モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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「すいませんでした!これで勘弁して下さい!」
「あぁ!?寝惚けたこと言ってんじゃねえぞオラッ!」

――――――あぁ、これは私が他人に初めて憧れを抱いた時の夢だ。
町中で素行の悪い不良集団に粗相をしてしまった子供と老人を、助けようと両者の間に割って入った少年。
勿論、不良たちはそんな彼を力で屈服させようと罵倒を浴びせながら殴る蹴るの暴行を加える。

「このガキ!謝ったくらいで済むわけねえだろうが!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!でも、どうかこれで…っ…」

 でも彼は折れない。
胸倉を掴まれ顔を殴られ、何度も腹を蹴られ、地面にこすりつけた頭に罵倒と唾を吐かれても。
子供の行いを許して欲しいと謝り、懇願し続けてボロボロになっていた。

 私は心の中で子供と老人を助けたいと思っても、怖くて動けずにいる。
だから私じゃない誰かがなんとかしてくれることを願っていた。
そんなドラマみたいな出来事が、起こる筈ないと心の奥底では諦めていながら。

 少年の登場は私の願いを叶えてくれるもので、私の知っている常識を覆すものだった。
自己を犠牲にして他者の為に不当な暴力に耐える。
彼が目の前でやってみせた事は、凡そ十代の子供が簡単に出来る事じゃなかった筈だ。

 やがて少年に対する不良たちの暴行は、私と同じように遠くから眺めているだけの誰かがせめてもの善行として通報した警察官の到着によって終わった。

 顔中に痣を作り、血を滲ませながら少年は背後にいた老人と子供から感謝される。
彼は「大したことは何もしてませんよ」と朗らかな笑みを浮かべ、きちんと子供には不良たちの服を汚してしまった不注意を咎め、老人にも子供からあまり目を離さないようにやんわりと伝えた。

「き、君!せめて手当を――――――」
「あ~…いやホント、大丈夫ですから!僕はこれで…」

 警官達の気遣いを断り、少年は足早に群衆の中へ消えようとする。
一部始終を見ていた私は人込みを強引にかき分けて彼の方に駆け寄った。

「あ、あのっ…!」
「おぉ…いてて――――――はい?」

 どうして彼を呼び止めたのか、現在(いま)の私はその理由を知らない。
正義の味方と呼ぶに相応しい、彼の行動に対する人としての憧れだったのか。
或いは単なる過去の私が少女漫画に憧れて、彼に一目惚れしたのか。

「なんで貴方はあんな事が出来たの…?」
「え?――――――あぁ!さっきの見てたんですね」

「どう見ても貴方は彼らと無関係の通りすがりだったよね?あの子供と老人を守る理由も、あの不良たちに頭を下げる必要も無かった筈だよ?それなのに、どうして貴方は……」

「……うーん、どうしてと聞かれても……なんて答えたらいいのかなぁ」

 少年は返答に迷っているのか、服の汚れを落としながら視線を逸らす。
数秒の沈黙を経て、彼は照れ臭そうに微笑を浮かべながら言った。

「本当はアニメや漫画のヒーローみたいに颯爽と現れて、あの不良達をやっつけられたらいいなと思ったんだ。…でも、僕にはそんな力がないから…多分あれが僕に出来る()()だったのかな」

 純粋なエゴイズムとは少し違う。
少年の答えは理想に対する自己分析を行った結果、彼が選んだ最善(ベスト)の選択だ。
しかし選択肢の先に待ち受ける理不尽な暴力も容易に想像出来た筈。

「――――――怖くは、なかったの?」

 私の問いかけに、彼はブンブンと首を横に振って答える。

「めちゃくちゃ怖かったし痛かったよ!暴力反対!――――――でも、うん。…あれを黙って見ているだけで止めもしなかったら、僕はそれをずっと後悔するから。だったらいっそ思い切って行動した方がマシかなって――――――長くなっちゃったけど、これが僕の人生に於ける姿勢(スタンス)なんだ」

「―――――――――!」

 過去の私が胸に抱いたときめきは、単純な恋心とは少し違っていた。
美辞麗句を並べ、正義感に酔い痴れるだけなら誰でも出来る。
確固たる信念を持って、苦難の道を進む事は容易じゃない。

(いつか私も、貴方みたいに――――――)




焦りは禁物、無理せずいきましょう

 

「――――――成程。事情は理解した」

 

 村民会議で使われる一室に集まったのは俺を除いて五人。

アゥータさん、アボクさん、グリッドさん、カムさん、ギルドマネージャー。

フェアベルゲンでアルテナから聞いた話を簡潔に伝えた。

そしてシアが故郷を守るために一人残ったことを聞いて、カムさんは激しく動揺する。

 

