モンスターハンター・トータス2   作:綴れば名無し

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 健啖の悪魔による騒ぎは長く続かなかった。只のハンター達では対処するのが難しいモンスターも例外の一人、辺境最優と呼ばれた男にとっては狩り慣れた獲物の一匹に過ぎない。
瀕死のクルルヤックと幸利の対処は必要ないと判断し、彼は早々にその場を離脱し悪魔の対処に当たった。満たされない食欲を満たす為、目の前の人間達を食らうつもりが、無数に飛んでくるボウガンの弾と極太の熱線を浴びるように食らって悪魔は狩猟された。

 そして彼の判断は正しかったことが証明された。
幸利の魔力も限界を迎え、クルルヤックの闘志も尽きかけている。

(時間をかけ過ぎた…いや、そもそも武器も装備も無さ過ぎだ…)
「――――――チッ、やっぱ思い描いた通りにはいかねえか―――」

 舌打ちと共に毒づいた彼の周りを神の使徒(クラスメイト)達がじりじりと囲む。
以前の彼であれば絶望的状況に立たされてパニックの一つでも起こしてしまったかもしれないが、まだ考えることを放棄せず出来る事の最善を導き出した。

(…片腕を掴まれた瞬間に首か心臓を狙う…”闇弾”くらいなら一発は撃てるし、短剣を囮に…その逆もいける。………へっ、こんな結果になっちまった以上アダムの所には戻れねえ。あの嫌味な将軍に最後くらいは俺を認めさせてぇし―――相打ち覚悟でも一人くらいは殺す!)

 考えを巡らせながら懐の短剣を取り出して正面に構えるが、包囲は徐々に縮まっていく。
それを遠目に見つめる愛子は彼が捕まった後のことを想像していた。

 もしこのまま幸利が捕まれば、その身柄は確実に帝国預かりとなる。
魔人族に与して神の使徒を殺そうとし、帝国の村を襲った彼に下される判決は死罪以外ないだろう。
なんとかして彼の命を救ってあげたい彼女にはそれを止める術がない。

(私はどうしたら――――――!)

 使徒達の包囲は槍を伸ばせば幸利を貫ける距離にまで縮まった。
幸利は覚悟を決めて短剣を握る手を更に前へと突き出して彼らの行動を誘う。
左右からじりじりと近づいてくる気配、彼がどちらかに狙いを定めようか決めた直後、両者の動きを止める一人の少女の叫び声がその場に響き渡る。

「ユキトシ様ーーーっ!!」

「「「っ!!?」」」

 それは村の外にいた者達に起きた突然の出来事だった。
村の周囲から現れて襲ってきたモンスターの群れを撃退しようと大勢の人がいた。
その間をとんでもない速さで突っ切ってきた少女が瓦礫を踏み出しに空中へ跳び上がり幸利の前で着地した。着地の衝撃で赤い髪のポニーテールがふわりと揺れる。
腰に提げていた剣を抜き放ち、使徒達へと突きつけた少女…フラウが勇ましく声を上げる。

「この方に指一本触れるな人間共!貴様等の相手はこの私だ!」
「なっ―――おまっ、フラウ!?バカ野郎お前っ…どうして此処に!?」

 唖然とした表情を浮かべた直後、焦りと怒りが入り混じった幸利は彼女に問う。
彼の方へ振り返らずに、まだ驚いて固まっている使徒達を睨みつけながら彼女は淡々と答える。

「分かっています。私が一人援軍に来たとて、今の状況を覆すことは叶いません」
「んな事ぁどうでもいい!俺なんかさっさと見捨てて―――」

 逃げればよかった―――そう言いかけて内心、見捨てられなかったことに安心していることを自覚して幸利は言葉を詰まらせてしまう。そんな彼の言葉から何かを察したのか、フラウは少しだけ不敵な笑みを浮かべて自分の言葉の続きを口にする。

「―――この状況を覆すことは出来ませんが、あなたを此処から逃がすことは出来ます!魔物っ―――いいえ、クルルヤック!!支配者(あるじ)を守る責務を果たしなさい!」

―――グエェッ…ゴォケッ!

