モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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「………幸利様」

 湿地帯と樹海、村の境界線にある丘の上でフラウは彼の身を案じている。
当初は指揮官という体裁でレイス達が立案した作戦で幸利が動く筈だったが、その作戦自体を幸利が考え、準備し、実行しろと魔王アダムから命じられたのだ。
軍人としては経験の浅い彼女でも流石にこの命令が無茶だと異を唱えた。
せめて副官である自分だけでも補佐につけるべきだと主張したが却下された。

「理解しろフラウ・フォン・ニーベル。魔王様が奴一人に作戦を任せたのは実力を確かめたうえで、真に奴が人間族と敵対関係にあるかを結果で証明する為だ」
「それはっ…!……レイス隊長は幸利様が、また裏切るとお思いなのですか?」

「可能性はある。…お前も心当たりはあるだろう」
「………!」

 彼の指摘したことは湿地帯でハジメ達と出会った時の幸利の行動だった。
幸利の立場を知った上で、彼が不利になるような事を報告すべきではないと、フラウは湿地帯での一件をレイス達に報告していなかった。だが、彼らは何があったのか薄々分かっていたのだろう。

 あの時はダヴァロス達の捜索を優先していたからと不必要な交戦を避けた彼の指示にフラウも渋々従ってはいたものの、魔人族が近くに潜伏していると帝国に知らされるリスクを考えれば多少強引にでも口封じをしておくべきだった。
見方を変えればそんな風に考える事も出来る。

(けれど、もしもあの時…あの三人と戦っていたら…)

 ハジメとシアだけならモンスター以外に攻撃が出来ないという弱点を突いて始末することは容易だったかもしれない。だがアレーティアという少女の存在に幸利は警戒していた。

 フラウも彼女が人間離れした強さを内に秘めていることは感じていた。
あの場で幸利の指示を無視して戦っていたら、どうなっていたか分からない。
ただ一つ言えることは、双方五体満足で帰れることは無かっただろうということ。
故にあの状況で幸利の判断は間違っていなかったと彼女は思っている。

 彼女の脳裏に浮かんだのは、包み隠さず魔人族の側についた経緯を話す幸利の姿。
彼はとても恩を仇で返すような人間に見えなかった。
しかしその程度は口だけで何とでも言い繕うことが出来る…そう指摘されてしまったら言い返すことが難しいのもまた事実だ。

 未だ幸利を敵ではないかと疑う将軍フリードを始めとするガーランド軍各旅団長。
彼らから信頼を勝ち取らない限り、幸利が完全に受け入れられることはない。

「おや、三方の騒ぎが落ち着きつつあるようですね」
「ありゃ~少年決めきれなかったかぁ?こりゃヤバかも」

 そして…作戦開始から状況は次第に幸利が劣勢へと追い込まれていた。
たった一人のハンターが住人達を統率し、騒ぎの元凶である支配種のモンスター達を一掃。
幸利は神の使徒を一人も殺せないまま、遂には相棒のクルルヤックも深手を負う。

 怪我の大半を回復したダヴァロス、セレッカの二人は技能”遠見”で様子を見ていた。
その言葉を聞いてフラウは更に焦ってレイスに詰め寄る。

「レイス隊長!幸利様の援護に向かわせて下さい!」
「…駄目だ。今お前が言ったところで戦況は覆らない。神の使徒を抹殺するという当初の目標は果たせず、我々はダヴァロス旅団長らを連れてバルバルスに帰還する」

「そんなっ………しかしそれでは魔王様の命令が――――――!」
「作戦失敗の責は奴を推薦した魔王様にこそ問うべきもの。我々は魔王様の命に従い、奴に手を貸さなかった。それで―――」

 レイスが「終わりだ」と言おうとした瞬間、村の西門が轟音と共に吹き飛んだ。
同時にダヴァロスとセレッカは自分達を襲った奴が現れたのだと冷や汗を流す。

「――――――レイス、魔王様に全ての責任を負わせようという貴方の発言にはこの場に限り目を瞑りましょう。それよりも今は全速力でこの場から離れるべきです」

「あっはは!自分も旅団長の意見に賛成で~す。ってかもう自分一人で逃げていいですか?」

 二人の様子がおかしい事に気づいたレイスとフラウも”遠見”で西門を見た。
砂埃と瓦礫が辺り一面に飛び散って、まるで爆弾でも炸裂したかのような西門の残骸。
そこから砂煙を吹き飛ばして現れたのは暗緑色の巨大なモンスター。
おどろおどろしい気配を放ちながら、それは地の底から這い出た悪魔のように吠える。
数キロ離れた位置にいるレイス達のところにも咆哮の振動が伝わってきた。