「なんて無茶なことを…!」

「…本当に申し訳ありません。シアを止められなかったのは俺の責任です…」

 

 あの場ではあれしか手が無かったとはいえ、それで良かったとは思わない。

俺が席を立って深々頭を下げると、カムさんは首を横に振った。

 

「…いいえ、私達の恩人である貴方を責めるつもりはありません。記憶を失うより前から、シアは強情なところがありましたから…」

「……それでハジメ。お前が森人族の嬢ちゃんから頼まれた事はどうするんだ」

 

 グリッドさんの指摘に頷いて、俺は村長とアゥータさんの方に向かって頭を下げた。

 

「俺の独断で引き受けた事ですが、俺一人の力では解決できません。…本来なら、こんな事を頼むべきじゃないと分かっています…それでも――――――!」

「亜人族を助ける為に村から人と物を出してくれ……と?」

 

 言葉を遮って真正面から俺を見下ろすアゥータさんの目は冷ややかなものだった。

…分かっていた。この人は村人を、大切な家族を危険に晒すような事を許さない。

付け加えるなら国家間の問題に、一介のハンターと辺境の村が関わっていい筈がない。

 

「お前のことだ。俺が口に出さなくても、俺の言いたい事くらい分かってんだろ」

「……はい」

 

「事態は急を要する。……けどな、皇帝の許しもなくフェアベルゲンに手を貸した事が知られれば、お前も俺達もタダでは済まされない。それを分かっててお前は―――」

 

「……村の人を、帝国を関わらせる事が問題であるなら……物資の方は俺個人で限界まで用意します。運搬も、フェアベルゲンの防衛も、俺が―――」

 

「それは出来ないよ。今の君は帝国の一市民であり、それと同時にギルドのハンターだ。ギルドはハルツィナ樹海周辺地域にハンターが近づくことを禁止している。君が樹海へ向かうなら、ギルドのルールに則って君を処罰する事になる」

 

「………!」

 

 ギルドがハルツィナ樹海行きを止めている話は初耳だった。

けどアゥータさんの表情を見て少し考えれば、それが当然の事と理解出来た。

亜人族が混乱に陥っている中、ハンターに及ぼす危険は計り知れない。

ギルドマネージャーはアゥータさんと目を合わせ、一枚の羊皮紙を見せる。

 

「…本来なら例外のハンター達だけに開示する情報なんだけどね。此処にいる人達と君には、念のために話しておくべきだろう」

 

 内容は教授の調査によって樹海の異変の原因と思われるものについてだ。

思わぬ人物から異変の答えが出てきて驚いたが、内容を聞いて更に驚愕する。

 

「ウーア・アルトでイネ科の植物(タケ)が急激に成長・繁殖する現象は大昔にもあった。まだハンターやギルドの概念がなかった頃、帝国の祖先達が生きていた数百年…下手したら数千年前の事だけどね。…そしてこの異常現象が起こったと同時に…こいつが現れたんだ」

 

 ギルドマネージャーの懐からもう一枚、モンスターが描かれた羊皮紙が取り出される。

四足で歩き、黒を基調とした体は山吹色の体毛が一部を覆っていた。

頭部には紅色の角を生やし、先っぽは竹の子を彷彿とさせる尻尾が生えている。

その見た目から俺は瞬時に「牙竜種か獣竜種」だと思った。

だがギルドマネージャーから告げられた単語を耳にした瞬間背筋が凍った。

 

「こいつの名は雅翁龍”イナガミ”―――全てが謎に包まれた古龍種だ」

「っ……古龍」

 

 ラオシャンロン、バルファルク、ベヒーモス…あいつ等と肩を並べる奴が樹海に…?

記憶に刻まれた強烈な戦いの光景を思い出し、抑えていた心の焦りが表情に出始めていた。

愕然とする俺から視線を外し、アボクさん達に説明するギルドマネージャー。

 

「ギルドではこれまで数多くの古龍を観測してきましたが、その大半は謎に包まれたまま。雅翁龍もその内の一頭であり、ハルツィナ樹海の何処かに潜んでいると睨んでいましたが…」

 

「お前の話と教授の調査で、嫌な予感は確信に変わったわけだ」

 

 もう一刻の猶予もない。

フェアベルゲンが陥落するのも時間の問題だと頭の中で警鐘が鳴っている。

顔を上げ、もう一度アゥータさんの方に向き直って俺は口を開く。

 

「じゃあ、猶更シアを助けに――――――」

()()()()()()()()()()()?」

 

 アゥータさんの鋭い指摘に頭を殴られたような衝撃を受ける。

まだ誰も、例外のハンター達ですら狩った事のない古龍が襲ってくるかもしれない状況下でフェアベルゲンの住民を守る…そんな事が俺に出来るのか?

