ハジメがジンオウガと一対一の戦いに集中している間。
「通してくれ!ハジメ君の頼みで此処に来た!」
救援隊はモンスターの死骸がそこら中に散らばっている中を通り抜けて森人族の集落入り口前で中に向かって声をかけた。
見張りをしていた森人族の戦士達は敵対していた帝国の人間達が助けに来たという話を信じておらず、入り口を開けるべきか否か困惑していたが――――――
「通しなさい!彼らは約束を守り、我らを助けに来て下さったのです!」
「はっ…はいっ!」
アルテナの一声を受けて大慌てで入り口を開いた。
先頭を歩くアプトノスに戦士達が慌てて武器を構えようとしたが、彼女は「お止めなさい!」と一喝。後ろの荷台から続々と村人達が下りてくる中、気を失ったシアを担いだリーナがアルテナの方へと駆け寄る。
「貴女が此処の指導者…でいいのかな?」
「はい、現状は――――――ッ!!シア様ッ!?」
シアの防具”レザーシリーズ”は皮の至る所が裂けており、青白い髪や露出した肌は血がべっとりこびりついている。悲鳴をあげるアルテナにリーナは慌ててシアが無事であることを伝える。
「あぁ、心配しないで!致命傷は回避出来たし、見た目ほど酷くない。――――――けど暫くの間は動かさない方がいいかな。どこか横に出来る場所を貸して貰えない?」
「っ…それでしたら私の私室へとご案内いたします。こちらへ!」
急ぎ足で二人を自室まで案内するアルテナ。
背後で入り口の上に登ってハジメの様子を見守っていたアッシュが目線で次の指示をリーナに仰ぎ、彼女は「此処でいざこざが起こらないよう見守ってて!」と目線で伝えてからアルテナの後を追った。頷いて彼の視線は荷台の方へと移り―――
言った傍から包帯を巻いた怪我をしているであろう亜人族が救援隊に突っかかっているのを見つけ、アッシュは「やっぱり助けない方がよかったんじゃないか?」と苦虫を嚙み潰したような顔をするのだった。
「き、貴様ら何が目的だ!?森人族と違って我々は騙されんぞ!!」
「私達はただハジメ君から森人族の娘に頼まれて怪我人を治療して欲しいと言われて来ただけだ。それ以外に目的はない」
「嘘だ!貴様ら人間がそんな事をするなど――――――」
近くの森人族から剣を奪い取ったその亜人族が切っ先を向けようとする。
困惑して後退る村人達の中からアレーティアが一歩前に進み出た。
内心呆れつつ、無表情で彼女は亜人族を説得しようと試みるが…
「時間の無駄。私達は貴方達を襲うメリットがないと、少し考えれば分かる」
「小娘が!我らを騙そうとしても――――――ッ!?」
説得が無駄と分かるや否や、彼女は向けられた剣の切っ先に怯む様子もなく歩を進めた。
切っ先は彼女の肩に刺さり、赤い血が彼女の肌を伝って衣服に染みた。
彼女が進んでくるとは思わず驚愕で剣を手放し、恐怖の表情を浮かべた亜人族は後退る。
「――――――時間の無駄。助かりたくないなら、此処から消えて」
「~~~っ!!」
声も上げられず逃げ去る亜人族をアレーティアは一瞥して周囲に向き直った。
服についた血の染みは消えないが、零れた血の殆どは彼女の傷口へと戻っていく。
何事も無かったかのように振る舞うアレーティアに誰もが呆気を取られていると――――――
「それじゃあ重症患者のところから順に回っていくから!誰か案内をしてくれないかな!?」
空気を読めないのか、或いはアレーティアの再生能力を知っていたから先ほどの行動も大して驚くほどのことではないと思っているのか、香織は医療品の詰まった木箱を両脇に抱えて女の子には珍しいガニ股歩きで集落の中へと入っていこうとする。
この時彼女の姿を見た誰もが同じ感想を述べた。
(((華奢な見た目に反して、行動が逞し過ぎる…!)))
