モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

36 / 57

「―――アルテナ?」

「!!お母様っ…」

 遂に寝不足で横になった祖父アルフレリックに代わって、集落の防衛指揮を務めていたアルテナは休息の合間に母アイリスの様子を見に行った。
そして偶然、彼女が部屋に入ってきた気配に気づいたアイリスが目を覚ます。

「良かったです。もう目を覚まさないのではないかと…」
「…私、は…何故助かった…」

 猛毒に侵され、瀕死の重傷を負っていた彼女が助かった理由をアルテナは話した。アイリスが意識を失ってから目を覚ますまでの間に起きたことを。

「―――あの兎人族の娘が?」
「はい。此処にある回復薬と解毒薬を調合し、提供して下さったのです」

 それはシアが防衛に出るまでの僅かな間、ハジメと一緒にいる時は敢えて深く聞かなかったアイリスの容態をアルテナに尋ねたのだ。
深刻な顔で危篤状態にあると告げたアルテナに、シアは前もって集めていた集落の中に生えていた薬草とアオキノコ、げどく草を調合して渡したのだ。
アルテナは二つのアイテムの効果を知らなかったが、シアの言葉を信じてアイリスに与えた。
 
「…解せんな…何故、あの娘は私を助けたのだ…」

 忌み子として一族諸共捕らえて処刑しようとした自分を恨んでいる筈だ。アイリスがそんな風に考えていると表情から読み取ったアルテナは首を横に振る。

「シア様は、お母様を恨んでなどおりません。ただフェアベルゲンを、生まれ故郷を守りたいと…だから、シア様は今も集落の外でモンスターと戦っています。ハジメ様が…援軍を連れて戻ってくるまで…たった一人で」

「……一人で…だと…?」

 起き上がることが出来ないアイリスに、娘の言葉の真偽を確かめる事は出来ない。捕らえた時はなんの抵抗もせず、ただ命乞いをするばかりだったシアが、あの恐ろしいモンスター達と戦っている姿が、アイリスには想像出来なかったのだ。



兎人少女の挑戦・後編「月下雷鳴」

 

「くっ――――――!」

 

 咆哮をまともに食らって足の動きが数秒止まる。その隙を狙ってドボルベルクは湾曲した一対の角で私の方に向かって突進を仕掛けてきた。

角の先端が触れる直前に体が咆哮の怯みから解放され、自分の思考を回避に専念して横へ跳躍する。ドボルベルクの攻撃と私の回避、時間にして5秒に満たない間だった。

 

 私が選んで跳躍した場所は運良く巨体の触れない位置だった。さっきまで立っていた地面が抉れ、周囲の木々が揺れるほどの衝撃を足の裏に感じて冷や汗が滲む。

 

(こんな攻撃、そう何度も上手く避けられない…!)

 

 アイアンハンマーLv2を身体の右に構えて駆け出す。

ドボルベルクが地面から角を抜き、顔に飛び散った土を払おうと顔を震わせた隙を狙う。

 

「はぁっ!」

 

 足を止めたと同時に退化した左前足の付け根に向かって鎚の先を叩きつける。

メキャッという音はしても、血が出るまでのダメージは与えられなかった。

代わりに苔むした甲殻の表面に罅が入り、欠片がポロポロと崩れ落ちる。

 

―――オオオォォォッ!!

 

「くっ…!」

 

 ドボルベルクは私を上に打ち上げようと狙って、斜め下から角の先端が迫ってくる。

私は後ろに跳ぶのではなく、敢えて迫る巨体の頭と地面の隙間に転がって避けた。

レザーの表面をドボルベルクの下半身に生えた髭が擦れる。

 

 転がった先でハンマーを構え直し、今度は後ろ右足を殴りつける。

左前足に比べて甲殻の厚みは減っていた。めり込んだ先から砕けて僅かな血が飛び散った。

 

(よし、狙いは足に集中して―――――――ッ!?)

 

 冷静に狩りの順序を頭の中で組み立てようとした直後、ドボルベルクは三度目で異なる動きをした。その巨体を生かしてタックルでもしてくるかと思われた尾槌竜は、私がいる方向とは反対方向に二歩、三歩と歩みを進め―――

 

―――ブルオォッ!

