亜人族全体が理解したのはこの時である。

 そして現在、アイリスは外傷こそ少ないが猛毒に侵され虫の息。
森人族にはこの毒に対する解毒の心得を持つ者がいなかった。
モンスターと戦わずに、他種族との争いも避けてきた穏健派の弊害である。
彼らが保管している先祖の古文書を調べれば、もしかしたら解毒の方法も分かるかもしれないが、それを調べて実践する間にアイリスは死ぬだろう。

(死なないで、お母様…どうか、どうか死なないで下さい…!)

 アルテナは自らの非力を憎まずにはいられなかった。
族長の娘という立場に甘んじることなく、モンスターの事や医術の心得を学ぶ機会は幾らでもあった。それを無意識の内に先送りにしていなければ、こんな事にはならなかったかもしれないのに。

 だが、いつまでも過去を悔いてはいられない。
動けない母アイリスと、意気消沈している祖父アルフレリックに代わって―――

「お母様に代わり、戦士達の指揮は私が引き継ぎます…お爺様」
「………あぁ頼む」

 争いとは無縁に生きて来たアルテナが口にした覚悟の言葉にも、娘が死ぬかもしれない現実を前に打ちひしがれていたアルフレリックは眉一つ動かさず淡々と返事をする。
そん
 な時、部屋の中に森人の青年が入ってきた。
生き残った戦士の一人、今はフェアベルゲン周辺の哨戒任務に当たっている若者だ。

「長老。樹海内に人間達が侵入したと哨戒の者より報告が――――――」
「っ!いま長老は動ける立場にありません。今後そのような報告は族長代理である私になさい!」

「はっ、も…申し訳ございませんアルテナお嬢様……いえ族長代理!」
「…詳細は外で聞きましょう。お爺様…行って参ります」
「………………」

 とうとうアルテナの声掛けにもアルフレリックは返事すらしなくなった。
こんな風に老いてやつれた祖父の姿なぞ見たくなかったとアルテナは内心悲しい気持ちになる。
だがそれも自分がまだまだ未熟なせいであるからだと言い聞かせ、足早に部屋を出て行く。

 アルテナは木々の間に架けられた橋を渡りながら、後ろを歩く部下からの報告に耳を傾ける。
集落の中は混沌と化していて、そこら中から苦悶に満ちた声と不安の声が聞こえてきた。

「樹海に入ってきたのは、族長が前に捉えた忌み子の兎人ともう一人…顔は何やら奇怪な面に覆われて見えませんでしたが、恐らくは帝国のハンターかと…」
「―――――――ッ!?それ、は……確かな事実……なのですか?」
「は、哨戒の者による技能”遠視”での確認なので間違いはないかと……アルテナ様?」

 困惑する部下の前で、アルテナは心に一筋の光が差し込んだように思えた。
この世で忌み子と呼ばれる兎人は、アルテナが知る限りただ一人の少女しかいない。そして、彼女と共に現れた者がハンターであるならそれは確実に………

(シア様、ハジメ様!)

 その後報告を聞き終えて間もなく、彼女は大慌てで部下に出撃を命じ、自ら出る事を告げた。
戦士達の中には彼女が集落の外に出る事を危険だと止める声もあったが、彼女はそれを否定した。
集落の中にいようと外にいようと、既にもう亜人族(自分達)はモンスターに襲われる死の危険と隣り合わせの状況に置かれているのだから。



旧きものは目覚め、新しき者は樹海は誘う

 

「――――――ハジメさん。止まって下さい」

「…何かいるか」

「…あまり大きくはありませんが、この先の開けたところに数匹…」

 

 シアに先導役を頼んでハルツィナ樹海を進む最中、俺は改めて兎人の凄さを痛感した。

亜人の中でも争いとは無縁に生きて来た兎人族だが、その身に秘めた身体能力は戦いに特化している熊人や虎人よりも優れていると対人戦素人の俺でも断言できる。

 

 五感の内、聴覚が最も発達している兎人族は何百メートル離れていようが小さな虫の羽ばたきすら聞き分けてしまう。そのうえ足回りが柔軟かつ力強く、兎人族の子供でも新体操のプロ選手並に動き回れるのだから持って生まれた生存力が人間とは桁違いだ。

 

 ハンターとして訓練を受けたシアは元々あった身体能力を更に成長させて、普通のハンターなら出来ないであろう装備を着けたままの状態で地面を蹴って宙に飛び上がり、木の幹を足場に高い所の枝まで登ることが出来た。