「誰かーっ!?誰かいないの~!?案内出来る人~っ!…あぁ、人って呼び方だと人間族と混じって紛らわしいよね…案内出来る亜人さ~ん!!いませんかーっ!?」
「――――――私が案内しよう」
独り言を口にしながら細かいことを気にする香織に歩み寄る人物がいた。
それは数十分前に目を覚ましたばかりで、まだ怪我の回復しきっていないアイリスだった。
「アイリス様…!?」
「目を覚まされたのですね…良かった!」
「しかしあのお体の様子では―――」
彼らの言うとおり、アイリスは歩き回れる状態ではない。
美しかった体は至る所に傷痕が残り、包帯を巻かれたところから血が滲む。
顔色も青褪めており、指先一つで突けば倒れてしまいそうな危うさを感じさせた。
「私は”アイリス・ハイピスト”森人族の族長だ」
「わっ!すっごい綺麗なひと―――じゃなくて亜人さん!…ええっと、白崎香織です。……あの~見た感じアイリスさんも怪我をしているみたいですけど…」
「私は後回しでいい。他に傷ついた者達を―――っ、ぐっ!うっ…」
言い終える前にアイリスは脇腹の傷口が開いた痛みで苦悶の表情を浮かべる。
香織はハッとした表情で木箱をその場に落として彼女を抱きとめ叫ぶ。
「”焦天”!!」
「ぐ、うぅ――――――っ!?傷が、塞がって…痛みが引いていく…」
奇しくもクラスメイト達と同じように治癒師の技能”焦天”を詠唱無しで発動させる香織。
また突然の出来事で固まる他の亜人達を尻目に香織は腕の中のアイリスに話しかけた。
「大丈夫ですか?これでとりあえずの応急処置にはなると思うんだけど…」
「…あぁ、助かった。……ありがとう。……貴殿らに先ほどの件を謝罪する……すまなかった」
アイリスが謝ったのはアレーティアに剣を向けて逃げ去った亜人族のことだった。
アレーティアは特に気にする様子もなく「いい」と返して、他の村人達も「本人が気にしていないのなら、まぁ…」と謝罪を受け入れる。
森人の戦士達はアイリスの行動に目を丸くして、次に「族長に頭を下げさせるなど…!」と理不尽な怒り半分困惑半分といった様子だった。
一方で香織は少し難しそうな顔をして首を傾げる。
「うぅ~ん…さっき事ってアイリスさんが謝って済む問題…なのかな?」
「………何?」
一人で立てるようになったアイリスから離れて香織は木箱を持ち直しながら言った。
「――――――過去に色々あったから人間と亜人の仲が悪くて、さっきの事は起こったんだよね?あの亜人さんの様子から見て察するに、貴女がこの場で、あの亜人さんの代わりに謝ったとしても
「「………!!」」
香織の発した言葉はその場にいる両種族の心に強い衝撃を与えた。
過去に帝国がしてきた行い、罪を清算したうえで亜人との友好な関係を築きたい。だが亜人族にとって人間は許し難い存在であり、罪の清算など認める筈もなかった。故に友好関係は成立せず、しかし帝国はこれ以上の侵略行為を亜人族に対して働かず、代わりに樹海で人間を襲わない約束を取り付ける形となった。
「シアちゃんの故郷でもある此処と亜人さん達を助けたいって気持ちと、必死に助けて欲しいってお願いしてくれたアルテナちゃんの気持ち。それに―――無関係の筈なのに助けようとしてくれた南雲君の気持ちを無駄にはして欲しくないかなって」
種族間の争いが回避されただけで、亜人族の恨みは消えていなかった。
先ほどの亜人族が取った行動も、今まで受けた仕打ちを考えれば当然の帰結である。
だが、彼が剣を向けた人間達は亜人族を助けようと動いたのだ。
この世界の住人ではない
「人間のお嬢さん、おぬしの言うことも分かる。―――だが我々大人は頭で理屈は分かっていても、心の奥に根付いた意識まで変えることはそう簡単に出来ないのだよ」
「鳥人族の長老……」
部下を伴って現れた鳥人族の長老、その背後には先ほど逃げ出した亜人がいた。
彼はバツが悪そうな顔をしているものの、謝ろうという気は一切感じられない。
香織はまた難しそうな顔で首を傾げて言葉を返す。
「でも亜人さん達は…意識を変えようって考えすら持っていないんじゃないかな?ううん、もっと直球な言い方をすると―――
「……痛いところを突いてくるの、お嬢さん」
「―――話の続きは、怪我人の治療が終わってからにしようか」
「あっ!!そうですね、すいません私なんか変な方向にばっか話振っちゃって…」
言葉のナイフで的確に亜人族の大人達の心を抉ったことに気づかず、香織は木箱を両脇に抱えて怪我人のいるところを目指してアイリスの後に続いて勢いよく駆けていく。
彼女の言葉に呆然としていた村人達も我に返り、再び荷物を降ろし始める。
終始騒ぎに割って入れなかったアッシュは静かに一言呟いた。
「―――――――――女っておっかねぇ」
自分とパートナーを組むリーナの出自を知った上でのフットワークの軽さにせよ、アレーティアの見た目からは想像も出来ない威圧感にせよ、香織の種族間の争いに一石を投じるであろう衝撃的な発言にせよ、アッシュは女性の底知れない何かに戦慄していた。
その直後、彼の背後で雷狼竜の遠吠えに混じり青年の怒号が聞こえた。
閉じた入り口の向こう側、フェアベルゲンの最終防衛線とも呼べる場所でハジメが叫んでいる。
ただならぬ気配を感じ、彼は「こっちもおっかねぇ」と肩をすくめて仲間の無事を祈った。
―――グルオォォォォン!
