PREACHTTY 作:ONE DICE TWENTY
> 突然の最終回 <
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「──些末な問題だ。ここがどこであれ。君の胃袋の中であれ、そうでない場所であれ……今の私にはもう関係が無い。今の私はもう」
藍染惣右介の身体に罅が入る。
それは彼の崩壊を告げるものではなく。
彼の再誕を祝す圧壊。
今ここに、揺籃の時を終えた藍染惣右介が──その身体を露わにする。
「理の、外にいる」
瞬間、胃壁の全てが弾け飛んだ。
「……?」
「どうしたのかな、藍染隊長」
「……ここは」
「ここはどこかな。胃袋を消し飛ばしたのなら、どこに出るのだろう」
消し飛んだ黒。
そこから現れたのは、同じく黒だった。
そして、治る。
今しがた消し飛ばした胃壁が元に戻る。
「
「だが、今感じた外側は確かに君の霊圧だった」
「そうだね。内側も外側も、確かに私だよ。なんならもっと消し飛ばしてみてもいい。破道で貫くのもアリだよ。あぁ、けれど、その程度じゃあ出られない」
朗々と語る。
プランB。外の準備は終わっただろうか。
「成程。華蔵蓮世、君の能力が理解できたよ」
「流石は藍染隊長」
「君の能力は、食べたものを消化可能にする能力……違うかな」
「ああ、その理解なら」
奥の方から、黒い溶解液が波となって迫って来る。
瞬く間に私と藍染隊長を漬けたソレは、ジュウジュウと音を立てて彼の身体を焼き始めた。
「80点。それだけじゃない、と言ったところかな」
藍染隊長は、気付くだろうか。
一生物の消化液程度が、崩玉によって進化しきった己が身を焼くおかしさに。理の外にいるはずの彼が、生物の理に再度囚われていることに。
「──同化能力」
「そう。正確には、『食べた対象に華蔵蓮世という能力を獲得させる』能力が正しい。
強制的に『華蔵蓮世』を獲得した対象は、パッシブ能力である『華蔵蓮世』を発動し、
ああ、だから、特別な力などは手に入らないけれど、自分のものではない感情が手に入るという点ではメタスタシアやアーロニーロに近いのかもしれない。
かつての私が手に入れていたルピ・アンテノールの自己陶酔は、虚圏に捨ててきた。
ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオを食べて手に入れた高潔なる怒りは、山本元柳斎重國に焼き尽くされた。
ルドボーン・チェルートを食んで手に入れた従順たる苦悩は、砕蜂ちゃんに殺された。
シャルロッテ・クールホーンを食して手に入れた篤き忠誠心は、今の私には存在しない。
恐らく外で失くしかけた『友情』、『信仰』と再融合していることだろう。
この私は、ただひたすらに『冷静』。
「崩玉と融合前の藍染隊長だったら、ここに入った時点で己の違和に気付いていたと思うよ。明らかに体内に異物が入り込んだ、とね。けど──奇しくも私は崩玉と似た性質を持っていた。進化の途中に私が入り込んでも、藍染隊長にとってそれは『進化に際して受け入れなければならないもの』でしかなく、また、崩玉との融合が初めてな藍染隊長にとって、それを拒絶していいものなのかどうかもわからない」
「……!」
「ああ、そうそう。さっきの答えね。ここがどこなのか。胃袋の中ではないのか」
私の身長では溶解液の波で埋まって行ってしまう。藍染隊長の首元にまで来ている黒い波は、私を完全に埋め尽くし。
けれど、声だけがしっかりと響く。
だってここは。
「勿論、胃袋の中だよ。ただ──何重に、何重にも飲み込まれた、ね」
ちゃんと、私の体内なのだから。
崩れ始めた空間は、ただ。
私と私が、再融合を果たさんとしているだけのこと。
時間稼ぎだ。喋りなんてものは、結局。
──
拝せ、
「おい……おい! 何してんだよ!」
「まーまー落ち着いてくださいよぉ黒崎サン。……これが華蔵サンの出した答えなんスから」
「こんな……こんなことで、どうにかなるワケねぇだろ! 早く華蔵を──」
外。
