ミンチと化した痛みの後、俺は何処かに飛び出た
感覚的に恐らく二階に飛び出たのだろうか
体が重いが、それほどでも無い
俺は立ち上がると、後ろを見た
そこには、他の奴らとは違う女が居た
獣耳と尻尾、それに大剣と盾を持っている
そいつは俺を…俺の顔を見て息を飲んだ
自分の顔がどうなっているかなんて知っている
どうせ下顎が無い凄惨な顔だろう
言うてこういうのは慣れなのだから、慣れるしかない
…して、どこかで見たような
「…、……、、……」
それで文句のひとつでも言おうとした
お前は誰だ、どうしてそんな綺麗何だ、と
だがそれは言葉にはならず、ただ骨を打ち合わせるだけ
それを見て、女は顔を強ばらせる
妖怪のくせにこんな物も見たことがないのか?
それとも、現世には無いものだったか
まぁいい、やれることをやるだけだ
ナイフを拾い、奴に飛び掛かる
奴は俺を蹴ろうとするがそんなの丸見えだ
軽く避けてナイフを首に走らせる
奴が体勢を変えたため、ナイフは頬に傷を作っただけだ
奴は大剣を振り下ろす
ただ振り下ろすだけなら避けやすい
縦から下への攻撃なんて横にスライドすればいい
そこをついてナイフを使うのだ
切っ先を思い切り奴に突く
盾が火花を上げて防ぐ
奴は大剣を構えた
不味いと思い後ろに下がる
大剣が音速のスピードで突きを放つ
それは簡単に俺に切り傷を発生させた
流石人外、こんなのは簡単ってか
俺は人間だぞ、こんなの出来るわけないだろ
「…、……」
クソ野郎、と罵倒した
だが言葉には出ず骨を打ち合わせるだけ
舌が無いと発音できないのはかなり不便だ
俺はナイフを捨てる
先程の突きで切っ先が曲がっていた
拳をパンパンと打ち鳴らし、格闘戦に移行する
パンチ
まずは懐に放ち、肋骨に当てる
妖怪なら骨の一本程度同意ということは無いだろう
それでも動く度の痛みは動きを時たま止めるかもしれない
だが、腕で防がれた
鈍い痛みが拳に伝わる
奴は近過ぎて大剣が使えないと思ったのか盾で叩き潰そうとする
こちらは素直に叩き潰される性格では無い
それを避けて奴の足を掴む
「しまっ――」
隙を作った自分を恨め
俺は奴を思い切り振りかぶって投げた
綺麗な軌道を描いてケツから壁に激突する
奴は壁に埋まった
穴の空いた壁からドロドロと黒い液体が広がる
彼女はもがいていた
どうやらケツがハマって出れないらしい
チェックメイトだ
ナイフを拾い、構える
そして、投げようした
「ッ!」
奴の胸から刃が生えた
それは俺を地面に引きずり込む時に出る奴と同じだ
つまり、今から起こることは…
奴は悲鳴をあげる暇もなく、壁に吸い込まれていった
俺はナイフをしまうと歩き始める
行き場所は分からない、どこに行けば良いか分からないから
とはいえ、進めばどうにかなる
そう思い、進んだ時だった
「ぐはっ!?」
痛み
奴を貫いた刃とは違う何かが腹を貫通していた
それは、赤い昆虫の腕のような物
黒い爪が俺の腹を貫いていた
それを掴み、何とか抜けようとする
だが、深く刺さっていて抜けない
俺はそいつに、よって、壁に叩きつけられた
壁を貫通して、また別のどこかに移動させられた
腕が力強く振り、俺を飛ばす
俺は顔を上げた
そこは外だった
崖から先程の昆虫の腕が生えている
ゲボりとドロドロの黒い液体を吐き出す
痛みに苦しんだ
俺が苦しんでいる頃、現世では巫女に動きがあった
○
「彼のところに行かないと…」
「どうやって行く気だ」
燦莉は動揺しすぎている霊夢を落ち着かせる
今は待つしかないというのを認識させるしかない
だが、歪んでいる程の感情はそれを受け入れない
「どうやってでも言ってやるわ…!」
彼女は頭を抱える
恐らく、彼女の中で何か考えているのだろう
どうやって兄を助けるか
実は先程からうめき声がしているのだ
霊覇の口から、悪夢を見ているかのように
同じ場所に行って、助けたい
それが霊夢の気持ちだった
「…嫌な予感がする、永琳――」
燦莉が、永琳を呼ぼうとしたときだった
「――ああ、いい方法があるじゃない」
凛とした、無機質な声が聞こえたのが
それが一瞬誰の物か分からず俺は硬直した
いや、声だけじゃない
霊夢の、顔
あの、無機質な、黒曜石の様な透き通った黒の瞳
「れ、霊夢、待て、早まるな…」
「これしかないわ、それじゃあ」
そういうと、彼女は針を取り出した
退魔の術が施された腕の長さ程ある針
それを己の喉元に突き刺した
「霊夢…!」
俺は急いで針を引き抜く
だが既にやられたらしい、パタリと倒れた
直ぐに耳を胸に寄せる
これで鼓動がなければ最悪だ
今も未来も無くなってしまう
「…良しッ!永琳!永琳を呼んでこいッ!早く!」
「わ、わわわかりました!」
鼓動はあった
過去形では無いが今すぐにでも過去形になりそうなくらいの鼓動
早めに措置をしないと不味い
このまま放置すれば死んでしまう
「…ご丁寧に骨を」
針の位置は骨を貫いていた
背骨の神経を切断していた
「…だが」
燦莉はフッと笑った
こうしなければ霊覇は救えないという現実
ただ、何処かで期待している
彼女が、友を救ってくれると
信じている