 

「あぶなっ…!」

 

 頭上に広がる球状の塊を先端に備えたドボルベルクの尻尾が迫っていた。

向こうとの距離を維持していたかったけど、前に転がったのでは、あの長太い尻尾の振り下ろしを避けることは出来ない。覚悟を決めて後ろへ二度転がって避ける。

 

(未来視を使うまでもない。この距離で尾槌竜が取る次の行動は――――――!)

 

 こちらに向き直り、後退りと同時に尻尾を振り上げる予備動作は聞いたことがある。ドボルベルクを狩ったことのある先輩ハンターが、最も警戒すべき攻撃だと主張しギルドのモンスター図鑑にまで追記させたそれは…

 

(全身を使った”大回転攻撃”!)

 

 周囲の木々を薙ぎ倒し、岩々を吹き飛ばし、足を軸に回転させながら距離を詰めてくる。

すぐに武器を納刀して、私は近くの地面から顔を覘かせていた木の根に足をかけて―――

 

「ふっ…!」

 

 木の根を踏み砕く勢いで、空中に跳び上がり木の幹に生えていたツタの葉を掴んだ。

眼下のドボルベルクは私が地面から木の幹に移動した事を回転しながら捉えている。

振り回していた尻尾を地面に叩きつけて回転を止め、その巨体を木にぶつけた。

 

「はっ―――!」

 

 衝撃で木が倒れる前に、私の体は木の幹を蹴って宙に躍り出る。

同時にハンマーを頭の上で構えて、ドボルベルクの弱点といわれる部位に狙いをつけた。

 

(背中にある固形の脂肪が詰まったコブ…!これをっ!!)

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

 溜まった力を解放する掛け声と共に、ハンマーでドボルベルクのコブを叩く。

先ほどの足とは比較にならない破壊音と、大量の血がひび割れた中から噴き出てくる。

 

―――グルオァァッ!?

 

(効いてる!このまま一気に――――――)

 

―――グオオォッ!

 

 逸る気持ちを抑えられず、私は地面に降りて再度攻撃に移ろうと動いた。

それが間違いだった。痛みで怯んだかに思われたドボルベルクの巨体が私の方に傾き、後ろ足を深く地面へと沈みこませた時点で気づいた時には遅い。

 

「―――――ぐあっ!?」

 

 ドボルベルクが繰り出したのは、地面へと降りてきた私に対する巨体でのタックルだった。

回避を考えなかった私の体は苔むした甲殻の硬さをまともに受けて数メートル後方へと吹っ飛ぶ。

 

(骨が、砕ける…!防具で防いでる筈なのにっ、皮膚が摩擦熱で痛い…!)

 

「か、はっ!こひゅっ…!ぜぇ…ひゅぅ…」

 

 たった一度の攻撃ではどれだけ痛みが強かろうが、鍛えられた私の身体が気絶することを拒み、反射的に地面から起き上がって息を整える。

顔についた汚れを落とそうと手の甲で拭うと額にぬるっとした感触がした。

掌にこびりついたのは赤い自分の血。

 

「……はぁ、はぁ…っ!この程度なら…」

 

 吹き飛ばされて地面を転がった時、石か何かにぶつかっていたのだろう。ハンターになったお陰で得た異様に早い自己治癒力のお陰で出血はもう止まっている。

浅い切り傷程度で済んだのは幸いだった。もし当たり所がもう少し酷かったなら、骨の二、三本は折れていてもおかしくない攻撃だった。

 

―――グルオオォォッ!

 

(これは……!もう一度、さっきの攻撃がくるっ……!)

 

 私との距離が離れた事で、ドボルベルクは尻尾を振り上げて大回転攻撃の構えを取る。

さっきよりも遠くにいて体当たりなら当たらないと油断してしまいそうになるが―――

 

 ドボルベルクの巨体は信じられない事に、遠心力を利用して空中へと打ち上がった。

周囲に伸びる木の枝を粉砕しながら、私の周囲に黒い影が出来たことで狙いに気づく。

 

(っ…跳んだ…!!あの巨体で、地面丸ごと私を押し潰すつもりですか…!)

 

「…くっ、う、あぁぁっ!!」

 

(こんなところで、やられる訳にはいきません…!)

