足下がどうなっているかも見えない闇夜のハルツィナ樹海。
導蟲の微かな光を頼りにハジメは走る。
パルクールをしているような感覚で木の根を跳躍して避け、斜面を滑って進み、段差を飛び降りては回転して受け身を取り、目的地のゲブルト村へ向かう。
(速く、もっと速く、もっと速く――――――!)
シアがフェアベルゲンに残ると言った事に対し、まだ納得していなかった。
あの場に於いては最大限ベストを尽くした選択と言えるだろう。
だが反対派の亜人達と同様に、ハジメも今の亜人族は信用出来ないと思っている。
シアが殺されるかもしれないと考えただけで、彼自身冷静でいられなかった。
飛び降りた先の水溜まりに着地した瞬間、派手な泥混じりの水飛沫をまき散らす。
その音で周囲のモンスター達が騒ぎ立ててもお構いなしに走り続ける。
時間にして凡そ5分~10分の移動時間が、彼は数時間経ったように感じられた。
そして――――――
「松明の明かりっ…戻ってこれた――――――!」
木々の隙間から遠くに見えた荒野と平原の境界線にある村の囲い。
普段よりも多くの松明が設置されて、囲いの外を帝国兵が周囲を巡回している。
走るペースは落とさず、頭だけは冷静にこれから話す内容を整理していた。
*
(おいおい、なんつー鬼スタミナだよ…追いつくのでやっとだぜ…)
ハジメがゲブルト村に走っていた道の遥か後方で、幸利は彼の異常な運動能力に呆れていた。
相棒のクルルヤックがそれを見て唸り声を上げると、嘴の先を指で擽り落ち着かせる。
ハジメがフェアベルゲンを出た直後の出来事だった。
魔王アダムから神の使徒の抹殺指令を受けた幸利は、隠れ家を離れて単独で村の近くまで潜入しようと考えていたのだが、偶然ハジメの姿を見つけ、尾行し今に至る。
まだ余裕がありそうなハジメは樹海を抜け出して草原を駆けていく。
幸利は一旦止まって茂みに腰を下ろして息を整える。
「はぁ…やってやるとは言ってみたものの…具体的にどうっすかなー…」
頭上の木々を見つめながら独り言を口にした幸利。
その横でクルルヤックは主人の困っている様子を見て不思議そうに首を傾げる。
(あくまで殺すのは
そっと視線を茂みの向こうにある村へと戻して幸利はある一点を注視した。
村の中で最も活気のある大きな建物には、ハジメとよく似た格好の連中が何人も見える。
(モンスター殺しの専門家、帝国のハンター……
後ろのクルルヤックと彼らを見比べる。
戦力差は言うまでもなく幸利の側が不利であり、失敗したら一巻の終わりだ。
レイス達は手出しせず見ているだけで、アダムから指示があるまでは待機と言われている。
(手駒が圧倒的に足りねえ…俺含めてたったの2かよ…)
村の総戦力を大雑把に100と設定しても50倍の戦力差がある。
殺さなければならないのは100の内に入っているかも怪しい5~10程度の有象無象。
だがそこに辿り着くまでの良い案が浮かばなかった。
「どうすっかなー……なんか方法が……あっ!」
突然幸利の頭の上に豆電球のような閃きが降って湧いた。
手駒が足りなければ
―――クルァ?