 クルルヤックは彼女の言葉に反応して、主である幸利の命令も聞かずに彼の首元を嘴の先で摘み上げると、ひょいと軽く持ち上げて自分の背中に乗せるとさっと身を翻してその場から逃走する。

 この時は誰も気づけなかったが、後にも先にも支配種として無理矢理動かされているモンスターが()()()()()()()()を聞いた初めての瞬間であった。

「ぬわっ!?おいアホ鳥止まれ!フラウお前っ―――!!」
「貴方の部下として、魔王様の指令を私が代わりに遂行します!」

―――ケケケケケ!ケェーッ!
「フラウ――――!」

 クルルヤックが走り出すと使徒達はハッと我に返る。
幸利は揺れる背中の上から降りられず、ただ部下の名を叫ぶ姿だけが遠ざかっていく。
包囲の中心にいた重吾は慌てて近くにあった瓦礫を掴みクルルヤック目掛けて投げようと構えるが、フラウが間に立って投擲を邪魔しようとする。

「くっ…邪魔すんな!!」
「そちらこそ!」

 相手の見た目が年下の少女、人間と全く変わらない姿形をした魔人族を前に、重吾は力づくで彼女を退かすことが出来ない。一方でフラウも彼に攻撃の意思がないことを察し、不用意に自分から攻撃を仕掛けようとはしない。
ただ背後の幸利に追手が掛からないように、周囲の意識を自身へと向けさせる。

「さぁ、どうした!?かかって来い神の使徒!これだけ数の差がありながら臆したか!?それとも貴様等は、たかが小娘一人も殺せないというのか!?その程度が神の使徒であるならば、貴様らは魔物以下だ!」

「~っ!バカにしてっ―――てえぇぇぃっ!!」

 天職”操鞭師”の妙子はフラウの言葉に半日前のハジメから言われた言葉を思い出して、見え透いた挑発だと分かっていながら攻撃を仕掛けた。
手にしていた鞭を頭上で軽く振り回し、勢いのままにフラウ目掛けて振り下ろす。

 だがフラウは飛んでくる鞭全体の動きが振り回される最初の段階から見えていた。
軍人として戦闘に関係する天職の技能、立ち回りは全て訓練で学んでいる。故にその対処は剣を使うまでもなく、半歩斜めに動くだけで鞭を躱す。

「これでっ…どうだ―――”土壁”!」
「―――その程度っ!ハァッ!!」

 ”土術師”の健太郎が拘束の為に仕掛けた土壁をフラウは剣の一突きで破壊する。
彼女の持っている剣は最高硬度の鉱石で造られている。更に彼女は”魔力操作”で刃に魔力を付与し物理的な衝撃への耐性を高めていた。彼女の剣にかかれば鉄の鎧も岩の塊も破壊することは容易い。

 砕けた衝撃で土煙が周囲に舞い上がる。
フラウの注意が健太郎に向いている隙を狙って他の使徒が仕掛ける。
”暗殺者”の浩介が技能”気配遮断”で彼女の背後に回り込んだ。
短剣で刺す事も出来たが、ヒトを刺す行為に抵抗感のある彼は身動きさえ止めてしまえばなんとかなると考え無しに飛び掛かろうとして―――

「そこっ!」
「なっ―――どぉわぁぁっ!?ぐぇっ…」

 フラウは自分の周囲に限定して”気配察知”を発動させていた。
浩介の動きは最初からお見通しだった。

 軍人である彼女は武器の扱いと魔法だけに限らず、当然のように軍隊格闘術も身に着けている。
軽い足払いで彼を前のめりに倒し、片手で胸倉を掴んで自分の体を半回転させて、勢いをつけて彼の体を地面へと叩きつけた。
仲間をやられて激昂した重吾が持っていた瓦礫を彼女にぶん投げる。

「クソッ―――おぉっりゃあぁぁぁ!!」
「っ!(”風壁”!)」

 飛んでくる瓦礫を剣だけでは防ぎきれないと判断したフラウは、地面に倒れた浩介から手を放し、瓦礫の前に翳して無詠唱の”風壁”を即座に展開する。
目に見えない風の流れに止められて勢いを失った瓦礫が地面へと転がった。

