女嫌いのあべこべ幻想郷入り   作:回忌

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辺獄の巫女

「――…ッ」

 

起き上がったそこはどことも言えぬ場所だった

少なくとも永遠亭のベッドの上じゃない、床が硬すぎる

建物の中らしいが、シンプル過ぎて逆に見たことがない

 

ガラスの無い窓を見ると、そこは赤い世界だった

 

「…成功した、のかしら」

 

現世では無いことは確実だ

後は、兄を探すだけである

霊夢はそう思い立ち上がった

 

「…それで、ここは何処かしら」

 

辺りを見回せばそれは牢屋だとすぐに分かった

鉄格子が嵌められて、簡素なベッドのような布がある

トイレは…タッパーのようななにか

これは酷い、すぐに脱出しなければ

 

「こんな辛気臭い場所は嫌いよ」

 

大幣を肩に当て、鉄格子を蹴り飛ばす

霊力の籠ったそれは簡単に鉄格子を吹き飛ばす

牢屋から出ると看守らしき女が現れた

女、というのは顔がのっぺりとしている

多分人とは違うナニかなのだろう

 

兵士はこちらを視認するなり発砲してきた

銃というのは弾丸が曲がる訳でもない

そういうことでは弾幕ごっこより簡単である

 

「しかも飛行も出来るし…ねぇぇ!!」

 

御札を兵士に投げる

それが相手に貼り付き、動きが止まるのを確認する

後は簡単だ、針で突き刺せば良い

相手を見ずに針を投げ、部屋を後にする

敵に刺さる音が聞こえた後、何も聞こえなくなる

 

次の部屋には敵兵が大量に居た

少し広い部屋だ、長方形で縦に長い

そこらにある足場から狙撃手がこちらを狙っている

近くにあったコンテナに飛び込む

霊夢のいた所を弾丸が撃ち抜いた

 

狙撃手は1人

その他の兵士はかなりの数がいる

こうもたもたしていても奴らの餌食

先行してきた1人の顔面をコンテナに叩きつけながら思考した

 

「…だったら」

 

見様見真似でやるしかない

殺した兵士から銃を盗る

女が持つには少し重い、M4を持ちながら霊夢は悪態を着いた

弾丸を確認、弾は十分ある

 

 

コンテナの上に能力を使って上昇

狙撃手はまさか飛ぶとは思っていなかったのか照準が遅れる

その隙にM4で撃ち殺す

他の敵はコンテナの上に上がれないため下から銃を撃ってくる

遮蔽物にすら隠れていない奴らなんて簡単に撃ち殺せる

 

とはいえ、こんな形で人を殺すことになるとは

 

人を、人を踏み外した者を殺したことはある

だがこいつらはそれとは違うはずだ

ただ、本能で動いているのか…?

 

「…ッ!?」

 

天井から何かが落ちてきた

 

…鬼だ

二本角の屈強そうな鬼だ

幻想郷では地底に住んでいそうな…

霊夢はコンテナから降り、大幣を構えた

 

「妖怪退治は私の本職よ!道を阻んだことを後悔なさい!」

 

「――!!!」

 

鬼が唸りを上げる

霊夢は飛んでくる拳を避けていく

 

 

その頃、霊覇は拳を地面に叩きつけていた

ただこの苦しみに怒りを、それを地面に叩きつけていた

どうして俺がこんなに苦しまなければならない

 

両手を地面に叩きつける

 

「…くっ」

 

息を吐き、その場に腰を下ろした

手は黒くなっていた

 

「…らしくない」

 

そう呟いた

こんな苦しみ如きにもがき苦しむ訳にはいかない

そう思って立ち上がった

目の前にはあの昆虫のような腕があった

少し動いているだけ、呼吸しているかのように動いているだけ

 

後ろを見ると、そこには柱に背中がめり込んだ兵士がいた

そいつはライフルを持ったまま死んでいた

 

そして、もう1人、兵士がいた

 

横顔が見える、兵士

 

その兵士の顔はのっぺりとしたものでは無い

それどころかかなり鮮明で自分たちと同じ人間としての顔だ

 

「お前は…!」

 

怒りが、拳がまた震えた

強く握りすぎて、血が零れる

 

ソイツは

 

お前は

 

 

 

 

 

