「やっほー」
構える
声がした方向に顔を向けるとワンピースを着た女が居た
人参のネックレス、うさ耳、記憶にある物があった
「永遠亭のウサギか」
「あんたに50口径を向けられたんだがね、覚えてる?」
「なんの事だか、それに俺はお前を知らない」
「…はぁ、物忘れが激しい奴は嫌われるよ」
どこからがタブレットを出すとカチカチと何かを打ち込む
誰かと会話しているらしい
それを覗き見る気にはなれなかった
というより見なくても、ドクターというのは直ぐに分かった
頭で生きてきた奴、だった筈だ
「ほい、それじゃ取り付けるよ」
会話し終えるや否や何かの装置を取り出した
何かを取り付ける装置らしい
「おい待て」
「えい」
ガンと平面の部分を取り付ける
それが無理やり体に付けられる
皮膚が抉り取られる感覚
「ぐがかがががががッ!?」
「この…!落ち着け!」
体が自然に暴れる
グワングワンと大きい何かの音がする
頭が痛い
〇
「ふー、やっと落ち着いたよ、手間をかけさせる」
いきなり永琳に弓で打たれた時はびっくりした
なんの前置きもなく「ちょっと死んで」は酷いと思う
やはりあの人はどこかおかしい
タブレットに取り付けが完了したことを簡潔に伝える
返信はかなり早かった
『分かった、こっちに戻ってきて
こっちの貴方はまだ生きているから』
「…酷いこと言うねぇ」
まだって、死ぬかもしれないという事じゃないか
とはいえここを出るのは簡単だ
この能力はその点便利だろうか
とはいえ死んだ感触はあまりなかったなぁ…
てゐははぁ、とため息をついた
一瞬すぎてその感触を味わえなかったのか
もしくは酷すぎて"幸運"にも感じなかったのか
まぁ、なんでもいい
「…ぐ、うう」
「おっと、今度は本当に殺されちまうな」
さっと、その場から飛び降りる
ここで死んだら本当に死んでしまう
二回死ぬことは許されていないのだ
そう思いながら、てゐは現世に戻って行った
幸運にも、彼女は簡単に戻ることが出来た
〇
「ほら!手も足も出ないでしょう!」
「――!!!」
その頃霊夢は鬼に御札をぶん投げていた
退魔針や御札のおかげで鬼はかなりボロボロである
頭の角も片方がへし折れている
これは霊夢が大幣でやつの顔面をぶっ叩いたからである
霊夢が言う通り、鬼は手も足も出なかった
手を振り回そうにも建物の狭さがソレを邪魔する
霊夢からすれば好都合だった
「ここは私の独壇場よ!」
あの兵士たちは入ってこない
先程入ってきたのだが鬼にぶっ飛ばされていた
勝ち目がないと判断したのか何もしてこなくなった
「――――!!!!」
鬼が吠えた
その咆哮と同時に体が岩に侵食される
顔が、腕が、岩に侵食される
侵食は顔の半分以上を覆った
左目ごと顔を覆った、恐らく視力は無くなった
完全に石化すると同時に霊夢を鬼は掴む
(見えなかった!?)
鬼の掴みは見えない程早かった
霊夢は腹を鷲掴みにされた
「……ッ!?」
ギシギシ、と骨の軋む音がする
激痛も同時に襲ってくる
掴む力を強めているのだ
こちらを握り潰すつもりなのだ
「させない…!」
ひとつの針を取り出し、掴んでいる手…右手首に突き刺す
「ッ…!!!」
鬼は激痛に耐えかね、霊夢を離す
それと同時に霊夢は後ろに下がり不敵に笑った
笑った理由は簡単なことである
ニッと、勝ち誇ったように
「…起爆ッ!」
「――――!!!!」
爆炎が辺りを包む
先程突き刺した針に起爆の札を貼り付けていたのだ
それ故に、彼女は不敵に笑った
角がへし折れ、治らない時点で再生能力がほぼ無いのは分かっていた
これも、致命傷になるだろう
「…やったかしら」
「アアアアア、アアアアアアアア!!!!」
「ぐふっ!?」
煙の中から何かが飛び出した
いや、違う
あの鬼の右手だ
ちぎれた右手が飛んできたのだ
岩と同じ質量を持つソレは簡単に霊夢を吹き飛ばす
そのまま霊夢は壁を突き破った
「…くぅ!?」
そして、その先に地面は無かった
隣の部屋も無かった
あったのは、赤一色
外の景色
ここの、赤
「(う…脳が揺れて浮遊出来ない…)」
霊夢は真っ逆さまに落ちていった
壁に衝突した時に起きた脳の揺れで浮遊することは直ぐに出来なかった
意識はハッキリしていても体は追いつかなかった
体が動かせるようになったのは、その浮島の下の面が見えるほどの所だった
「畜生ッ…あんなのに…」
頭に手を当てながら己の油断を呪った
勝てると確信した己のミスだ
霊夢はため息をついた
この癖は恐らく抜けないと思う
「…貴女は本当にそういう所を直した方がいいと思いますよ」
突然の声
だが、それは聞いたことのある…いや、聞き馴染みのある声だった
なんならあんまり聞きたくない声
後ろをむくと、そこには緑髪の小さな女の子
懺悔の棒を持った一人の裁判官
「…アンタは…閻魔?」
「人のことをアンタと呼ぶなと…
私は四季映姫・ヤマザナドゥ、せめて映姫と呼びなさい
人のことをそんなので呼ぶと後々ろくなことになりませんよ
そういう経験はしたことがあるでしょう
えぇ?したことあるでしょうねぇ?
というか貴女は神への敬い…畏敬の念が無さすぎる
神に使える
博麗神社が何を祀っているか分からないとしても、ですよ
それに貴女は…」
「あーこれは本人だわ
会話が十行とか本当に閻魔してるわ」
「そんな面倒くさそうな、そこがダメだと…」
「分かった、分かったわ、もういいわ」
はぁ、と映姫はため息をついた
彼女は霊夢の性格を知っている
映姫に限らず、彼女が面倒臭がりというのはよく知られている
「貴女は彼に依存しすぎている
兄である彼を溺愛し、体を交合った
もうそれで彼は博麗に変わりは無い体になった
博麗の者と交合うというのはそういうことであるから。
彼は貴女のように元の名前を捨てた…貴女の為に
この世に最早■■霊覇という男は存在しない
存在するのは博麗霊覇という男である
彼は偶然が交わりあってできた男でもあり、不幸でもある
…命蓮の未練か何か知りませんが兄妹に生まれるのは必然なのか…」
「…何が言いたい」
声に色が無い
自分でも、それが分かった
霊夢自身でも分かるほど今無情になれている
「罪深き男、彼は周りに片棒を担がす存在」
映姫は己の胸に拳を置く
「この痛みも」
霊夢にその人差し指を向ける
「その痛みも」
そして、ぐっと握りしめる
「彼の痛みの一部」
握りしめた瞬間霊夢の左足と右手に岩が突き刺さる
積み重なる痛みに霊夢の心は悲鳴を上げていた
こんな所から逃げ出したいと
その一心で、上に、浮島に向かって飛行能力を使う
音速で、全力で、誰にも追いつかれぬように
後ろから、おぞましい声が聞こえた
恐らく、映姫の声が
INNOCENCE
DOESN'T
GET
YOU
FAR
お前を遠くまで逃がすものか
身体中が、冷え固まった