これを攻撃に活かしたら、恐らく通常の攻撃でも人間のハンターとは桁違いのダメージが叩き出せるだろう。

 

 極力音を立てないように枝から降りてきたシアが報告をしに来る。

 

「1匹はドスランポス、周りにランポスが3匹見えました」

「リーダーの率いる群れか……個体としての強さはどれくらいだ?」

 

「…トサカの発達具合や体の大きさからして、恐らく下位の個体です」

「下位個体…出来るだけ戦いを避けて通りたいが―――」

「――――――ん、ちょっと待ってください。……大丈夫です。向こうが先に移動を始めました」

 

 目と耳の両方でいち早く状況を確認出来るシアに、俺はかなり助けられていた。

彼女に先導されながら樹海の中を進んでいると、オルクス大迷宮で見つけたスリンガーの事をふと思い出す。

 

 もう俺の手元には既に無いが、あれをどう使うのか時々考えてしまう。

視界の先に映る木々の上、丈夫そうな枝の根本なんかに巻き付ければ普通のハンターもシアのように高い所へ上ることが出来るようになるんじゃないか?

 

 俺は他にも錬成という手も考えたが、技能使用による肉体の疲労や錬成発動時に発生する光や音が狩りの妨げになるんじゃないかと思って実行には移せない。

 

「…なんだか変な感じです…」

 

 あれこれ考えていると、不意に前を歩いていたシアがそんな事を言いだした。

 

「樹海全体の空気が、重苦しくて…まるで樹海そのものが病気にでもなったみたいです」

「…病気…言われてみれば、前来た時よりも小動物の声が聞こえないな」

 

 シアは自慢の耳で多くの生き物たちの声や音を拾って、俺より先に違和感に気づいていた。

心なしか表情が険しい…目を細めては何かを堪えるようにグッと奥歯を噛みしめている。

…まさかと思い、止まるよう合図を出してシアに尋ねた。

 

「…シア、まさかとは思うが…」

「っ…すみません。こんな時に…未来視が…」

 

 シアは天職”占術師”であり固有魔法”未来視”という稀有な技能を生まれた時から持っていた。

日に一度、術者の意思とは関係無しに発動するそれは起こり得る未来を術者に見せるという。

だが制御されずに発動する未来視の反動は大きく、酷い頭痛や倦怠感に襲われる事もあるらしい。

 

「この先には確か浅い洞穴があったな。そこで休むか」

「い、いえ…このくらいの事で立ち止まったら――――――」

 

 まだ制御には至っていないが、どうやら痛みに対する耐性は自然と身に付いたようだ。

だからといってこのまま歩かせるのも酷だろう…ちょっと心を鬼にして説得する。

 

「此処が樹海の中って事を忘れるなよ。さっきみたいな弱いモンスターばかりじゃない、俺達じゃ手に負えない化け物が突然出てくる可能性だって十分にある。万全の状態を常に維持しないと背中を預ける相手に迷惑を掛ける事になるんだ…言った通りに休め」

 

「……そう、でした。…ごめんなさい」

 

 あからさまに落ち込んだ様子でシアは俯き、洞穴の方へと歩いていった。

…ちょっと言い過ぎた気もするが、俺がハンターとして彼女の先輩である内はこういう所は早めに指摘して改善していかないと、いざ他のハンターと組んだ時に危険が生じる。

彼女が死ぬ可能性を1%でも減らしたいと思うからこそ指導は必要だと割り切らなければ…

 

「そこで座ってろ。……まだ痛むか?」

「………ごめんなさい」

 

………まぁそれはそれとして。落ち込ませたのが俺なら、慰めるのも必然的に俺の義務だ。

アイアンハンマーLv2を壁際に立て掛けてしゃがみ込んでいるシアの横に腰掛ける。

オーダーレイピアの切っ先が微かに地面の先を擦ったが、気にせず話を続けた。

 

「もう謝らなくていい。俺の言った事は理解してくれてるんだろ?また同じ事があった時に、判断を間違えなけりゃそれでいいんだ。だからまぁその…なんだ…そんなに落ち込むな」

「………はい」

 

 横目でチラチラ俺の顔色を窺うシアは、まだ暗い表情が拭いきれていなかった。

…参ったな…こういう時に気の利くジョークの一つでも言えればいいんだが…そういう器用さは俺には無い。出来ればこの話はあんまりしたくなかったんだが…

 