 たった数回の行動で示した力の差に、使徒達はまた攻撃の手を止めて様子を窺う。
だがそれこそフラウの狙いだった。彼らの意識は逃げた幸利から完全に彼女へと移っている。

(――――――時間稼ぎは、これで十分)

 幸利を乗せたクルルヤックが村の外まで逃げたとフラウは信じた。
上の命令に背いて彼を助ける彼女の個人的な目的は果たせた。
残るは自ら宣言した通りに魔王から命じられた使徒の抹殺を遂行するだけ。

 フラウは風壁を解いて手を降ろし、剣を肩の高さで上段に構えた。
その目が最初の目標に定めたのは自分を囲んでいる使徒達ではなく、離れた場所で油断しきっている”作農師”の愛子。幸利(上官)が殺し損ねた相手を、今度こそ仕留めようとする。

「神の使徒、これも魔人族の未来の為―――死ねっ!」

「ひっ!?」
「愛ちゃん!」「先生!!」「愛ちゃん先生!」

 ”身体強化”で強化した足を使って地面を蹴ると同時に風属性の魔法で自身への空気抵抗を分散させて加速する。
一瞬の間に距離を詰めたフラウ。彼女の殺意に遅れて気づいた愛子が、小さく悲鳴を上げてその場にへたり込む。
近くにいた優花が刃を止めようと咄嗟に手を伸ばすが間に合わないのは分かり切っていた。

 愛子の見る世界が段々とスローモーションに変わっていく。
事故に遭った瞬間のように、振り下ろされる刃が、叫ぶ生徒達の声が、自分の鼓動が、血液の流れが、全てゆっくりに感じられた。

 そんな彼女だけの世界で思考だけが回っていた。
恐怖、絶望、後悔、苦悶、悲嘆…ほんの僅かな無自覚の()()
死を目前にして愛子が()()()()()()()()()を浮かべそうになったその時…風を切るヒュン!という音と共に何かが飛んできて―――

「――――――うぐぅっ!?ガフッ…」

「――――――っ」

 振り下ろされる筈だった刃の先が、愛子の目の前で止まっていた。
驚愕で目を見開き、血を吐いたフラウの背に数本の矢が刺さっている。

 慌ててその場から後退る愛子は、遠くにいる帝国兵の姿に気づいた。
フラウの侵入に気づいた者達が、愛子達を守ろうと村の外から戻ってきた。
”気配察知”で気づける距離ではなかった為、フラウはまともに矢を食らったのだ。

(――――――くっ!こんな矢如きで、私が!仕留め損ねる…なんて…)

 背中の燃えるような痛みが急速に広がり、フラウの視界が暗転しかけた。
エリート軍人を多く輩出する家の出自と持て囃されいようとも、実戦を殆ど知らない素人が命令を無視して独断で行動した結果がこれとは「両親が聞いたら失望するだろう」とフラウは落胆する。

(……こんなのが私の、最期?……でも……ユキトシ様は無事に―――)

 軍人としては失格かもしれないが、部下としては忠実に上官の命を守った。
それだけでフラウは少しだけ誇らしい気持ちで最期を迎える覚悟したが…
その直後、村中に響き渡る少年の叫びに目を見開く。

「――――おおおぉぉぉ待て待て待てっ、待て待てぇぇぇぇぇいっ!!」

「っ……なん…で!?ゆ、きとし…さ…―――」

 限界を迎えたフラウの意識が暗転する直前に見たのは、土煙を上げながら全速力で戻ってきたクルルヤックと、その背に跨りながら、どこから拾ってきたのか火のついた松明を手に持ってぶん回しながら、周囲の人間を牽制する幸利の姿だった。

 使徒達の下へ向かおうとしていた帝国兵達が狙いを変えてクルルヤックに矢を放とうとする。
だが走るクルルヤックの巨体は、矢を撃たれる前に隊長のグリッドを爆走ついでに撥ね飛ばす。

「ぐわあぁーっ!?なんだ、こいつ等―――ッ!」
「隊長っ!」
「あちっ、うあちちちっ!―――こっ、このクソガキャ!」

 怒った部下達が矢を放つも、クルルヤックは飛んでくる矢を紙一重で躱す。
クルルヤックの巨体はフラウの前で急停止して、その嘴が倒れそうな彼女の腕を咥えたかと思えば、すぐさま空中にぶん投げて背中の主へとパスする。

「うお重っ!?~~~っくはないけど!?このアホ鳥!怪我人はもっと慎重に動かせよ!」

―――ゲエエッゲゲゲッ!

