(――――――お、ハジメの奴が動いた。俺も準備するか…)
ゲブルト村から離れて湿地帯とハルツィナ樹海の間にある丘の上で幸利は様子を窺っていた。
彼の視界に映るのは隊列の先頭で松明を手に樹海へと消えていくハジメらしきハンターの姿と、彼の後に続く草食竜アプトノスに牽引される荷車。
(しっかしバカみたいに魔力消費しちまった…なるべく早めにカタつけねえとな)
丘を下ったところにある草むらの中には彼の相棒であるクルルヤックと同様に変成魔法による支配をかけられた小型モンスターが潜んでおり、支配者の号令を今か今かと待ち焦がれている。
彼がこの短時間で従えた支配種の数は
(…あいつ等をこの手で殺す…か)
恨みのあるクラスメイト達への復讐を考えなかった訳じゃない。しかし、それは魔人族の側について戦う清水幸利という主役が用いるべき言葉ではない。
どれだけ虚勢を張っても、彼の心の中には人殺しに対するほんの僅かな躊躇いがある。
(正直、こうなる前はノリノリで無駄な妄想を幾らでも膨らませてたけど…やっぱマジになると思うところはあるんだよなぁ。…だからと言って
「あ~考えると余計にこんがらがるな畜生!もう考えるのやーめた!」
無駄な思考に走るから決断が鈍る。歴史の偉人たちも、アニメやゲームで死んでいった登場人物達も大概はその無駄な思考に気を取られ過ぎて目的を果たせず死んでしまう。
自分は違う…等と驕る気は更々ない。ただ、もし自分がそうなってしまいそうだと感じた時にどうすればいいのか幸利は分かっていた。それはスプラッター映画やホラー映画に登場する殺人鬼にありがちな思考、即ち―――
(殺すのに一々考える必要なんてねえ!無心だ無心!)
子供が足下の虫を何も考えずに踏み潰すのと同じように、幸利は
クルルヤックのところまで歩いていき、首根っこを軽く叩いて彼が促すとクルルヤックは背を低くする。背中の棘に気を付けながらクルルヤックの背に跨って彼は空を仰ぎ見る。
「やれるだけやってやるさ。…へっ、どうせお前の事だから遠視魔法とかで上から覗き見してんだろ?―――お前の片腕になって、いつかお前を越える奴の働きを、しっかり見とけよ魔王サマ」
ハジメ達が樹海に入って暫く経った後、村の南門でモンスター襲来の警鐘が鳴らされた。
*
「邪魔だ退けぇっ!」
―――ギヤアァァッ!?
導蟲が進もうとした先に、小型の鳥竜種ランポスが飛び込んでくる。
向こうが此方に気づいて牙を剥くよりも先に、双剣オーダーレイピアの片方の剣で首を刺して動きを止め、残るもう片方の剣を頭へと貫通させる。首を刺されて抵抗した際にランポスの爪で胴防具フロギィSメイルの皮が引っ掻かれるが、気にせずそのまま息の根を止めた。
「…よし。―――リーナ、アッシュ!そっちは!?」
「大丈夫だよハジメ君!こっちも片付いた」
「こっちにはいねえ!つーかこの辺り、奴らの縄張りにしちゃやけに数が少なくねえか?」
アッシュの言葉が頭の片隅に引っ掛かるが、いま樹海に起こっている異変のことをこの場の誰よりも先に教えられた俺の頭は既に答えを出していた。
「モンスター除けのフェアドレン水晶が使い物になってないんだ!此処にいた縄張りのボス含めて大半はフェアベルゲンの方にいってるのかもしれねえ!!」
「…そっか!だからここにいるのは巣を守る雌の個体だけって訳ね…!」
「そういう事かよ…そりゃもっと急がねえとヤベぇかもな!」
刃を引き抜いて、こびりついた血を振り払って鞘へと納めながら後ろを向いた。
俺達3人が狩っている場所から10m以上離れた地点で、救援隊の荷車が動き出す。
荷台の最後尾に乗っていたアレーティアから後ろの安全が確保出来たとハンドサインを送られる。
「頼むぞ導蟲!最短距離でフェアベルゲンまで連れて行ってくれ!」
その言葉に反応したのか、或いは安全が確保出来たと分かったからか、周囲に散って隠れていた導蟲が淡い緑色の光を放ちながら戻ってきて荷車を牽いたアプトノスも通れる道を飛んでいく。
駆け足のままアイテムポーチの中から松明と携帯食料を取り出す。
右手に松明を持って、左手で携帯食料を噛まずに飲み込む勢いで腹へと納めた。
