ひとまずモンド城へ向けて移動を開始した一行。
道中で出会った騎士を名乗る少女アンバーに誘われ、周辺の魔物を追い払いつつモンド城へと足を踏み入れる。
眼前にそびえ立つ城門の壮大さに目を奪われる。
移動中に見たときですら随分な大きさを感じたものだが、こうして直ぐ側に立つとその感覚も桁違いだ。
過去にキャッスルドランの中には行ったことがあるが、名前の通り見た目とスケールだった。それに比べこれは街を丸ごと内包していることもありこれまでに見たどの城塞よりも大きく感じる。
門の横に立つ衛兵と何か話し込んでいたアンバーがこちらへ戻ってきて佇まいを直す。
「あらためて紹介させてもらうわ。風と
アンバーが勢いよく城門へ腕を広げる。それに合わせてか城門が開き始め、町並みが顔をのぞかせる。
「西風騎士に守られてやってきた旅人さんたち、モンドへようこそ!」
そのままアンバーが先陣を切り街へ入っていく、それに続き俺たちも城内へ足を踏み入れる。
所々に瓦礫が散乱し万全の状況という雰囲気ではないが、ようやく腰を落ち着けられる場所へたどり着いた。
見るものすべてが新しい場所だったせいか、まだこの世界に来て半日経っていないというのに、随分な時間を過ごした気がしている。
「これでやっと野宿しないで済むな」
大きく伸びをしながらパイモンが呟く。
「でも、みんなあまり元気がなさそうだね...」
辺りを見渡しながら蛍が続く。
「最近、みんな風魔龍の件で頭を悩ませてるからね」
アンバーは答えながら振り返り、後ろ向きに歩きながら喋るという器用な芸当をしながら胸を張る。
「でも、ジンさんがいれば、きっとうまく行く!」
「ジンさん?」
噴水のある広場で立ち止まる。
「西風騎士団の代理団長。モンドの守護者だよ」
両手を広げアピールするように続ける。
「ジンさんが一緒なら、風魔龍レベルの災害でも、きっと打ち勝てるはず」
「すごい人みたいだね」
「うん!」
随分楽しそうに話す姿を写真に納めながら、街の景色の写真を撮る。
やがて少し強い風が吹き、アンバーがその長い髪を押さえながら何かを思い出したような顔をする。
「そうだ。一緒に騎士団本部へ行く前に、蛍に渡したいものがあるの。さっきヒルチャールの巣を片付けてくれたお礼だよ」
「おいおい!オイラにはないのかよ?」
「俺とお前は何もしてないだろ」
「うーん...いま持ち合わせてるのが一つしかないし、士はともかく、パイモンちゃんには使えないというか、使っても意味がないっていうか...あ、でも、二人にも今夜はモンド名物の人参とお肉のハニーソテーをごちそうしてあげる」
「人参とお肉のハニーソテー!」
そんなに喜ぶようなものなのか。
「とにかく、わたしについてきて。今から...高い所に行きましょう。ほら、行くよ!」
突然駆け出したアンバーを追ってたどり着いたのは、大きな女神像が目立つ高所の広場だった。
シスターのような格好の女性が数人の男女に何かを語りかけている。
ただ、街を見下ろす広場の立地のせいもあり、被害もひと目に見て取れた。