「ダヴァロス旅団長、その焦りよう…まさかアレが貴方達を襲った…?」

「っ………!」

 レイスの呟きを聞いたフラウは、堪らず立ち上がって村の方へと一目散に走り出した。
後から彼の制止する声が聞こえても、彼女は止まらず”魔力操作[+身体強化]”まで発動させて幸利のいるところまで走る。

(死なせません…幸利様…!貴方はこんな場所で…終わっていい人じゃない!)



魔人族の少女は助けたい/雅翁龍イナガミ

 

「教授っ!こいつは……!?」

「―――おやハジメ君。どうやら君を巻き込む形になってしまったようで、申し訳ありません」

 

 竹林の刺突を盾一枚で防ぎ切った教授は俺の方に振り返ったまま後退する。

木々の間から現れたイナガミは俺達の方へ悠々と闊歩した。

 

「っ―――いけません、後ろへ跳んで下さい!」

「くっ!?」

 

 俺は嫌な予感がして教授の警告と同時にダッシュで逃げる姿勢から地面へと飛び込む。

直後、数秒前に教授を襲っていたものと同じ竹林が俺の立っていた場所に伸びていた。

 

(いきなり地面から生える竹…こいつの能力か…!?)

 

 アルテナの話していた竹害とフェアドレン水晶の効力が失われた話。

ギルドで聞いた数千年前に起きた話。全てが繋がった、間違いなくこの異変の元凶は…!

 

(――――――くそッ、今は状況を分析してる場合じゃない!)

 

 視界の端に映った三人…シグ、ラウラ、グランツは今にも死にそうだった。

シグは性格的に相容れない奴だが、見殺しにするほど嫌ってもいない。

あいつとつるんでるラウラとグランツだって根は良い奴だ。なんとかして助けたい!

武器を納刀して、息を整えてから歩みを止めたイナガミと向き合う。

 

(イナガミの注意を惹きつければ……!)

 

「教授、シグ達を後ろに見える集落まで連れて退いて貰えませんか?」

「―――彼らを助ける事には同意見ですが、君はどうするのです?」

 

 アイテムポーチの中にある”大タル爆弾”でイナガミを倒せるとは思っていない。

だが少なくともあの爆発をまともに食らえば、確実に敵意を向けてくるだろう。

 

「俺が囮になって時間を稼ぎます。その間に三人を――――――」

「―――ぐっ、ごほっ!ハジメ、手前ぇ…!余計な手出し、してんじゃ…ねぇぞ…っ」

 

 濃緑色の目立った甲冑の至る所から血を零して、シグは立ち上がった。

だが両足だけで立つことも儘ならないのか、太刀を地面に刺して杖代わりにしている。

その痛々しい様子から目を背けながら、俺は敢えて厳しい口調で言う。

 

「―――馬鹿かお前。その死に体で狩りが出来ると本気で思ってるのか!?まともな判断力のねえ奴を同期に持った覚えはねえぞ俺は!悔しかったら死にかけの仲間連れて、とっとと後ろ下がって傷を治してきやがれ!それまでこいつは俺が相手してやるよ!!」

 

「…て、っめぇ…!ぐっ!?ごほ、ガハッ…!……クソっ―――」

 

 それ以上は言い争う気力もないのか、シグが後ろへとゆっくり下がっていく気配を感じる。

後ろの二人も教授と、いつの間にか地面から飛び出してきたギルドのオトモアイルーによって集落の方へと運ばれていく。

離れる直前、教授は俺に向かってイナガミの情報を教えてくれた。

 

「先程の動きと併せて、アレの吐く白い息は吸わないように、睡眠属性のブレスです!」

「―――了解!」

 

 返事と同時に俺が駆け出すと警戒して足を止めていたイナガミも襲い掛かってくる。

ジンオウガよりも短い前脚の溜め動作から繰り出される突進を紙一重で躱す。

そのまま教授達の方へ向かおうとした所に、足下に落ちていた”ツブテの実”を拾って投げた。

 

―――ギュオォォォ!!

 

 ”ツブテの実”は山吹色の体毛に防がれて掠り傷すらつけられなかったが、自分に向けられた敵意には気づいたのだろう。

イナガミの双眸が俺に向けられるのを粟立つ肌で感じ取った。

 

「お前の相手は俺だ!!かかって来い!」

 

(―――なんて威勢よく吠えたが、あくまで時間稼ぎに徹する…!)

