悪魔憑きと盲目青年   作:桜桃 

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アザエル
「関係ないわね」


 雨に打たれた次の日、学校は休み。

 暁音はいつも朝六時半に起きており、それは休みでも変わらずだった。だが、今日はなぜか起きる気配を見せない。

 

 布団をかぶって寝ているが、寝苦しそうに唸っており薄く汗を流している。息が少しだけ荒く、眉間に深い皺を寄せていた。

 時計はもう九時を回っており、普段ならもう起きている時間。

 

「ん……。……あれ」

 

 薄く目を開けた暁音は、近くに置いていたスマホの画面を見てゆっくりと体を起こした。まだ視界がはっきりとしておらず、何時か理解が出来ていない。

 

「っ!」

 

 体を起こすと、頭痛が走り顔を歪ませる。眉間に皺を寄せ、目を閉じ視界を遮った。何とか痛みがなくなるのを待っていると、数秒で落ち着き始め浅く息を吐く。

 ベットに座り直し、頭を支えていた手を下ろし空を見つめた。

 

「っ………はぁ。寝すぎたのかな……」

 

 やっと意識がはっきりしてきた暁音は、のそのそと動き始めベットから降りた。

 

 暁音の部屋はシンプル。壁側に白い机と本棚。それに合わせ、テーブルやベットも白。だが、ラグや掛布団などは黒色。

 モノトーンでまとめられ、余計な物ないため落ち着いている部屋に見える。

 

 壁側にあるタンスからジーンズと白い長袖。深緑色のフード付きパーカーを取りだし身につける。

 部屋を出て廊下を歩きリビングへと続く扉を開いた。

 

「おはようございます」

「あら、おはよう。今日はこんな時間まで寝ていたの? もしかして、どこか痛い?」

 

 リビングには、ピンク色のエプロンを身につけた女性が一人、お皿を手にし暁音に挨拶を返した。珍しい時間の起床なため、心配そうにみゅを下げている。

 

「大丈夫ですよ、知里《ちさと》さん。それより、今日はパートじゃないのですか?」

「……そぅ。今日は休みよ。でも、この後用事があるから出なければならないの。暁音はどこか行く予定ある?」

「はい。少し出かけようと考えています」

「わかったわ。なるべく早く帰ってくるのよ? 最近本当に遅いのだから、お母さん心配よ」

「大丈夫ですよ」

 

 暁音がリビングの中心にある四人かけのテーブルに席着くと、知里と呼ばれた暁音の義母は、一度キッチンへと行き何かを手に戻ってきた。

 

「簡単な物でごめんなさい」

「いえ。いつもありがとうございます」

 

 キッチンから持ってきたのは、お皿に乗せられている香ばしい匂いを漂わせた白米と目玉焼きの乗ったお皿。お味噌汁だった。

 簡単な物と口にしていたが、しっかりと作ってくれている。その事に暁音はお礼を口にし、箸を持ち食べ始めた。

 

「しっかり食べてね。お母さんはもう行くから」

 

 微笑みながら優しく伝え、ピンクのエプロンを取り椅子の背もたれにかける。

 

「わかりました。お気を付けて」

「うん、ありがとう。行ってくるわね」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 

 少しだけ悲しい顔を浮かべた知里は、そのままリビングを後にして玄関の方へと向かっていった。そんな背中を暁音は、白米を口に含みながら見届ける。

 

「また、()()()か。まぁ、私には関係ないわね」

 

 お味噌汁を飲もうとした時、いきなり箸を落としお椀を勢いよくテーブルに置いた。目を強く閉じ、頭を抱え始めてしまう。眉間には深い皺が刻まれており、苦しそう。

 

「っ! うぅ……」

 

 数秒耐えていると、すぐに落ち着いてきたらしく、息を吐き顔を上げた。額からは大粒の汗が流れ出ており、気持ち悪そうに右手で拭う。息苦しそうに顔を歪めているが、目の前に広がっている温かいご飯を見て目を細めた。

 

「一体、朝から何なのかしら」

 

 箸に手を伸ばし、残りのご飯を食べ始めた。

 

 ☆

 

「月海さん。今日も寝ているのですか」

 

 暁音は朝、身にまとったパーカーと肩掛け鞄を持ち、月海のいる旧校舎へと向かった。今は、”3-B”の教室におり、誰もいないように見える空間に声をかけている。

 

 彼女の声に反応するものはなく、微かな風がカーテンを揺らすのみ。音は何も聞こえず、シーンしていた。

 その事に対し、暁音はため息をつき教卓へと向かう。黒板の前でしゃがみ、中を覗き込んだ。

 

「月海さん、起きて……あれ」

 

 声をかけようとしたが、目の前に目的の人がおらず途中で止めてしまう。だが、教卓の中には埃がないため、ここにいたのはあきらか。

 暁音はその場から立ち上がり、教室内を見回す。

 

「また、トイレかな」

 

 ため息をつき彼女は、比較的綺麗な窓側にある椅子に座り、月海が来るのを外を眺めながら待つ事にした。

 

 外は晴天。風も強く吹いているわけではないため心地よい。

 雲が横へと逸れ、太陽が強調し過ぎず森や旧校舎を照らす。風で木々が踊るように揺れており、それを見ているだけで気持ちが落ち着く。

 

 いつもより沢山寝たはずなのだが、睡魔が襲ってきてしまい目元をこすり始める。そのまま、太陽の日差しを受けながら顔を俯かせ瞳を閉じた。




ここまで読んでいただきありがとうございます
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