レンズの中の星々-7つの神の世界-   作:クラインの壺

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これまでのレンズの中の星々は
旅を終えた写真家、門矢士の前に現れた異邦人、蛍。かつての仲間の影を蛍に重ねた士は、蛍と共に新たな旅へと踏み出した。





起点-7つの神の世界-

「随分とくたびれた彫像だな」

「そうだね...」

いたる所が欠けてボロボロな石像を見上げる。

パイモンの言うとおりの方角へ進みはや数分。人に会うより先に文明の残骸に遭遇した。

「もうとっくに世界滅んでるんじゃないか?」

「そんなわけ無いだろ!」

視界の端を飛ぶ小さいナニカの声を聞きながらシャッターを切る。

「そうは言うが、こんな有様で人が生きてるとは思えないな」

「そ、それは、その...」

とパイモンが口ごもっていると、急に眩しい光に照らされる。

「今度は何だ!」

そう言いながら振り返ると、蛍の服のあちこちが淡い緑色の光を宿し、当の本人は神像とやらに手を触れたまま呆けている。

「お前、神像と共鳴したのか!」

また知らないワードが出てきたな。

「これをすると何ができるの?」

「これは風神像だから、多分風元素の力が使えると思うんだけど...あっ丁度いいところに炎スライムがいるぞ!元素の力を試してみようぜ!」

勢いよく話が進んだ先には、見覚えのないどうにもファンシーな生き物が3匹ほどうろついていた。炎スライムと呼ばれたそれは、薄い皮膜か何らかの力で名前の通りの炎を包み込んでいるらしく、足元の植物が大方焼け焦げている。

しかしそんな通り魔的に力を行使してもいいのだろうか。と考えているうちに、今度はどういう原理か蛍が前方に風を放射してスライムを押し出し、あたりの水溜りに炎スライムを落とす。すると炎スライムは中の炎を守る力を失ったのか、風船が割れるような形で消滅した。

そしてその周囲の植物は軒並み燃えていた。なるほど風元素の力はそういった、ものに対して放射する形で影響するのか。

そうして蛍が力の感触を確かめている向こうで、パイモンが更に向こうの方を指さし声を上げる。

「見えたぞ!あそこにあるのがモンド城だ!」

またボロ屋敷なんじゃないかと追いついて見渡すと、確かに大きな城塞が見えた。大きな風車が目立つその城塞は、少なくとも無事に機能しているように見える。

「あそこに...いるのかな」

「さあな。行かなきゃわからないだろ」

「そうだね...まずは、行ってみなきゃ」

見た目相応というべきか、パイモンは壮大な景色に目を奪われている。

見下ろした景色にはいくつも動くものが見えた。この世界の生き物だろうが、恐らくこの世界の住民であろう人物が一人しかおらず害の有無がわからない以上、注意するに越したことはないだろう。

 

幸いなことに、あの場所から城塞までは舗装はされていないものの分かりやすい道ができていた。

道に沿って下りていくと、上から見えていた動くものの正体が見えてきた。それは仮面をつけた非常に色の黒い...人間のようだが体格は人間、特に成人に比べてあまりに華奢で小さく、その顔を覆う仮面は輪郭を覆い隠してあまりあるものだった。

「あれは一体何だ?」

「あれはヒルチャールだ。独自の文化を持ってるっぽいんだけど...意思の疎通はできないし、すぐ襲ってくるから厄介なんだ」

「人を襲うの?」

蛍が冷たい空気をまといながら徘徊するヒルチャールを睨む。

「そうだぞ...って、ど、どうしたんだよ。ちょっと怖いぞ」

気付いたパイモンが少し後ろに下がる。今にも踏み込んでいきそうな蛍の襟首を掴み引き戻す。

「何するの!」

「見かけるたびに暴れて回ったんじゃすぐそこに行き着く前に日が暮れる。"お掃除"するにしても寝床を確保してからだ」

未だ警戒の解けない蛍がなにか言い返そうとするも、進行方向上に点在するヒルチャールの集落らしきものを見て口籠る。蛍一人で戦うとすればかなり骨の折れる数だろう。

「だったら、急ごう」

「それでいい。わざわざ邪魔されに行く必要もないだろう」

いざとなればやむを得ないが、こう不必要なことで俺も戦うつもりはない。戦うにしても状況がわかってからだ。

前を行くその背中には不満がありありと見て取れるが、今ばかりは仕方がない。

 

先頭が早足で進んだお陰かはたまた余計な邪魔が入らなかったお陰か、太陽が真上に来る前には上から見えていた途中の森へ入れた。

この世界に季節の概念があるのか知らないが、心地よい風が吹く割に陽光は容赦なく照りつけて暑い。元いた世界が秋だったが故に格好が余計な熱を持ってしまっているのだろうか。