走れば走る分だけスタミナは消費していくが、これを食べるだけで回復は済ませられる。
(大型と遭遇しないのは…やっぱりあいつ等が働いてくれているお陰なのか)
村を出発して樹海に入るまで近くを一緒に並走していた獣人族。
樹海にずっと住んでいた彼らは大型のモンスターを避ける方法やコツを知っており、またどうすれば奴らを動かせるか熟知している。
彼らが囮になってくれているお陰で、大型とやり合うどころか遭遇すらしていない。
「間に合ってくれ…シア、アルテナッ!」
松明で照らされた道の先を一歩踏みしめる度、心臓の鼓動が早くなっている。
今この瞬間にもシア達の身に何かあったらと思うと、頭がどうにかなってしまうそうだ。
*
「…南雲くん、かなり焦ってるね…」
「ん…シアのことが心配だから。焦るのは当たり前…でもあまり良い傾向じゃない」
荷台の後方から前を走るハジメの姿を見つめているアレーティアと香織。
これまで二人の間に面識は無かったが、互いにハジメの知り合いという事で会話は成立している。
片や300年を孤独に生きた吸血鬼族のお姫様、片や異世界から召喚された神の使徒の治癒術師。前者は現在進行形でハジメに好意的であり、後者は過去形でハジメに好意を抱いていた。
冷静にハジメの状態を分析するアレーティアの横で、香織は少しだけ悔しそうな顔で俯く。
「私も助けになれたら良かったんだけど…」
「今はまだその時じゃない。もどかしいかもしれないけど…我慢」
二人の足ではずっと走り続けているハジメ達3人に追いつけず、モンスターと遭遇して戦っても勝てる可能性は限りなく低い。
アレーティアなら得意の魔法で小型程度は倒せるかもしれないが、大型が相手となれば話は別だ。香織に至っては後方支援の治癒術師であり明確な攻撃手段を持たない。
(…我慢。…そうだ、今はまだ私が動く必要がないだけ。集落についたら必ず役に立つんだ…!)
アレーティアに言われた言葉を頭の奥で繰り返し、香織は気持ちを切り替えて前を向く。
落ち込んでなんかいられない。助けを待つ人々を救う為に、意志を強く持たなければ。
「…うん…そうだよね!」
香織が再び強気に笑みを浮かべた事でアレーティアは少し安心してある事を提案する。
「…ただ、強いていうなら私が香織に教えられる事が一つあった」
「えっ…何かな?」
「治癒魔法は専門外だけど、魔力の扱いについては先生になれる」
アレーティアは自身の持つ”魔力操作”について現代の魔人族より多くの事を知っている。
吸血鬼族の魔法に対する知識は神代のそれに匹敵する代物であり、一族の長として育てられた彼女は教えられたことや本の記述を全てを暗記していた。
故に人間族が詠唱を用いなければ魔法の効力を最大限引き出せない問題の解決策も分かるのだ。
「香織は自分の体に流れる魔力がどういうものか理解してる?」
「えっと…うん!なんとなくだけど、人間の血液とかそういうのとは別の感じ…体の中っていうよりは外側にこう…纏ってるような感じなのかな?これが魔力だよね」
「そう。その感覚が分かっているなら話は早い」
内心驚きつつアレーティアは香織への評価を改める。
神の使徒がどの程度の魔法を使えるのか、ハイリヒ王国が魔法をどの程度まで理解しているのか、ハジメや教授から話を聞いた時は低次元であると思っていた。
しかし、いま香織が言葉にした魔力を纏っているという表現は”魔力操作”を獲得する鍵だ。
体に纏う魔力を認識しているのなら、後は意識だけで魔力を操る術を身に着けるだけだった。
「その纏っているものを、人間は言葉で表現する。表現の近い単語を口に出して頭の中で術式を組み立てて、完全に詠唱することで魔法を完成させる」
「組み立て…完成…要はプラモデルだね!」
「…ぷらもでる??…何それ」
アレーティアの言い回しに首を傾げていた香織が想像したものは異世界にない現代用語。
困惑する彼女を前にキョトンとしていた香織は暫く呆けた後「あっ!?」と声をあげる。
「ご、ごめんね!こっちの世界にはないものなんだよね!えっと…つまり…模型ってこと!」
「模型…うん、それなら例えとして的確」
