「…なんて事だ」
そこはさながら、野戦病院の様だった
この廃工場にベットは少なく、大半が草のベッドに寝かされていた
寝込んでいるのは10人程
この男によれば見張りなどは10人程らしい
「あんたが指揮官?」
「そうだ、これでも准尉なんだよ」
「こりゃ失礼」
思いの外偉い人だった
今から参戦する自分は弁えなければ
だが彼はそうでも無いらしい
「いいって、今は准尉ってだけで指揮してるだけだから」
「分かった、俺たちも戦闘班に行った方がいいか?」
「おう、本部に俺たちは帰投するつもりだからな」
20人程でここを占領していたのか?
確かに占領は出来るが、30人程がいい気がする
そう呟くと、彼は乾いた笑いを零す
「いやね、俺たちは取り残されてんだよ
元は40だが、18人は帰投出来た、俺たちは無理だった」
「今日、帰るって事か」
「いや出来ないだろう」
辺りを見回す
死傷者は1人も居らず、足やら腕やらを撃たれた奴が多い
酷い奴に限っては両足が無いやつも居るのだ
その"種"さえ入手出来れば、本人は要らないと言うのか
霊覇の思っている事が分かったらしい彼は言う
「そうだ、だからこそ俺たちは抵抗してるんだ」
「楽にしてやったらどうだ」
「そうもいかない、本部にはすげー奴も居るんだ」
「と、いうと」
彼は目を輝かせる
まるで自慢したいかのように、キラキラと
その子供のような顔を見ながら霊覇は先を促す
「英雄だよ、修羅場をくぐり抜けてきた英雄達
発明や医療で最も貢献し、今も尚戦っている方々だ」
「成程ねぇ、その英雄様が直してくれるって事か」
「そうさ、どんな傷でも治すスーパードクター」
「俺たちも無駄死には止めないとな」
「最悪、決死の特攻とかをする奴も居る」
決死という言葉の通り、生きて帰った奴はあまり居ないがね
そんな言葉を彼は最後に付け足した
…矛盾してね?
「生きて帰ってきた奴が居るのか?」
「英雄の中に帰還者ってのが居て…なんでも死んでも帰ってくるらしい」
「…帰ってくる?」
彼は頷く
その目は少し、怯えが混じっているように感じる
「確実に1ヶ月以内、絶対に帰ってくる」
「死に損ないか」
「ま、そうとも言えるだろう」
彼いわく、どんな致命傷でも生き返る
その期間は確実に1ヶ月以内で、普通に動ける
頭をぶち抜かれても、胸を撃たれても、刺されても
その全ては奇跡的に心臓等を回避するのだ
まるで奇跡の様に
「帰還者というより、奇跡、だな」
「帰還者の方がいい、意識不明の重体の時もある」
「そうか」
霊覇は燦莉に目配せをする
サングラスでよく見えないが、その視線は話を引き出せ、と言っていた
霊覇は男にさらに質問をぶつける
「英雄ってのはどんなのが居るんだ?」
「そうだな、忍者とか」
「最初っからNRSを発症しそうなモノぶち込むな」
忍者って何だよ、忍者って
英雄に相応しい名前なのか審議が必要だよ
その様子じゃ英雄にはろくな奴が居なさそうだ
「他には」
「他にゃ潜入者、暗殺者、偵察兵、コマンダー…色々だな」
能力が特出している者が言われる英雄という名
それは恐らく、総司令から言われるものでは無いのだろう
その戦場に居る戦士達から、畏敬の念を込められて、言われるのだ
ただ単に運が良いだけか、はたまた実力があるか
それでも、生きて帰ることは変わらないだろう
「運が良いだけの似非異能生存体か」
「いや…噂によれば程度の能力というものを持っているらしい」
なんだそれ
程度の能力って、何かのゲームか?
それとも科学的に解明できなくて、そういうことになっているのか?
霊覇が首を傾げると、彼は当たり前だ、と呟く
「それは科学的に解明出来ないから言われてるんだ」
「不思議な物って事か?」
「物じゃない、能力だ、本当に、能力としか言いようがないんだ」
よく分からないものだ
にしてもどこかで聞いたことのあるような気がする
自分の妹も、不思議な奴だった
「やれやれ、ま、帰還しなけりゃ意味がないか」
「それもそうだ」
見上げると、蒼い月が見えた
何時もの黄金色の真ん丸とした月ではなかった
蒼い、蒼い、蒼い
その月は青く、青い月光を工場に向けていた
ブルームーンという現象が有る訳では無い
ブラッドムーンでも無い、別のモノ
「なんだってんだ…」
「…?」
カン、カンと鉄を踏みしめる音がした
それはこの部屋の暗がりから響いているようだった
その暗がりは違う部屋に繋がっている門のようなものらしい
霊覇は目を凝らし、それを見た
鈍く輝く鉄の銃身を
「くそっ」
M500を照準、引き金を引く
バカンと派手な音を立て、ソイツは死に倒れた
「奇襲か、早いな」
「一気に潰す作戦なんだろうか」
燦莉がM4の引き金を引く
窓の外に向けられたそれは景気良くマズルフラッシュを放つ
悲鳴と嗚咽はその後から聞こえ始めた
「囲まれてる」
「味方を集めるぞ」
その数秒後、銃撃が始まった
今から味方をここに集結されるまで、銃を手放す事は出来ない