「!...止まって」

突然蛍が小声で木の陰に隠れる。

何事かと思い行き先を覗うと、そこには人一人丸呑みできそうな頭とそれに見合う体を持った巨大生物がいた。

更に人の声が聞こえて視線をずらすと、爽やかな緑の衣装を纏った少年が巨大生物へ何事か語り掛けていた。

「おいチビスケ、この世界にはあんなのがウロチョロしてるのか?」

「おいらあんなの知らないぞ...」

どうにも少年と巨大生物はそう浅い関係ではなさそうだ。森の中でこうしているということは穏やかな生き物なのだろうか。

「へくちっ」

「誰!?」

小さなくしゃみの声に反応し少年が慌ただしく辺りを見渡す。自然に巨大生物を庇うように立ったが、当の巨大生物はそう穏やかではなかった。

その巨大な首をもたげ、途轍もない衝撃波と共に咆哮を上げる。

あまりの強風に目を閉じる。

少し後ろへ押しやられたところで強風が止み、目を開くが巨大生物も少年も既にどこかへ去ってしまっていた。

「...」

「...」

「おいチビスケ」

「しょ、しょうがないだろう!ちょうど髪が鼻に入ってくすぐったかったんだぁ!」

「まあ、起きちゃったことはしょうがないよ。先へ進もう」

そう言って蛍が歩き出すが、ちょうど巨大生物がいたあたりで何かを見つけたのか足を止める。

「どうした?」

「これ、何だろう」

その手の上には、赤黒く濁った涙滴型の宝石が浮かんでいた。

「あのでっかいのが落としていったのかな」

「何かこう、力が込められてるみたいなんだけど...どうなんだろう」

「なら持っておこうぜ。何かの役に立つかもしれないからな!」

少し不穏なもののように思えるが、よくわからないものに関してはやはりこの世界の住人の意見を採用する他ない。

蛍が包み込むようにその宝石を握り込むと、まるで手品のようにその宝石は消滅した。

先程倒したスライムから落ちた何かもそうだが、彼女はどこかに荷物をストックできるらしい。着の身着のままでどう旅をしていたのかと疑問だったが、どうにも俺の知る物理法則は彼女には通じないらしい。

 

森を抜けると一気に視界が広がり、大きな城塞の側面が大きく見えてくる。

それと同時に湖へ突き当たり、あの城塞が湖の真ん中に建っているのが分かった。

「城と城下町てなものかと思ったが、街ごと城壁で囲っているのか...」

壮大な光景に目を奪われ、無意識にシャッターを切る。

すると遠くから走る足音とともに声が聞こえてくる。

「そこの人達!止まりなさーい!」

呼び止められそれぞれが振り返ると、木々の隙間から赤いウサギが現れた。いや、大きな立ち耳のリボンが目を引くウサギのような少女が飛び出してきた。

俺達のすぐそばまで走ってきた少女はしばらく膝に手をつき肩で息をしていたが、ある程度落ち着いたのか、胸の前に手を構えこちらを見る。

「風神のご加護が有らんことを」

なるほど、この地域の挨拶みたいなものか。

「私は西風(ゼピュロス)騎士団の偵察騎士、アンバーよ」

ファンタジーな世界だとは思っていたが、兵士ではなく騎士が来たか。しかも一人で。

「あんた達、モンドの人じゃないよね?身分の証明はできる?」

訝しむような目で俺達を見定めようとするアンバーと名乗った少女の背には、普段使いのものなのだろう弓と矢が架かっている。

確かに少々マズい状態なのだがどうにもこの少女、危なっかしい。偵察騎士というのが俺の想像する通りなら、俺達の前に姿を表したことも、目の前で無防備に息を乱し、また整える姿を晒したこと、万が一俺達に害意があった場合仕掛けるチャンスはいくらでもある。この威圧感の無さも、きっと人を疑うのに向いていないのだろう人柄を感じさせる。