 じゃかあしい!こちとら怪我の痛みを我慢して全力疾走しとるんじゃ!―――なんて主に向かって文句を言いたげなクルルヤックを再び前にして使徒は警戒して距離を取った。
彼らの反応を見てチャンスと思った幸利はクルルヤックを軽く労い、次の指示を出す。

「はいはい分かった、よくやってるよお前は!いいから、また全速力でズラかるぞ!!」
「っ!!ま、待って清水く――――――」

 幸利の言葉を聞いて愛子が制止しようと声を上げるが、彼はその言葉を遮って使徒達に向かって苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべてからビシッと中指を立てて叫ぶ。

「ケッ、命拾いしたなお前ら!まぁ次は本気(マジ)でブチ殺してやるからその首洗って待ってろぉぉぉ~~~ッ!?―――おまっ、マジで走る前に合図くらい出せやアホ鳥ーーーっ!!?」

―――グェアアアアアアアアァァァァァッ!

 三下の悪役のようだと自覚しながら、捨て台詞を吐く幸利だったが台詞の途中でクルルヤックが瓦礫をまき散らしながら走り出して舌を噛みそうになってしまう。
グリッド達は彼らを追おうとするが、人間の足で鳥竜種に追いつける筈もなく…
土埃を巻き上げて走り去る後ろ姿は次第に遠ざかって見えなくなる。

 制止の言葉すら遮られた愛子は、自分が殺されそうになった恐怖からまだ体が震えているものの、心の中では生徒達の誰も―――当然、幸利含め―――死ななかったことで安心していた。

「あれだけ傷を負いながら全力疾走…腐っても歴戦個体か。けど―――」

 一方で健啖の悪魔を仕留め、ようやくその場へと戻ってきたアゥータ。
彼はまだ見えている遠くで点となったクルルヤック達の姿を見つめて独り言を漏らしながら取り出した煙草を銜えて火をつけると、息を吸い込む前に一言だけ。

「――――――北に逃げてどうすんだよ。そっちは俺達(人間)の領域だぜ」

 数分後、追っ手を振り切れたと安堵した幸利も逃走ルートを間違えたことに気づく。
彼らが逃げた方角は、街道上に沿って進めばブルックの町に繋がる道であった。

 無論すぐにUターンして村を迂回する東のライセン大峡谷、西のハルツィナ樹海のルートで逃げることも出来るだろう。しかし怪我人を抱えた状態でハンターでもない少年が生き残れるか…等と考えていたアゥータは一人薄ら笑いを浮かべる。

(…まぁ、よそ者が死のうが生きようが…知ったこっちゃないがね)
「そんなことよりも…」

 滅茶苦茶になった村の惨状を改めて見渡してアゥータは目を伏せる。
色々あったが順調に村は発展していた。それが神の使徒なんて厄介者を受け入れた直後にこの有様だ。だから受け入れるべきじゃなかった…湧き上がる怒りをグッと腹の奥で堪える。
彼は向けようのない怒りの矛先を、紫煙に乗せて空へと吐き出す。
四方で聞こえていた騒ぎは徐々に減っていき、夜明けの空が顔を出し始めていた。



終息の夜明け

 

「…おいテメェ等…アイツはどうした?」

「シグ―――倒したよ…うん。…倒したと言っていいか分かんないけど…」

「はぁ?なんだそりゃ」

「なんか微妙な答えだね~…優等生のリーナらしくない」

 

 俺の人生最大級の絶叫から少し経って、集落の門が開いてシグ達が戻ってきた。

此処にイナガミと一緒に来た時は死ぬ寸前だった三人の傷は完全に治っているようだ。

 

