Vtuber界を駆け上がりたい   作:インスタント脳味噌汁大好き

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この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地と、その名前は架空のものであり、土地、名前、人物、または過去の人物、商品、法人とのいかなる類似あるいは一致も、全くの偶然であり意図しないものです。


プロローグ 何かが変わった世界で

ある日、朝起きたら世界が変わった。そんな気がした。

 

別に、外が中世ヨーロッパみたいな街並みになったわけではない。日本語が通じなくなったわけでもない。1Kの狭いアパートであることは変わらないし、蛇口を捻れば水が出る。バイト先のコンビニの位置も、店長も変わらなかった。

 

ただバイトの面々の半分ぐらいは入れ替わっており、客層もいつもとは違った。しかしレジの仕組みやマニュアルは一切変わっておらず、バイト作業自体は特に変わりなく無難に終える。

 

家に帰って貞操逆転世界に来たかと期待したが、そんなはずもない。だけどいつものネットサーフィンを始めたところで、世界の変化を理解した。むしろ、なぜ半日も気付かなかったのかが理解できない。

 

「自分の知っているアニメ群が軒並み知らない何かになっている」

 

気づいてしまえば簡単だった。あまりにも差異の少ない異世界転移。それを経験したことになるのだろうか?あらゆるアニメが知らない何かに置き換わっている。正直、自分の精神状態がおかしくなったのかとすら思った。

 

ぶっちゃけわりと望んでいた異世界転生。だけどこんな形で実現するとは思ってなかった。自身のステータスは何も変わらず、世界がよりハードになったとしか思えない。何せ、昨日まで追いかけていたアニメが全部途中でぶつ切りになったわけだからな。とても辛い。

 

アニメが全部入れ替わったということは、また面白いアニメに出会えるということでもあるけど……。

 

ここで気づいたのは、アニメの題名での検索でヒットがなければそのアニメの原作となる漫画やライトノベルはないということ。だとすると、そのライトノベルの執筆や漫画を描くことで有名になるのでは?というものだ。しかし小説の文章を丸々覚えているわけではないし、漫画なんて描いたこともない。

 

ストーリーの面白さだけで、小説や漫画では有名にはなれないだろう。ストーリーが面白いのが特徴という小説や漫画は、大半は他の要素も十分に揃っている。書き写せる状態じゃないため、再現はとても難しい。正直に言って、最初はこの世界に来た恩恵を感じずにいた。

 

しかし翌日になってあることに気づいた自分は、バイトを休んで検索に没頭する。その結果、自身の知っているアニメソングが極めて少なくなっていることがわかった。

 

自分は、オタク趣味に没頭している最中、ボカロでの作曲に手を出していた経験がある。アニソンを耳コピする程度は可能であり、そしてそれを自分は、オリジナル曲として世に出すことが可能だと理解する程度の頭がある。

 

……この行動は、いつか破綻するかもしれない。しかしながら自分は元の世界でも底辺であり、この世界に切り替わってからさらに生き辛くなった。元の世界のアニメを語らう仲間が、もはやネット上にもいない。その孤独感はとてつもないものだと感じている。友人もまあ、この世界にもいないだろうしな。

 

いや、これはもうただの言い訳だ。元の世界のアニメソングにはとても素晴らしい曲が幾つもあった。それらを全て自分のものに出来てしまう可能性がある。その可能性に抗える人間は、相当出来た人間なのだろう。自分は到底抗えそうにない。

 

悪魔の誘惑だった。上手く行けば、この極貧生活から抜け出せるかもしれない。ずっと自分は、何も取り柄がない人間だと思っていた。しかしながら、アニメの知識であればそれなりにある。当然それに付随するアニメソングについて、自分の頭の中には色んな曲が入っていた。

 

そもそも、歌は一度覚えると忘れ辛い。これを利用して重要な単語を歌にして覚えるような手法もあるし、語呂合わせもその一種だろう。……少なくとも今から歌詞だけでもパソコンに保存していけば、近いうちに役立つかもしれない。

 

いや、きっと役に立つ。もう既に自分は、この世界でも購入していたボカロに歌詞と曲を入力していた。アニメが前の世界と違うからか、この世界ではアニメブームの回数が少ない。アニメの影響を受けていたであろうボカロ曲も、結構な割合が知らない曲に置き換わっていた。

 

オタクコンテンツ自体が、若干遅れていると言えるのかな。その差異はきっと、自分が利用できるものだ。ここで停滞を選択したら、恐らく自分はいつも以上に後悔することになる。自分に振って湧いた過去最大級のチャンスを、絶対に物にして見せる。

 

……しかし本当に自分は、異世界に来たのだろうか。何度見返しても知っているものがないという光景は、寒気すら感じる。自分の頭がおかしくなってしまったかどうかは、今は確かめようがないからどうしようもないな。

 


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