「――――――以上がダヴァロス、セレッカ両名からの報告になります」
『ご苦労レイス。しかし不運だったなダヴァロス、セレッカ』
「…いえ、報告出来ず魔王様のお手を煩わせたのは私の不徳の致すところ。名誉を挽回するより先に、罰を受けることも重々承知しています」
幸利とフラウが甘酸っぱい青春の場面に浸っている間、レイスは魔王アダムから渡された連絡用のアーティファクトを用いた定時連絡を行っていた。
まだ傷が完全に治っていないダヴァロスは許しを得て椅子に座らされているが、レイスとセレッカの二人は跪いて頭を垂れている。
二人が定期連絡をしなかった理由は簡潔に纏めるとモンスターに襲われたからだ。
無論、イャンガルルガを支配種として使役するダヴァロス程の実力者であれば大抵のモンスターは戦う前に従わせる事も可能なのだが―――
―――不運にも二人が遭遇した相手は古龍にも匹敵する存在だった。
例外含め歴戦のハンターをして「アレの相手はあまりしたくない」と言わしめるほどの。
戦わせるべき支配種も失って、戦力不足だった二人は為す術なく逃走を選択。
だが相手は執拗に彼らを追い回し、湿地帯手前でようやく撒くことが出来た。
今そいつが何処で何をしているか二人は知らないし、知りたくもない。そいつとの遭遇は後に二人の魔人生で数少ない死を覚悟した瞬間と言える。
『罰は不要だ、叱責もな。お前達の働きは十分なものであり、それは名誉の負傷だ』
「…寛大なお言葉に、感謝の言葉もありません」
「…口を挿む無礼をお許しください魔王様。魔王様がお決めになった事に対し、異を唱える者は居ないと私は思っています。…が、我が軍には今回の件で旅団長らに対する不信が生まれるかと…」
レイスは特殊部隊という肩書もあり、アダムに率直な意見を口に出せる数少ない逸材である。
上の存在には最大限の敬意を払う事を常とするフリード将軍からは時々「不敬!不敬!」と睨まれているが、彼や諜報部のミハイルではアダムの暴走を止められない。
故に意見具申出来る彼を始めとした特殊部隊所属の隊員は一定数必要だった。
彼の言葉を聞いてダヴァロスは申し訳なさそうに目を伏せる。
立体映像で玉座に腰掛けるアダムは肘をついて問いを返した。
『―――成程。もしこれがバルバルス市民らの耳に入れば軍の士気に関わると』
「言の葉にするのも憚られる事と承知の上では御座いますが――――――」
『…大衆の注目は今やシュネー雪原の戦いに向けられているが、もしお前達二人の事が知られれば少々厄介なことになりかねないか…何かしら功績を立てて、誤魔化す必要があるやもしれんな』
「汚名を返上する機会を頂けるのであれば、どのようなご命令でも―――」
『フム……む?そういえば幸利とフラウはどうした。姿が見えぬようだが―――』
「…申し訳ありません。この隠れ家を出てすぐの所で何やら話しているようで…魔王様のご命令とあらば、即座に連れて参りますが―――」
『頼めるかレイス』
*
「清水幸利、フラウ・フォン・ニーベル。魔王様がお呼びだすぐに来い」
「アダムが?あぁ、今行く―――」
「―――は、はいっ!」
名前を呼ばれて幸利は向き合って話をしていたフラウから彼女の背後にいるレイスに視線を移し、フラウは肩越しに振り返って魔王に呼ばれてると聞き、驚きながらも足早に向かった。
洞窟内に戻ると立体映像のアダムが二人の様子を見て何かを察したように笑う。
『どうした幸利。フラウと二人だけでオレに内密の話をするなど…疚しいことでもあったか?』
「ばっ、おまっ…!?そんなんじゃねーし!ちょっと先輩風吹かしただけっての!」
「幸利様、魔王様に対しそのような言葉遣いで接するのは―――!」
『フハハハ!よいよい、許す。――――――さて、本来であれば旅団長と旅団長付きの副官以外に
「気紛れって…まぁいいけどよ。何が面白いんだ?」
アダムの発言にダヴァロスとレイスは眉を顰めるが、幸利達はそれに気づいていない。
立体映像の玉座に座ったままの彼が幸利を手招きする。
『俺にとっては取るに足らぬ些事ではあるが、お前にとっては知っておいて損のないことだ』
「―――――――――なにを?っ!!」
実体を持たないアダムの指先が幸利の額に触れると、脳裏に何処かの景色が流れ込んでくる。
空を飛ぶ鳥が真下に広がる大地を見下ろすような視点に始まり、緑色で埋め尽くされた場所…ハルツィナ樹海を通過して、すぐ傍にある人間達が暮らす村に景色が切り替わった。
傍から見れば何が起きているか分からず、フラウはただ困惑していた。
それを知っているレイスは淡々とした様子で独り言のように彼女へ教える。
「…これは魔王様の”遠視”だ。本来は使用者の視覚から限界以上まで見渡せるようになる能力だが、魔王様の遠視は大陸の果てまで見通せる」
「なんと…」
『そしてオレは遠視で得た視覚情報を、魔力に置換し他者へ共有する。さて―――』
幸利の脳裏に映ったのは人間の村人達に混じる亜人や草食竜、そして…
大きめの家で暮らしている元クラスメイト達の姿だった。
(なんで、こんな所にあいつ等が…)
困惑する彼を見て愉快そうに笑みを深めたアダムはレイス達へと話しかける。
『お前達には口頭で伝えてやろう。そこから樹海を出てすぐ近くに、人間達の村がある』
「人間達の村……たしかに、それらしいものがあったのは私も把握しています」
「湿地帯で奴らと遭遇したのは、そういう事でしたか…」
『いま、その村には神の使徒がいる』
「「「……!!」」」
『―――レイス、ダヴァロス。さっき話した事だが、こいつ等を襲撃したという事実だけで汚名を返上する為の功績としては十分過ぎると思わないか?』
「襲うというのですか。人間族の村を…我々だけで」
「…可能とは思いますが、しかし――――――」
