モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 満身創痍の激闘を終えてシアの意識は暗闇の中にいた。
微かな光の差し込む底の見えない海中のような場所を無意識の彼女が漂っている。
息苦しくはない。呼吸をするという概念がこの空間に限り存在しないのだ。
いつまでもそこに居たいと無意識の内に彼女は思っていたが――――

「―――――――――」
「おっ、目が覚めたみたいだね。大丈夫シアちゃん?体に異常はない?」

「……リーナ……さん。……っ!集落は――――――うぐっ…!?」

 暗闇の底で誰かがシアの名前を呼ぶ。とても懐かしい優しかった誰かの声。
それを思い出す前に意識は現実へと引き戻され、シアは瞼をゆっくりと目を開けた。体に何重も包帯が巻かれて、側頭部、臀部、肘、膝と傷のあったところは包帯に滲んだ血が黒くなっている。
痛みを我慢しながら上半身を起こそうとする彼女をリーナが止めた。

「あぁまだ起き上がっちゃ駄目っ。傷は塞がってるし折れた骨も再生してるけど、反動で体中ボロボロだからもう少し待って。集落は無事よ、シアちゃんが頑張ったお陰でね」

「……そう、ですか。よかった」

 そう言ってシアは枕に頭を預けて再び目を閉じようとしたが―――

――――――オオォォォッ!!
「っ!?」

 耳をつんざく大タル爆弾の爆発音と聞いたことのないモンスターの咆哮。
それの咆哮はフェアベルゲン全体に…否、ハルツィナ樹海そのものを震わせるほどの威圧感を纏っていた。

「…ごめんねシアちゃん。ゆっくり看病してる暇はないみたい…向こうの応援にいかないとっ!」

 声を掛ける間もなく、リーナは武器を持って部屋を駆け出していく。
シアはもう一度起き上がろうとして、痛みに襲われるも歯を食いしばってそれを耐える。

(…このくらいの痛みなら…動ける!)

 脱がされていた彼女の防具”レザーシリーズ”は寝具の脇に、べっとりモンスター達の返り血がついたまま置かれていた。邪魔な包帯を引き千切り防具を装備し、壁に立てかけてあった”アイアンハンマーLv2”を掴んで腰の留め金に引っ掛けて部屋を飛び出そうとするシア。

「っ!!?シア様いけません!そのような怪我で動かれてはっ―――」

 物音に気付いて部屋に入ってきたのはアルテナだった。
手に抱えていた水の入った桶を放り出して、彼女は通り過ぎようとするシアを引き止める。

「平気です…もう動けます…っ!」
「平気な訳ないでしょう!?これ以上の負傷は命に関わりますっ」
「問題ありませんっ、既に傷は塞がって―――うっ…ぐっ!?っぅ…!」

 引き止めるアルテナを押しのけようとしたシア、ところが通路に一歩目を踏み出した瞬間、痛みに悶えて体のバランスが上手く取れず前のめりに倒れ込んでしまう。
アルテナが手を伸ばすも間に合わず、シアは通路の床へと顔からダイブを決めてしまう。

「シア様っ!!!」

 顔色を真っ青にしてたアルテナが駆け寄る、だがシアはすぐに立ち上がり鼻血を流しながら奥歯を噛み締め立ち上がり、血を手の甲で拭って走り出す。
なんとかして彼女を止めたいと思うアルテナだったが、足の速さで兎人族のシアに敵う筈もなく、後を追う形で集落の入り口に着いていった。

 シアが着くと同時に集落の門が開いて、彼女の視線はそちらに向けられる。
追いついたアルテナが「もしかしたらハジメ様が戻って来たのでは?」と期待したが、現れたのはフルフェイス装備の人物…教授だった。得体の知れない装備に身を包んだハンターの登場に驚き、彼女はビクリと肩を震わせた。
一方でシアは、彼と彼の足下を歩く獣人族のアイルーが担いで連れてきた死にかけのハンター達に注目した。