…しかし俺も似たような経験をしてるとはいえ、重傷負ってた奴が数時間もしない内に全快して戻ってくる姿を見ると改めてハンターの化け物じみた生命力に驚かされる。

 

 シグの問いに言葉を濁すリーナよ…分かる、その気持ちよく分かるぞ…これを俺達が倒したと胸張って答えられるわけねえよな。倒そうとして召されちゃったもん。

 

 天寿を全うする数分あったかもしれない奴の寿命を俺達四人で総がかり―――此処に来る前もカウントするならシグ達三人も含めて計ハンター七人と、死ぬ前にアルテナの母親が射かけた一本の矢―――で縮めた程度だからな。

 

 立ったまま絶命しているイナガミの姿を見て三人はシア同様に「すわっ!?ゲリョスみたいに死んだフリか!?」と勘違いして身構えるも、俺達が既に武器を収めているのを見て首を傾げる。

質問の言葉が見つからないシグとラウラに代わってグランツが俺に問いかけた。

 

「…こいつ…立ったまま死んだのか?」

「―――教授曰く…こいつは老衰で死んだ…らしい」

 

「「「……huh?」」」

(うん、分かるそのリアクション数分前の俺達)

 

 ラウラは「え、えぇ~?いや…まぁモンスターだって自然の生き物…だし?そりゃあ寿命で死ぬことも、あるっちゃあるの…かなぁ。でも、古龍だし…もっとこう…えぇ?」と目の前の光景を疑っていた。…そうだな、古龍も自然の生き物だって再認識したよ俺も。

 

 グランツは俯き思考を回して答えを探していたようだが、やがて「…まぁ何でもいいか…倒せたなら。クエスト達成ってことで…うん」と悟りを開いた様子で空を見上げていた。……あぁ、そろそろ夜明けが近いんだな。

 

 そしてシグは案の定、納得がいかない様子で噴火直後の火山よろしく激怒する。

 

「ふっ~~~っざけんなよ!!老衰だぁ!?古龍が、災いの化身とまで言われるモンスター共の頂点が!んなバカみてぇな死に方していい筈がねえだろ!!なぁ…オイッ!!?」

 

「ひぇぇっ!?わ、私にそう言われましても…」

 

 シグの剣幕に驚いたシアがウサ耳をへにゃっと倒して怖がるのを見て、俺が代わりに答える。

 

「俺達にキレられても困る。納得いかないのは俺だって同じだ。…兎に角、これで騒動の原因は倒した。森も元通りになる―――そうですよね教授?」

 

 俺達が話をしている間に教授はせっせと剥ぎ取りに取り掛かろうとしていた。

…この状態のイナガミを剥ぎ取るのに、若干の抵抗感を覚えてしまうが…それで剥ぎ取らず放置しておくのはハンターの心構え的に辛い。それに結果はどうあれジンオウガ、イナガミとの戦いは俺自身がハンターとして成長する為の糧になったのだから、感謝して剥ぎ取らないとな。

 

「森が元通りになるか、それは断言出来ませんね。―――ですが、イナガミが倒れたことでモンスター達の活動が沈静化することは確実でしょう」

「そうですか…よかったなシア」

「はいっ!えへへっ…」

 

 では気を取り直して剥ぎ取りを…そう思った直後、背後から声が掛かる。

 

「――――――また貴様等に助けられたな」

 

 そう言いながらサッと木から下りてきたアルテナの母親。

彼女の姿を見て、以前のことを思い出したシアはビクッと肩を震わせて俺の背中に隠れてしまう。それを見て俺も少しだけ過去の事を思い出し、警戒しながらゆっくりと言葉を返す。

 

「礼ならアルテナとシアに言ってくれ。他の連中が反対する中、アンタの娘だけが俺達に助けてくれって懇願してきたんだ。そして俺が助けを呼んで此処に戻ってくるまでの間、シアはたった一人でこの集落を守った」

 

「……そうか……」

 