二人の言葉にますます凶悪な笑みを浮かべ、アダムは幸利をチラ見しながら言った。
『あぁ、お前達は後方支援…いや体裁としては指揮官という事にしておけばよい。実際に村を襲うのは幸利ただ一人。狙いは――――――神の使徒の抹殺だ』
「―――シア、何度も言うが無理はするなよ。危険と思ったら退け」
「分かりました。…でも、集落が危なかったら多分私は――――――」
結局シアの勢いに押されて、俺はゲブルト村まで戻ることが決まり、彼女は一人フェアベルゲンに残ってモンスターの襲撃に備える事になった。
…俺が亜人族を裏切らない為の人質として。
持っていたアイテムを全てシアに預け、彼女が少しでも助かる確率を上げておく。
此処にはベースキャンプもアイテムボックスも無かった。
ギルドのアイルー達もベースキャンプがない場所には来れないだろう。
ハンターの常識である
「命を賭けて…とか言ったら本気で怒るぞ。仮に集落が持たないと判断したら生き残れる最小限の人数だけで逃げるか身を隠すかして持ちこたえろ。…多少の犠牲は受け入れるんだ」
「………」
彼女が故郷を想う気持ちは、恐らく死の恐怖すら凌駕するかもしれない。
でも俺はそれを望まないし、そんな事にはさせないよう何度でも念押しをする。
「何があっても必ず生き残れ。お前の出した条件に対する俺からの命令だ」
「………はいっ」
「ハジメ様、シア様。こちらの準備が整いました」
アルテナに呼ばれ部屋の外へ出ると嫌でも視線が集まる。
既に森人族の集落以外は危機的状況に陥っており、助けを求める他の亜人達が大挙として押し寄せていた。
当然彼らは俺とシアが此処にいることを知らず、見た瞬間に露骨な嫌悪感を剥き出しにする。
「…ハジメ様。樹海の外まで最短の道を通る為に、こちらを―――」
「……これは、確か……」
横を歩くアルテナがランタンのようなものを差し出してきた。
俺が手に取ると、中から緑色に光る蟲が群れとなって宙に漂い始める。
その光景には見覚えがあった。
以前アゥータさんと一緒に捕まって連れてこられた時、森人族が使っていた。
あの時はこれが何なのか聞いてもまともに答えて貰えなかったが…
「私達、森人族が古くから使役する”導蟲”と呼ばれているものですわ。特定の臭いや物質に反応する習性を利用し、モンスターとの遭遇を回避する為の道案内をさせているのです」
「どうしてこれを俺に…?」
古くから使役している…という事は一族の秘伝的なものと考えるのが妥当。
そんな大事なものを部外者、しかもかなり恨みを抱かれている人間に渡すというのは…
「国を守る為ならば、たとえ門外不出の秘術であろうがアーティファクトであろうが、私は誰かの手に委ねることも躊躇わない。後で、どのような罰を受けることになったとしても…」
「…お前が罰を受けるような事にはならないし、俺がさせない。その為に行くんだ」
「ハジメ様……」
「そうですよ。それに…
「シア様……っ」
感極まって涙を浮かべているがアルテナよ、まだ助かった訳じゃないぞ。
寧ろここからが俺にとって正念場になる。
導蟲を使って最短ルートでゲブルト村まで辿り着けたとして、そこからアゥータさんやアボク村長に協力を得られるまでの時間は一分一秒でも縮めたい。
(もし協力を得られなかったときは……)
考えたくはないが、常に最善を望みながらも最悪の状況も想像する。
シアと俺、二人のハンターだけでこの異変を解決出来るのか…?
この異変を起こした元凶の正体が不明なうえ、亜人族を守りながら戦わなきゃいけない。
無理ゲーにもほどがあんだろフ●ム世界かよ此処は。
(――――――いや、出来るかどうかじゃない…か)
故郷を守りたいってシアの思いは、俺が今までやってきた事と同じだ。
死にたくはないし、死ぬつもりもないけどな……
いずれ来る世界滅亡っつー途轍もない問題を解決しなきゃいけない。
世界に比べりゃ国を守るくらい―――!
(―――ってカッコつけたいけど、実際問題どうすりゃ正解に辿り着けるのか…)
暗闇の樹海を、導蟲に付いていきながら俺は考え続けた。
思考に意識を向け過ぎていたからか、後になって気づかなかった事に後悔する。
離れたところから尾行している
サブタイトルの疾走が失踪になって危機感を抱く今日この頃。
次はもしかしたらハジメ視点を一旦外してシア視点でのちょっとした狩りシーン?になるかも。主人公がMHWプレイ初期の作者みたく森の中を走り回ってる間、原作とは違う方向でお清楚パワー系ファイターになったシアさんに奮闘して貰いましょう!
・魔王様の”遠視”技能についての補足
簡単にいえば通常の遠視は目が望遠鏡みたいになるのに対し、アダムの遠視は視点そのものが切り替わって衛星写真みたいに(本人曰く大陸全土が効果範囲)変えられることが可能
・導蟲
原作「モンスターハンターワールド」では第一期調査団が発見した
ゲーム内では所謂ナビゲーションとして機能する(ゼル伝のナビィ的な)
本作に於いては森人族の秘伝として伝わっているが…?
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?
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狩れ、この生きる大地と共に!
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大丈夫だ、問題しかない
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尻尾切って、役目でしょ
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絵の練習は…?