ハジメが村に帰ってきた話は一時間も掛からず広まった。
村に住む者達は村を豊かにしてくれた恩人の思ったより早い帰還に驚く。
噂を聞きつけて村の外から来た者達は若き狩人の卵に期待の眼差しを向ける。
集会所の酒場でクエストの達成報告を終えたアッシュ達は休憩していた。
彼らの視線の先には熱心に
この村に来る前から3人も噂を耳にしていた。
「あいつ、訓練生時代から変わった奴だとは思っていたが…予想の斜め上をいきやがったな」
「まさか私達の同期が古龍討伐に参加していたなんてね~。まぁこの短期間で上位昇格まで上り詰めた私達も人のこと言えないんだけどさ~」
「本当にハジメさんもリーナさん達も凄い人です。初めて会った時からずっと―――」
因みにリーナとアッシュ、2人のクエストクリア回数は
しかもリーナ達の代は
これにハジメが加われば、同世代から8人の上位ハンターが排出されるだろう。
「その内、俺らの代から次の例外に選ばれる奴が出たりしてな?」
「ありそうねえ~…なんだったらハジメ君は条件だけなら満たしてると思うけど…」
「…それでも、ハジメさんはなんだかんだ理由つけて例外にはならないかもしれません」
「分かってるねえシア~。ハジメ君も遠慮せずに称号だけ貰っちゃえばいいのにね~」
そうこうして3人が話していると、ギルドマネージャーと話を終えたハジメ達が出てきた。
リーナが立ち上がって声を掛けようとしたが、先にルゥムが集会所の外へ出てしまう。
「あれっ?あの人、ここで泊っていかないのかな…」
「つうか今、村の外に出ても関所で門前払いを食らっちまうだろ」
「そこは例外だし大丈夫なんじゃない?多分だけど帝国もギルド最強戦力を辺境に3人も置くのは非効率的だって思ってるし」
「…どうして非効率なんですか?」
「そりゃシアお前、例外ってのは1人居るだけでその周辺地域のモンスターを狩り尽くせるような化けもの連中だからな。ギルドとしては各地の…特にモンスター被害が増えてる公国側を重点的に例外のハンターを配置しようって考えてんのさ」
「公国…ですか?」
「そういやシアは帝国の外はあまり詳しくないんだっけ?面白いところだよアンカジ公国は。国土の大半が砂漠に覆われてる年中猛暑の国!ハンターでも滅多に足を踏み入れない砂の海を北に進めばグリューエン火山が、東にいけば公国の首都を挿んで海上都市エリセンがあるの!」
「ね、年中暑いんですか…ちょっと怖いですね」
余談だが亜人族の基礎体温は人間より高めである。
身体を構成する物質の殆どは同じでも、筋肉や骨の造りが違う。
故にシアは戦いに不慣れだったが、ハンターになれる資格を得た。
抵抗感はまだ残っているが生き物を殺す感覚にも徐々に慣れてきている。
「あ、ハジメ君どこか行くみたい」
「えっ!?」
リーナの声に反応してピクッとウサ耳を立てたシアが彼を探す。
集会所の受付嬢に羊皮紙の巻物を渡して、集会所を出ようとしている。
教授は反対に集会所二階へ上がる階段に向かい、アレーティアはハジメについていった。
ハジメの後を追いたいシアがそわそわしているのを見てリーナがニヤリと笑う。
「シア、報酬の山分けも終わったし。ハジメ君の方に行っていいよ~?」
「そ、そんな…でも次のクエストの準備とかやる事が…」
「気にするなシア、まだ次は決めてない。決まったら声をかけるさ」
「…了解ですぅっ!ありがとう御座いました!」
スッと席を立ってから、アイアンハンマーLv2を背負ったシアは2人に頭を下げる。
レザーヘルムにすぽっとウサ耳を通して、そそくさとハジメ達の後を追う。
それを見守るリーナが優しい目で見つめているのを横にアッシュがぽつりと呟いた。
「…早くお前も会えるといいな」
「…うん…もう少し、頑張ったら…会いに行くつもり」
「は、ハジメさーん!待ってくださいぃ~!」
「…シア?」
伝書鳥をウルに向けて飛ばすことが出来た俺はアレーティアを伴って集会所を出る。
一度マイハウスへ向かおうと思っていたが、予定を早めて鍛冶屋にいる師匠のところへ挨拶しにいくついでに集まった素材で武器を作る事にした。
そこへ後ろからシアに声を掛けられて立ち止まる。
…そうだ、後で時間があったら話そうってリーナ達に伝えてたな…
「悪いなシア、俺はこれから鍛冶屋に向かうつもりなんだ。話はもう少し後で」
「だ、大丈夫ですぅ!私も、鍛冶屋に用があったので!」
「?そうか…なら一緒に行くか?」
「…はいっ!」
シアの後ろで意味深な笑顔を浮かべているリーナ達に手を振られた。
あいつ等が何を考えてるのか予想はつくけど、聞いてもはぐらかされるだろうな。
歩き出した俺の右隣りにシアが、左隣にアレーティアが並んで歩く。
絵面だけ見れば両手に花だが…こういう経験がないから、変に落ち着かない。
すると俺を挟んでアレーティアの方からシアに話しかけた。
「…シア…ハジメとはどういう関係?」
「は、はい?どういうって―――」
「ハジメの恋人?」
(――――――ッ!?)
