―――あいつらは余所者だ、今すぐこの村から追い出せ。
(そうしてぇけどな…この村の人達はあいつらを受け入れてンだ。今更出来ねえよ)
たった一つ無事だった見張り台の上、雨の中でも荒れた村を元に戻そうと働く村人達を眺め、独りで吸う煙草は格別に不味かった。
ジジイと怒鳴り合ったのは久しぶりだ。
そもそも村でのんびり暮らしていた時は怒鳴るような出来事が一切なかった。
全てが狂い始めたのは、ルゥムがあいつを拾ってきてからだ。
その事でルゥムを責めたりはしない。
あの人と共に過ごした日々を思い出せば、あんなことをしたのも納得がいく。
困っている人がいたら、助けるのが当たり前。
あの人の口癖だったか……終ぞ俺には理解し難い精神だったよ。
姐さんも恐らく俺と同じだった。
あの人は俺以上に、他人というものを一切受け入れようとしない。目に映るものはヒトであれモンスターであれ、害をなす敵と見なせばあの人は即殺そうとする。
今だってそうだ。再会した時に見たあの顔は―――
なんで姐さんがそんな事をしているのか、その原因がなんだったのか俺は恐らく知っている。
だけどそれは俺にとって思い出したくない後悔の時を思い出させる。故に知っていながら、知らないフリをして姐さんの作り笑いに言及しなかった。
あの人と俺の縁は、ハンターとしての仲間
―――
(……そうだな。そう、かもしれねえな)
眼下で動く無数の人、人、人……その中で一人だけ異なる行動を取っている奴が目についた。
そいつはついさっき俺が殴った相手だ。
防具越しに顔は見えねえが、歩き方で落ち込んでいるのが丸わかりだ。
あの時は怒りに任せて責任の全てをあいつに押し付けちまった。
―――あいつが悪いんだろ!?勝手にルールを破って、村の皆に迷惑を―――
(あぁ、そうだ。あいつがそもそもこの村に来なきゃこんな事には…)
そう自分に対して言い聞かせようとして…ふと、ある光景が目に留まった。
村での生活に慣れ始めた兎人族が、率先して瓦礫の撤去や死体の片づけを行っている。
(…だけど…クソッ…)
来たばかりの頃は生き物を殺す行為に慣れておらず、草花をうっかり踏んだだけでオロオロしていた彼らが、今はそんな事も気にせず一生懸命に仕事をしていた。
彼らが村に来るきっかけを作ったのもあいつだった。
その時も内心穏やかではなかったが…
(……結果的に村は大きく発展した)
―――そんなのは結果論に過ぎない!
(……あ~畜生。認めたくねえけど、実際村が豊かになったのは……)
―――余所者は敵だ、あいつも、あいつも、あいつ―――
「フーッ……うるせえよ」
自分の中で騒ぎ立てる悪意の訴えを、吐き出した煙と一緒に掻き消す。
見張り台から飛び降りて、近くのアイテムボックスから愛用の装備一式で全身を包む。
あいつの駆け出した後を追って、雨の中を走り出した。
「ど阿呆、村から出るなって…どうせテメェも言われてんだろうがよ」
ジジイの家に突如現れた黒い衣の三人組。
皇女の影が接触したのは恐らく俺達と樹海の一件に関わった全員。
この騒ぎの中心にあいつがいると、皇女が知ることは避けられない。
(あくまで村の為だ……)
そうこうして湿地帯に着いたあいつを追っていると、懐かしい奴を見つけた。
鎧竜グラビモスね…ディノバルドほど素早くはないが、一撃の威力はヘビー級だ。
「…ってアイツ真正面から挑む気かよ」
なんともまぁ…初々しい戦い方をするもんだ…等と思っていたが、途中からあいつの動きが妙なことに気がついて笑みが消える。
突進をステップで回避する…それ自体はおかしなことじゃない。
だがあいつの技量でそれが成功することは奇跡に等しい…それはあいつ自身も分かってる筈だ。それなのにあいつは何故あんな無謀なことをしたのか…まるで
戦っている背中から死線のギリギリを楽しんでいるかのような危うさが伝わった。
(チッ…あのバカ…俺に殴られたくらいでどんだけ精神参ってやがんだ?)