他のモンスター達も襲ってくる。むざむざ死ににいくようなものだ。

 

「で、では私を行かせてください―――!ハウリア族の長として帝国市民権の名誉を皇帝陛下より賜りはしましたが、それは元より一族を存続させる為!勝手ではありますが私は今この場で市民権を放棄し、ただの亜人として…娘を助けに――――――」

 

「カム殿、少し落ち着かれよ。そのような短絡的な考えで樹海に踏み込めば、油断と焦りで命を落とす事になりかねませんぞ。第一そのような事、貴方を慕うハウリアの者達が許すとお思いでか」

 

「アボク村長ッ…しかし、このままではシアが――――――」

 

 俺が言葉に詰まっていると、カムさんが自分の立場を捨ててシア救出に動こうとする。

アボクさんがそれを制止しようとするが、耳を畳んで頑なに受け入れようとしない。

こうなるとギルドマネージャーも難しい顔になり、アゥータさんは俺をじっと見つめたまま。

 

(どうすればいい、どうしたら納得させられる…!俺が出来る事は何だ!?)

 

 思考をフル回転させて、何か言わなければと口を開こうとした次の瞬間――――――

 

「きゃっ!?いったぁ~……あ―――」

「ドアに寄り掛かり過ぎ…お陰でバレた」

 

 扉が開いて、部屋の中になだれ込んできたのはアレーティアと白崎だった。

扉の外に二人がいたと気づかなかった事もショックだったが、それは一先ず置いておく。

 

「っ……白崎、アレーティア!お前らなにやって―――」

 

「え、えぇ~っとぉ…その…ごめんなさい。偶々南雲君を見かけたら、なんか焦ってるみたいで…一緒にいたウサ耳の女の子もいないし…何かあったんじゃないかなぁ~って、さっき知り合ったばかりのアレーティアさんに尋ねたんだけど…」

 

 俺が知らない間に白崎とアレーティアが打ち解けていた件について。

今はそれをとやかく言うまい。…けど、村人達にも内緒の話を聞かれるってのは…

 

「おいおい使徒の嬢ちゃんにハジメの連れの嬢ちゃん…なぁに盗み聞きしてやがんだ?」

 

 アゥータさんの視線が俺から扉の前で倒れている二人に向けられた。

口調は軽いが、言葉の端々に僅かな怒りが込められている。

白崎が申し訳なさそうに笑う横で、アレーティアは冷静に服の埃を払いながら答えた。

 

「村の中を行き交う兵士の会話から凡その事情は把握してる。香織の話を聞いてハジメの後を追ったら偶然話を盗み聞きする形になった。―――心配しなくても人に言いふらすつもりはない。言いふらしたとしてもこの村では余所者でしかない私の話を真に受ける住人はいないと思うし」

 

「……成程、偶然じゃあ仕方ない……って言うと思うか?」

 

「全然思わない。盗み聞きの罰が必要なら、後で幾らでも受ける。――――――そんな事よりシアを助ける話の続き。帝国の人達はトレイシーの指示待ち、ハジメも立場上いけないと言うのなら…代わりに私が行く。それなら問題はない」

 

「っ!?アレーティア、それは――――――」

 

 確かにアレーティアの言う通り、自由に身動きが取れる立場なのは彼女だけだ。

だが危険過ぎる。幾ら自動再生持ちの吸血鬼といえど単身樹海に乗り込むというのは…

俺が止めようとした途端、白崎も何かを思いついたように手を上げて口を開く。

 

「あ、それじゃあ私も!私も実質アレーティアさんと同じ余所者だからシアさん?を助けに動いていいと思うけど、駄目かな?いいですよね!ねっ、南雲君!」

 

「はあっ!?白崎、お前……」

 

 こいつ記憶失ったシアとは対照的に前と大して変わってねえ気がするんだけど。

この猪突猛進ぶりはいつぞやの鬱々とした俺のトラウマ時代を思い出すから止めて欲しいんだが…

俺が困惑していると、アゥータさんは呆れたように溜息をついて答える。

 

「お前らは余所者でも村の大切な労働力だ。勝手に死なれちゃ困るって―――」

 

「えっ?でも村で必要とされてるのって()()()()()()だけですよね?トレイシーさんと雫ちゃんの話聞いてて私思ったんですけど、私達って先生と雫ちゃんのオマケとしてここにいるのであって、帝国の人達からしたら居ても居なくてもいい存在なんだなって思うんですけど――――――」

 

「―――――――――」

 

…白崎、お前変な所で頭が回るよな…その地頭の良さをもっと別の方向に活かせなかったのか…?

