不思議な事に戦争のリズムというのは体から離れる事は無い
一定の心拍数に一定の緊張感
それは他のどれにも変えられることは無い
なぜなら戦闘、戦争には引き剥がせない物があるからだ
死、という概念は絶対に引っ付きまわるのだ
その絶対的な物は人をがらんじめにしてしまう
ある者はそれに魅了され、ある者は恐怖する
ある者はそれを克服し、永遠の苦痛を味わう
果たして不死というのは憧れなのか
その目指した場所にあるのは孤独だけではないか
それをこんなところで思っている
「デイモス、配置についた」
『こちらサンフォード、同じく』
扉の横につく
耳のヘッドホンから聞こえるのは親友の声だ
現在の作戦はこの建物に監禁されたとある「女」の確保だ
この任務が失敗すれば2人の価値が無くなり、殺される
もしくはただ外に放り出されるだけだ
保護下に無いペットが食物連鎖の最下層に居るかのようになってしまう
補給も無く戦い続けるのはただの無謀である
そう思いながら静かに扉を押したのだった
○
「…」
目が覚めるとそこは暗い部屋だった
地面は自分のいる所が鉄で、他がコンクリだった
鈍い痛みが少し残っている
自分の左に燦莉が居るのは呼吸で分かった
服装は上半身裸になっていた
自分たちに光が当たっている
目の前から照らされたソレは眩しく、目を思わず細める
「…」
横で静かに燦莉が起きた音が聞こえた
布が少し擦れる音がした
今の体制は両腕をロープで上に吊り上げられている
そしてつま先立ちくらいの高さに調節されている
少しキツい、早く担当者は来てくれないか
「お目覚めのようだな」
誰かの声がした
光でよく見えないが男は確実に居た
あのガスマスクのようなくぐもった声では無い
口から出て、空気を伝い、鼓膜を震わせる音だ
「誰だ、誰とは言え歓迎されていないようだが」
「何を、私は歓迎しているよ」
男の声は不自然な程耳に入る
指揮を得意とする者の特徴だ
というか歓迎されていないだろう、こんなの
「俺としては早く横になりたいがね」
「で、あるならば少し質問をしよう」
カタン、と革靴の音が響いた
何かが光の奥で歩いているらしい
「君達は"special man's file"というものを知っているか?」
「あ?何だそりゃ――あああああああああああぁぁぁ!?」
「うぉぉおおおおああああああああぁぁぁ!!!」
痛み
青白い電流が鉄を走ったかと思えば体に走り、全身をのたうち回る
その痛みは銃で撃たれるよりも辛く、長い
身構える余裕すら無いほど、身構える意味が無いほどの電撃
四肢が引きちぎられ、意識が焼かれるような痛みが襲ってくる
全身の神経が切り裂かれ、細胞、体が一瞬で沸騰したかのような痛み
撃たれるような、斬られる様な痛みとは違う
そしてまた、致死量に達しない事も明らかだった
その男の声が移動していることから革靴を履いているのは彼と分かった
電撃は燦莉にも与えられたらしい
悲痛の叫びが室内に響く
不意に、電撃が止まった
「がァ…はぁ…」
体からバチバチと電気が散る
痛みは肌寒さなどを凌駕し、襲ってくる
感覚と神経が麻痺し、口から涎がダラダラ出てくる
涙で光や影が歪んでみえる
声なんて出たもんじゃ無い、呻きすらあげられない
「ほう、気絶しないとは
流石は数々の施設を襲っただけはある」
感心したような口調でそいつが言う
顔は見えないが、多分ほくそ笑んでいるのだろう
「この情報を知らないとは、余程機密なものなのだろうな」
何がspecial man's fileだ
そんなの聞いた事すらないし、見てもない
また、電撃が走った
先程の全身くまなくという奴では無い、局地的だ
主に爪、歯や目と言ったところだ
爪を全て剥がされたかのような痛み
歯を全て強引に抜かれたかのような痛み
目を数千の針で刺されたかのような痛み
床から放たれた物とは思えないほど強力で、局地的
涙と涎が止まらず溢れ、目、指から目が出るかと思えるものだ
ヌメヌメした液体が体を流れる
その苦痛がいきなり止まった
「…合格、と言いたいところだが」
不意にそいつが言った
何、どういう事だ、勿体ぶらずに言えよ
俯きながら心の中で叫ぶ
「まだまだ、信用は出来てないのでな、任務を与えよう」
瞬間、拘束が解けた
天井から吊るされていた腕が解放される
それを失い、支えることも出来ない足は体と共に崩れ落ちる
膝立ちでは無い、四つん這いになり、息を荒らげる
燦莉も同じらしく、荒い息が聞こえてきた
…アイツ、サングラスだけは持ってたんだな
「ゆっくり休むといい、最初から激務だからな」
革靴が去り、変わりに数人が歩いてくる音がする
体が持ち上げられたところで、自分は意識を失った