アゥータの介入により両者の形勢が逆転した。
それまで狩られる筈だった者達はひとまずの危機を脱したことで冷静さを取り戻し、改めて愛子を守る形で一箇所に集まる。
狩る側だった幸利はクルルヤックの狙いを神の使徒から眼前の
「――――――殺せ!」
―――グエェェッ!
「アゥータさん危ない!」
指示を受けて闘争心を剥き出しにクルルヤックがアゥータへと迫る。愛子が危険を知らせるのに対し、彼は暢気に煙草を銜えたままのんびりと狙いをつけていた。
「…図体がデカいだけで鳥頭は変わらないな」
引き金を引いて、コーレガネオスの通常弾Lv3がクルルヤックの胴体を貫く。
だが二発目の直撃に怯むことなく両の爪で挟み込むように彼へと襲い掛かった。
発射の反動はあったものの、彼はその攻撃を転がって躱す。
感心した口笛の代わりに煙草の煙を吐きながら、彼は口を開いた。
「―――へぇ、今の食らって怯まないか。上位個体くらいかと思ってたんだが、どうやら無駄に質の良い奴を奴隷にしてるらしいな。…歴戦個体か」
(歴戦個体?あいつがか?…まぁ、なんとなく見た目からは想像できないくらい強い力があるとは思ってたけどなぁ―――って、暢気にそんな分析してる場合じゃねえか!)
「お、っりやあぁぁ!」
幸利の相手は
たんなる土の塊を重吾が天職・重格闘家の技を利用して幸利に投げつける。
体格の大きさを活かし学校では柔道部の主将も務めていた男の、異世界で与えられたステータスと技能による補正もあって土の塊が砲弾のように飛ばされた。
「ちぃっ……!」
「悪いな清水…!当たりどころ悪けりゃ死ぬかもしれんが、その時は恨まないでくれ!」
重吾は戦いの最中に殺すか殺されるかの覚悟を決めていた。
背後で守られている愛子は止めたかったが、前後で起こっている戦いを見て、自分には止める権利すらないのだと思い知らされて閉口する。
「恨まれたくねえんなら、楽に殺されてくれよなぁ!―――”闇爪”ぇ!」
「今度は防ぎきるよ…!お願いっ―――”聖絶”っ!!」
憎まれ口を叩いて幸利は三日月の形をした黒い刃を回転させて飛ばす”闇爪”を放つ。
対する重吾達の背後から声を上げたのは結界師の鈴だった。
最初の一度目で咄嗟に詠唱なしでの結界を張れたことで感覚を掴み、一か八かの詠唱なしの”聖絶”発動に成功。彼女の言葉通りドーム状の光に”闇爪”は弾かれて霧散する。
(クソ…こいつ等、今までやってこなかった技能の省略化をこうも簡単に…!)
腐っても神の使徒、成長力という点に限っては幸利の数歩先をいく存在である。
今までそれが通用しなかったのは彼らの相手が殆ど
ましてや魔人族側につく前の幸利のステータスは彼らの平均値より下。バルバルスで新たな知識を習得し、修練に励んだとはいえ戦闘力は
個人対集団となれば、結果は分かり切っていた。
「はぁっ!せやぁっ!」
「凍てつく力よ眼前の敵を貫け…”氷弾”!」
「このままっ!反撃させるな!」
「ぐっ…!うっ……!」
投術師の優花が重吾達の隙間から狙って短剣を投擲し、綾子の治癒を受けて立ち上がった氷術師の奈々が妙子に支えられながら掌の先から”氷弾”を続けて発射。技能関係なしに気配を消していた浩介が道端の石ころを拾っては優花と同じように投げつける。
短剣の軌道を目で追い体を捻って躱し、続く氷弾を自らの”闇弾”で相殺するが、立て続けに飛んでくる石ころの全てを回避することは出来ず、彼は両腕を縦に構えて数発を食らう。
(このままじゃ本格的にやべぇな…奴らを使うか…!)