「火の弾を撃つ魔法を模型として、火とか弾とかの単語を模型の部品として組み合わせる!」
「ん、正解。それが今の時代の人間のやり方。…魔法を確実に発動させる為に詠唱で術者のイメージを固定化させる事と、魔法の威力を安定化させる事が必要だった。…今から私が教えるのは魔法を詠唱による発動じゃなく、感覚で発動させるやり方」
そう言ってアレーティアは人差し指をピンと立てて香織に注目するよう促す。
香織の両目が彼女の指を見つめると、指先から突如としてピュッと透明な水が出る。
「わっ!?今のって、詠唱せずに魔法を発動したの?」
「ん、魔力を水に置き換えて指先から放出させた。威力を抑えたから水属性魔法の”水弾”にはならなかったけど…やろうと思えば時間差なしでどんな風にも変えられる、”水槍”にも”水壁”にも…」
「魔力を水に置き替える…」
「詠唱で魔力に特定の性質を与えるんじゃなくて、想像で魔力を変化させてるだけ」
物は試しと香織は掌の内側を上に向けて、想像力を働かせるために目を瞑った。
体に纏う質量を伴わない非科学的存在を、形あるものへと変化させる。
「………??うぅん……」
言うは易く行うは難し。アレーティアから見て香織の魔力は手の方へと集まっているように見えるが、本人のイメージが纏まっていないせいか魔法の領域にまでは至っていない。
「……最初から無詠唱は流石に難しいかも。単語だけで試してみる?」
「…うん、そうだね!」
「それと香織が得意にしてる魔法だけに絞ってみるのが効率はいいと思う」
「っ!!それなら治癒魔法が得意かな?」
ハンター3人が進路を確保しようと奮闘する中、彼女達も目的は違えど奮闘しているのだった。
*
フェアベルゲンを避けるように南に迂回して、ハジメが救援隊と樹海に入るより前のこと。
樹海の中を四人のハンターと一匹のオトモアイルーが更に奥へと進んでいた。クエストリーダーの教授が先頭を歩き、半歩遅れてシグが、そこから1~2メートル離れたところをラウラとグランツの二人が周辺警戒に徹している。
本来であれば先頭を歩く者が率先して周囲にモンスターがいないか注意を払うべきだが、教授は既にこの辺り一帯からモンスターが逃げ出している事に気づいており周囲を警戒する必要はないと、三人にもそれを伝えていた。
単純馬鹿のシグはそれを信じて―――というか何が襲って来ようと返り討ちにしてやるという考えで―――彼に倣ってズンズン歩いている。ラウラとグランツは教授の言葉に半信半疑で一応の警戒をしてはいるものの、歩くペースだけは前の二人に合わせていた。
ギルドから派遣されたオトモアイルーはそんな四人に何かあった時、すぐにギルドへ連絡が出来るように救難信号を背負ってラウラ達の後ろをついてきているのだが、彼だけは樹海に入った時から異様な恐怖を感じていた。
斜面や断崖の多い北側に比べて、南側は平坦な地面が続いている。熱帯雨林とはいえ陽が沈むと、湿地帯から流れ込む風に不気味な肌寒さを感じる。
それぞれが手にした松明の明かりが照らす周囲には大きな変化はなく、四人と一匹の周りには風に揺れる植物のさざめき以外、生き物の気配がなかった。
(おかしいニャ…さっきからお腹の奥がブルブル震えてるニャ…)
樹海の中にいて
かつて野生の中で生まれ育ち、人間達の暮らす国に移り住んでからこんな経験はしなかった。
自身の第六感が「ここは危険だ。早く逃げろ」と警鐘を鳴らしているのだ。
(うぅ…でも僕は逃げられニャい…お仕事サボったら叱られるニャ)
悲しきかな、人間社会の歯車と化した時点でアイルーに選択肢など無いに等しい。
ギルドの職員として、今は臨時のオトモアイルーとして職務をまっとうする。
しょんぼりと肩を落として四人に従うアイルーから漂う哀愁。
それに気づいていたのは周辺警戒ついでに彼の姿を視界にいれたラウラとグランツだけであった。
((…どんまい))
四人と一匹が樹海の中を移動して数時間が経過した。
木々の入り組んだ迷路を抜けて、薄くなった霧の中を進んだ一行は開けた場所に出る。
教授とシグは同時に足を止めて松明をアイテムポーチへと収納する。ラウラ達は少し遅れて二人と同じ動きをし、アイルーは臭いを嗅ぎながら周囲に見える景色の変化に気づく。