「オオオオォォォォッ!」
向こうが吠えると同時に俺も叫び声を上げて突っ込む。
既にジンオウガの体力は半分以下まで落ちているのが行動から読み取れる。
突進を避けて露骨な距離稼ぎ。隙を見つけては超帯電状態へ移行する威嚇の予備動作。
「当たれ!!」
”強走薬グレート”の効果が切れるリスクを考えて”オーダーレイピア”を抜刀したまま鬼人化で走れる時間は長くても5分~10分。
それまでに決められないと、瀕死で怒り移行したと時が厄介だ。
手持ちのアイテムポーチに残っている”回復薬”には余裕ある。属性やられ対策を想定して念のために”ウチケシの実”も持ってきた。
それ以外で役に立つものは…”大タル爆弾”に”シビレ罠”くらいか…
「…やってみるか…!」
頭の中で作戦を組み立てると同時に武器をしまってジンオウガとは逆方向に走り出した。
突然目の前から敵が背を向けたことにジンオウガは疑いながらも攻撃の機会を得たと言わんばかりに前傾姿勢で飛び込もうとしてくる。
(超帯電状態にはまだ移行してねぇ…!これならっ――――――)
「シビレ罠、設置…!!」
片方の手に握っていたシビレ罠を地面へと設置。
間一髪のところでジンオウガの振り下ろした前脚の攻撃を避けて転がる。
すぐにシビレ罠が発動し、ジンオウガの体がビクビクと痙攣した。
(今だ!!)
「っどりゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」
オーダーレイピアを抜刀してからの鬼人化、ステップで前脚へ一気に詰め寄る。
鬼人連斬を怒涛の勢いで放つ。通常6連撃のそれは獣宿し【餓狼】の力で倍の12連撃へと変わった…このまま押し切れば勝てると確信した次の瞬間―――
―――グルゥ、グオオオォォォォーーーーッ!!
「なんだっ…!?ぐああぁぁっ!」
突然足下でシビレ罠が爆発すると同時にジンオウガが超帯電状態へと変化する。
どうしてあの状態から変化することが出来たのか一瞬訳が分からなかったが、シビレ罠の原材料が”雷光虫”であることを思い出してすぐに状況を理解した。
(―――そうか、シビレ罠から放出される電力を吸収したのか!そして超帯電状態に変化したことで体外に放出される膨大な電力によって負荷がかかり、シビレ罠が破壊されたってことか!)
「動きを止めて一方的に叩くつもりが、敵に塩を送ったって事かよ!―――ペッ」
血を吐き捨て、僅かに体が痺れる感覚で”雷属性やられ”になっていると気づいた。
ジンオウガは距離を取ってまだ俺に仕掛けてこない。
その隙を狙って”ウチケシの実”を食べて属性やられを解除、回復薬で治療を終える。
―――グオオオォォォン!!
「けど、さっきのは効いたみてぇだな…!その青白い光…最期の全力ってところか?」
ジンオウガが超帯電状態に加え怒り状態へと移行することで稀に見られる姿。
青白い電気を纏う姿はどこか神々しくもあり、背を向けて逃げない様は侍の如し。
獣宿し【餓狼】の効果が薄れようとしているのを身体の奥底で感じる。
吹っ飛んだ際に納刀していたオーダーレイピアを抜刀し直して、鬼人化。
「テメェを狩るか、俺が狩られるか!―――行くぞジンオウガァァァ!」
―――オオオォォォン!
初動、ジンオウガは斜めに構えてから雷光虫弾を二発二回。
計四発が弧を描いて俺の方へと迫りくる。軌道を先読みして鬼人化ステップで回避、そこへ追撃の踏みつけ攻撃が再び繰り出されるが、それもステップで回避。
(スピードは断然奴が上。だが俺は奴の攻撃の軌道を先読み出来る。故に―――攻撃の後から来る追撃、更に怒り状態でのダメ押しの追撃も、当たらなければ脅威にはならない!)