崩壊した空座町のレプリカ。
そこで、
「……」
「……また、こうして二人揃う事になろうとハ。こうして二人、向き合い、鬼道を使うことになろうとは……感慨深いものがありますネ」
「……」
握菱鉄裁。有昭田鉢玄。
その二人をして行う封印は、恐らく尸魂界における最上の封印の一つになるだろう。
対象は、少女のような少年。
華蔵蓮世。
「騒ぎなや一護。俺達かて気分悪いねん。藍染封印するためとはいえ、こない小さい子犠牲にするんは……フツーに嫌やねん」
「だったらッ!」
「でも、これが一番確実だった。……僕らもね、話を聞かされた時に抗議はしたんだよ。このまま放っておけば際限なく進化し続ける藍染に、そして鏡花水月を解くことのできない僕らにできる最善」
「藍染のリソースをオレ達を騙す事に割かせて、嬢ちゃんの技を確実に当てる。そして人間大に戻った嬢ちゃんが──もう一人の嬢ちゃんと
平子真子が、鳳橋楼十郎が、愛川羅武が口々に言う。
嫌な顔をしている。それぞれに、口苦い顔を隠せないでいる。
その視線の先。
封印の中にあるのは、二人だ。
どちらもが華蔵蓮世。
解放状態にある彼らは互いの腹にその蛇のような槍を突き刺して、ただ黙している。
「完全に食っちまえば自分が小さくなっても中のものが出てこない……どころか、中のものも小さくなる。だから、互いに互いの胃を食い合えば際限なく対象を小さくできる。自分たちは超速再生し続け、その二人を丸ごと外側から封印する。……確かにここにひよ里達がいなくてよかったぜ。こんなの……見せられたもんじゃねぇからな」
「それだけやない、あいつらフツーに気分悪いモンに対して暴力振るうからなぁ、今の一護みたいに声荒げてなんなら虚化して、この封印もなんもかんもぶっ壊しそうやわ」
「……だからって、こんなっ……」
黒崎一護の正しい心はこの場にいる者達に突き刺さる。
というよりは、華蔵蓮世自身からの強い要請がなければ、絶対に取っていない手段だ。山本元柳斎重國とて良い顔をしていない。尸魂界の問題を現世の存在が一身に請け負ったこの結末は、決して受け入れられるものではないのだ。
「一護」
「……なんだよ、親父」
「市丸はどうした?」
「え?」
父親である一心から、諭す言葉、慰めの言葉の類が来るものだと身構えていた一護は、その唐突な問いに虚を突かれた顔をする。呆けた声が出る。
「市丸だよ。さっきまで藍染の隣にいただろ。オメー、月牙放った後市丸と対峙してたじゃねぇか」
「……!」
いなかった。
彼の姿がどこにもない。
霊圧を探れども──いない。
「んなモン今は放っておけよ。藍染がいなけりゃ何もできねぇだろ、アイツは」
「せやなぁ。神速で伸び縮みする剣は厄介は厄介やけど、完全催眠に比べたら大したことない。大方藍染捕らえられて負けを確信して、誰にもバレない内に遁走とかなんちゃう?」
「いや、市丸に限ってそんな小物みてぇなことはしないだろうが……確かにこっちが優先なのはそうだ」
「あ、じゃあアタシが探してきますよ。ちょっと気になる事もありますし。鉄裁サン、ハッチサン、この場はお任せしても?」
「はい。お気をつけて、浦原殿」
浦原喜助が消える。
伴い、もう一人が消えた事には、誰も気付かない。
「……ホントにこれでいいと思ってんのかよ、皆……」
「同じこと何回も何回もうっさいわボケ。これでいい、なんて思ってる奴この場におらん言うてるやろ。それに、あの嬢ちゃん曰くこれが絶対に成功するかもわからんっちゅー話や。これが失敗して藍染が出てきたら、頼れるのはオマエとオマエの親父だけ。あと喜助のボケだけや。まだ気ィ抜くなよ、終わってへんねやから」
厳重な、厳重な封印。
それに──罅が入り始めたのを、誰が気付いたことだろうか。
「それで? なんでボクをこないな所に連れてきたん? これでもボク、藍染隊長の忠実なる僕なんやけど。藍染隊長があないなことになってるんやから、助けにいかなアカンなぁ思うてた所なのに」
「でもついてきて、って言ったら全然文句言わずについてきたじゃん」
