Vtuber界を駆け上がりたい   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第1話 借り物の力

下調べをし、準備に没頭するためにバイトを休んだ日の翌日。自分はTwitterのアカウントを作成した。その名前は一晩考えた結果、一見無難な名前にする。

 

藤堂 立冬(とうどう りっとう)

 

それは前の世界では非常に人気だったアニメ・ソシャゲの主人公の名前であり、もしもこの世界にもそのソシャゲが存在するのであればすぐに突っ込みが入る名前。もちろんアニメキャラの名前を使用するだけであればそこまで問題視されないだろうけど、もしも前の世界でこの名前を使用しつつ「Vtuber始めます」なんてツイートをすればすぐにアカウントが凍結されるような事態となるはず。

 

Twitterアカウント凍結RTAとかをするのであれば、最適解かもしれない。そしてTwitterのアカウントを作成後、初めてのツイートは「Vtuber始めます」の一言だけにする。

 

アニメの文化の発展が遅れている影響もあるのか、前の世界ほどVtuber界隈に勢いが感じられないし、歴史も浅い。ただのボカロPとして活動するよりも、こちらの方がより大きくなれるチャンスがあると自分は考えた。

 

というか降って湧いたこのチート、せっかくの機会なのだから遊ばない手はない。どうせなら最速でVtuber界を駆け上がって、頂点を極めてみたい。

 

そして早速、ボカロ曲をYouTubeに投稿する。心臓はもう痛いぐらいにドキドキしている。通らない未来も、通ってしまう未来も、どちらも自分にとっては得難い経験になるだろう。軽く深呼吸して、目を閉じて投稿ボタンをクリックした。

 

曲名は「夏の夜空防衛隊」。前の世界ではニコニコ動画で1000万再生を超えたボカロ曲だったが、この世界ではその曲を世に送り出したボカロP自体が存在しない。ということは、もしかしたら簡単に乗っ取れるかもしれないというわけだ。

 

しかし残念なことに、爆発的な伸び方はしない。そもそも活動初日の無名Vtuber。投稿したオリジナル曲が再生されることすら稀だ。藤堂立冬としての初日の活動結果はTwitterのフォロワー数が7人。YouTubeのチャンネル登録数が22人。「夏の夜空防衛隊」の動画再生回数は76回。凄く少なく見えるが、これでも健闘した方なのかもしれない。

 

……有名になれるはずの借り物の力ですら、自分は有名になれない。持ってない人間が、適切でないタイミングで行動しても上手く行かないのは目に見えていた。曲の残弾はまだまだある。だけどこの状況で、有名になれるのか、不安にすらなって来た。

 

 

 

次にやることは、Vtuberとしての身体を作ることだろう。幸いにも前の世界と同じようにVtuber用のフリーソフトは幾つかあるので、藤堂立冬の身体を男の子バージョンと女の子バージョンで再現してみた。3Dキャラの身体をカスタムできるメイドなエロゲでアニメキャラを再現しまくっていた経験が生きたな。……我ながら、この世界に来てから活かしている知識と経験が屑過ぎる気もするけどまあ良いや。

 

顔部分を写真にとって、その顔をTwitterのアイコンにする。使用する顔はもちろん男の子のほうだが、女の子の方もいずれ使用するかもしれない。それなりに高い声が日常的に出るオタクなので、上手く両性Vtuberとして色物枠でも有名になれないだろうか。

 

何か少しでも良い。きっかけさえ掴めば怒涛の神曲投稿ラッシュで絶対にバズるはず。倫理観的に、許されざる盗作行為をしている自覚は十分にあるが、もう止めるつもりは毛頭ない。

 

バイトの店長に「バイト辞めます」と言ったのでこれで有名になれなければ人生終わりだ。預金残高17万3000円を使い果たす前に収益化すら出来なければ待っているのは餓死だな。

 

アイコンを作り、自己紹介動画を作り始めると共に、ひたすらボカロ曲の再現をして残弾を作る。記憶との勝負でもあるが、曲というのは案外簡単に思い浮かべられるものだ。そして想像以上に、元の世界にあってこの世界にない曲が多い。

 

軌道に乗りさえすれば、ボカロ曲以外にもシフト出来るだろう。アニメソングを自分で歌っても良いし、誰か別の人に歌わせても良い。自身の歌唱力は人並みなので、出来れば元歌い手の人を誘ったりして歌の依頼を出来ないだろうか。……コミュ障がそういう依頼をするのは難しい話だなぁ。

 

最近は、20歳の若さで人生に飽きすら感じていたけど……久しぶりに今、ワクワクしている。今後の展望が、明るいものになったからだろうか。Twitterで積極的に今のVtuberの有名な人をフォローしていき、少しでも世間の目に留まる可能性を上げていく。

 

そうこうしているうちに、3日が経過して自己紹介動画も出来たので投稿する。出来れば現段階で中の人の自我を前面に押し出したくはなかったので、簡潔な自己紹介だけだ。幸い、フォロワーの多い人の目に留まって紹介されたからか「夏の夜空防衛隊」の再生回数は296回となっていた。……これ1000万再生は、超えないだろうなぁ。

 


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