「普段、この辺は賑わってるんだけど...最近は風魔龍のせいで、商人や旅人がめっきり減ってね」
公園の縁から見下ろす俺の横からアンバーも街を見下ろす。
「でも、曲がり角にある酒場はあまり影響を受けてないみたい...むしろ、いつもより繁盛してる?」
「酒の供給には被害が出てないのか」
「うん、あそこは近くのワイナリーから直接やり取りしてるから」
「なるほどな」
随分と酒飲みの多い街らしい。
「なあなあ、ここで何するんだ?」
「おっと、それはね...」
待ち切れないパイモンがアンバーを急かし、アンバーは腰に下げた宝玉に手をかざす。
すると、二本の輪の付いた折りたたまれた羽が現れる。
この世界ではこれが普通なのか...。
「じゃーん!風の翼よ!」
なにか操作をしたのか、畳まれていた翼が勢いよく展開され、その全貌を晒す。
「偵察騎士はこれで空を駆け抜けるの。モンドに住む人たちも、みんなこれを愛用してるんだ。ここに連れてきたのは、蛍にこれの良さを体験してもらいたかったから!」
「ずいぶんと熱く語るんだな?」
「『風』はモンドの魂だからね」
そう言って蛍の背後へ回り、テキパキと準備を進める。
「さあ、さっそく風の翼の性能を試しましょう。操作は簡単だけど、指示はちゃんと聞いてね」
「う、うん」
なるほど、滑空用の装備なら体格の近い蛍に渡るわけだ。
蛍は挙動を確認するように翼を開閉している。原理としてはグライダーと同じようなものなのだろう。
「じゃあ行ってみようか」
そう言って公園の縁に立った瞬間だった。急に目も開けられないほどの強い風が吹く。
腕で顔を庇いながら状況を確認する。アンバーは尻餅をついただけで済んだが、蛍は...
「う、上だぁ!」
見上げると、風の翼が風に乗り上空へ吹き上げられてしまった蛍と、その向こうに蛍の陰からはみ出す巨躯が映る。
「風魔龍だ!」
アンバーの声を聞きながら、向こう側の影に目を凝らす。
「あれ、森にいたやつじゃないのか?」
「みたいだな。アンバー!こいつは任せた!」
なんとか腕をつかんだパイモンをアンバーに押し付けて縁を踏み越える。
まだ手の内を明かすつもりはなかったが、まさか本当によくわからないうちに戦うことになるとは。
イメージを確かめ、声に出す。
「変身」
声に応えるようにベルトが現れ、体の周りに光が集まる。時間が惜しい。直接本来の姿以外の姿を選び取る。
直後に背中に展開された6枚の羽根が、風を受けて空高く舞い上がる。
『FORM RIDE JACK』
そのまま蛍の方へ流れる。蛍は風魔龍の生み出す気流に飲まれて身動きが取れていないようだった。
風に煽られ姿勢を崩しそうなその背中に手を当て、姿勢を安定させる。
蛍が気付き、こちらを見る。
ものすごい強風で何を言っているのかはわからないが、風魔龍の背中を指差し何かを伝えようとしている。急に圧縮した風の刃を風魔龍に向かって放つが、水の中で水鉄砲を撃っても消えるように、途中で霧散してしまう。
改めて風魔龍の背中を見る。その青い背には、森で拾った赤い石と同じような鈍く赤黒い光を放つ結晶が幾つも着いていた。
あれを壊そうとしたのか?