どこぞの赤い彗星が言ってそうな台詞だが、その言葉は一対一の戦いに於いて一つの真理だ。
来ると分かった攻撃を、避けられるのなら相手には攻撃の後の隙が必然的に生まれるし、避けることだけに集中しなければ反撃を加える余力が生まれる。
二度目の踏みつけ、三度目の踏みつけ、そして…四肢を深く踏み込んでからの半回転宙返り。
回る体と尻尾の触れない安全圏が、角だらけの巨体の間には必ず存在する。
そこへ数歩踏み出して、後は微動だにしなければ吹っ飛ばされることはない。
着地で一瞬隙が出来たと思ったが、直後にジンオウガが吠えたことで回避に意識を切り替えた。
再び宙高く飛び上がった巨体は地面に背を向け、そして――――――
背中が地面に触れると同時に雷撃が周囲に向かって放たれる。
その直後にこそ生まれる体勢を立て直す僅かな時間こそ、大きな隙であると分かっていた。
「っ――――ずぇあぁぁぁぁ!!」
ステップで距離を詰める時間も惜しいと、一歩半回転連撃を数発外しながらも放つ。
背中の甲殻が砕け散り”超電雷光虫”が数匹、命惜しさに飛び立っていく。
「こ、れでぇぇぇぇぇぇっ――――!!!」
獣宿し【餓狼】の鬼人連斬、狙いは一番脆いとされる頭部の角。
刃から迸る水飛沫と、罅割れた角から飛び散る血飛沫が、真っ黒なシルクハットとペストマスクの”ギルオスヘルムβ”に噴水の如く降り注いだ。
片方の角が欠けて地面へと突き刺さる。
ジンオウガは堪らず悲鳴を上げて仰け反るが、ハジメは止まらず斬り進む。
無双の狩人が最期に目にしたのは、眼下で対の剣を突き刺す彼の姿だった。
「――――――――――――終わりだっ!」
俺達…救援隊の到着から10分も経過しない間の出来事だった。
ジンオウガ討伐成功でフェアベルゲンが最悪の状況に陥ることは回避された。
*
――――――しかし、それはあくまで
倒れたジンオウガの素材を剥ぎ取り、集落へと歩き出そうとした瞬間。
近くの樹が根元から倒れて何かが吹っ飛んできた。
「なんだっ…!?」
「――――――ぐ、かはっ!くそ、化け物が…!俺は、まだ…!」
吹っ飛んできた何かが目の前に転がって来て、砂埃が晴れたその姿を見た俺は絶句した。
俺の眼前で至る所が破損した防具から血を流して苦悶していたのは太刀使い・シグだった。
全身に悪寒が走る。
命の危険を知らせる警鐘が鳴らされた。
逃げろと本能が叫んでいる。
だが行動を移すには遅すぎた。
倒れた樹の向こう側から吹っ飛ばされて来るのは、シグ同様に虫の息となったラウラとグランツ。
まだ悪態をついて立ち上がろうとするシグに対し、ラウラは口から血を吐いて気を失ったまま微動だにしない。グランツは呼吸こそしているものの声を出すことも出来ない様子だ。
そして最後に、木々の中から、地面から突然青竹が槍を突くような勢いで伸びてくる。
下からの攻撃全てを盾で防ぎながら後退してくるのはアーティア装備の教授。
そこに飛び掛かってきたのは、ジンオウガと同程度の大きさなのに、奴とは比べ物にならない―――バルファルク、ベヒーモスと同格かそれ以上と呼べる―――威圧感を持ったモンスター。
ギルドが警告していた古龍”イナガミ”がフェアベルゲンの目前にまで迫っていた。
原作ユエさんなら股間スマッシャー不可避の行動に対し、アレーティア嬢は自分の特性を活かして脅すとかいう精神攻撃系になっていますね…
白崎さんに関しては今後外伝で頑張って貰うので此処からどんどん土台作っていきたいところ…
ハジメ君はジンオウガ初見あるあるシビレ罠(慣れてくると敢えて使うハンターもいるけど)で被弾しつつも完勝。
これで一段落…と思っていたのか?樹海全てを縄張りとする古龍なんだからフィールド移動するのは当たり前だよなぁ?
感想、質問、ご指摘等お待ちしております!
勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?
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狩れ、この生きる大地と共に!
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大丈夫だ、問題しかない
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尻尾切って、役目でしょ
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絵の練習は…?