 

 イナガミが自分の力量だけで倒せる相手じゃないことは十分理解していた。

体勢を立て直した教授と、リーナかアッシュのどちらか二人が来てくれれば状況は変わる。

少なくとも集落にまで手出しをされる心配はない…!そこで一気に―――

 

―――ギュオゥ!

 

「なっ!?」

 

 ひたすらに走って逃げれば距離を稼げると思っていたが甘かった。

その場で止まったイナガミが突如姿勢を低くしたかと思った次の瞬間。

 

 宙に向かって跳躍と同時に前脚から背中にかけて、纏っていた灰色の甲殻が変化する。

爪と形容するにはあまりに長く、体毛と呼ぶには硬そうな見た目のそれが六枚の翼となった。

体の倍以上の大きさへと伸びた翼でイナガミは滑空して突っ込んできた。

 

「ぐおぁぁーーーっ!?」

 

 失敗した…!油断した…!こいつが古龍だという認識が足りなかった!

翼のない古龍だからと、飛ぶことはないと先入観に惑わされた!

背中が砕けたんじゃないかと思うほどの激痛に襲われて地面を転がる。

 

「ごほっ…」

(掠った一撃で…このダメージ…!)

 

 頭がくらくらして視界はグニャグニャに歪み全身から血の気が引いた。

起き上がったと同時に口から溢れた血がマスクの中で飛び散る。

 

「……っ…!まだ、だ!これくらいじゃ、俺は死なねえぞ!!」

 

 全身に鞭打つなんて生温いものじゃない。

全身を擦りおろされているような痛みを抱えたまま再度イナガミから距離を取る。

またさっきと同じ唸り声が聞こえた。

 

「二回も、同じ攻撃をっ―――食らうかぁぁ!!」

 

 着地と同時に灰色の甲殻の翼は砕けていた。

だがイナガミが声をあげれば、瞬く間に前脚から背中まで灰色の甲殻の翼が跳躍と同時に展開される。言葉通り、今度は当たる寸前で地面と翼の隙間へと飛び込んで避けた。

 

(…今だ!この隙に―――)

 

 宙返り滑空からの突進は着地後にイナガミの体が硬直する。

だからさっき俺が吹っ飛ばされてから起き上がるまでに追撃がなかった。

今度は地面に伏したまま、アイテムポーチから”大タル爆弾”を取り出す。

 

「こいつで――――――」

 

 本来は設置した”大タル爆弾”から離れなければならない。だが古龍を相手に、爆弾を設置して起爆させる時間の余裕はないと分かっていた。だからさっき拾ったのと同じ要領で”火打ち石”を眼前の”大タル爆弾”へと当てる。

 

「ぶふわぁっ!?」

 

 大爆発に巻き込まれて俺の体はまた吹っ飛ぶ。

肌が焼けるほどの熱さと鈍い痛みを感じるが、さっきの突進に比べれば大して痛くない…!

 

(……これで、少しは効いてくれればいいんだが……)

 

 だが俺の願いも虚しく爆発の黒煙が晴れた先にいたのは…

ダメージを食らった様子もなく、完全な敵意だけを込めた目で俺を見下ろすイナガミの姿だった。

分かっていた、こうなると分かっていたけど…!

焦りと恐怖を紛らわす為の悪態をつかずにはいられなかった。

 

「―――――――――化け物がっ!!」

 




 まだ副官になって一か月も立ってないのに幸利に対する信頼度が高いフラウ。
彼女がここまで彼の事を思っているのは自分の責務をまっとうしなければ!という責任感も勿論ありますが、それ以上に彼のお辛い過去を聞いてしまった自分くらいは彼の味方でありたいと考えたからです。だからといって命令違反は軍法会議不可避なんだけどね…


 並みのハンターならコイツの突進食らっただけでも一乙します。
轟竜の突進、老山龍の死にながらプレス、天彗龍の翼突きと致命傷を食らい続けて尚、死ななかったハジメだからミリ残しで耐えられた。ハジメ達のところまで吹っ飛ばされるまで虫の息で耐えたシグ達もそこそこガッツはある模様。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?

  • 狩れ、この生きる大地と共に!
  • 大丈夫だ、問題しかない
  • 尻尾切って、役目でしょ
  • 絵の練習は…?
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