左腰のライドブッカーを外し、グリップを軽く起こす。銃としての機能を展開したそれを持ち、結晶に向かって引き金を引く。
風の刃ほどではないが、目標に届くより先に風に飲まれて力を失ってしまう。
蛍の方を見ると首をブンブンと縦に振っている。
「届かせるにはあのカードを使うしかないか...」
あまりのデメリットにそう簡単には使えないカードだが、そのカードでなくては打破できないことを悟り、ライドブッカーの中から2枚のカードを取り出す。
カードを構えたところで、急に辺りが静かになる。
「この声...」
蛍には何か聞こえているらしく、しきりに何かにうなずいていた。
こちらはといえば、このカードの力を使ったとしてもチャンスは一回であるため、タイミングを測っている。
ごう、という音と共に突然風魔龍が加速する。
「迷ってる余裕もないか」
蛍から離れ、カードを2枚立て続けにベルトへ滑り込ませる。
『ATTACK RIDE GOURAM』『FORM RIDE PEGASUS』
空中に描くように現れる巨大な甲虫-ゴウラム-にすくい上げられ、風魔龍へ向けて加速する。
なんとか追いついてきた蛍の音が強化された聴覚に響く。再び放たれた風の刃に頭が割れんばかりの激痛が走る。だが、その研ぎ澄まされた感覚こそが今必要だった。
右手に持ったライドブッカーはいつしか緑色の宝玉が輝くボウガンへと変貌していた。
矢を番えるようにコッキングレバーを引き、目に感覚を集中し、暴風の網の隙間を狙う。
風魔龍が向きを変える一瞬、動きの遅れた瞬間にトリガーを弾く。
音もなく飛び出した矢は、寸分の狂いもなく結晶の一つを砕く。
蛍の放つ風の刃が結晶を砕く音で限界を迎え、緑色の弓使いの姿からマゼンタカラーの姿へ戻る。
激痛により荒くなった息を整えるより早く一段と風魔龍は加速し、今度こそ追い付ける状況ではなくなってしまった。
先程まで風魔龍のあおりを受けて飛行していた蛍も、吹き上げる風がなくなったために段々と高度を下げていく...下がっていく。
何かを言いながらこっちへ身振り手振りしているが全くわからないので高度を合わせると、かなり必死な顔でこちらへ訴えを始める。
「これ、すっごく痛い!」
「あんなスピードに乗せられりゃあそうだろうな」
「あと、士のそれ何!?士って何者なの!?」
突然の事でこんがらがったまま興奮している蛍を相手するのが面倒になり、ゴウラムに蛍を掴ませる。
「え、ちょっと!」
そのまま急降下し、地面から少し離れた高さで蛍を放し自分も飛び降り変身を解く。
「危ないじゃない!」
蛍が着地するなり開口一番こちらへ詰め寄る。
「うるさいな。何ともないなら問題ないだろ」
割れるように痛む頭を押さえながら辺りを見渡す。
女神像のある公園が壁の上に見え、近くの階段を駆け下りてくるアンバーとその腕に抱えられたパイモンに気が付く。
アンバーとパイモンに向かって蛍が駆け寄っていくのを目で追っていくうちに三人を挟んで丁度向こうから来る青い意匠の長身の男と目が合った。
俺の視線に気が付いたのかアンバーが振り返り男へ駆け寄る。
「ガイア先輩。ちょうどよかった、一緒に」
「待て、アンバー。見たことないヤツがいるんだが?」
ガイアと呼ばれた男は俺と蛍、そしてアンバーの後ろに浮いているパイモンをその隻眼で訝しげに眺める。
「あっ...そうだった。こちらはガイア先輩。わたしたちの騎兵隊長なの」
城の外で言ってたガイアってこいつか...と改めて出で立ちを眺めるが、色こそ衣装に馴染み目立たないものの手の込んでいるであろう装飾と薄笑いを浮かべ真意を計りかねる面構え...俺はこんなのと一緒にされたのか。
隊長が単独行動か?と疑問に思わない訳では無いが、別の世界へ来ている以上何か定義の違いがあるのだろうと納得する。
続けてアンバーはガイアへ向き直り俺たちを手で示す。
「この人たちは、えっと...遠いところから来た旅人さん」
その言葉を聞いてガイアの眉が上がる。兵を束ねる立場上そういった警戒は怠らないのだろう。
「事の経緯としてはその、モンド城の周りをフラフラ歩いてたから声をかけて、家族を探してるっていうから協力できないかと思って一緒に来てもらって...」
