「―――」
酷く頭が痛い
肌寒い空気が肌を撫でる
ドクターに薬を打たれてから記憶が無い
どれほど強力な麻酔だったんだ
視界には草木が映っていた
体を起こし、辺りを確認する
「起きた?」
そこにはサラシ姿の霊夢が居た
焚き木に木をくべている
「…何があった?」
「何?」
「体をよく見てみろよ」
彼女の体は傷だらけだった
殴打されたと思われる傷が多くても5個くらいある
何に襲われたのだろうか
「問題無いわ、少し手こずっただけよ」
「どんな妖怪だったんだよ、それ」
霊夢をここまで追い込めるなんて、凄い奴も居たもんだ
個人的、ここまでやれる妖怪が居るとはあまり思えないが
「ま、いいさ」
ホルスターからM500を取り出す
「十分に寝た、行くぞ」
「何処に」
「家だ、借家だがな」
腰を上げ、黒い影となっている妖怪の山を見る
あそこの麓に己の借家はある
「危ないわよ」
「このくらいいつもの事だ」
「私が、心配なの」
霊夢は頭のリボンを弄りながらそういった
霊覇は少しも気にする事は無かった
シリンダーをスリングアウトし、弾丸を込める
五十口径の人差し指くらいの太さもある弾丸
この破壊力は結構好きだ、オートマチックは好きじゃない
ロマンが無いのだ
「俺は大丈夫だ」
そう言って立ち上がる
だが、ドクターの麻酔が余程強力だったのだろう
立ちくらみが起こり、倒れそうになる
「ほら、言ったでしょ」
霊夢が肩を支え、倒れるのを防ぐ
精神的な嫌悪と突き飛ばしそうになる衝動を抑えながら口を開く
「ありがとよ、借りが出来ちまったな」
「今夜は私の所に来なさい」
「迷惑かけるぞ」
霊夢は頷くと霊覇を背負って飛ぶ
そのまま、2人は帰路についたのだった
〇
奇妙な感覚だ
女に背負われるという感覚は、奇妙だ
仲間の男を抱えたり持ち上げて移動させた事は多々ある
だが、逆に移動させられたことは無い
特に言えば、女にだ
奴らは基本担架等で運ぶ
何度も俺たちが脱走したのを反省したからだろう
ここでは、俺は抵抗する意味が無い
「ねぇ、どんな感じよ、今」
霊夢がふとそんなことを聞いてきた
俺は上記と同じことを言う
「奇妙だな、俺は奇妙に思っている」
「奇遇ね、私もよ」
霊夢は男に触れたくても触れることの出来なかった女
外の女は捕まえれば幾らでも触れることが出来る
…何が違う?
心だ、汚さだ
子孫を繁栄させるという目的の為に動く
種の保存のためにその生を使う
霊夢は、純粋な男の愛情が欲しいのだろう
今の今まで、そんな感情に当てられた事が無いのだろう
「俺達は似た者同士か?」
「そうかもね、そうであって欲しいわね」
そういう彼女なスンとした顔だ
…多分そう、声がそんな感じだったから
「…綺麗だな」
「そうね、あなたにとっては新鮮かしら」
見下ろすと、幻想郷の夜景が広がっている
こういった電気の無い夜景もかなり良いものだ
妖怪の山も、どこかしら明るく感じる
そこの麓…主に川の辺りから、だがな
「俺はいい所に来たみたいだ」
「それは良かったわね」
昔のような"仕事"をしなくていいのはとてもいい
血が服に着くのはいつもの事、切り傷ですめばマシ
部下も死んだか捕まったかのどっちかだ
まぁ、死んだ方がマシか
〇
「ほら、着いたわよ」
「ありがとよ」
俺は彼女の背中から降りる
少し足を捻りそうになった
痛みを抑えながら歩き出す
「靴は脱いで、揃えときなさい」
「当たり前だろ」
霊夢と霊覇は本殿の中に入る
といっても生活スペースのある方だが
これといって変化は無い
釜戸のある台所以外は普通の和室だ
いつの間にやら、1つの布団が敷かれていた
「…そうだった」
霊夢はそこで何かに気づいたようだ
「私、布団1つしか持ってなかったわ」
「そうか、じゃあ俺は畳で寝よう」
「ちょっと待って」
霊夢は横になろうとしている霊覇を止める
霊覇は胡座をかく
「一緒に入りましょう?そしたら暖かいでしょう?」
「この寒さじゃ寝たら風邪を引く…か」
このまま頑固に寝て、風邪をひいて看病されるか
それとも一緒に寝て凄まじい地獄の空気を味わうか
「…分かった」
霊夢はその答えにニッコリと笑うと布団に入る
霊覇は横から潜るように入った
「…暑いな」
「これだけ近いとね」
霊夢の吐息が顔に当たる
距離が如何せん近い、顔が目の前だ
どこかしら、赤く見えるのは気の所為だろうか
「…眠くなってくるな」
あれだけ寝たのに、寝足りない
どうやら思った以上に疲れているようだ
「…おやすみ」
霊夢はそう呟く
それをトリガーのようにして、意識は溶けた
〇
「…可愛い」
目の前で、穏やかに眠る顔
それが何よりも嬉しかった
彼の家でよく見るのは魘される顔
ここはやっぱり、幻想郷の要だから
少しは良い夢が見れるのかもしれない
「…ふふ」
その頭は少し撫でる
ビクッと震えたが、起きることは無かった
「このままでいたいわね」
その寝顔を見ながらそう思った