「……ぶっちゃけな。俺も樹海に入る直前まではシアにとっての先輩なんだから頼られる側としてちゃんとしなきゃなって思ってたんだ」

「そう…だったんですか」

 

「あぁ、だけど入る直前に俺はシアに「先導は任せた」って言っちまっただろ?いきなり先輩が後輩に道案内を頼む形になっちまって…あー俺はなんて優柔不断で頼りがいのない先輩なんだーって内心すげぇ落ち込んだよ」

「そんな事ありませんっ…ハジメさんが頼りがいのない先輩だなんてことは――――――」

 

「いやーその前もさ?神の使徒の護衛の時とかも俺、先輩らしいこと殆ど出来ないし、挙句の果てにシア達が我慢してたのに俺だけみっともなくキレて情けないったら…」

「あ、あれは私も思う所ありましたし…それに――――――」

 

「湿地帯じゃ自分勝手に二人を連れてきたってのに、魔人族と遭遇して危ない目に遇わせちまうし、ほーんと俺ってとことん先輩って肩書が似合わない男なんだなって―――」

「~~~ハジメさんっ」

 

 突然シアが声を張り上げて俺の言葉を遮り、フロギィメイルSの裾を掴んでくる。

顔を向けて「どうした?」と聞いたら彼女「あうあぅ」と悩む素振りを見せてから、やがて意を決したように座った状態で体の向きを俺の方へ向けてから口を開く。

さっきよりはマシな表情になっている…

…よし俺の思った通り…鉄板の自虐ネタで和ませよう作戦を選んで正解だったな。

 

「…私は…ハジメさんのこと、ハンターになる前から尊敬してます。命の恩人…ですし。私が危ない目に遭った時、真っ先に私を助けてくれた。私が尊敬する貴方自身が……情けないだなんて……そんな事、言わないで下さい」

 

「………そう、か」

 

 前言撤回。自虐ネタで和むどころか、逆に重い雰囲気にしてしまった…

何か言わなければと平静を装いつつ懸命に思考を回しても、コミュニケーション能力の乏しい俺は気の利いた一言すら出てこない。

このまま微妙な空気が流れてしまうのは拙いと感じた、その時―――――――――

 

「――――――ぁ、ぐぅっ!?」

 

「!!シアッ」

 

 シアが突然頭を押さえて苦しみだした…さっき発動しかけた未来視が再び何か見せようとしているようだ。

こめかみに手を当て、目を瞑った彼女に何か手助けを必要か俺が手を伸ばそうとして――――――

 

「―――ハジメさん、外にっ――――」

「なにっ―――!?」

 

―――ギシャアアアァッ!!

 

 突如、洞窟の外からモンスターの叫び声が響き渡る。

俺達二人は弾かれたように立ち上がって、俺は背にしたオーダーレイピアを、シアは壁に立て掛けたアイアンハンマーLv2を持って入り口の方を見た。

 

「この…モンスターは…っ」

「…図鑑で見たことがある…こいつは――――――」

 

 血のように赤い瞳と対照的な青白い鱗、純白の体毛に覆われたモンスターが入り口の前に居た。

尖がった顔立ちは蛇を彷彿とさせ、細身の体とは対照的に太く長い尻尾を生やし、それらを支える四肢の先から黒い鉤爪が見える。

 

 背の高い木々が立ち並ぶ樹海や山岳地帯に棲むと言われる牙竜種。

鉤爪で木々によじ登る他に、前脚と後ろ脚の間にある皮膜を広げて空中での滞空と滑空が可能で、体毛は静電気を溜めやすい性質を持っているとされ、体内にも電気袋が確認されている。

これらの能力を駆使して木々の間を飛び移り、狩りを行う姿から付いた別名”飛雷竜”―――

 

「「”トビカガチ”!!」」

 

―――シャアァァァ…グルルッ…!

 

 ここに来て厄介な奴と遭遇してしまった。

偶然か、或いは俺達の見落としか…どうやらこの洞窟と周囲一帯が奴の縄張りだったらしい。

 

 奴の縄張りと気づいたのは洞窟の地面に散らばっている体毛に今更気づいたからだ。

土の中に埋もれて植物と見間違えていた…観察力が足りなかったか…!

トビカガチの瞳が見開かれ、僅かに開かれた口の中から覗く無数の牙から血が滴り―――

 

(――――――血?)