「思いついちまったぜぇ相棒…最強の作戦をよぉ…!」
主人の様子が変なことに気づいたクルルヤックが声を上げると、悪魔のような笑みを浮かべた幸利の視線は村ではなく…樹海の至る所から聞こえてくる無数のモンスター達へと向けられていた。
「………流石に何も残ってませんよね」
私は集落のどこにいても気持ち悪いものを見る目で見られると分かっていたから、兎人達が以前暮らしていた場所に腰を落ち着けていた。
兎人族全員が忌み子である私の存在を他の亜人族から隠そうとしていた事実が判明し、集落を出て行った時からこの場所の時間は止まっている。
行き先や手掛かりを調べようとした他の亜人達によって荒らされた部屋の中は掃除されている筈もなく、湿気や植物の影響でほんの少し嫌な臭いが充満していた。
「……ッ」
座って一息ついた瞬間、抑えていた恐怖心が溢れて指先が震える。
―――本当は怖かった。どんなモンスターが襲ってくるのか、私一人でどこまで持ちこたえられるのか、ハジメさんが戻ってくるまでに私は生きていられるのか―――
(――――――でも、私は―――)
あの時、どうしてあんな事が言えたのか自分でも不思議だった。
自分を犠牲に…なんてきっと記憶を失う前の私なら絶対に言えない言葉の筈だから。
一族の皆から愛され、守られてきた私が私の命を粗末に扱う事は絶対に許さない。
もし、そんな事があったら…それは私が大切に思っている人達と私の命を天秤にかける時だ。
(今の私に出来る事は、これくらいしかないから―――)
私がこんな事を思って、行動出来るようになったのはハジメさんのお陰だと今でも思う。
樹海の入り口で倒れていた私を一目見た途端に助けてくれた。
昔、大人達から聞かされた人間のイメージとは大きくかけ離れている。
亜人を奴隷にしてきた帝国の人間は粗暴、野蛮と言われていた。
それが私を見るなり彼らは私を治療し村へ運び、寝る場所や食べる物を無償で提供してくれた。
彼らには何のメリットもなかったのに父様達を助ける為に協力までしてくれて…
帝国は変わった―――私がそれを理解したのは帝都グラディーウスに着いてからだった。
亜人の私を当たり前のように通し、奴隷用の首輪がついていなくても普通に目を合わせて、隣人のように気さくな挨拶を交わしてくれる通行人が沢山いる。
初めて見る人間の世界に心躍らせたのは内緒だ。
あの時は遊びにいったわけじゃなかった。
ゲブルト村で生活を送れるようになった私が、新しい生き方を自分で見つける為に憧れた人の背中を追いかけようとハンターになる為の訓練を受けに行った。
結果的にはハンターになれたけど、正直訓練所での日々はもう思い出したくない。
(ハジメさんが、私にしてくれたように…)
今度は私がフェアベルゲンを…アルテナさんを助ける番だ。
母様、お墓の手入れもお花も用意出来ていない親不孝な娘ですが
今だけは…どうか今だけは私に戦う勇気を下さい。
―――オォォォッ!
(来た……っ!)
かつての集落を飛び出し、太い枝から枝に飛び移って声のした方へと向かう。
眼下の集落で誰かが何かを言っている声が聞こえるが私はそれを無視する。
集中しろ、もう誰の声も聞かなくていい。
背中を預ける仲間がいなければ、戦いに言葉は不要だ。
私がモンスターを狩るか、私がモンスターに狩られるか…
「―――――――――近い!」
集落の一番端、鳥人族が集まっていた場所にモンスターが近づいていた。
青い毛並みに頭部から背部の特徴的な甲殻を持つ四足のモンスター。
記憶を手繰り寄せ、該当するモンスターの名を口に出す。
「ッ…アオアシラ!」
―――グルアァッ!
戦った事はない相手でも、モンスター図鑑にはその生態が事細かに記されていた。
青熊獣は温暖湿潤の樹海、湿地帯を中心に帝国領内で多くの個体が棲息している。
川で魚を獲ろうとした亜人族が遭遇し、命からがら逃げかえってくる話は珍しくない。
今まではフェアドレン水晶のお陰で近づいてこなかったアオアシラが近づいて来た事で鳥人族はパニックを起こしている。
戦おうという意志のある者は殆ど居らず、背中の羽で高い所へと逃げていく。
私はその間をさっと通り抜け、アオアシラのいる場所の手前で立ち止まり大きく息を吸う。
「いきますっ!!」
背中に引っ掛けていたアイアンハンマーLv2の柄を両手に持って体の正面で横に構える。
向こうも私を獲物と認識したのか、舌を出してゆっくりと近づいて来た。
「フッ…!」
息を短く吐いて地面を蹴り、こっちから先に仕掛ける勢いで距離を詰めた。
するとアオアシラは唸り声を上げ、姿勢を低くして前足に力を溜める。
(飛び掛かり、右に前転で回避―――!)