 

 脳裏に過ぎったのはアルテナさんの少しだけ安心した様子で笑みを浮かべる姿。

誰に何を言われようと、忌み子だからと私を迫害する他の亜人とは違うあの人を守るために。

 

 無様と言われようがお構いなしに、武器をしまってドボルベルクの落下攻撃から逃れる。

走りからの飛び込みでまた顔や防具が地面の泥にまみれ、口の中でじゃりじゃりと嫌な音がする。

 

「…っ!ぺっ……」

 

 起き上がり、振り返るとまだドボルベルクは地面にめり込ませた自分の巨体を動かせていない。

あれだけの高さからまともに衝撃を受けて、ダメージは無くても復帰に時間が掛かる。

その隙を逃さず唾を吐くと同時にドボルベルクの頭上に向かってハンマーを振り回した。

 

「やああぁぁぁっ!!はあぁぁぁっ!っだあああぁぁ!!」

 

 溜め攻撃からの斜め振り下ろし、斜め振り上げ、振り下ろし二連撃、そして―――

 

「ふ、っとべえぇぇぇっ!!」

 

 ドボルベルクを真似るように、足を軸に体を回転させて繰り出すアッパースウィング。

鉄塊が巨大な角を、閉ざしていた口に隠れた歯と唇ごと砕いて眉間を凹ませる。

 

―――グギ、オォッ…!

 

 その場から起き上がることも出来ず、ドボルベルクの体は再び地面へと倒れ込む。

アッパースウィングを繰り出した直後の硬直状態で、自由を利かせられる目だけが動かせた。

そして目で見て確信を得た。ドボルベルクの赤い目に浮かんでいた瞳孔が消えている。

 

(眩暈を起こした…!最大にして、最高の攻撃チャンス…!)

 

「もういっちょおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 今度は焦らず、力を溜めて、溜めて、溜めて―――最高威力のそれを頭蓋へと叩き込む。

岩を叩いた時のような感触と細かな振動が、ハンマーを握る手に感じた。

ドボルベルクの目が見開かれ、最期の抵抗と言わんばかりに尻尾を振り上げたが―――

 

―――……グ、ゥ……

 

 尻尾は力なく地面へと倒れ込み、それからドボルベルクが二度と動くことはなかった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 横たわる死体に追い打ちをかけようとしていた手を止め、ハンマーの先を地面に下ろす。

肩で息をしながら、強敵を倒せたことに安堵したのも束の間―――

 

「…っ!?うぐ、ああぁぁぁっ…」

 

(こんな、時に…またっ!!)

 

 こめかみから針を刺して頭の中を抉るような痛みが襲う。

ハンマーを杖代わりに膝から崩れ落ちそうな体を片手で支え、もう片方の手で頭を抑える。

未来視が何を見せようとも、私は自分のやるべき事を……!

 

――――グオオオオォォォォン!!

 

「………は?」

 

 脳裏に過ぎったのは青白い雷光を纏うモンスター。

そして…そのモンスターが持つ鋭い爪で袈裟斬りにされる私の姿。

未来視でそれを知った直後、辺りに木霊する狼の遠吠えを彷彿とさせる咆哮。

 

 戦いに集中していて気づかなかった。

私と死体の周りに無数の雷光虫が漂っていたことに…

耳が近づく足音を拾い、私はゆっくりと気配のする方へと振り向いた。

 

「……そん、な……なんで、なんでこんなモンスターが…此処にっ!?」

 

―――グルルルルル…

 

 胴体を覆う碧色の鱗、頭から尾にかけて背面と脚に纏う黄色の甲殻、腹部と首回りから生える白色の体毛。鋭い爪を生やした強靭な四肢は機敏な動きを可能とする牙竜種の特徴だ。

モンスターとしての危険度はドボルベルクと並んでいるが、実際に両者と戦ったことのあるハンターならどちらがより脅威なのか考えるまでもなく「ドボルベルクの方がマシ」と答える。

 

 目の前にいるモンスターには、絶対強者と恐れられるティガレックス同様に異名があった。

反射的に武器を構えて、シアは戦いを避けられないと覚悟を決めてその名を口にする。

 

「――――――無双の狩人―――雷狼竜”ジンオウガ”―――!」

 




 前書きが短すぎる気もするけど、書き足して中断して放置してを繰り返してたら内容忘れそうだからこれでいいかなと思い切りました。
毎度の私事ですがお馬さんで給料一か月分吹っ飛んだので暫くは土日に執筆が出来そうです()

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?

  • 狩れ、この生きる大地と共に!
  • 大丈夫だ、問題しかない
  • 尻尾切って、役目でしょ
  • 絵の練習は…?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。