 

 不用意に動けば即戦闘となる状況下で、トビカガチを観察していた俺はある事に気づいた。

背後で息を呑むシアの様子からも俺と同じ発見をしたらしく、小声で話しかける。

 

「シア。あのトビカガチ――――――」

「…私もいま気づきました…あれは――――――」

 

((―――()()()()()()()?))

 

 トビカガチの牙から滴る血は奴自身の血だった。

それだけじゃない…よく見ると青白い鱗が所々剥がれたり傷ついている。

威嚇時は逆立っていた体毛も今は通常の状態に戻っていた。

 

 俺達が縄張りに踏み込む前に何かと戦っていたのか?

傷を負いながらもトビカガチは勝ち残り、傷を癒すためにこの縄張りに戻ってきた。

そう考えるのが妥当かもしれないが、別の可能性もあるが………

 

「――――――考える時間も惜しい。一気にカタをつけるぞ、シア!」

「っ……はい!」

 

 背後でハンマーを構えるシアの体調はまだ万全の状態に戻っていなかった。

なるべくトビカガチの注意を俺に惹きつけて、早々に倒さなければ厄介な事になるかもしれない。

 

―――グルル、ガッ―――!?

 

「――――――ハァッ!!」

 

 戦おうとして体の何処かに負った傷が痛んだのか、トビカガチが一瞬怯む。

その一瞬の隙を逃さず、俺は”鬼人化”してオーダーレイピアを抜刀し真正面から突っ込んだ。

俺の突進に対し、トビカガチは大口を開けて噛みつこうとする。

 

「シッ――――――」

 

 青白い電気が迸るトビカガチの牙が触れないギリギリの距離で鬼人回避を使い、右の壁際へと体を移動し、そこで動きを止めず次の行動に移る。

右の壁際で、俺に残された行動は後退か被弾覚悟で左に避けるか、或いは――――――

 

「ふ、はっ!っぜえあぁぁぁ!」

 

 鬼人回避で前へと踏み込みトビカガチとの距離を詰めながら体を左に回転させ、その勢いに乗せたオーダーレイピアの二振りによる斬撃…”鬼人突進連斬”を食らわせる。

切りつけた箇所に水飛沫が上がり、トビカガチは痛みを感じると同時に嫌そうな素振りを見せた。

水属性はこいつの弱点になるらしい。逃さず連撃を叩き込む―――!

 

「まだまだぁっ!」

 

 今度は右からの逆袈裟による小ジャンプに合わせた二連撃”大回転斬り”

大回転斬りに続けて”二連大回転斬り”もお見舞いしようと隙を見せてしまい―――

トビカガチがやられっぱなしでいる筈もなく、波打つ尻尾を振り回して俺に叩きつけた。

 

―――シャアア、アアァァァッ!

 

「ごぁ…っ!?」

 

 狭い洞窟内の壁にぶつかって、内臓がシェイクされるような感覚に思わず呻き声を漏らす。

口の中に血の味が滲んでいないということは、恐らくダメージ自体はそんなに食らっていない。

俺は膝を着きそうになり、片足を一歩前に踏み出して留まるが、その間にトビカガチが距離を詰めて再び牙を突き立てようと襲い掛かってきた。

 

「くっ!」

「ハジメさん!」

 

 鬼人回避を連続で使ってトビカガチの噛みつきを避ける事は出来たが、スタミナの消耗は激しく俺の意志に反して強制的に鬼人化が解除された。

入れ替わるようにアイアンハンマーLv2を最大まで溜めたシアがトビカガチへ肉迫する。

 

「せやぁぁぁっ!」

 

 移動したままの溜め状態で繰り出されるハンマーの回転攻撃。

一撃、二撃とシアはトビカガチの前脚に狙いを定めて叩き込んでいく。

空中を薙ぐ重厚感のある音が繰り返される中、遂に()()()()と嫌な音がした。

トビカガチの攻撃を受けていた前脚の関節が、曲がらない方向へと曲っている。

 

―――ギシャアァァァァ!?