だが、俺以外のやつはそうは思わなかったらしい。

「落ち着いて、怪しい者じゃないんだ...」

「怪しい人は皆そう言うわ」

「あうぅ、えっとぉ」

一番口下手な現地人が応えてしまった。

「こんにちは。私は蛍」

「蛍?...ここら辺の地域では珍しい名前ね。それから...そちらは?」

「こっちが友達のパイモンで、こっちはうーん...お目付け役の士」

「お前を危なっかしいと評してついてきたのは事実だがお目付け役ってお前」

文句を言うがどこ吹く風、さっきの仕返しのつもりだろうか。

「私達は遠いところから旅をしてきたの」

「なるほど、旅人だったのね」

統一感のない一行の見た目に合点がいったのか何度か小さく頷く。

「近頃、モンド城の周辺で大きな龍が出没しているの。だから、早く城に入ったほうがいいわ」

大きな龍、まさかさっきの巨大生物だろうか。休める場所を手に入れる前にああいったのとぶつかり合うのは御免被りたいものだが。

少女は言い切ってから一瞬考えるような素振りを見せ改めて口を開く。

「そうだ、ここから城門までそう遠くもないし、ここは騎士の務めとして城まで送ってあげる!」

「え?任務があって城から出たんじゃないのか?」

「もちろん任務もあるわ。でも安心して、任務を行いながらでも、あんたたちの身を守ることくらいはできるから。それに...」

そう言って俺たちの前を通り過ぎ、少し振り返り人差し指を立てる。

「怪しい者を放っておくわけにもいかないからね!」

そう宣言され、蛍が苦笑いをする。

「まるでこっちを信用してないね...」

「当然だろ?向こうにしてみれば忙しいときに現れた余所者でしかないんだ。出会い頭に撃たれなかっただけマシだな」

こちらの物言いが聞こえたのか、アンバーは先程までのキメ顔から一転して申し訳無さそうな顔になる。

「ごめん...優秀な騎士にあるまじき言動だったね。謝るよ、えっと...見知らぬ、その...尊敬できる旅人さん」

「ぎこちない!?」

言い慣れぬ言葉とそれに対するツッコミで思わず吹き出す。

「何よ!『騎士団ガイド』で決められた言葉に不満でもあるの!?」

「まさか!中々にキマってるじゃないか。それより任務があるんだろう?」

「うぅ...あなたガイア先輩みたい。まあいいわ、早く済ませて城へ行きましょう」

やはりこの少女、危なっかしいな。

 

「ねえ、得体の知れない旅人さん方。何しにモンドへ?」

遠くにいる風スライムを撃ち落とす腕前を披露しながら、アンバーが口を開く。

「蛍が遠い遠い旅の途中で、兄妹と離れ離れになってな。オイラたちは一緒にその兄を探してるんだ」

「へぇ、家族を探してるのね...」

急にさっきまでの勢いが嘘のような遠い目になる。が、瞬きとともにまたいつもの雰囲気が帰る。

「そうだ!今請け負ってる任務が片付いたら、城内にお知らせを出しましょう!」

「本当!?」

「ええ!」

この二人は年頃が近いからか、すでに友人同士のような雰囲気になっている。世界を渡るときに大切な理解者という存在を、もう確保できている。

「そういえば、任務ってなんなんだ?」

パイモンの問いに、番えていた矢を離し答える。

「簡単よ。見ればわかるわ」

そう言って少し離れた場所を指差す。

「あっ、ヒルチャール!?」

独特の絵柄の書かれた木材で何かを組み立てているヒルチャール数匹程度のの群れがそこにいた。

「最近、荒野の化け物が城に近付いてきているの。今回の任務は、その巣の掃除よ」

言うが早いか、一瞬身を低く構えたかと思うと勢いよくアンバーが駆け出す。

走りながら上方へ矢を構えて放つ。走る速度より早く最高到達点へ届いた矢は、矢尻の重さに引かれて落ちていく。その先には、見えたヒルチャールの群れの一番離れた個体。

「ほう...」

「私も手伝ってくる!」

「あ、おい!」

止める言葉が出るより先に蛍も走り出す。その手にはどこから現れたのか、細身の剣が握られている。

「クウガじゃあるまいし...」

これで手を貸さなければ後から変に恨まれかねない事を思い出し、その背を追う。

気付けばパイモンはどこかへ消えていた。

追いつく頃には群れはほぼほぼ掃討されていた。骨と皮しかないようなヒルチャールの体は、枯れ枝を折るように剣戟に割られ、またその仮面ごと矢に射抜かれていく。

そうして力尽きたヒルチャールたちは、内側から何かを発散するように淡い光を放ちながら消失していく。

粗方片が付いたか、さほど息を乱したようでもなく弓兵と剣士が立っている。

「ふぅ。楽勝楽勝!」

見渡した限りのヒルチャールを片付けたことを確認したアンバーは弓を背中に担ぎ直しながら息をつく。それを見て蛍も剣を仕舞う。背後にああやって武器が浮いているのもなかなかに不思議なものだな。

「でも、あんた達も戦えるなんて思わなかったよ」

何もしていない俺は軽く両手を上げ何もしていないことを示し、蛍は照れくさそうに首根っこを掻いている。

「支援ありがとう。ねぇ、戦ってどう思った?」

「全然楽勝だよ」

テンションの高い二人が拳を軽くぶつける。

「なんでこんなところにヒルチャールが現れるんだ?こういう奴らは普通、都市から離れたところに巣を作るよな?」

急にどこかから現れたパイモンが疑問をぶつける。それを聞いたアンバーは腰に手を当て考える素振りを見せる。

「そうね...本当だったら荒野にいるはずね。でも最近、風魔龍が頻繁に出没するようになって、キャラバンのルートが影響があったの」

話しているうちに顔が深刻になっていくアンバーをそれぞれが注視する。

「暴風が発生する度に怪我人が多数出るし...騎士団はその被害から守らなくちゃいけなくてね」

「で、こいつらへの牽制どころじゃなくなったと」

「そう。でも、今日また巣を片付けられたから進展はあったわ」

そう言ってアンバーが大きく手を叩く。集中しすぎたパイモンがひっくり返ったがそのまま話を続ける。

「さあ、わたしについてきて!真面目で優秀な騎士が、あんたたちを城まで送ってあげる!」




稲妻までのイベントのリストアップが終わらない...
モンドにまだ着かない...
士がまだ変身しない...
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