「あら、それ言われると痛いわぁ」
レプリカの空座町。その外れ。
そこに市丸ギンを連れてきた。
「お願いがある」
「おねがい?」
「うん。簡単なお願い」
指を差す。
その方向は、先ほどまで私達がいた場所。
「アレじゃ、藍染隊長は封印できない。本命は浦原さんの施した方の封印。藍染隊長を飲み込んだ際に打ち込んだソレは、崩玉が彼を主と思わなくなった時点で発動する類のもの」
「へぇ、いいの? それ、ボクに漏らして。さっきも言うたけど、ボクは藍染隊長の」
「命を狙っている。私達は同志だと思うんだよね。彼を未だ隊長と呼んでいる者同士」
「……嫌やわぁ。前も言うたけど、その同族意識やめて~。ボクそんな裏切り者とちゃうで?」
「貴方の心境がどうあれ、お願いは聞いてもらう。簡単なこと。単純なこと。──ここから、私を狙撃して欲しい。……これから藍染隊長に成りゆくだろう私を」
市丸ギンの笑みが深まる。
その意図は。
「やーっぱりそういう事スか。おかしいとは思ってたんスよねぇ──ねぇ、華蔵サン」
「二人とも、動くなよ」
意図を問う前に、もう二人がやってきた。
浦原喜助と四楓院夜一。
彼らが臨戦態勢であることが、私の企てを見抜かれた事への理解となる。
「あぁホラ、君企てとか計画とか向いてないんちゃう? 藍染隊長みたいにやりたかったんやろけど、無理やね。色々と杜撰」
「……もしかして今笑ったのって、馬鹿にしてた?」
「うん」
うーん。
そんなにわかりやすいのかな、私。
結構策略に長けた……なんてことはないんだけど。
「華蔵サン。──返してください、崩玉」
浦原喜助の言葉。
それに、どくんと心臓が跳ねる。
「それは、アナタみたいな不安定なヒトが持っていていいものじゃあない」
「おかしなことを言うね、浦原さん。崩玉は今も藍染隊長の手にあるよ。ああ、胸にあるよ。あっちでウロボロスやってる私の中にある。その証拠に、浦原さんの封も発動してないでしょ? あれはまだ、藍染隊長に異常な力がある証拠だよ」
「だから彼に自分を獲得させたんスよね。同じく崩玉である自分を。彼の持つ崩玉と、すり替えるために」
……。
冷たい目だ。
いつか、あの修練部屋で。「アナタを疑っている」と言った時と、同じ。
「正直に言って、アナタはアタシの作り出した崩玉よりは弱い。願望器たる力を己が身にしか作用させられない劣化品だ。けれど、今の藍染サンにとってはそれで十分だった。そしてその力で進化した藍染サンならば、市丸サンや黒崎サンの力でも止められる。殺し得る」
「劣化品とは酷いなぁ」
「封印が上手く行かず、アナタを逆に取り込んで出てきた藍染サンを、黒崎サン達総動員で弱らせ、最後の最後に市丸サンの卍解で仕留める。最終的にアタシの封で彼自身も封じられ、めでたしめでたし──。こんな所スか、アナタの思い描いたシナリオは」
彼はもう確信している。
そしてそれは、四楓院夜一も──市丸ギンも。
この三人、別に繋がっていたわけじゃないだろうに、瞬時に私を敵だと見抜いて徒党を組んだのかな。
「それこそまさかだよ、浦原さん。だって浦原さんは私の殺し方を知っている。そんな浦原さんを裏切るわけないじゃん」
「関係ないでしょう。だってアナタ、もう何人いるんスか?」
言葉に。
物陰から──数十人を超える私が出てくる。
「うひゃあ、気味悪い光景やねぇ」
「全員が全員同じ霊圧か……どれが強いこともどれが弱いこともない。完全に同一存在の分身。厄介じゃのぅ」
あるいはルドボーンの能力にも似ていると捉えられるだろう。
けれど、私のこれは雑兵を創るものではない。
「厄介に思う事なんてないよ、夜一さん。私はこの力を美少女を守るためにしか使わないんだから」
「なら、どうして黙って持ち出そうとしたんスか? 今も尚アナタを犠牲にする事に心を痛める皆サンが、そして藍染サンに体を乗っ取られゆくアナタに悲痛な感情を抱く彼らが、死力を決して戦っている。アナタの言うお友達である黒崎サンなんか最たる例です。何故彼らに、自身の力で崩玉をすり替えた事、それを平和のために使う事を教えなかったんスか?」