ほとんど流れで付いてきたようなものだから、報告するにしても中身が無さすぎる。だが、この少女の人の良さからかはたまた彼女がこういったことをすることは日常的なのか、ガイアはくつくつと喉を鳴らしながら彼女の説明を受け入れたようだった。
「なるほど、モンドへようこそ。しかし、こんな最悪なタイミングで来るとはツイてないな...」
やれやれといった様子で肩をすくめたかと思うと、今度は妙に神妙な声を出す。
「俺にも分かるぜ、血縁者と離れ離れになるツラい気持ちがな」
自嘲気味に吐き出される言葉の真意は測りかねるが、このことについては思う事があるというのは理解できる。
「それから、何で風神を探してるかは知らないが」
そこでスッと蛍の顔を覗き込む。
「誰にでも言いたくない秘密はある。お前さん方もその口だろう?」
その迫力に押されてか蛍が後ずさったのを見て満足したのか、軽く笑いながら身を引く。
「ははっ、だから聞かないでおいてやるぜ。とにかく、騎士団を代表して礼を言うよ」
「被害が出るのを見過ごせなかった...」
大仰な動きで一礼をした後、蛍の言葉を聞いてまた面白そうに口の端を上げる。このニヤついた雰囲気でどうにもどう受け取ったかが読めない。妙な薄気味悪さを感じる。
「謙虚なことだ。で、さっきの風魔龍との戦いで、城内にいた人間は全員お前たちの活躍を目撃した。無論俺達の上司、代理団長もな」
「代理?団長様本人はこの状況でのんきにお出かけか」
「まあそこは追々な。そこでだ、俺達は風魔龍を退けたお前たちと話がしたい。騎士団本部まで同行願えるか?」
さっきので気圧されたのか不安げに蛍とパイモンがこちらを見る。
実際。この男は明らかに手の内を隠している感覚がある。だが、その横のアンバーは行動を共にした時間は短いが対照的に表裏のない快活な少女だとわかる。こんなやつでもやっていける騎士団なら不用意なことはそう起こらないだろう。
「...はぁ。ここで断ったって何にもならないだろ。首を突っ込むにしろそうでないにしろ、状況を把握しておくに越したことはない。それに、もとよりそのつもりだったろう?」
「そう、だよね」
「そうと決まれば俺は先に本部に戻って代理団長にあらましを説明してくる。アンバー、客人の案内は任せたぜ」
「は、はい!」
言うが早いかガイアは颯爽と踵を返しどこかへ去っていく。
「行っちゃった…」
「なんか凄いやつだったな。色々と」
「あはは、あれでもちゃんとやる時はやってくれてる...はずだから。私達も騎士団本部に行こっか」
そう言ってまた先導するようにアンバーが前へ出る。
「ならちょうどいい、移動しながら騎士団についても教えてもらおうか」
「うん!じゃあ何から話そうか...」
「そうだな、お前が代理団長を気に入ってるのは聞いていたが、団長様はどうしてるんだ」
「う~ん、風魔龍の騒ぎが起こるより少し前に遠征に出ちゃってね...」
「団長が自ら行ったのかよ?」
「うん、今のモンド城にいるメンバーでも大丈夫だって言ってテイワット大陸をぐるっと」
随分と信用されてるんだか楽天家なだけか、いざここまで窮地であることを思うと少々悩ましい。
「じゃあまだまだ帰ってくるって訳じゃないんだ」
「そうだね。当分は私達でモンドを守ることになってる。だから頑張らなきゃ」
確かに、そうなると城の周りの警戒は怠れないな。
「...責任重大だね」
「でも、だからこそしっかりやり遂げたら見直されると思わない?」
「上昇志向、だね!」
「うん!」
投稿するのに半年以上かかりました。
…いや、原稿自体はそこそこできてたんですよ…だのに、だのに…
スメール樹海エリア実装、スメール砂漠エリア実装。メインシナリオ追加、サブクエスト追加、メンバー追加。そしてそれによる想定してたシナリオの再構築。
そこに重なるように現実世界じゃ少々海を渡る転勤、業務形態の変更と業務形態の変更。新しい仮面ライダーの開幕。
書く気はあったしそこそこ書き上げてたのに細部調整したり今後出すカードの順番直したりしてたらすごい時間たってた…申し訳ない…