今まで見てきた木々はいつの間にか姿を消し、辺り一面を覆いつくすのは青緑色の竹林。
それらはまるで、四人と一匹を囲う様に生えていた。
此処からは絶対に逃れられないという恐怖感を煽る一方で、
―――不意に月明りで照らされた地面に黒い影が差す。
ラウラとグランツは影の差してきた方向に顔を向けて、それまで
「どうやら、此処で戦う事をお望みのようですね」
「ハッ!上等だ、古龍の死に場所にゃお誂え向きだぜ」
教授が片手剣”神封龍剣【絶一門】”の柄を握り、シグも太刀”飛竜刀【ベリル】Lv4”を抜く。
エメラルド色の刀身が宝玉の如き光を放って美しさを演出するが、柄から切っ先にかけて荒々しい見た目は素材のモンスターと装備している彼の性格を連想させる。しかし、そんな評価とは真逆にこの太刀が持つ性能は万人向けの扱いやすさを重視したものであった。
「…やっば、なにアレ見た事ないタイプなんですけど…!」
恐怖を通り越して、期待と興奮に身を震わせたラウラが笑みを浮かべて武器を展開する。
彼女の武器、スラッシュアックス”巨獣剣斧”は同モンスターの武器種の中では比較的シャープで鋭利な印象を受けるが、会心率を犠牲にした高攻撃力特化という剣斧適性が同期の中で断トツ一位だった彼女に相応しい脳筋性能だった。
「お前ら、今回ばかりはマジで猪突するんじゃねえぞ……死なれたら困るからな主に俺が」
普段はシグとラウラに振り回されている苦労人のような振舞いのグランツも、初めて戦う眼前の敵がこれまでと比べ物にならない強さを秘めていることを肌で感じる。軽口を叩きながら、武器を構える時の表情が誰よりも強張っていた。
操虫棍”狐薙刀ツユサソウランLv3”は日本古来の薙刀―――トータス出身の彼らには分からないが―――を模した作りで、違うのは反対側に刃のような虫笛が付いているところくらいだ。
飛竜刀【ベリル】と同じく、この操虫棍も高水準に纏まった性能を持っている。
「さぁ、始めますよ」
「仕切ってんじゃねえ!一番手は俺が貰うぞ!!っらあぁぁぁ!!!」
「無理だと思うけど、なるべく早く倒れて頂戴よねぇっ!」
「人の忠告くらい、偶には聞けってんだこの脳筋共があぁぁ!!」
曰く「途方もない時が経とうが、かの古龍は護るべき一つ所に居続けた」
曰く「樹海の主の帰りを待ち続け、生き永らえ、踏み入る者に容赦なく牙を剥く」
曰く「優雅な立ち姿に惑わされたなら、そのものは永遠の眠りへと誘われる」
今まさに雲に隠れようとする月を背負う様に、雅翁龍”イナガミ”は敵意を露わにする。
鋭い爪を生やした四肢で地面を蹴るように跳び上がり、四人と一匹の前へと着地した。
辺り一帯が青緑に埋め尽くされ、天には漆黒の夜空が広がっているというのに…イナガミの体から生えた山吹色の鬍は真昼に咲く大輪の花のように強烈な存在感を放っていた。
少し前に書いてた奴と一週間くらい前に書いてた奴をごちゃまぜにしたので前書きがお知らせだけになってしまった…(しかも此処まで書いておきながら前々から考えてた展開より昨日考えた展開の方が面白そうとかプロット全崩壊するガバガバ具合)
仕事がしんどいとか執筆が進まないとか現実逃避して三連休もMHW:IBやってました、まだHR・MR共に上限までは遠い道のりです(相変わらず重ね着オルムングβ頭装備だけは外さない)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?
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狩れ、この生きる大地と共に!
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大丈夫だ、問題しかない
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尻尾切って、役目でしょ
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絵の練習は…?