その顔は、霊覇を撃ち殺した女のものだった

いや、実際その女なのだろう

装備しているものも、殺された時と同じだ

 

「……、!!!…、…!!!」

 

怒りは抑えきれなかった

柱にめり込んだ兵士からライフルを奪い、引き金を引く

 

背中からの銃撃

 

奴は簡単に倒れた

奴は仰向けになり、ハンドガンを取り出す

何かを言っているようだが銃弾のひとつが喉を貫いたらしい

喉と口端から血をこぼしていた

 

奴の頭に照準を向け発砲

ソイツは簡単に頭から脳漿をぶちまけた

恐らく俺が殺られた時も同じ感じだったのだろう

 

「因果応報だな、にしてもお前も死んだのか」

 

ここにこいつが居るということは死んだ、ということだろう

俺はこいつに殺されてここに来た

誰に殺されたか検討は大体つく、苦しんで死んだのかね?

それだったら万々歳だが

 

「ぐっ…」

 

そう思っていると地面からあの腕が生えた

そこには俺が居たから、腹を昆虫のような腕が貫いた

 

そのまま地面に引きずり込まれる

 

 

 

 

 

 

くらい、真っ暗だ

 

ジッポーで火をつけ、タバコにも火をつける

だが、一寸も先が見えない

 

「…お」

 

すると視界が暗転した

そこはどこかの空中だった

あの地獄であることであるのは確かだ、赤いし

 

「…ふーむ」

 

さて、どうしようか

 

「どうもこうも、貴女に選択肢はありませんよ」

 

「ッ」

 

声がした方向に顔を向ける

そこには身長が低い女が、緑髪の女が板を手に立っていた

見たことも無いヤツだ、強いて言うなら幻想郷に居そうな…

 

「…お前、誰だ」

 

「神の力を使う貴方なら知ってそうですが…

 いや、そうか、今のあなたは殺害願望に満たされている

 そんな邪な状態では神聖な力を使うことなんて出来る筈が無い

 外の世界でのような殺戮本能、獣のようだ

 獣に人の道具が扱えぬように…

 …失念していましたよ」

 

「おうおう言ってくれるなお前」

 

凄いボロクソに言ってくれる

というか、神の力か、懐かしい物を

こんな地獄でも助けてくれる神が…

とかそういうのでなく普通に忘れていた

こっちでは昔の癖が出てしまい神の力なぞ忘れていた

 

だが、それが獣に堕ちたというのを証明している

 

「皆獣だ、死ぬまでに堕ちるか堕ちないか、それだけだ」

 

「確かにそうかもしれない

 だが貴方は生まれた時に獣になる運命は無かった

 あのウイルスが流行らなければ貴方は普通の人間だった

 いや、そもそもあれが無ければ貴方は妹に会うことも無かったでしょうな

 本当にあのウイルスはどこから来たのか…

 人間はとても恐ろしい物を作るクセにそれに対処出来ない

 いやはやこっちの事情も考えてもらいたい

 こっちにあのウイルスが入った時は大変だった…」

 

「…話を戻せ」

 

「おっと失礼」

 

何やらウイルスがどうのこうのの苦労話になる所だった

この女、面倒くさい雰囲気がある

 

「顔に出てます、私は閻魔ですよ?全く…もっと敬いなさいよ」

 

「…はぁ」

 

これはこれは面倒くさい閻魔殿

閻魔については時折霊夢から愚痴で聞いた

何やらその説教は日が沈み、日が出てくるくらい長いそうだ

恐ろしいね、そしてとても面倒くさい

 

「全く…それだから獣に身を堕とすのですよ

 貴方の戦いぶりは外のものも見ていましたよ

 仲間を殺された時の激情

 それに流され敵の頭をフックで抉りとる

 見ていて恐ろしい」

 

「殺すぞ」

 

奴はクスリと笑うと板を口を隠すように持った

 

「その恐れ知らずも…

 まぁ、貴方はまだ生きている

 生者はここにいるべきでは無い」

 

岩が数個、無い下顎と胸に突き刺さった

一瞬の事だった、霊覇は赤い光に包まれ、消えた

 

「…はぁ、疲れたわ、後は霊夢か…」

 

既に1人を結晶化させた映姫は疲れのあまりため息をついた

だが、ここで止まっていては辺獄から出られない

やるしかないな、とだるい体を動かした

 

 

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