言葉はキツかったかもしれないが、いくらなんでもアレは馬鹿としか言いようがない。
あんなギリギリな戦い方を続けていたら、間違いなくどこかで命を落とす。
「説教臭いのは嫌いなんだけどな…」
俺は誰かにものを教えるのが得意じゃない。
俺だってまだまだ半人前だ――――――あの人に…隊長に、まだ認められてないからな。
「………」
「…ぅっ、あっ…」
声を掛けられて振り返っても、言葉に詰まって黙ったまま俯くことしか出来なかった。
この人に、どんな顔をして話せばいいか分からない。
ただ…もしかしたら…村の作業を手伝わずに出ていったことを咎めに来たのかもしれない。
そう思って頭を下げようとしたら、アゥータさんは煙草を銜えた指で背後のグラビモスを指した。
「お前がそいつと戦ってた時の立ち回り…見物させて貰ったが…ありゃ何だ?運良く当たらなかったからと突進をステップで躱した癖に、避けられる筈のガス攻撃を受けて、傷を負ったまま攻撃…駆け出しで、んなバカみてえなことやってたら…死ぬぞお前」
「っ…す、すいませんでした!」
思わず謝ってしまった、それが更に事態を悪化させる言葉だった。
「何の謝罪だ?」
「えっ―――」
「何に対しての謝罪かって聞いてんだハジメ」
「…そっ…それは…不甲斐ない狩りを見て…その…アゥータさんが不快になったのかと思いまして…」
「不快?俺がなんで不快に思わなきゃいけねえんだ?俺は別に怒ってるわけじゃねえぞ」
怒っていない…そう聞いて少し肩の緊張が解れた直後…
「―――ま、お前の戦い方を見て
「ッ!…すいませ―――」
「反射的に謝るな。…お前、村が襲われたことは全部自分のせいだとでも思ってんのか?」
「…それは…そう、だと思ってます。全ては…俺が村に運ばれてきたことが始まりでしたから…」
こんな事、本当はこの人に言うべきじゃないと思っていたが殴られた時のことを思い出して反射的に本心で答えてしまった。
「…俺が村に運ばれず、荒野で野垂れ死んでいれば村は―――」
―――魔人族に襲われることなく、村の人達は平和に過ごせていたかもしれない。
その「かもしれない未来」を今更口にしたところで何の意味もないことくらい分かっている。
アゥータさんは少し目元に皺を寄せて俺を睨んでいたが、俺はすぐに目を逸らした。
「―――そうだな、お前が死んでればよかったと思う時が俺にもある」
「………」
改めて言われると、胸の奥がズキリと痛むが…この人の言ってることは間違ってない。
俺が胸に受けた痛みなんて、この人と村の人達が受けた被害に比べれば大したものじゃない。
だが、次に出てくる言葉で俺は思わず驚きの声を漏らした。
「―――だけどなハジメ、それは過ぎたことだ。今更どんな御託を並べようがお前が村の一員になった事実は消せねえし、村の人達はお前らを受け入れ始めてる。その時点で敵対する奴らに狙われることくらい、俺もある程度は想定してたよ」
雨がよりいっそう激しく降り注ぐ。
この様子だと村の方の作業も中断せざるを得ないだろう。
だが今はそれよりも予想もしなかったアゥータさんの言葉に驚かされる。
「えっ…」
「その想定を上回るタイミングで襲ってきたから対応は後手に回っちまったがな、結果的に村が壊れるだけで済んだのは幸運か…或いはそれがあのクソガキの狙いか…」
話している声色に、殴られた時のような刺々しい雰囲気を感じなかった。
恐る恐る顔を見てみると、アゥータさんは煙草を銜えながら頭上の雲を眺めている。
「…ま、とにかくお前は一旦村に戻れ。命令だ」
「はい。その……す――――――」
「二度…同じことを言わせんなよハジメ」
「…はい」
こうして俺は魔人族の探索を打ち切ることになった。
後になって聞いた話だが、幸利達はこっち側から来たにも関わらず逃げた方向は真逆だったらしい。
…つまりあいつはまだ…帝国の何処かに潜んでる……なら俺が―――
―――俺に、何が出来るんだ?
不意に握り締めた拳を、幸利にぶつける自分の姿が想像出来なかった。
憎くて、許せない…そう思いながらも…友達を殴りたくない。
相反する感情に挟まれて、疲労から来るものとは別の気持ち悪さがこみ上げていた。
(……いいや、ダメだ。こんなところで俺は立ち止まる訳にはいかねえ)
自分の悩みよりも先に、心配な人がいる。
村が見えてきたと同時に俺はアゥータさんからその人がまだ村長の家にいることを聞いた。
…それを訪ねた時、彼が苦虫を嚙み潰したような顔をした理由は分からなかったが…
書いててふと思った。
みんな病み過ぎじゃない…?雨の日は憂鬱ってレベルじゃねえぞ!?
(…まぁ彼らと比較にならないレベルで病んでる人がおりますが…)
多分、白崎さんだけは雨に濡れながら元気に治癒してるんだろうな…
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
立ち直ったついでに…
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本編の更新を鬼人化汁
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もっと投稿作品の数を増やして追い込め
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いっそリメイク
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イラストはどうした?