「こ…この方達は…!」

「教授、外のありゃなんだ!?それに―――ッ!?シグ、ラウラ、グランツ…!」
「三人とも死ぬほどではありませんが負傷しています。生命の粉塵を使用します、下がって」

 教授に言われて駆け寄ろうとしたアッシュが足を止め、シアもさっと数歩距離を取る。
彼がアイテムポーチから取り出した白い袋”生命の粉塵”から零れる淡い緑色の粉塵、彼はそれを手に取って空中へと振りかける。その直後、瞬く間に瀕死だったシグ達の呼吸が落ち着きを取り戻す。

「もう大丈夫と言いたい所ですが一刻の猶予もありません。集落の外で古龍イナガミとハジメ君が一人で戦っています。私はすぐに戻りますが、出来れば後二名お力添えを」

「それなら私が…私がいきます…!」

 三人の事を治療に来た村人達へと預け、戦いの場に戻ろうとした教授にシアが駆け寄る。
そこでようやくアッシュは怪我人だった彼女が来ている事に気づいてギョッと驚く。

「なっ!?おいシアお前、さっき死にかけで気失ってた奴が無茶すんな!ここは俺が―――」
「いいえ!私はもう動けますっ、アッシュさん。どうか私にっ」
「シア様どうかお願いです!部屋にお戻りください!その怪我では―――」

 するとそこへシア達より先に動いていた筈のリーナが到着する。

「あぁっ!シアちゃん、なに無茶やってるの!?そんなこと、今の貴女に戦える訳が―――」
「戦えますっ!!!」

 突然シアが大きな声を出してアッシュ、アルテナ、リーナの三人は驚き固まる。
彼女は拳をグッと握り締め、その耳は門の向こうから響いて来るイナガミの咆哮に混じったハジメの声を拾う。

「お願いします…!私は、故郷も大切な人も、どっちも失いたくないんです…!」

「シア様……」

「シアちゃん…」
「シア……」

 シアの言葉にアルテナは嬉しく思う一方で、シアの身を案じんていた。
彼女にとっても集落は絶対に守るべき住処、ハジメも大切な友達だ。
もう十分といえるほどにシアは集落を守るために奮戦してくれた。
だが恐らく、シアにとってはまだその戦いは終わりではないのだろう。
彼女とハジメを戦いの場に向かわせたのはアルテナである。
故にこれ以上、アルテナが声をかけて止めることは出来なかった。

(………)

 それを遠目に見つめる森人族の族長アイリスは何かを決心した様子である場所へと走っていく。
走る彼女の手にはかつてフェアベルゲンが今と同じような窮地に陥った時、モンスターを退けていった一人のハンターから渡された一振りの短剣が握られていた。



覚醒の兎人少女

 

「う、ぐぅ…ぬおあぁぁぁ…!?」

 

 激戦の中、教授から注意するよう言われていた睡眠属性のブレスを食らって動きを止めてしまった。

直後に走る鈍い衝撃、トラックに轢かれた衝撃でもここまで酷くはないだろう思いたくなるほどの激痛と高速回転する視界、俺の体は地面をバウンドして木の根元に叩きつけられる。

 

「ごほっ―――(このままじゃ、やべぇ…!)―――っ!!くぅっ…!!」

 

 起き上がった直後、イナガミが再び灰色の甲殻を展開して飛び掛かってくるのが見えた。

一か八かの賭けで後ろではなく前方に飛び込んで、自分の意思で地面を転がりながら当たらない事を祈る。

さっきまで俺が寄り掛かっていた木の根どころか大樹を丸ごと薙ぎ倒してイナガミは地面に着地した。

当たらなかったことにホッとしたが、同時にあの攻撃の恐ろしさに背筋がブルブルと震える。

 

―――グルオォゥ!

 

「なっ…!?」

 

 イナガミが一鳴きすると、奴の足下から無数の青竹が伸びてくる。

俺を狙った攻撃ではない事に困惑した次の瞬間、イナガミは想像を超えた攻撃を仕掛けてきた。

 

(自分で生やした竹を咥えて…武器にしやがった…!?)

