川は世界の中心を流れている。
直線世界に果てはない。
疑問を持ったことはなかった。
それに意味なんてないからだ。
この世界は直線だ。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
川は世界の中心を流れている。
異世界人は高い所から低い所へ流れると言う。
何を馬鹿な事を言っているのか。
川は世界の中心を流れる。
当たり前の法則だ。
今、川が僕の真下を流れている。
僕から見て右から左へと流れている。
けれど、右が高くて左が低いわけじゃない。
筒のような地面の中心部を川が流れている。
人間は川の外側を覆う地面の上に住んでいる。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
この世界に果ては無い。
視線を右に持って行く。
ずっと真っ直ぐ道が続いている。
視線を左に持って行く。
ずっと真っ直ぐ道が続いている。
建物や森や畑はある。
けれど、果ては無い。
見える距離には無かった。
誰かが確かめたわけじゃない。
けれど、みんな疑問は抱かない。
だって無駄だ。
世界に果てがあるとして、だ。
それに何の意味がある?
歩いた果てに辿り着いたとして、だ。
それに何の意味がある?
世界が丸ければ違ったかもしれない。
異世界人の言う笑い話のように。
けれど。
直線の世界では、果てに行けば戻ってこれない。
辿り着いてもお爺ちゃんだ。
帰ってくる頃には死んでいる。
果てを見つけたという報告を知己に出来るわけでもない。
ならば、意味なんてないだろう。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
川は東から西に流れる。
川が流れてくる方は「東」。
川が流れていく方は「西」
何故そうなのかは知らない。
誰かが言い始めた。
「東」の国から商人が来た。
「西」の国からサーカスが来た。
証人は「東」の国へと帰った。
サーカスはもう1つ「東」の国まで行って帰ってくるらしい。
誰も果てを目指そうとは考えない。
そんなことに意味は無いからだ。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
風は川から吹いて川に帰る。
学者が言うには少し違うそうだ。
昼は川から陸地へ風が吹く。
夜は陸地から川へ風が吹く。
昼の風はどこへ向かうのかは分からない。
雲も風に乗ってどこかへ向かう。
けれど、それを知っても意味は無い。
学者もそれは認めていた。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
星というものは、よく分からない。
異世界人によれば空の果てにあるらしい。
キラキラ輝くそうだ。
澄んだ音で流れるとも聞いた。
メラメラ燃えるのもあるらしい。
けれど、見えたことは一度もない。
見えた時に願いを3回言えば叶うとか。
誰が言いだしたのかは定かではない。
特に夜が見えやすいそうだ。
真っ黒な空を見つめる。
残念だ、今日も星は見えない。
考えたら星に願うことがないと気付く。
ならば、どうでも良いだろう。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
「東」から奇妙な噂が流れてきた。
果てを目指して旅する人々がいるという。
また異世界人のほら話だろう。
父と母の墓を綺麗にする。
2人は僕が12歳の時に死んだ。
「西」の国との戦争で。
もう3年前の話だ。
今は「西」の国とも仲が良い。
けれど、またすぐ争うんじゃないかな。
隣り合っていると些細な事で揉める。
僕も隣の家の人と良く揉める。
同じかもしれない。
違うかもしれない。
どうでも良いことだ。
直線世界に果てはない。
◇◇◇
「東」の噂の続報が届いた。
その人々は果てから来たのだという。
本当なら驚きの話だ。
どうせ嘘だろう。
けれど、少し気になる。
今は「東」の国にいるらしい。
ここに来たら話を聞いてみたい。
直線世界に果てはないはずだ。
◇◇◇
僕は少女に出逢った。
果てから来た人々の旅団にいた。
彼女も一員だそうだ。
でも、彼女は果てを知らないらしい。
旅団の誰も知らないらしい。
世代を重ねながら旅をしてきた。
先祖は果てに住んでいたそうだ。
何十代も前の先祖が。
それを語り継いでいる。
語り継ぎながら旅をしている。
もう片方の果てを目指して。
意味なんかないはずなのに。
彼女の眼はキラキラ輝いていた。
声音は澄んでいて流れるよう。
心はメラメラと燃えていた。
彼女が星なのかもしれない。
成程、これは綺麗だ。
旅団はここで休むらしい。
明日も彼女と話そう。
直線世界に果てはないと聞いた。
◇◇◇
僕は少女に問うた。
なぜ果てを目指すのか、と。
少女は僕に答えた。
知りたいからだ、と。
僕は少女に問うた。
知ってどうするのか、と。
少女は僕に答えた。
その時考える、と。
僕は少女に問うた。
着く前に死んでしまうかもよ、と。
少女は僕に答えた。
それでも構わない、と。
僕は少女に問うた。
それは何故か、と。
少女は僕に答えた。
だって面白いじゃない、と。
僕は少女に問うた。
意味なんてないのでは、と。
少女は僕に答えた。
その通りだね、と。
けれど、少女は続けた。
意味を生みだすのは自分だ、と。
意味はこれから生まれるのだ、と。
それこそが面白いのだ、と。
出発まであと1日かかるらしい。
少女と話せるのは次が最後だ。
直線世界に果てはないのだろうか。
◇◇◇
少女は僕に問うた。
なぜ果てを目指さないのか、と。
僕は少女に答えた。
意味が無いからだ、と。
少女は僕に問うた。
意味は必要なのか、と。
僕は少女に答えた。
当たり前だろう、と。
少女は僕に問うた。
貴方に意味はあるのか、と。
僕は少女に答えた。
わからない、と。
少女は僕に問うた。
意味は必要ではないのでは、と。
僕は少女に答えた。
かもしれない、と。
少女は僕に問うた。
果てを見てみたくはないか、と。
僕は少女に答えた。
そうでもない、と。
けれど、僕は続けた。
君を見ていたい、と。
果てを目指す君を、と。
直線世界に果てはないかもしれない。
◇◇◇
少女は僕に問うた。
一緒に来て、と。
僕は少女に答えた。
一緒に行きたい、と。
僕は旅団に加わった。
少女と僕は進んで行く。
直線世界に果てを求めて――