「……」
「言えませんよね。何故ならそれは、決して褒められた目的ではないから」
いやぁ。
まさか、まさか。
そこまで見抜かれているとは。
双極の丘では藍染隊長との距離を測り損ねたけれど。
今回は、浦原喜助という男を見くびり過ぎていたかな。
「わかった、わかったよ。そう怖い顔で睨まないで。私は浦原さんと事を構える気はないんだ。殺されちゃうからね。私が本当に殺されるのは私より可愛い美少女を相手にした時だけ。顎髭の剃り残しが目立つようなしがない駄菓子屋のおっさんに殺されるのは勘弁勘弁」
言って。
手のひらに──それを出す。
小さな結晶。どこか波打つように光を発し、吸収し続ける謎の物質。
「ッ──夜一サン、市丸サン、避けてください!」
「チィッ!」
「あれボクのことも心配してくれるん~? まだ敵のつもりなんやけどなぁ」
溢れ出す。溢れ出す。溢れ出すは黒い液体。
それと似た、けれど──確実に違う。
「一応、真面目な話をするとね、浦原さん」
「……なんスか」
「私は本当に、美少女のためだけに動いているよ」
液体が集束する。
崩玉を中心に、それは、次第に、刀の形を取り。
「
その軛を解いた。
「……不思議な感覚」
浦原喜助の言う通り、私なんかより元来の崩玉の方が遥かに出力が高い。
周囲の願いを具現化する願望器。その力の使い方は、チート能力を使う時のものと酷く似ている。
成程、確かに私は自然発生例だったのだろう。
外付けの力は確かにそう見えたのだろう。
以前藍染隊長に言ったその先。それは刀剣解放第二階層のことだった。あのレムリアの塊に触れた事で、私はそれを可能とした。
それだけでも相当な強さがあった。
けれど今、本来の崩玉を手にしたことで──さらに先を手に入れる。
姿に変化はない。
ただ黒い剣を携えた私だ。その姿はどこか、天鎖斬月にも似ているかもしれない。
「……どこ行く気スか」
「だから美少女の所だって。私は常に美少女の味方だよ」
「どこへ行くのかを聞いているんだ!」
決まっている。
藍染隊長はもう、終わりだ。彼という脅威は去った。私の劣化崩玉を手にした彼は、最後の月牙を使うまでもない、今の状態のイチゴや一心、その他勢力によって倒され、封印される事だろう。
なれば私が対処すべきは残り。
「虚圏だよ。あっちには、守るべきものが増えてしまった。死神が人間を守るなら、私は虚を守る。破面の美少女は、全て。私が守る」
これから来る勢力に対抗する。
壊滅などさせない。そのために力を欲したのだ。
私が死ぬのは、私より可愛い子に殺される時だけ。
私より可愛い子が現れない限り、私は死なない。
崩玉は周囲の願望を具現化する。
この先、全ての障害を討ち果たした後。
私が強くそれを願ってさえいれば──現れるはずだ。
私より可愛い子が。
私より可愛くて、強くて、カッコよくて──私を殺す誰かが。
「……お友達はどうする気スか。黒崎サンたちは」
「うん? 別に、普通に生活に戻るよ。浦原さんの言う通り、私は何人もいるわけだし。その中の一人を日常に戻せば、彼らも安心でしょ。監視や接触は好きにしてくれていいよ。まぁ、一人殺されても攫われても、すぐに新しいのが補充されるから安心して」
刀を振る。
それだけで、黒腔が開いた。
そろぞろと集まってくる私。それと再融合し、感情を取り戻していく。
あー。
あーあー。なんだろ。ちょっと気取りすぎてたなぁさっきまでの私。言えばいいのにね、見えざる帝国の事とか。なんで知ってるんだって言われたら難しいから言わなかっただろうけど。
割とちゃんとした理由で崩玉欲したんだよ、って。
言っても信じないだろうけどさ。
「あー。えーと、いや、今更何言ってんだって思うと思うけど、虚圏来たら全然色々協力とかするから……みたいな。あぁそうそう、市丸ギン」
「ボクの事忘れてるんやとおもっとったけど、ちゃんと覚えてたんやね」