攻撃が止んだ隙を逃さず、幸利は闇夜の空に向かって指笛で合図をした。
指笛の音を聞き、村中で人々を襲っていたニクイドリの群れが一斉に集まってくる。
「なっ…!?なんだ、この出鱈目な数は…!」
「清水、アンタ……操れる魔物が他にも居たっていうの!?」
「誰もアレだけとは言ってねえだろぉが!勝手にそう思い込むお前らが悪いんだよバァーカ!」
小物感ある台詞な気もするが、ちょっとだけ戦いが楽に運べると思った幸利は消耗を悟られないようにするため、余裕のある体を装ってニクイドリの群れに向かって叫ぶ。
「やれ!骨も残さず啄み殺せ!」
―――ギャアギャアギャア!
(―――さて、あっちの方は……ってマジかアイツ!?)
神の使徒達が攻撃から再び防御だけに専念する間、幸利は指示を出しっぱなしで戦わせていたクルルヤックがハンター相手に善戦していることを期待していた。
だが視線を向けた先には、血だらけでゼイゼイと荒い呼吸を繰り返すクルルヤック。
対するアゥータは防具に傷一つ付いておらず、涼し気な顔で煙草を吸っていた。
彼は自分に向けられる驚愕の視線に気がつき不敵な笑みを浮かべる。
「俺と遊ぶならもっと頭数を揃えてこい。張り合いのねぇ奴だ」
「…くそったれの化け物が…!お前らホントに人間かよ…!?」
「失礼な、れっきとした人間だよ。
(誤算だった…ハジメと同じ強さの奴がいると仮定して対ハンターも視野には入れてたが、こいつは俺の…俺とクルルヤックだけで手に負える奴じゃねえ…!)
「―――撃ちっぱなしも疲れたし鳥の相手も飽きた。―――終わらせるか」
「ッ!?―――そいつから離れて身を隠せ!!」
―――グエェェ…グギギッ!
嫌な予感がした幸利がクルルヤックに指示を出すと同時にアゥータも動いた。
弾を切り替え、腰を低く落として照準を神の使徒達の上空で旋回するニクイドリに向ける。
その直後だった。彼の構えるコーレガネオスの銃口から赤い球状の光が現れて、独特な甲高い音を響かせながら光が次第に大きくなり―――
―――ドォォォン!!
周囲の空気を震わせるほどの轟音と共に、銃口の先から迸る何倍も太い熱線。
赤や橙といった色の混ざり合ったビームのようなそれが頭上を通り過ぎた時、誰もが唖然とした。そして熱線の放たれた先にいたニクイドリは、灰すら残さず消し飛んでしまう。
「”排熱弾”。死体漁りの鳥にゃ、ちと大味過ぎたか?」
ゲブルト村を襲っていたニクイドリの群れはこの一射で八割が死亡し、残る二割も反撃に出てきた村人達やギルド所属のアイルー達の手によって追い払われるか倒されていた。
幸利の魔力残量が限界を迎え、地面に突き刺さっていた黒い柱が消えていく。
死にかけのクルルヤックはなんとか排熱弾の直撃を逃れていたが、戦闘で蓄積したダメージも大きく戦いを継続できるか怪しい。
勝敗は誰の目に見ても明らかだった。
頭の上を熱線が通り過ぎた事実から戻ってこれない愛子達に代わり、アゥータが問いかける。
「――――――まだやるかい?」
「―――ハッ!やる以外の選択肢が俺にあるかよ!まだ俺は―――」
虚勢を張ろうとした幸利だが、アゥータが警告代わりに放ったコーレガネオスの銃声で言葉が途切れてしまいビクりと肩を震わせる。
銃声だけで反射的に彼が恐怖を感じてしまうほど、排熱弾は凄まじい攻撃だった。
もし、偶々あの射線上に自分がいたらと考えただけで血の気が引いた。
アゥータは兜の隙間から顔を覘かせて冷ややかな目で幸利を見下ろして言う。
「――――――負けたんだよお前は」
「いいや、まだ俺は――――――!」
―――ガアァァァァアアアアアアアアアァァァッ!!