 

 無造作に食いちぎった竹を咥えてイナガミは木々を足場に空中へと躍り出る。

何をするか分かった俺の頭から攻撃の二文字は消し去り、回避の一点に専念する事となった。

 

「うっ、おおおぉぉらあぁぁぁ!!?」

 

 俺に向かって飛び降りてくるイナガミは横に首を振って青竹を叩きつけようとしてくる。

振ってくる軌道をギリギリまで観察して、横と分かった瞬間に後方の地面へと飛び込んで回避に成功。

だが起き上がるまでの僅かなタイムラグをイナガミが逃すはずもなく――――――

 

「ぅ…っ!?―――こ、の野郎…!」

 

 用済みとなった竹をペッと俺目掛けて吐き出してきた。

当然回避は間に合わず背中で衝撃を受ける。

幸い勢いはなく食らっても大したダメージにはならない。

しかし立っていた体はその場で膝をついて動きを止められてしまう。

 

―――ゴオォッ

 

「ブ、ッファァァ…」

 

 直後に繰り出す噛みつき込みの突進、それだけで俺の体は軽く吹き飛ばされてしまう。

噛まれずには済んだが前脚の先が脇腹を引き裂いて、熱い痛みと共にそこから血が噴き出た。

一瞬視界がブラックアウトしかけたが、すぐに歯を食いしばって起き上がる。

 

(回復の隙がねえ…!さっきの飛び掛かり一撃でも食らったら、今度こそ死ぬ…!)

 

 首元、胸の奥、頭の内側に冷たい死神の鎌が当てられているような気がした。

普通ならここで閃光玉でも投げて一時撤退、回復のチャンスをって言いたいところだが――――――

 

(向こうと少しでも距離を取らねえと…!少し巻き込まれただけで終わりだ!)

 

 ふと視界の端に映る集落の門が開いて、三人の人影が此方へと向かってくるのが見えた。

 

(教授…!よし、時間稼ぎは成功だ…!リーナ達も合流すれば――――――)

 

「ッ!?なっ、お前…なにやってんだシア!!」

 

 安心したのも束の間、教授の後ろに見えたウサ耳のシルエットに向かって怒鳴る。

イナガミが前脚を大きく振り上げようとして、リーナが弓を展開して矢を放つ。

前脚が振り下ろされるタイミングで矢は前脚の根元を貫き、僅かに動きが止まった。

その僅かな間を逃さず俺はイナガミとの距離を取る。

 

 教授はリーナ達から離れてイナガミの背後へと回り込み、リーナは弓の適性距離で横に移動する。

シアはハンマーを構えてイナガミに真正面から突っ込んでいく。

 

「真正面からは危険だ!シア、下がれっ!!」

 

 俺の呼びかけにシアは見向きもせず、構えたハンマーに力を溜め始める。

イナガミの双眸が近づいてくるシアを捉えて咆哮を上げる。

周囲の空気が弾けて、地面が波打つほどの声に距離を取った俺やリーナですらその場で耳を塞ぐ。

だがシアは――――――

 

「――――――ハァッ!」

 

―――グルオォゥッ!?

 

「「――――――っ!?」」

 

 目の前で起きた光景があまりにも常識外れで理解するのに数秒を要した。

シアは確かに溜め動作のままイナガミに近付いた、そこまでは分かる。

そして彼女は咆哮が放たれる寸前で溜めたままの姿勢で前へと転がった。

咆哮の衝撃を食らわず、接近した彼女がイナガミの頭部へ跳躍と同時に下顎へ打ち上げ、返す槌で叩きつけての着地を食らったイナガミは大きく怯んだ。

 

(今、咆哮をどうやって凌いだ…?それにあの動きは…一体…?)

 

「―――おやおや。よもやこのような状況で()()()の動きをお目に掛かれるとは」

 

 咆哮を盾で防いでいた教授が驚き、どこか嬉しそうな声音でシアの動きを褒める。

イナガミはぎろりとシアを睨みながら、もう一撃を食らうまいとサイドステップで距離を取った。

地面に打ち付けた鎚を引き抜いて、シアは俺の方を見て笑顔で口を開く。

 

「…ハジメさんお待たせしました!私も共に戦います!」

 




―――ハンター・シアの成長力、樹海の頂点捕食者を以てして未だ底が見えず。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

勢いで書いていますが、このままで大丈夫でしょうか?

  • 狩れ、この生きる大地と共に!
  • 大丈夫だ、問題しかない
  • 尻尾切って、役目でしょ
  • 絵の練習は…?
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