 彼女は肩越しに様子を窺うシアをじっと見つめている。

俺の話を聞いてもその口から感謝の言葉が出てくることはなく間を置いた理解の返事だけ。

…ちょっとだけムカついたが、それを察したシアが背中に手を置いて小声で囁く。

 

「…ハジメさん、気にしなくて大丈夫ですよ。私も気にしていませんから」

「そうか、分かった。――――――じゃあ俺からは改めて感謝を言わせてくれ。……たった一人でよく持ちこたえてくれたな。…シア、ありがとう」

 

 少々クサい言い回しかもしれないが、事実を述べて後輩の奮闘を称える。

シアの持ちこたえた数時間が無かったら集落は壊滅していた。イナガミとの戦いも、ひょっとしたら限界だった俺が命を落としていたかもしれない。

俺の言葉にシアはかぁっと頬を赤く染めてアタフタし始める。

 

「い、いえっそんな…お礼なんて…!私は大したことは―――」

「何言ってんだお前。初見で古龍を相手にドギツい一発かましてただろ。あんな豪快なハンマーの使い方、俺は見た事ないぞ。何だったんだアレは?」

 

「へっ?そ、そう言われると…何だったんでしょうね?私にも何がなんだか……あの時はただ相手の攻撃を避けつつ、攻撃も当てなきゃって頭がごっちゃになってて…」

 

 訓練中に叩きこまれる基礎の動きから逸脱した技……後で俺も試してみるか。

そんな事を考えながら、嬉しそうなシアに対して笑顔のまま言いたい事を続けて言う。

 

「―――じゃあ次は説教だな。お前、俺らが着く直前に命張って戦おうとしただろ?」

「う゛ぇ゛っ!?そ、それは…ええっと…私なりの最善の判断で…その―――!」

 

 最善の判断…そうかそうかお前はそういう事を言うんだな?

じゃあ俺も次から最善の判断で命を張る―――なんて言ったら優花に泣かれそうだからやめよう。

決して感情的にならず、怒鳴る事もせず、淡々とシアを詰めていく。

 

「無理をするなって言ったよな?俺の言った事をど忘れしてたのか?」

「……け、結果的に上手くいったから……っていうのはダメ…ですぅ?」

 

 そう言われるとこっちも言いづらくなるが、結果良ければ全て良しと俺は思わない。

今回は偶々上手くいっただけだ。もしまた似たようなことが起きて、同じ事をしても、同じ結果にはならない。だから…あまりこういう事は言いたくないんだが…仕方ないか。

 

「もしお前が死んだらカムさん達が悲しむぞ」

「うっ……それは……その……ごめんなさい」

 

「―――ハァ。分かれば宜しい…もうやるなよ」

「……はい」

 

 ちょっと甘い気もするが、いまの俺から言えることはこれくらいだ。

あとはシアの考え方次第、意識を根本から矯正させることは不可能に等しい。だから改善のきっかけとしては、今の俺が彼女に言った言葉くらいが丁度いいだろう。

 

 離れたところでラウラが「ひゅ~!ハジメ君ってばいつの間にあんな可愛い後輩ちゃんに先輩風吹かせる男になったのよ~?」と揶揄っているが…別に先輩風吹かしてねぇよキレるぞコラ。

 

 グランツはその隣で「うんうん命大事、そこだけはお前に同意だわ」って頷いてるけど…お前の横で未だにイナガミの死に納得いってないシグにそれを言ってやれよ。そいつこそ放っておいたら勝てない相手にも挑もうとする真性の死に急ぎ野郎だぞ。

 

 するとリーナが俺達の肩をトントンと叩く。

振り返って彼女の促す視線の先には、淡々と剥ぎ取りをしている教授の姿。

 

(……あっヤベェ、剥ぎ取りのことすっかり後回しにしてた!?)

