さてまぁ、こうして任務を受けたものだが奇妙である
任務と思われる紙には必要最低限の事しか書いてなかった
場所、人物、注意事項、それのみ
というか謎の力ってなんだよ
そんな抽象的な事言われても俺には理解しかねる
もうちょい具体的な事は書けなかったのか
それ以外には彼女の友人は既に行方不明とのこと
マヌベリーだか、マユリーだか知らんが…ま、いいだろ
特に記憶する事でも無いはずだ
静かに入った扉は静かに閉まる
拘置所のような役割を果たしているその建物は賑やかでは無い
どちらかと言うと様々な怨嗟の声が聞こえてくる
その声に耳を貸すこともない看守はただ腕を後ろに組み、佇む
今日もそうして佇む筈だった
「――」
口を塞がれ、喉を掻き切られる
そのまま体は制御を失い倒れてしまう
血が出る前に近くのロッカーにぶち込み、GPSを立っていた場所に置く
「こんな所でも警備は居るんだな」
『ああ、監視カメラもあるが…心配ないさ』
ぐちゅり、という音ともに嗚咽が無線から聞こえた
それは何か鼓動する物を握りつぶした音だろうか
霊覇は相変わらずヤベー奴だなと思いながらすすむ
とはいえ場所はよく分かっていない
不思議な力を使う事から厳重な所にいると思うのだが…
そもそもその力を本人が人前で見せたか、である
恐らく父親が気付いただけであり、周りに知らせもしなかったのだろう
今現在政府は知らないのだろう
知られるのも時間の問題だ、早めに終わらせてしまおう
看守を殺し、進んだ先にあったのは独房だった
廊下の両側に一定距離ずつ独房がある
「何処にいるんだ?」
『1番奥だ、突き当たりの階段先に居る』
そう言う燦莉の声のトーンは少し落ちていた
監視室のカメラから、見てはいけないものでも見たのか
独房の扉は鉄で出来ていて、手が出せる程度の小窓がある
そこから本やら飯やらなんやら入れるのだろう
ちらりと覗くと横たわっている誰かが見える
もはや注視しないと見えないレベルの呼吸だ
他の部屋も同じようなものだった
「みずを、く…れ」
「は、ら…が…」
「ぐるじぃ、ぐるじぃいいぃ…」
嗚咽が、苦しみが
奥に行けば行くほど深くなる
ここは餓死房か?
やっていることがナチス・ドイツと同じだ
男も居れば女もいる
もう、何が何だか分からない
『見たか?それが政府のやっている事だ』
「…司令」
不意にヘッドホンからしたのは司令の声だった
目の前の惨状は目を背けるほどのものだった
だが、背ける事は出来なかった
出てきたのは、怒り
己が住んでいた国の政府が、こんな事をしていたなんて
それだけが、頭の中を埋めつくしていた
『表は生存を願い、裏では反乱因子を消す
それが今の政府だ』
――それでいいと思うか?
頭に司令の声が響く
「いい筈が無い、そんなはずが無い」
霊覇は力強く言う
こんな過ち、許してたまるか
こんな政府、ぶち壊してやる
『よく言った…それでこそこの組織の仲間だ
早く任務を終わらせてしまい給え、待っているぞ、同士よ』
「了解」
俺はそういうと、いつの間にかたどり着いた階段を降りていった
○
階段の壁には意味不明の文字が乱雑に書かれていた
いや、もはや意味の無いような記号もあった
それら全て血文字で、身体を削って書いたものも多かった
文字は降りれば降りるほど比例するように増加していく
そして目標が居る扉の周りは真っ赤に染まる程文字があった
「なんだこれ…!」
『気を付けろ、資料によればそこは封印房だ』
封印房?ならこれらは封印?
どこが封印だ、ただの呪いだ、こんなの
「…、札…」
よく見ると、赤い扉には札が恐ろしい程貼り付けられていた
血文字にかき消されたかのような
手を伸ばし、扉に触れる
「っ!?」
瞬間、札がバラバラも剥がれ、床に落ちる
それと共に扉がゆっくりと開いた
M500を室内に向ける
中は暗く、何も見えない
ただ扉の真上にあった光が、少し中を照らしていた
それでも目標の姿は見えなかった
壁を探る
電気のひとつくらい、あるはずだ…
そう思い、探す
微かな凸凹が指に当たり、押す
瞬間に光が部屋を満たした
「…っ」
「…」
彼女は居た
壁から鎖が伸び、腕を拘束している
既に意識が薄いのか膝立ちだ
高校のカッターシャツを着た女の子
メガネをしているが片側が割れている
これが、司令の娘?
「うう…?」
と、彼女が目を薄く開いた
霊覇は彼女の目の前で顔の高さを同じにし、頬に手を当てる
「意識はあるか」
「貴方は…誰…私は…」
「お前を助けに来た、父親が待ってるぞ」
「父さんが…?」
「ああ」
霊覇はピッキングで鉄輪を外す
いきなりの自由に思考が追いついてないのか、自由になった腕を見ていた
「助けて、くれるの…?」
「そうだ、行くぞ」
「…歩けないよ」
余程衰弱しているのか、足が動かない様だ
霊覇は仕方ないと割り切り、彼女を姫様抱っこする
背中には通信機がある、これ以外ない
文句を言われる思いきや、彼女は既に眠っていた
「…こりゃ、早く帰らないとな」
その、安心しきった寝顔見ると、そんな言葉がたれてしまうのだった