「負けていない」そう幸利が言い返そうとした、その時だった。
突如、彼らのいる場所から近い西門がモンスターと咆哮と共に吹き飛んだ。
余裕のあった表情から一転、アゥータは焦りの表情を浮かべてその方角を見る。
その咆哮に聞き覚えのあった彼はギリと歯を軋ませて幸利を横目に睨む。
「……おいクソガキ。アレもテメェらの仕業か?」
「……いや、知らねえよ……なんだよアレ…!?」
声を震わせる幸利とようやく正気に戻った愛子達の向けた視線の先にいたのは―――
暗緑色の鱗に覆われた体躯、異様に発達した尻尾と上半身を、屈強な後脚を持つ獣竜種。
それが現れた時点で種族間の争いや個人の都合で殺し合いをしている余裕などない。
それに襲われれば命はないと言われ、腕の立つハンターでさえ戦うことを避ける。
ギルドが指定する特級の危険生物、不吉の象徴、全生態系にとって極めて危険な存在。
”健啖の悪魔”は仕留め損ねた獲物の匂いを感じ取って姿を現したのだ。
「…シアちゃん…!もう大丈夫だからね…!」
リーナが撒いた生命の粉塵のお陰で、シアの傷が瞬く間に塞がっていく。けれど血を失い過ぎているから、彼女の意識は覚醒しない。…しかも理由はそれだけじゃない…
「この数…シア一人でやったのか…!?」
驚いた様子で周囲を見渡したアッシュが呟いた。
周辺に横たわるモンスター達の亡骸、それら全てにハンマーで殴られて陥没した痕がある。
ドスランポス、ドスジャグラス、アオアシラ、トビカガチ、ロアルドロス、ダイミョウザザミ、イャンクック、ドボルベルグ―――取り巻きの小型も含めて50体以上は狩ったのだろう。
(よく持ちこたえた…本当に…よくやった…!)
片腕に抱えたままの彼女の頭をそっと撫でてた。
それから俺は眼前で唸り声をあげるジンオウガに向き直り、小走りで近づいて来たリーナにシアの体を預ける。ガラス細工を扱うように、優しく手渡し…彼女の回復を祈った。
「リーナ、シアと荷車連れて奥の集落までいってくれ。ここは俺一人でやる」
「分かっ―――!?…ハジメ…君…?」
最後にシアの体が指先から離れた瞬間、全身から怒りと闘志が溢れてくる。
それは自分自身の不甲斐なさ、大切な後輩をこんなに痛めつけた眼前の獲物に対する殺意。
傍らでリーナが驚き目を見開いていたが、それに意識を向ける余裕すら今の俺にはない。
「――――――ぶっ殺す!!」
オーダーレイピアを抜刀して鬼人化、ジンオウガに向かって疾走する。
向こうも此方から仕掛けてくると分かって声を上げ、前脚を屈めて突進してきた。
巨体を前に回避せざるを得ないが、一瞬のステップで右に躱して反撃。
「だぁっ、しゃぁっ!!!」
左の剣に併せる形で右の剣を袈裟に振り下ろす。
狙いは前脚のつもりだったが、奴の動きを捉えきれず胴に浅い傷をつける程度。
右前脚を地面に叩きつけて擦るように俺を振り払おうとするが―――
「―――っっだらぁ!」
爪が脇腹に触れそうな間一髪でステップ、腹の内側に飛び込んで回避に成功。
僅かに生まれた間を逃さず左右の剣で逆袈裟に振って斬りつける。
―――グルゥ…ッ…!
(これはシアの腹に穴を開けた分だ…!)
怯んだら間髪入れずに足の爪を狙って鬼人連斬を食らわせた。
怒りで全身の血が沸騰しそうだが、狩る獲物の状態を見極めることは出来る。
シアはハンマー使い。狭い攻撃範囲で直撃を狙える箇所は前脚、胴体、後脚、尻尾の四か所。
そこから効率よくダメージを与えられる場所は前脚、彼女はそこを攻撃していただろうと俺は考えた。そして、読みは当たった。右前脚の爪に小さな罅が入っている。
(これはアルテナの故郷を勝手に荒らした分!)