 

「教授っすいません!話すのに夢中で俺――――――」

「わ、私も剥ぎ取りしますぅ!」

 

「構いませんよ。可愛い後輩達の成長を見守るのは先達としての密かな楽しみですから。――――――それに皆さんが話している間、少しだけ面白いことが判明しました」

「……面白いこと?」

 

 リーナが疑問符で聞き返すと、教授はイナガミの股に潜って腹を指差す。

促されて覗き込んだ腹の部分には今まで気づかなかった大きな傷跡があった。それは狩りの最中につけられた傷ではない、大型のモンスターによってつけられた噛み痕だった。

 

「教授、これは…」

「この顎のサイズ…ギルドに記録されているどの種類にも該当しません。――――――しかし傷をつけられた()()()()()()()()()()に、とてもよく似ていますね」

 

 その言葉を聞いて全員が驚愕で目を見開く。

マジか…信じたくはないが、その言葉だけで大体のハンターが同じ結論に至る。

 

「そ、それは…つまり?」

「別のイナガミがいるって事ですか!?」

「恐らく。このイナガミは別の個体と何らかの理由で争い、そして敗れた後に、新しい生息域を見つけようとして私達の前に姿を現したのかもしれませんね。傷の具合と森の異変が、ここ数日の間の出来事だと仮定するなら辻褄は合います」

 

…なんてこった…じゃあ、この老いたイナガミより更に強いイナガミが存在するってのか!?

もし、それが事実だとするなら…そいつがまた襲いに来たりする可能性も―――

 

「いいえ、恐らくその可能性は低いでしょうハジメ君」

「っ!?な、なんで―――」

(またナチュラルに俺の思考読まれてない?)

 

「捕食が目的なら弱った時点で相手を追い詰めるでしょう。ですがこのイナガミは数日間、襲われることなく生き延びた。私達と戦っている最中も乱入の気配がなかった。―――とするならば争いの理由は縄張り争いか、番いの取り合い、個の強さを誇示する為の競争といったところですか」

 

 縄張り争いに勝ったのなら、その勝者がわざわざ逃げ出した敗者を追い打ちする理由は皆無。

番いの奪い合いなら、勝者は今頃勝ち取った番いとの交尾でそれどころじゃないだろう。

個の強さを誇示する…勝敗がハッキリした相手に何度も挑むような低い知能の持ち主ではない。

有力なのは一番目か二番目ってところだな…確かめる術はないが。

 

「…ひとまず脅威は去ったと見ていいですか?」

「えぇ」

 

 それを聞いて殆ど全員が安堵する中、シグただ一人だけが不満そうにしていた。

…どうせそっちの強い個体を狩るとか言いたかったんだろうけど、お前はそいつに負けた天寿を迎える寸前の個体に手も足も出ないままやられてたんだろうが。

 

「―――それじゃあ改めて剥ぎ取りを「ハジメ様~っ!」グェ―――ッ!?」

「あ、アルテナさん!?」

 

 集落の方から誰か近づいてくるなとは足音で気づいていたが、急に走り出して飛び掛かってきたアルテナのタックルにバランスを崩してその場に倒れ込む。

驚いたシアの横で剥ぎ取りをしながらリーナが「またライバル出現ね~シアちゃん」と呆れた様子で呟いているが…なんのライバルだよ?

 

「………へっ」

 

―――おいアッシュ。アルテナと一緒に来て早々に何だその意味深な笑いは!?

 

ハルツィナ樹海で獲得した素材一覧

雷狼竜の甲殻、雷狼竜の帯電毛、雷狼竜の角、雷狼竜の爪、雷狼竜の尻尾、雷狼竜の蓄電殻、雷狼竜の逆鱗、超電雷光虫、雅翁龍の皮、雅翁龍の毛、雅翁龍の鱗、雅翁龍の尻尾、古龍の血、英雄の証、風化したお守り、堅鎧玉

 




 先週始まったモンスターハンター・ワイルズがとりあえず上位突入まで一区切りがついたので…ネタバレしない程度に一言…こっちで使いたい設定が多過ぎる…!
あと太刀のモーションが早すぎて操作についていけてない…
執筆しながら気長にフロンティア産モンスターの参戦を待ちますわ。

本編最後の方、管理が大変になりそうだったのでハジメの素材は獲得した物だけで数の明記はしないようにします…(一々ダイスロール回して決めるのが面倒くs…手間がかかってしまうので)

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。

立ち直ったついでに…

  • 本編の更新を鬼人化汁
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