それに気づいてるのかお前、自分で「(先生と八重樫を除く)神の使徒は無価値な存在だから死んでも大丈夫です!」って言ってるんだが…

流石のアゥータさんも硬直してるし、カムさんとギルドマネージャーがドン引きしてるよ。

 

「…おい白崎、お前状況分かってんのか?樹海ってのは昼間に見た奴と同じような化け物が山ほどいる危険な場所だ。シアを助けたいって気持ちに賛同してくれるのは嬉しいけど――――――」

 

()()()()になるし()()()()()()()()…だよね。うん、それくらいは分かってる」

 

「だったらどうして――――――」

 

「困ってる人がいて、助けを求めているなら……助けてあげたいと思ったからかな?私って治癒師みたいだし、実感は湧かないけど…この世界の普通の治癒師より力はあるみたいだから……それを持て余しているだけなんて勿体ないし、人が死ぬのを黙って見ているだけなんて耐えられない」

 

 白崎の言葉を聞いてドン引きしていたカムさんが一転して感動している。

正直俺も彼女がここまで人を助けることに強い拘りを持っているとは思わなかった。

アゥータさんは何と言うべきか俯いて考えているようだった。

そんな中、アボクさんはやれやれといった風に首を振って明後日の方を向く。

 

「――――――皇帝陛下への弁明は、後で考えるとするか」

「っ!!?爺ちゃん、何言ってんだ!まさか――――――」

 

「そのまさかだ。静観するつもりでおったが、こうなっては致し方あるまいて……シアも村の住民だ。見捨てるような事があってはこの地を守り続けてきた先祖に顔向けが出来んよ」

 

「っ…それじゃあ――――――!」

 

「ギルドマネージャー。私から特別任務としてハジメ君含め四人のハンターに()()()()()()()()をお願いしたい。目的地はハルツィナ樹海、亜人族の国フェアベルゲンじゃ」

 

「……特別任務なら仕方ありませんね。ただ、受注するハンター達には事前に危険を周知しておく必要がありますので人手が集まるかどうか……」

 

 思わぬ人物から助け舟が出たことで事態は急変を迎えた。

ただアゥータさんは納得がいっていない様子でアボクさんに食って掛かる。

 

「爺ちゃん、今度ばかりはいくら何でも無茶が過ぎる!公私混同どころの騒ぎじゃない、村の安全に関わる事だぞ!?村長のアンタがこんな事を認めたって帝都の連中が知ったら――――――」

 

「アゥータ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そう師に教えられたのではなかったか?」

 

「っ!!それは、いま関係ねえだろ…ジジイ!」

 

…アゥータさんのアボクさんに対する呼び方が「爺ちゃん」から「ジジイ」になった。

多分だけど、一瞬垣間見せたその態度がアゥータさんの素なんだろう。

それを知ってかアボクさんは冷静沈着に話を進めていく。

 

「いいや、ある。ハジメ君がハウリア族を助けた時のように…あの時お前は考えるより先に動けていただろう?師の教えを、片時も忘れていなかったお前が…何に焦っている?」

 

「焦ってなんかいねぇ!…チッ、もういい分かったよ。勝手にしろ!!」

 

 イライラした様子で部屋を出て行くアゥータさんを、俺達は黙って見送る事しか出来なかった。

アボクさんは「やれやれ…あいつもまだ幼いな」と椅子に座り直す。

 

「…すみませんでした村長。俺のせいでこんな事になって…」

「起きてしまった事は仕方がない。それよりも今は――――――」

 

 フェアベルゲンを助ける為の準備を進める話し合いが始まる。

ギルドマネージャーは集会所へ特別任務発注の為にと出て行った。

いなくなった二人の代わりにアレーティアと白崎が席に着く。

 

(アゥータさんには悪いと思うけど……シア、アルテナ……なんとか此処まで持ってこれたぞ)

 

 最大の山場は乗り切ったと見ていい。

後は準備にかかる時間をどれだけ短縮出来るかが勝負だ。

……頼む、あと少し持ち堪えてくれ……!

 




 ちょっと駆け足気味に終わったけど次に繋げられそうだからヨシ!
現状ゲブルト村にはハジメやサブキャラ除いても、上位ハンター数人と下位ハンター数人程度は居ますが…果たして引き受けてくれるのか…?

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?

  • 狩れ、この生きる大地と共に!
  • 大丈夫だ、問題しかない
  • 尻尾切って、役目でしょ
  • 絵の練習は…?
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