アレーティアの思いもよらぬ問いかけに心臓がドクンと大きく跳ねた。
でも動揺するとそれをネタに弄られると思って俺は表向き平静を装う。
一方で質問された当の本人、シアは顔を真っ赤にして慌てふためいている。
「ひぇっ!?そ、それは…いえ、恋人という訳ではなく…ぅぅ」
(…シア、そこで俺に助けを求めるのは止めて欲しかったな…)
シアが困った顔で上目遣いに俺を見て、アレーティアの視線も俺に移る。
ただ一言「違う」と答えればいいのに、俺は咄嗟に言い訳をしてしまった。
「シアは立場上俺の後輩だよ。…と言ってもハンターになってから一度も顔を合わせてなかったから、シアがどう思っているかは分からないけどな」
「…えっ!?………そ、そうですよね!後輩、そう後輩ですぅ!……ぅ~」
…なんかシアのウサ耳が垂れて顔が下の方を向いているんだが…あからさまに期待していた返事が出なくて私落ち込んでますオーラが漂っている。
しかもそれを遠目に見ていた兎人族達から物凄い形相で見つめられた。
…そんな目で見られてもな…事実だし、それに万が一なんてことあり得ないだろ。
「…ふぅん…ただの後輩なんだ?」
「…ぅぅ~」
「アレーティア、あまり揶揄うなよ。シアもそこは胸を張ってただの後輩だと言い切ってくれ」
「…ハジメ、やっぱり朴念仁」
「…ただの後輩じゃ、ないですぅ…」
俺の言ったことの何が不満なのか両サイドから小声で不満そうな声が聞こえる。
朴念仁と言われるのは心外だが、シアのただの後輩じゃないなら俺にとっての何なんだ…?
そんな事を話している内に懐かしい鍛冶屋の建物の前まで来た。
前見た時より煙突から濃い煙が出ている…村を出て一、二週間しか経っていない筈なのにこの建物の前に立つと懐かしいと思ってしまう。
「師匠!」
「おう、待ってたぜハジメ」
入り口を通ってすぐに紅蓮の炎を内で滾らせる炉の前に立つヘファイさんに目がいった。
普通の人なら嫌がる鉄錆と油、焦げ臭い鍛冶屋独特の空気が俺は好きだ。
胸いっぱいに空気を吸い込みながら作業を止めたヘファイさんに話しかける。
「今日は師匠に
「鑑定して欲しいものだぁ?どれ、アイテムボックスから取り出して見せてみな」
師匠が指さす方に視線を移すと、見慣れたアイテムボックスがあった。
青色の巨大な箱の中身はドラえもんの四次元ポケットのように沢山のものが入る。
けれど、ギルドの承認がないと設置されないアイテムボックスがどうして此処に?