 

 支えの一つを失い、痛みに耐えきれずトビカガチはその場で転倒してしまう。

シアは溜め回転攻撃のフィニッシュ”強アッパー”をダメ押しで転倒直後に露出したトビカガチの内腹目掛けて放ち、トビカガチの口から大量の血が吐き出される。

 

「畳みかけますっ」

「あぁ!」

 

 スタミナが中途半端にしか回復していない以上、鬼人化に移行するのは時間の無駄だ。

俺はそう判断して素の状態で距離を詰め、トビカガチの頭部、首を狙って切り刻む。

シアは俺にハンマーが当たらないよう胴体の内側という柔らかい箇所へ的確な振り下ろしを何度も何度も行い、倒れていたトビカガチは起き上がる前に弱っていった。

 

――――シャ、ギエェェェ…

 

 最後の悪足掻きでトビカガチは溜め込んだ静電気を解放、尻尾を俺達に向かって横に振り回そうとしたが直前でオーダーレイピアの片方が奴の首を貫通し、ハンマーの振り上げ攻撃が骨を砕く嫌な音を響かせて奴の動きは止まった。

 

 足の支えが失われ、トビカガチの体が壁の方へ背を向けて横に倒れた。

倒れる直前で俺は剣を引き抜いて、足下の地面に血を振り払ってから鞘に納刀する。

 

「……狩猟完了……ですね」

「そうだな。だけど――――――」

 

 戦いの熱が引いていくのと同時に、最初の疑問が戻ってくる。

恐らく俺達が今いる洞窟と洞窟の外周囲一帯を縄張りにしていたトビカガチ。

手負いであれだけ動けた時点で、あれは上位個体と見て間違いないだろう。

 

 だがそんなトビカガチを、一体誰がここまで弱らせたというのか?

その答えを考えて数秒も経たない内に、洞窟の外から足音が聞こえてきた。

 

「っ!ハジメさん……この足音は―――」

「分かってる。……思ったよりも早く会えたな」

 

 人間サイズの生き物が発する足音、草だらけの外と違って茶色の土がむき出しになっている洞窟の中ではペタペタと肌の特徴的な音が、近づいて来る奴らの正体を教えてくれる。

以前のことを思い出して咄嗟に体が動き、シアを庇うように音の方を見据える。

 

 案の定、俺の予想は当たっていた。

薄暗い洞窟の中で数人分の足音が止まり、代わりに弓の弦を張るが聞こえた。

俺とシアが無言でその場に立ったままでいると、向こうから口を開く。

 

「帝国のハンター、それに兎人の忌み子。樹海に何の用があってきた」

「―――あんた等の長老…いや族長でも構わない。伝えるべき事があって此処にきた」

 

 暗闇の中で頭防具越しでしか認識出来ないが、入り口の方に浮かび上がったシルエット。

久しく見ていなかった尖がり耳は間違いなく亜人、森人族であることの証だ。

 

「我々はお前達を二度と害することはしないと誓った!樹海の中でお前達が何をやっていようが我らは不干渉を貫くつもりである!だが集落への侵略行為とあっては見過ごせぬ!」

「違いますっ、私達は村の近くで倒れていた森人の事を伝えにきただけで―――」

 

「何だとっ!!?」

「貴様らっ…我らが同胞に何をしたっ!!」

 

 シアの言葉に対し、弓を握る森人達の気配が鋭くなったのを感じる。

…だから言ったじゃんシア。あいつ等のどこに思慮深く、礼節を重んじる要素があるのかって。

ぼやきたくなる俺と、なんとか弓を下ろして貰えないかシアが考えを巡らせようとした次の瞬間―――

 

「おやめなさい!この方々に弓を向ける事は、この私が許しません!!」

 

(この声は……)

「……えっ?」

 

 忘れる筈もない、ゲブルト村を出る前に樹海で聞いた彼女の声だ。

背後でシアが驚いて声を上げ、恐る恐る俺の肩越しに洞窟の入り口に顔を覗かせる。

先ほどまで弓を構えていた森人達が跪いて頭を垂れる先にいた人物。

 

「―――ようやくお会い出来ましたわね。ハジメ様、シア様」

 

「あ、貴女は……」

 

 アルテナ・ハイピストはまるで俺達の来訪を待ち望んでいたかのように微笑んだ。

 




 まずは皆さま遅くなりましたが今年もよろしくお願います。
年末年始ほぼ仕事漬けで繁忙期から微妙に解放されました。
投稿が遅くなったこと、誠に申し訳ありません。

 アーマードコアの新作発表が出たりFGOの最終章プレイしたり今季アニメ見たり競馬で収支マイナス10万突入したり色々ありましたがなんとか生きてます。
今回の話は去年から寝かせておいたものに色々手を加えてようやく完成したものなので、次回以降は更新重視で1話の内容がかなり薄くなってしまうかもしれません。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
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