予備動作が長かったお陰で余裕を持ってアオアシラの飛び掛かりを回避できた。
こっちを向く前に私の方から前転で更に距離を詰め、一撃の振り下ろしをお見舞いする。
「はぁっ!」
アオアシラの左わき腹、青い体毛と甲殻の分かれ目に鎚の面がめり込んだ。
うめくような声をあげたものの、向こうはお返しを言わんばかりに後ろ足だけで立ち上がり、右前脚の爪を大きく振りかぶって薙ぎ払おうをしてくる。
「ッ!」
これも後ろに跳躍回転して回避、空を切る爪の音が耳にぞわっと伝わった。
(一撃は重いけど…大した相手じゃない。…これなら勝てる!)
今の攻撃と回避だけで、このアオアシラは下位個体だと直感で気づく。
上位個体であれば追撃の飛び掛かりか両前脚の爪による交差斬りが来るはずだから。
獲物と戦う事に慣れていない…勝機は十分私にある!
「ふうぅぅ…!」
正面に構えていたハンマーを身体より後ろに引いて上半身に力を溜める。
それを隙と捉えたアオアシラが再び真っ直ぐ此方に飛び掛かってきた。
転がって交わす必要もなく半歩後ろへ下がってやり過ごし――――――
「せやぁぁぁっ!!」
―――グルォッ!?
溜め三段階目による小アッパーから渾身の振り下ろし。
骨の砕けるような音に混じり、アオアシラの頭部から鮮血が足下に飛び散った。
すぐにハンマーを引いて後ろに転がって構える。
今の一撃がかなりの痛手になったのか、アオアシラは私を睨み警戒していた。
―――グルオオアァァァッ!
「怒り形態…!でも、このままっ――――――」
さっきよりは怒り状態で攻撃から追撃までの時間差が減ったものの、単調な動きのアオアシラに苦戦することもなく…
「これでっ…トドメですっ!」
回避と攻撃を繰り返す内に瀕死となったアオアシラの顔に横振りの一撃を食らわせる。
途中で眩暈を起こして倒れるほど、頭部に打撃を食らい続けた奴の最期はあっけないものだった。
倒れたアオアシラを前に、私もハンマーの先端を地面に下ろして一息つこうとして――――――
―――ギシャアアァァッ!
「うわああぁぁっ!盾蟹だぁぁ!」
「っ!!次はあっちの方……!」
剥ぎ取る時間もなく、ハンマーを背中に戻して木の枝へと跳躍。
声の上がった方へ駆けていくと、樹海の中では見覚えのないモンスターが見えてきた。
「ダイミョウザザミ…!?どうしてこんな森の中に…」
豊富な水資源を生息地にするダイミョウザザミは、この辺りだと湿地帯か帝国最北端の港近辺にしか現れないと図鑑には書いてあったけど…考えても仕方ない。
異変の影響と今は割り切って、戦いに集中するんだ―――!
「はあぁぁぁっ!!」
―――ギシイィィッ!
――――――時間にして凡そ10分弱が経過した。
巨大な一本の角を生やした飛竜の骨を背負ったダイミョウザザミは藻掻くように鋏を動かしていたが、口から泡塗れの血を吐いて遂に動かなくなる。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
甲殻種の青い血まみれのハンマーを地面に刺して、私は息を整えていた。
結果的にこのダイミョウザザミも下位個体だった。
でも硬い背中のヤドに振り下ろしを弾かれた時に反撃で薙ぎ払いの鋏を貰ってしまった。
幸い回復薬で傷は塞がったけれど、こう易々と何度も攻撃を受けるわけにはいかない。
(でもこれで、少しは――――――)
―――グルアアァァッ!
「ッ……またっ!?」
悲痛な声を上げて、疲れた体に鞭打って私は地面を蹴り声のした方角へ向かう。
ハジメさんが戻ってくるまでの間、私一人で必ずここを守り切る……!
シアの状態はまさにモンスターハンターライズで云うところのソロ百鬼夜行やってる感覚(兵器無し、支援無しのクソ仕様)精神面で反撃の狼煙上げてるから下位個体をサクサク狩れてる(なお本人の体力が持つかは別問題)
そんなヤバい群れを里人で撃退出来るカムラやっぱ魔境だわ…
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勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?
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狩れ、この生きる大地と共に!
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大丈夫だ、問題しかない
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尻尾切って、役目でしょ
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絵の練習は…?