俺が疑問の表情を浮かべると師匠はへっと笑って答えてくれた。
「この村も最近は外のハンターが樹海入りで滞在するようになってな?村に新しい工房を構えるんじゃ費用が掛かるからってんでギルドの方から此処にアイテムボックスを置かせてくれとさ」
「ギルドの方からお願いされたんですか?」
「おうよ。ついでにギルド公認でハンターの装備品も弄る許可が降りてなぁ、まったく…俺はもう若くねぇってのに、コキ使われる日が来ようたぁ鍛冶屋冥利に尽きるってもんだ」
「凄い…凄いですよ師匠!」
「…ハジメよぉ、その師匠ってのはやめろや…後、さっさと物を出しやがれ!」
師匠の怒鳴り声に初めて会うアレーティアはビクン!と驚いて肩を竦ませる。
一方でシアは大分慣れてきたのか「たはは~相変わらずですね~」と朗らかに笑っていた。
師匠に怒鳴られるのも懐かしくて、俺はほんの少し笑みを浮かべながらアイテムボックスを漁る。
俺が想像していた通り、オルクス大迷宮で集めてきた素材はアイテムボックスから出てきた。
教授の仮説にすぎなかった宝物庫の指輪とアイテムボックスは同じ概念を持つアーティファクト。しれっとその仮説が正しいことをこの場で証明したのだが、それに気づいてるのは教授からその話を聞いた俺とアレーティアだけ。
両手で抱えた目的の物をカウンターテーブルの上に置いた。
”太古の塊”2個 ”なぞのお守り”1個 ”光るお守り”2個 ”古びたお守り”1個
シアはお守りのことは知っていても太古の塊を初めて見たのかキョトン顔で首を傾げる。
「…?ヘファイさん、これなんですか?」
「こいつぁ太古の塊っつー大昔のハンターが使ってた武器が風化して出来た代物だ。俺ら鍛冶職人なら鑑定して元はどんな武器だったのか分かるのさ」
「大昔のハンターが使ってた武器!?そ、そんなものが―――」
「ただ鑑定したんじゃ使い物にゃならねえだろうな。けど、太古の塊から出来る武器には稀に今の技術じゃ一から作ることの出来ねえ失われた系統の武器が含まれてる事があるんだよ」
「…なんだかアーティファクトみたいですね」
「かもな。まぁ、何が出てくるかは鑑定してからのお楽しみって奴だ」
言うや否や、師匠はこれまで炉の前で槌を振るう時とは違う、指の細やかな動かし方で太古の塊を手に持って角度を変えて見たり表面を軽く擦ったりしてその正体を露わにする。
鑑定の途中で表面の錆や凝固した土が取れて、その武器の姿が露わになった。
刃の大きさは片手剣のそれと変わらず、柄や鍔に余計な装飾は施されていない。
シアも隣で「あっ!」と分かったように声を上げる。
「こいつは大昔からある鉱石系の双剣”ツインダガー”だな」
双剣は移動に優れ、属性攻撃力が他の近接武器に比べて高いのが特徴だ。
長所が似ている片手剣から盾で守るというメリットを失った代わりに、攻撃の回数を増やして素早く移動できる他、双剣の適性を見出された者が発動出来る”鬼人化”で更に身のこなしが軽くなる。
俺も適性はあって訓練所で使ったことは何度かあるが、実戦ではまだ一度も使っていない。
ふと脳裏に大迷宮で得た経験から次に自分が何を努力するかを思いつく。
(…ガンナーとしての立ち回りはある程度覚えた。だが近接武器を使う仲間の動きを見て慣れるより、自分で使った感覚を身体に馴染ませれば自然と連携に活かせるんじゃないか…?)