「今色々感情取り戻しててさ。で、そう。乱菊さん。安全なトコに寝かしてあるから、まぁ、挨拶だけでもしてきなよ。どうせこのまま行けば四十六室の決定で捕まっちゃうだろうし」
「なんやの、その心配。余計なお世話やわぁ」
「でも私、乱菊さんの悲しむ顔見たくないから」
遠くに、小さくなっていく藍染隊長の霊圧を感じる。
イチゴの霊圧はそのままだ。死神の力を失わなかった場合、死神代行消失篇がどうなるのかは定かではないけれど、その時はその時だ。現世に残る私が対処をすればいい。
「浦原さん、夜一さん」
「……なんスか」
「なんじゃ」
「
黒腔に足を踏み入れ──振り向かずに、言う。
「私より可愛い子、義骸で造ってよ。そしたらむざむざ殺されるだろうからさ」
私の身体を黒腔が飲み込む。
そして、その口が閉じて──。
「華蔵サン──最後にもう一度聞きます」
「ん」
「アナタは、何が目的だったんスか」
思わず笑ってしまう。
わかっていて聞いているんじゃないかと思うほどに。
「──私より可愛い子に会いに行く」
黒腔が、完全に閉じた。
「ただいまチルッチー! ロリー! メノリー!! ぐへぁっ」
「ただいま、じゃないわよ! ……まさかとは思うけど、全部終わらせてきた、なんて言わないでしょうね」
「全部終わらせてきたよ。まだ先はあるけど」
えー、シリアスな空気から一転、虚圏。
鉢合わせが起きないように死神たちが退去してからこっそり虚夜宮に戻ってみれば、そこは廃墟も良い所になっていた。
倒れ伏すヤミーの巨体。吠え続けるクッカプーロ。
そして水平線上にどこまでも破壊された建造物の数々。
あ、これ波状延焼虚閃の破壊痕ですね。
「ああそうそう、で、よいしょ」
お腹を叩き、背中を叩き。
ゲホゲホと咳き込み始めた私を心配するチルッチ達を余所に──ぐぇっ、と。
あまりにも美少女らしい音を立てて、二つと三つ。
胃袋を五つ、吐き出す。
「えっ」
「ひ……」
ロリメノリの正常な反応に苦笑いする。
けど、気持ち悪いのはまだまだかもしれない。だってその胃袋から──腕が、這い出てきたのだから。
「な──何よ、これ!」
「ああ攻撃しないで。私が連れ帰って来たんだから」
「連れ帰ってきたって、アンタ何を」
いやーな音を立てて、それは。
彼ら、彼女らは。
胃袋から──その身を脱した。
「……ふぅ。こうなるとは聞いてたが……」
「もう少しなんとかならなかったんですの?」
「生きているだけ僥倖だ。文句を言うな、お前たち」
コヨーテ・スターク、ティア・ハリベル、フランチェスカ・ミラ・ローズ、エミルー・アパッチ、シィアン・スンスン。
黒い胃液に塗れた破面達が、五体満足の姿で現れたのだ。
そして、全員が解放を収めれば。
「……う。銃口とかに入ったネバネバが、アタシの、アタシの中に……!」
「リリネットちゃん!」
「うわぁああ近づくなぁ!」
ものっそい拒絶されてるけど、無事でよかった。
一気に女所帯になったせいか、スタークが面倒臭そうな顔をしているけれど、一応ほら、私も男だから安心して欲しい。
あとはどっかにいるだろうネリエルと、ヤミーに殺されないように退避させてたロカちゃんを探し出して終了かな。
……霊圧的に、ウルキオラはやられてしまったみたいだ。
そうなると知っていたけれど……ちゃんと心の在り処を見つけられて死んだと信じたい。
「で。帰って来たってことは、アンタ、これからもここにいる気なワケ?」
「え、うん。私十刃だし。第一、第三、第四、あと元第三と元第五。これだけいれば大丈夫だよ」
「……何よその言い方。まるでまだ戦いが残ってる、みたいな……」
「残ってる残ってる。だからパワーアップして帰って来たんだし。あ、戦いに成ったらまたカハ・ネガシオンに閉じ込めるからそのつもりで」
ぶん殴られる。
だぁって、滅却師の集団にチルッチ達が勝てるとは思えないし。
でも、まぁ。
「美少女を守れて、私的にはめでたしめでたしかなー、なんて」
これにてこちらは閉幕、ってね。
「あー、華蔵サン。そっちの籠、しまっといてくださいッス」
「えー」
「えーじゃなくて。新入りなんスから、ほら、働く働く」