―――グルアァァッ!?
傷口を抉るように連続攻撃の最後、罅に向かって切っ先を突き立てた。
てこの原理で、罅割れた爪が欠ける瞬間に柄を奥へと押し込む。
悲鳴を上げて仰け反り、ジンオウガの巨体が横に倒れる。
(こいつは俺のせいで怒らせちまった先輩の分だ!!)
しっかりとアゥータさんへの申し訳ないという気持ちを「お前のせいだ!」と八つ当たり気味の怒りへと変換して、
…この個体が悪いという訳ではない。だが亜人族の縄張りに入ってきた瞬間からこうするつもりだ。他の生き物の縄張りに土足で踏み込んで生きて帰れると思うなよ…!
「死ぬ覚悟出来てんだろ!?さっさと狩られるか、尾っぽ撒いて逃げろや狗ぅ!!」
―――グルゥ、ガアァァッ!!
「ぐぉぁっ…!?」
ジンオウガが起き上がると同時にその場で空中へと跳び上がり斜めに半回転、着地後に叩きつけられた尻尾の衝撃波で俺は吹っ飛ばされる。
だが地面を転がる途中で身を捩り、両手両足で地面を擦りながら四つ這いの形となってすぐさま起き上がる。両手の剣は…無事だな。
―――グルル…!
「ハッ!狗呼ばわりされて怒ったか?―――けど俺は、テメェの何百倍もキレてんだよ…っ!」
強走薬グレートの効果はまだ切れていない。
威勢よく吠えて継続中の鬼人化で再び姿勢を低くして正面から突っ込む。
まだ足りない。こいつにつけられたシアの傷は、もっと深かった…。こいつが流したシアの血は、こんな量じゃ釣り合わない…!その無駄にデカい体をバラバラに切り裂いて、骨と腸を引き摺りだすまで怒りが収まらねぇ…!!
―――グルオオオォォォン!!
「こっっrrrrるろおしてやらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
執拗に、何度も、何度も、何度も右前脚の傷口をこじ開けるように斬りつけていく。
左前脚を振り上げて、奴が俺を叩き潰そうとするのを鬼人回避で躱す。
躱す、斬る、躱す、斬る、躱す、斬る…繰り出されるジンオウガの攻撃が如何に速かろうが鬼人回避で全てを紙一重に避けて、勢いを殺さず反撃で斬りつける。
すると向こうからバックステップで距離を取られた。
もどかしい…すぐにでも狩って、シアの無事を確かめたいというのに…!
「ぐ、ぎぎ…!クソがぁ…っ!」
冷静に、極めて冷静に努めていたつもりだが、軋む歯の間から獣のように息を吐く。
「――――――す、殺す…コロス、殺す、コロス、殺ス―――ブッ殺ス!!」
この時、体の周りから何かが溢れていることに俺は気づかなかった。
鬼人化で発せられる体の余熱とは違う、どす黒い血のような赤いオーラ。
眼球の奥が疼いて、獲物以外に余計なものを見たくないと周りの視界が影に覆われる。
不意に誰かの声が俺の内側…魂とでも呼ぶべき場所で呟いた。
―――双刃を以て獣を討つ者。汝、その身に餓狼を宿せ。
「ぐ、ぎ…ガァァァッ!!!」
牙は対に、爪も対に、一刺しで二度穿つ。
シアの戦った相手にクルペッコ(他の大型モンスターを呼ぶ害悪クソ鳥)がいたら村の方にいた例のアレがシアの方に乱入してたかもしれませんね(その場合、ほぼ確実にシアが死にます。運良く助かってもその後を引き継いだハジメの勝率がゼロになってしまう…)いま村に現れた奴はそんくらいやべー奴です。
ハジメ君、まさかの初お披露目の狩技は獣宿しでした…ギザミ戦でチラっと見せたアレはこいつの後で使う相手がいますので…。
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?
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狩れ、この生きる大地と共に!
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大丈夫だ、問題しかない
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尻尾切って、役目でしょ
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絵の練習は…?