大迷宮ではヘビィガンナーとして後ろから仲間に誤射しない事を大前提として、牽制と陽動を主体にした立ち回りでルゥムと教授に前衛を張ってもらった。
一つの武器種を極めるより前に、全ての武器を十全に使いこなす方がいいかもしれない。
「師しょ―――ヘファイさん、後でツインダガーの強化先を調べて貰えますか?」
「おうよ。んじゃ残り鑑定を手早く済ませちまうかぁ!」
「はいっお願いします!」
太古の塊はあと1つ、最初に鑑定した物よりこっちは一回り大きかった。
再び鑑定を無言で待つ間、ふと師匠が背を向けながらアレーティアに話しかける。
「そっちのちっこいのは初めて見る顔だな?お前さんと一緒に来たみたいだが…」
「…アレーティア、それが私の名前…」
「ほおん…随分と良い名前だな。どこかの貴族様かい?」
「…確かに昔は偉い身分…だった。でも…今は違う」
「そうかい。ま、なんでもいいさ…ゆっくりしていきな」
「ん…そうさせて貰う」
ヘファイさんはアレーティアが自分より年上だなんて思ってもいないんだろう。
けど見た目からは想像もできない大人びた喋り方に、何となく訳ありというのは察している。
お互いに口数が少ないというのもあってまた無言の間が流れた。
「よし、鑑定出来た。…けど、こいつぁ…なんて言えばいいんだ」
「――――――これ、は何ですかね?」
「名前付けるンなら”凄く風化した大剣”ってぇところか…」
「…これ、使えるんでしょうか?」
相手がモンスターかそれ以外かで質問の答えは変わってくるぞシア。
モンスター以外に使うことなんてあり得ないしな。んな事したらハンター辞めさせられちまう。
ただもしもを前提に考えるなら人相手なら普通に使えるだろうな。
斬ることを目的とせず、叩きつぶすハンマーみたいな運用になるけど。
「切れ味は最低値の真っ赤、会心率も無いどころか最悪マイナス補正が掛かるだろうよ。こんなもん使うくらいなら工房で売られてる一般武器のがマシだと思うぜ俺ぁ」
「…ただのなまくら?」
アレーティアの言う通り、これは
何らかの強固な鉱石が素材に使われているから、人程度なら重さも相まって軽く殺せるだろう。
だがこれでモンスターを倒せと言われたら、正直アプトノスでも刃が肉の奥まで届くか怪しい。
「…磨けばまともな形に戻せるんじゃねえか?どんだけ素材が要るのかは分からねえけどよ」
「…これは別の機会で強化します…」
「それがいいな…それじゃ気を取り直してお守りの鑑定いくぜ…」
「お願いします」
お守りを鑑定することで、スキルが付与された護石が出来る。
以前はルゥムから貰った護石を一生大事に使おうと思っていたハジメだが、今後使う武器によっては付与されたスキルが合わない事も考えて、あの護石自体はプレゼントされたものとして大事に保管する一方で、使うものは最適なものを選ぼうと決めた。
太古の塊と違って、特殊な工具を用いて中に秘められた力を調べるのがお守りの鑑定だ。
淡く白い光を放つ謎のお守り、一段階強い黄金色の光を放つ光るお守り、そして光の強さは光るお守りと大差ないが光の色が真っ赤な古びたお守り。
全てを調べ終えたヘファイさんがふぅーと息をついて椅子に腰かける。
「…どうでしたか?」
「ん、俺ぁハンターじゃねえからアタリかハズレかは分からねえけど…とりあえずこんなもんだ」
そう言ってヘファイさんは羊皮紙に護石一つ一つの名称と効果を書き出してくれた。
・謎のお守り→闘士の護石(採取+4)空きスロット:0
・光るお守り→騎士の護石(砲術+3)空きスロット:2
城塞の護石(榴弾追加+1,採取-7)空きスロット:3
・古びたお守り→女王の護石(スタミナ+2,属性攻撃+2)空きスロット:3
…確かにこれはアタリかハズレか、駆け出しの俺には判断し辛いな…
後でアゥータさんか教授辺りにでも聞いてみるか…なんか馬鹿にされそうな気もするけど。
空きスロットがあるのは便利だし、最悪の場合は装飾品で防具のスキルを活かす方を取るか。
「これで鑑定は終わりだ。そんじゃ本命の方に移るか?」
「…ですね。正直、こっちを楽しみにしてました…!」
ニヤリと笑ったヘファイさんがカウンターに広げたのは開発可能な武器と防具の設計図。
護石と二つの武器を一旦アイテムボックスへしまって、俺はさっと一覧を眺める。
大迷宮で山ほど集めた素材で、俺はやっと駆け出し装備からオサラバ出来るんだ…!
「…ハジメさん、物凄くテンション上がってますね…」
「…ハジメはああいう所があるから可愛い…」
「それは…私もアレーティアさんに同意見です~」
「ん、シアとは仲良くなれそう…宜しく」
あーあーあー!後ろでなんか言ってるけど聞こえなーい。可愛いとか言われても嬉しくなーい!
ヘファイさんに持っている素材と数を一つ一つ確認しながら、新装備の生産に取り掛かった。
タイトルで次に使う武器をバラしていくスタイル。
因みに防具表記とかスキル構成は例の如くご都合主義でごっちゃになってます。
(スキルに関しては掘る方のお守りは過去作のスキルポイントで発動、防具だけ共通でワールド~ライズのLv発動に変えました)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。