あらゆる面倒ごとを押し付けられ、めでたく終われなかった方の私の話。
危険思想の持ち主且つ強大な力持ちということで、浦原商店に雇われる次第となった美少女男の娘華蔵蓮世ちゃんは、浦原商店の一番の新入りとしてこき使われている。
家族には泣かれてしまった。まぁ遺書……は隠されていたとはいえ、お別れメールをしたっきり数か月姿を見せなかったのだ。いくらほわほわ系の家族といえど、心底心配してくれたらしい。そりゃそうだ。というかホントに遺書隠されたのがダメージ過ぎる。
イチゴや織姫、竜貴達にもかなり怒られた。イチゴには私がそんなに沢山増殖するってこと自体知らせていなかったから、あの場で封印され、藍染隊長に乗っ取られたので最後だと思ってたとかなんとか。それで苦悩してたらケロっとした顔で私が現れるものだから、そりゃそうなる。
今の所崩玉を手にした華蔵蓮世が虚圏の王になった、という事実を知っているのは浦原喜助、四楓院夜一、握菱鉄裁、そして市丸ギンの四人だけ。
前者三人は尸魂界に対しては口をつぐむだろうけど、市丸ギンがどうするかはわからない。あの後ちゃんと乱菊さんと会ってたみたいだけど、結局投獄は免れなかった。その最中に彼が口を割れば、現世にいる私を含めた華蔵蓮世は大犯罪者。一躍追われる身になるだろう。
その時イチゴ達がどういう反応を取るかはわからない。死神の力を失っていない彼が、今後どうなっていくかはまだ誰にもわからない。
「悩み事スか?」
「どうやったら雨ちゃんを手籠めにできると思う?」
「何考えてんスか何を」
浦原商店の唯一の癒し、紬屋雨ちゃん。
美少女オブ美少女な彼女は、けれど私には怯え気味。理由は生物的本能がどうのこうの。
目下雨ちゃんの警戒をどうにかといて、私とイチャイチャしてもらうにはどうしたらいいかを考える毎日だ。
「まったく……」
「浦原さんは次にこう言う。『わかってるんスか? アナタは要注意観察対象。また美少女美少女って適当なコトばっか言ってると、今度こそ本当に封印されちゃいますよ?』と──」
「言いませんよそんなこと。封印したって意味が無いのは証明されてるんスから。封印も投獄も意味を成さず、現世にも尸魂界にも無数に存在するアナタを一人一人潰して回る、なんて気の遠くなる事誰もやらないスよ」
「とか言って、今着々と私を封印する方法研究してたりするんじゃないの?」
「……まっさかぁ~」
とか何とか言ってるけど、多分その手法が完成しても使ってこないと思っている。
それくらい、イチゴ達とは仲良くなった自負がある。友達だから、私が封印されたらイチゴは怒ってくれるだろう。助け出してくれるだろう。
彼の敵に成ることほど怖い事はない。なんたって主人公だし。血筋もやべーし。
「ま、大丈夫。現世にも守りたい美少女はいっぱいいるんだ、早々変なコトはやらかさないよ」
「……もし現世から美少女がいなくなったら?」
「そんな世界は滅べばいい」
はっ、つい本音が。
なんて。
そんなところが、こっちの私の物語の閉幕。
この先色々あるんだろうけど──お約束な台詞を吐いて、物語を閉じるとしよう。
「私達の戦いはこれからだ!」
「なんスか突然。打ち切り漫画みたいな台詞スけど」
「エサクタ!」
これにて。
鬼道最終考察
破道は神話のアイテムをモチーフにした詠唱であると言えると思います。散々考察を入れてきましたが、オリジナル破道を作るときはあまり仏教とかキリスト教とか関係ない雑多な神話大系から攻撃的、あるいは何々を殺した、などの逸話を持つアイテムを引っ張ってきて、その歴史や神話を分解して韻を踏みながら文章に擦ればいい感じですね。
縛道は神話を題材にした観劇がモチーフなのかなと思います。後世にて戒めになっている教訓の類から、主に悲劇を中心としたアート作品などが縛道の詠唱の根幹。美術品は悲劇に事欠きませんからね。これも特にジャンル関係なく様々な神話から引っ張ってきている模様。
尸魂界が英語、虚圏がスペイン語……とかはあんまり関係ない様子。