女嫌いのあべこべ幻想郷入り   作:回忌

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何の為に

レバーをコッキングし、弾薬を送り込む

そしてそれを敵に向けて撃つ

 

「アァ!」

 

敵は変な声をあげて死んでいく

それをこの暗闇の中繰り返していた

 

何処か、今だ何処か分からない

 

死んだと思った

 

自分は体を穴だらけにされた

それだけは良く覚えている

 

ただ、ここは?

この空間は何なんだ?

 

死んだのなら魂は三途の川を渡る

そしてその先で閻魔に裁かれるのだ

 

だが、ここは違う

 

地獄とも、違う遠い場所

分からない、分からない

 

ただ、目の前の敵を殺すことだけを考えている

そうでもしないとこんな真っ黒い空間に居られない

 

誰か、出してくれ

 

いきなり、空間が生まれた

バシリと、雷が落ちたように。

地面から上へ裂けるように展開された空間

その空間から鎖が伸びている

覗き込むと、それは地面に伸びているのが分かった

 

ウィンチェスターを滑車代わりに滑り落ちる

 

そこは赤い世界だった

灰色の浮島が大量に配置された、味のない空間

 

地面に降り立った時、地面がえぐれた

 

後ろから撃たれたらしい

ウィンチェスターを即座に向け、発砲

散弾は簡単に敵の顔面を破壊していく

 

打ち切ったと認識するともに近くのレバーを思い切り倒す

 

すると、世界が"逆さま"になった

 

あらゆる物が逆転した

地面に落ちていたものは全て奈落に落ちていく

 

空薬莢、死体、銃

 

そして、己

 

飛行能力も今の自分には無かったらしく、法則に従い落ちる

そこに、長方形の浮島があった

 

黒い深淵、暗い穴から、先程の大地に鎖が伸びている

 

そこに手を伸ばす

幸か不幸か、そこに手は届いたのだ

ぐっと、掴むことは出来た

 

だが、直ぐにそれを離してしまった

 

上手く、掴めなかったからかもしれない

 

霊覇は、妙な視線を感じながら奈落へと落ちていった

 

 

「霊覇さんは!霊覇さんは助かるんですか!?」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん…」

 

「分からないわ、生きてるには生きているけど

 生きているとは思えないけどね」

 

ベッドの上

そこには包帯でぐるぐる巻きされた人型があった

シーツは零れた血で大きなシミが出来ている

全身、包帯だらけで包帯が無いのは足くらいだった

 

確かに、それは生きているとは思えなかった

 

包帯の僅かな隙間から色の無い瞳が見えるだけ

機材からは定期的に心拍の機械的な音が響く

 

まるで深呼吸のようにゆっくりなそれは今にも消えそうだった

 

「…生きて、生きて…お願い…」

 

「…霊覇が霊夢の兄だったなんてな」

 

魔理沙が、ポツリと呟いた

この異変が解決した時、霊夢が誰のことを叫んでいるのか分からなかった

音速で飛ぶ彼女について行き、辿り着いたのがここ

 

永遠亭に霊夢と魔理沙は入り込んだ

 

そして、あるモノを見つけた

 

滅茶苦茶にされた霊覇を

 

もはや人間とは思えないソレは兄とは思えないだろう

 

ただの肉の塊、ひとでなし

なんてったって、顔の残っているのは後頭部と左目だけだから

一時取り乱した霊夢だが、彼が生きていると伝えられ安心した

 

こうして、彼の再起を祈っている

 

彼が戦っていることも知らずに

 

霊夢が腰に巻いてるホルスター

そこに入っているM500のグリップが、妖しく光った

 

 

長く落下しながら思う

 

ここはどこだ?

俺は何故ここに居る?

意味がわからない

 

様々な疑問が頭を過ぎり、走り去る

ただ、風が帽子を嬲る

 

服装が、戻っていた

 

ヘッドホンに黒い帽子(頭が無く、ツバと縦だけの物)

それで服装も開いた軍服にポケットの多い迷彩ズボン

背中には大きな通信装置があった

 

全て、戻っていた

武器は無いものの、服装、全てが戻っていた

 

かつての姿

 

自分にはもはや懐かしく

 

そして忌まわしい物だった

 

何故なら、もう決めたから

こんな姿をして、戦わないと

人を殺める為にこうした訳では無いと

 

だからこそ、あの時銃を捨てたんだ

 

あの、銃を

 

M500を捨てたんだ

 

今思い出すと分かるが、あれはどうなったんだろう

誰が回収したのか、覚えてすらない

だが、考えている意味も無いだろう

 

というか、いつまでも落ちていくんだ、これは

 

あまりに暇すぎるが故に俺は煙草を咥える

そして、ZIPPOを取り出し、着火する

少し空気抵抗で体が逸れたが、なんとか着火した

 

そして、それを一服しようとした時

 

 

 

 

 

地面に埋まった

 

どうやら浮島のひとつに墜落したらしい

タバコは衝撃で地面に落ちた

ハマった体をなんとか引き起こし、窪みから脱出する

 

長方形の薄い壁があった

 

ただの壁だ、特筆することは無い

それに背を向け、辺りを見回す

 

先程の窪みは黒い液体が大量に染み出ていた

それは自分の体にも言えることであった

顔も若干その黒い染みが付着してしまっている

 

ハッキリ言って不快なのだが、拭き取れ無いのだ、これが

どれだけ袖で拭き取ろうともそれは袖に付くばかりだ

一行に拭き取る事が出来やしない

 

そんなことはどうでも――

 

「うがっ!?俺の顎が!?」

 

唐突な痛み

それは自分の顎から生えている刃からだった

いきなりだった、気配があった訳じゃ無かった

 

本当に、唐突だった

 

そして、そのまま後ろに引き摺り込まれる

宙に浮きながらだったせいか、抵抗なぞろくに出来なかった

 

俺は、ドス黒い深淵にまた浸かった




あ、ども、お疲れ様です

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